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第65話:イルヴァリースの契約者ミナト・ブルーフェイズ。

 

 おいおいこりゃなんの冗談だよ……。


 上層階へ行けば行くほどあちこちで魔物との交戦が激化していた。

 こんな数の魔物の侵入を許したのか? 兵士は何をやっていたんだ!


 いや、もしかしたらまず街中の方で陽動があったのかもしれない。そちらへ兵を向かわせておいて直接城を……。


 実際のところは分からないがその可能性は高いように思えた。城の中に残っている兵士の数が少ない。

 とにかく、あちこちで戦闘が繰り広げられているおかげで俺は誰からも止められる事なく突き進む事が出来た。


 魔物と兵士の力は拮抗していたが、いちいち全てに加勢していたらその間に王様が殺されてこの国は終わりだ。


 俺としてはどうだっていい事ではあるんだけれど、王を失った国に住む人々が辛い思いをする事になるから出来れば死なせたくはない。


 勿論、俺達を指名手配した事やネコをさらった事などは許す気は無いが。


 王の玉座がある部屋へたどり着くと、情けない姿でへたり込む王らしき人物と……。


 その王を守るように戦う一人の剣士。恐らく王を護衛する騎士なのだろう。

 その男が、アドルフと切りあっていた。


「血迷ったか……!? 確か貴殿は勇者殿と共に旅に出たと報告を受けているぞ!」


「ふはは、馬鹿め……! あの女をただの勇者だと思い込んでヴェッセルまで授けるとは本当に能天気な野郎共だな!」


「そ、それは勇者殿がこの国を裏切ったと!?」


「……おめでたいにも程があるぞ。あの女は……勇者であると同時に……」


 その先に続くアドルフの言葉に、騎士も王も顔を引きつらせた。


「……魔王だ」


 アドルフが素早い二連撃を繰り出し、騎士の剣を弾き飛ばす。


「な、なんという事だ! では聖剣は魔王の手に渡ったと言うのか!?」

「くっ! 王、私が時間を稼ぎます、逃げて下さい!」


 王様が顔を真っ赤にして、ゆっくりと立ち上がった。

 腰が抜けていたのに、あまりの怒りで恐怖を忘れたのかもしれない。


「……アドルフ、お前の相手は俺だ」


 背後からアドルフに声をかけ、ゆっくりと前に出る。


「お前……そうか、あの時の女か! ふははは、今日は運がいい。まさかこんな所でお前と会えるとは。来てみるもんだなぁおい!」


 ……こいつは氷漬けになった後の事を何も聞かされていないのか?


「女ァ! 今度こそお前を俺の物にして死にたくなるほどに犯し尽くしてやる! 俺の子を孕んで孕んで孕み死ね!」


 ……こいつ、ここまでイカれた奴だったか?

 狂っているとしか思えない。


「アドルフ、お前と……そこの王様にいい事を教えてやるよ。俺は今は確かに女だが……この身体になる前は男だぞ」


「……は?」


 アドルフはアホみたいな面で固まり、数秒後俺の全身を舐めまわすように視線を動かす。気持ち悪い。


「なんでもいいから早くそいつを始末するのだ! これは命令……」

「うるせぇよ」


 王の命令なんて聞く必要無いんだわ。


「俺はお前を助けに来たわけじゃねぇし、死んだって一向にかまわん」


「ほ、褒美か? 何が欲しい! こいつを倒せば望み通りの物をくれてやる!」


 望みの物、か……それなら話は別だな。

 俺の目的は俺達家族の平和と目の前のクソ野郎を殺す事だし。


「俺の仲間……亜人の女がお前らに連れ去られ牢屋にぶち込まれた。既に助け出しけどよ。お前にはそいつに頭下げて謝ってもらうぞ」


「なんたる無礼! 王に、亜人如きに頭を下げろと言うのか!?」


「お前に言ってねぇよ、騎士だかなんだか知らないがすっこんでろ」


 今は王と話してるんだから邪魔するな。


「お前が元男、だと? 冗談にしか聞こえないが、むしろ面白いじゃないか。今女だというのなら問題は無い。むしろ男だったなら男に犯されるなど余程苦痛だろうな? その顔が歪む様が今から楽しみだ……!」


 アドルフも今だけちょっと黙っとけって。

 しかし糞野郎糞野郎と思っていたがここまでネジがぶっ飛んでるとは思わなかった。


「俺が男だった頃の名前を聞いたら犯すなんて言えなくなるぜ」


「はっ、なんだ? 醜くて有名だったとでも? 笑わせてくれる。今お前がきちんと女であり、その身体の持ち主ならば気にもならんな」

「ミナト」


「なん……だと?」


 アドルフが口を半開きにして間抜けな声を出した。そうだ、その顔が見たかった。


「ミナト・ブルーフェイズ。それが男だった頃の名前だ。そして、お前がエリアルをそそのかして崖から突き落とし、殺した男の名前だよ」


「お、王! ミナト・ブルーフェイズと言えば勇者殺しの犯人として手配中の男です!」


 あぁ、あいつ死んだ事になってるのか。

 というか勇者の証のヴェッセルは死んだら戻って来るんだろ? だったら生きてるかどうかくらい判断出来るだろうに愚かな……。


「つ、つまり私は……魔王と戦った者を大罪人と勘違いしていたと……そういうのか?」


「その通りだよ王様。俺がどれだけ怒ってるか分かるか? この国を内部からめちゃくちゃにしようとしていた魔王を勇者と祀り上げ面倒な武器まで渡した挙句にそいつらを倒した俺等を国境の向こうまで追いかけまわした上何の罪もない俺の仲間を牢屋にぶち込みやがって……きっちり頭下げてもらうぞ。出来ないって言うなら俺がお前殺してこの国の王政ぶっ壊してやる」


 王の顔に深い溝が刻まれる。

 今どんな気分だ? ザマぁみやがれ。


「下らん。お前一人でそんな事が出来るとでも言うのか」


 まーた小うるさい騎士が騒いでるな。少し脅しておいた方がいいかもしれない。


「俺はこれでも魔王を倒して来たんだぜ? そんな俺が本気で暴れたら国一つくらい潰せる気がしないか? それに……俺には六竜イルヴァリースの娘がついてるからな。あの子が本気出したらこんな国一瞬で消し炭だぞ」


 ちょっと話を盛り過ぎたかもしれないが、脅しってのはオーバーなくらいでちょうどいい。


「イルヴァ、リース……だと?」


 王がよろよろと後ずさり壁に寄り掛かる。


「ちなみに俺が女の身体になったのはイルヴァリースと契約したからだ」

「そんな与太話誰が信じると……!」


 騎士は俺の言葉を否定しながらも、額に汗を浮かべる。


「別に信じなくてもいい。それならこの国が滅ぶだけだ」


 絶対に俺はここでアドルフを殺す。

 そして王はネコに頭を下げさせる。


 問題は、だ。

 今の俺でアドルフを倒せるかって事なんだよなぁ。



ミナトが初めてイルヴァリースの事を口にしました。

それは脅す為でもありますし、アドルフが聞いた所でここで殺すから問題無いという意思表示だったりします。

次回、対アドルフ戦です。


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