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第57話:勇敢で無知で馬鹿で無謀な奴。


 レイバンに飛来したのはハーピーのようにも見えるが俺の知っている魔物とは少し違うようだ。

 レイバン近辺の固有種だろうか?


 せっかく人がのんびり暮らしているというのにこんな所でも魔物は騒ぎを起こすのか。


 魔物は人を殺す物だが、わざわざ街にまでやって来る事はないだろう?


 普段この街はそこまで魔物に襲われるような事は無いし、あったとしても数匹単位なので警備の連中だけで十分対処出来ていた。

 それが何故急に飛行タイプが群れで来た……?


「ぱぱっ! あたし助けに行ってくる!」

「だ、ダメっす! 危ないっすよ!」



 街の中心部へと走り出すイリスを止めようとロイドが手を伸ばすが、その手をさらりとかわし、「大丈夫、あたし強いから♪」とロイドへ笑いかけた。


「あ、アオイさん! イリスちゃんが!」


 ……イリスの強さを知らなければ普通こういう反応になるだろうな。でも本当に大丈夫なんだよ。あいつは俺より強いから。


「ロイド、お前は早くどこかの建物に避難しろ。俺も魔物を倒しに行くから」

「ダメっす!! 警備兵がすぐ来ますから一緒に逃げましょう!」

「馬鹿野郎! それじゃ遅いんだよ! お前には見えてねぇのか? もう死人が出てるんだぞ!?」


 俺はロイドに怒鳴りながら、こちらに飛び掛かってきた魔物を切り伏せる。


「ひぃっ!! ……で、でも……!」

「でもじゃねぇ! 俺達は普段魔物を狩って生活してるんだ。お前だって知ってるだろう?」


 ロイドは恐怖に顔を引きつらせながらも、俺の顔をまっすぐ見つめた。


「……俺はもう行く。ロイドは早く避難しろ」


 街の入り口方面からこちらへ飛び掛かってくる魔物を相手にする為、ロイドに背を向けるが、それでもロイドは俺に言葉を投げ続ける。


「お、俺は……弱いです。だけど、だけど!」


 やはりハーピーによく似ている。ベースは人型だが足が鳥のようになっていて、両手の代わりに大きな翼が付いている。

 一つ俺の知っているハーピーと違う所があるとすればその頭部だ。


「グギャルルル!!」


 ハーピーは美しい女性のような顔をしているがこいつはまるでゴリラのようだ。


 魔物の一体が空中から羽根をバタつかせ、小さな風の刃を飛ばしてきたのでそれを全て剣で叩き切り、剣を地面に突き立て地面の舗装を砕き、欠片を拾い上げて思い切り投げつける。


 頭部に直撃したそいつは錐揉みしながら落下してきたのですかさず羽根を切り落として無力化してから首をはねる。


「うわぁっ!」


 ちっ、ロイドの方に一匹行ったか。

 振り向き様に駆けだし、ロイドを飛び越えるように跳躍。

 直接ロイドの頭を狙いに来ていた魔物の足を切り落とす。


「ギギャァァァッ!」


「何してる! 早く避難しろ!!」


 数が多い……! こんな時にママドラが居てくれたら……!

 いや、現状俺に出来る事をやるしかない。視界にチラリと、建物の屋根を走り回って魔物を次々に始末していくイリスの姿が映った。


 本当に頼りになる娘だよイリスは!


 入り口近辺に居た人々は大抵もうやられてしまったか避難を終えたようで、魔物達は俺をターゲットに選んだようだ。


 ロイドの前に立ち、それらを迎え撃つ為に身構える。


「お、俺は……! 好きな女に守られるだけの男にはなりたくないん……あ、あれ……?」


 ふと、背後から聞こえるロイドの声が、途切れる。


 こんな状況で、戦う力も持たないロイドが逃げようともせず、それどころか俺を守りたいと言った。

 彼は勇敢だ。


 そして、無知で馬鹿で無謀だった。


「……馬鹿野郎が」


 ロイドは、背後から長い槍に貫かれ地面に縫い留められていた。

 その身体はだらんと弛緩し、ぴくりとも動かない。


 そして、遅れてロイドの傍らに巨大な何かが地響きをあげて着地し、ロイドの身体から槍を引き抜く。


「あーあ、寄り道してみたけどこりゃ無駄足だな。つまんねーのしかいねぇわ」


 そいつは、俺の身長の二倍、横幅は五倍くらいありそうな魔物だった。しかも人語を喋る。


「……お前何もんだよ」

「あぁん? 最近はその辺の虫も言葉を喋るようになったのか?」


 目の前の巨漢はそう言って俺を見下ろし、下品な笑いを浮かべた。


「へぇ、最近の魔物は程度の低い馬鹿でも人語を喋るんだな」


 外見は何かに例えるのは難しいが、強いて言うのならミノタウロスが激太りしたような感じ。

 ミノタウロスなんて言うと斧が似合いそうに感じるかもしれないが、どちらかというと豚よりの外見だ。いや、ここで例としてあげてしまうと豚や牛に失礼かもしれない。


「貴様……どうやら死にたいらしいな」

「死にたいのはお前の方だろ。かかってこいよ殺してやるから。俺は今めっちゃ機嫌悪いからな、泣いても許してやらんぞ」


 俺の言葉にデブ野郎は「ガハハッ」と飛沫を飛ばしながら笑う。


「ぱぱ! あっちは大体片付いたよ……あ……ロイド……?」


 こちらに駆け寄ってきたイリスの足が止まる。血塗れのロイドに気付いたらしい。


「ぱぱ、ロイドそいつがやったの?」


 イリスがとてつもない殺気を放った。俺までビリビリと肌がひりつくくらいの。


「な、なんだアレは……あんなのがここに居るなんて聞いてないぞ……!」


 さっきまで余裕綽々だったデブがイリスの殺気を感じてガタガタと震えだす。


「イリスの恐ろしさが分かる程度には知能があるらしいな」

「ぱぱ、そいつがロイドをやったの?」


 ゆっくりとこちらに向かって歩いてくるイリスを手で制す。


「ぱぱ、どいて。そいつ殺せない」

「イリス。こいつは俺がやる。手を出さないでくれ」


 しばらく殺気に満ちたイリスと見つめあう。めっちゃ怖い。


「……分かった。じゃあ私はこの辺の奴等を片付けておくね」


 イリスは悔しそうな顔をしたが、俺の言う事を聞いてくれた。

 ごめんな、こいつだけは俺が殺さないと気が済まないんだ。


「ふ、ふはは……俺の相手はアレじゃなくてお前か、ならすぐに殺して俺はこの場を去ろう。あんなの相手にしてられるか」


 焦りなのか安堵なのか分かりにくい表情を浮かべながらデブが槍をぐるぐると回して身構えた。


「俺はイリスよりは弱いが、それでもお前よりは強いぞ」




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