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第436.8話:イシュタリア防衛戦線4(イリス視点)


「うぅ……」


「みんなが心配?」


 かむろちゃんはずっとそわそわして家の中をうろうろしている。


「それはそうですよ……だってアルマ様はともかくユイシス様はその、あまり戦いには慣れていないでしょうし」


「にゃんにゃんは強いよ。それにまぱまぱもみんなもついてるから」


 そうは言ったものの、正直あたしも心配だった。

 負けちゃうなんて思ってるわけじゃない。

 だけど、そこにあたしが一緒に行けなかった事が悲しいというか寂しいというか……。

 あたしはまぱまぱの役に立ちたい。


 だから我慢してここに残ったけれど、本音を言えば今すぐにでもまぱまぱの所まで飛んで行きたい。


「ふぅ……こちらはまだ問題ないようじゃな」


 ラムちゃんが疲れ果てた顔でドアから顔を覗かせた。


「あ、お帰りラムちゃん。他の街はどう?」


「あぁ、皆よく頑張ってくれておるよ。とりあえず街の障壁を破られる可能性がありそうな強力な魔物はほとんど撃退出来たとおもうのじゃ」


「そっか。それなら良かった」


「こちらにはまだ魔王軍の幹部は来てないようじゃな」


 ラムちゃんはかむろちゃんに「疲れたのじゃお茶入れてくれぃ」なんて言いながらへろへろと椅子に座り込んだ。


「ううん、もう一人きたけどぶっころっちゃったよ?」


「……そ、そうか。まぁイリスなら驚くような事でもあるまい」


 まぱまぱのこの街を脅かそうとする奴は即座にぶっころ。例外はない。

 あたしはその為にここにいるんだから。


「魔王軍の幹部もそう残ってはおるまいし今の所他の街から救援要請の通信もきておらんしな。一段落したと思っていいじゃろう」


 もし本当に全部倒し切っているのならあたしは……。


「ちょっと待て。この近くで妙な反応があるのう……やれやれ、確認しておいた方がいいじゃろうのう。もう一仕事しておくとするか」


 ラムちゃんが立ち上がったのであたしも一緒についていく事にした。


 ラムちゃんと歩いて街の中を進んで行くと、みんなが「応援してるからね!」「頑張ってね!」と声をかけてくれた。


 まぱまぱの所に集まってくれたみんなを、そしてまぱまぱの街を守らなきゃ。


 何か危険が迫っているのなら小さな危険でも取り除いておこう。


「な、なんじゃこりゃあ……」


 街の外に出ると、ラムちゃんが驚いたような声をあげた。


「障壁はあるけど破られちゃう可能性もあるでしょ? だからみんなぶっころっちゃった」


「ふむ……この惨状を見ればなんとなく何が起きたのかは分かるが……」


 あたりは魔物の死骸があちこちに転がっている。

 まぱまぱの街、このイシュタルの周りを汚してしまったのは申し訳ないけれどまずはそれよりも安全を優先したかった。


「……ふむ、どうやら儂が感知したのはこの中の生き残りというところか。特に危険はなさそうじゃな」


 ラムちゃんが踵を返して街の中へ戻ろうとした時。


「ラムちゃん危ない!」


 突然どこからか細長い棘のような物が伸びてラムちゃんの背中を狙ってきたのでそれを掴んでへし折る。


「うわっ、なんじゃ!? 残党の攻撃か!?」


「……残党っていうか、結構強そうなのがいるみたいだよ」


「ふふ、こちらはどんな状況かと様子を見に来てみれば……既に全員やられてしまっているとは嘆かわしい……それでも魔王軍幹部でしょうか? やはり信じられるのは自身と魔王様だけですねぇ」


 魔物の死骸の中からどろりとした黒い液体が湧き上がり、人型に変化していく。


「な、ギャルン……じゃと……?」


「なんでお前がここに居るの?」


「随分冷たいですねぇイリス。一時は仲間だったではありませんか」


「あたしはお前の仲間になった覚えは無いよ。それより質問に答えて。なんでこんな所に居るの?」


 目の前に現れたのはどうみてもギャルンだった。

 まぱまぱが乗り込んだ次元の狭間では何が起きてるの……?


「ミナト氏が心配ですか? 安心して下さい。まだ生きていますよ」


 まだ、生きている。

 その言い方が胸の奥にチクりと刺さった。胸騒ぎがする。


「どいて。今からまぱまぱの所へ行くから」


「遅かれ早かれ貴女はあちらへ向かうと思っていましたからね。わざわざ足止め用に幹部共を使ってやったというのに何の役にも立たないとは恐れ入りました。止むを得ませんので私自らイリス、あなたの足止めをするとしましょう」


「ラムちゃんは下がってて。あたしがやる」


「おやおや、せっかくの戦力を使わなくていいのですか? 貴女は今角が減っている状態ですよ? その状態で私に勝てるとでも」

「勝てるよ」


 負けるはずが無い。負けてはいけない。負ける訳にはいかない。


「……ほう、たいした自信ですね。では六竜の娘の力を見せてもら……」


 ぶちり。


 こんな所で余計な時間を消費している場合じゃない。

 ギャルンがまだ何か言っていたけれどあたしは転移魔法で目の前まで移動しその腕を引きちぎった。


「ぬぉっ……転移魔法、なんて使えたんですね」


「あたしは魔法とか全然分からなかったけど、イヴリンと同化して彼女といろんな知識を共有したから」


「なるほど……これは思っていた以上にやりにくい相手になっているようですねぇ」


「まだ続きがあると思ってる?」


 不思議そうに首を傾げたギャルンの、腕の切れ目からヒビが入ってそれが全身に駆け巡る。


「なんと……。なるほど、イヴリンの知識とイリスの力……厄介な、事に……なって、いるようです、ねぇ……」


「どうせ本体じゃないんでしょう? 今からそっち行ってぶっころだから覚悟してね」


 崩れ落ちたのにも関わらずどこからともなくギャルンの声が聞こえる。


「ふふ……お待ちしておりますよ。そこでイリス、貴女の顔が絶望に染まる様子を見るのが楽しみです」


 多分だけど、わざわざギャルンがここに来た本当の理由はあたしをおびき出す為だと思う。


 何を考えているのか分からないけれど、あたしは必ずまぱまぱを連れて帰るんだ。


 その為なら、相手が誰だとしても負けない。

 邪魔する奴が居るなら……。


 ぶっころ、だよ。




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