第413話:怪獣大戦争。
俺達を背に乗せたゲオルは光を追いかけていくように悠々と空を泳ぐ。
乗っているとゲオルが大きすぎてあまり分からないが、かなりのスピードが出ているように思う。
かなりの風圧が顔面にぶち当たって来たが、急にその風が無くなった。
何事かと思ったらシルヴァが何やら魔法で俺達を包み込んでいたようだ。
ゲオルがどんな角度に身体を動かしても不思議とよろめくような事は無かった。
ゲオルの背中に重力が発生しているかのように、自然と立ち上がる事も出来る。
ゲオルが調子に乗って宙がえりなんかしても落ちる事は無かった。
そんな空の旅を楽しんでいられたのも最初だけ。
二時間もすると光が集まっている場所が見えてきて、全員が絶句する事になる。
いや、ただ一人を除いて、だった。
「おいおいマジかよ! こりゃ来て正解だゼ!」
一人テンションの上がるゲオルと、今にもここから逃げ出してしまいそうなほど顔面蒼白のリリィ。
そして驚愕しているラム、小さく震えるネコ。
再び不機嫌になってしまったシルヴァ。
……頭がパンクしそうだ。
ママドラ、少し落ち着いてくれ……。
光が集まっていた場所には、空間に大きな亀裂が出来ていた。
あの光はどこか別の次元への入り口を作るための物だったらしい。
そしてその次元の裂け目はもう既にかなり広がっており、そこから何者か、ゲオルにも引けを取らないほど巨大な何かが這い出そうとしていた。
『リーヴァ……』
なんだって……? あの亀裂から出てきてるのがカオスリーヴァだっていうのか?
「おいシルヴァ! あれがカオスリーヴァだってのはマジか?」
「……間違いない。アレはカオスリーヴァだ。しかし……」
シルヴァは何かが腑に落ちないような態度で、それ以上口にするのをやめた。
やがてその真っ黒な身体はずるりと完全に亀裂からこちら側へと抜け落ちた。
大きな翼を広げ、真っ赤な瞳を輝かし、咆哮をあげる。
「グガァォォォォォォォォン!!」
「……ちっ、やはりそういう事か。あのカオスリーヴァは正気ではないぞ!」
シルヴァがそう警告するのとほぼ同時だった。
カオスリーヴァはこちらにゆっくりと顔を向け、大口を開けると真っ黒な炎を吐いた。
黒炎。質量がエグい。
ゲオルの身体を包み込んでしまうほどの猛烈なブレスが俺達を襲い、目の前が一瞬で真っ黒になってしまう。
誰も声一つあげられなかった。
ただ、【死んだ】と思ったのは俺だけでは無かっただろう。
「ぐぅっ……よもやこんな所でリーヴァと出くわすとは……!」
シルヴァがゲオルに障壁を張り、ブレスを防いでくれたようだ。
「た、助かったぜシルヴァ」
「礼はいい! ミナトは今すぐカオスリーヴァに乗り移って奴を正気に戻せ! それが出来なければ殺すしかないぞ!」
ッ!?
シルヴァの言葉に激しく胸が震える。
俺の、じゃない。
『おいママドラ……! あ、あれっ?』
「ごめんなさいミナト君、少し身体借りるわよ!」
いつの間にか身体の主導権を持っていかれてしまった。
それも仕方ないのかもしれない。
自分と娘を置いて行方をくらました旦那にやっと会えたんだから。
感動の再会、という訳にはいかないだろうけれど正気を失っているというのならどうにかしてやりたいだろうし、殺すなんて選択肢は選べないはずだ。
「ギャーッハハハハ! リーヴァてめェこの野郎! やってくれんじゃねぇか! かかってこいやオラぁ!!」
ゲオルは完全に乗り気になってしまいカオスリーヴァと激しいぶつかり合いを始めてしまった。
「リーヴァの気はこちらで逸らしておくから早く行け!」
「分かってるわよ!」
ゲオルの背に乗っている奴等はそれこそ戦々恐々だろうが、シルヴァが守ってくれるだろう。
ゲオルもなんだかんだ言ってブレスが大陸の方に飛ばないよう注意しながら立ち回ってくれている。
「お前とはいっぺんガチでやりあってみたかったんだ! こんな所で望みが叶うなんてなァ!!」
「グオオォォォォッ!」
ゲオルがカオスリーヴァの首に噛みつき、そのまま食いちぎる勢いで振り回す。
対するカオスリーヴァは軽い出血は有るものの致命傷には届かない。
黒く長い尻尾を振り回してゲオルの顔面を打ち据え、バランスを崩した所にすかさずブレスを……。
怪獣大戦争かよ……。
「リーヴァ! リーヴァ私よ! イルヴァリースよ! 目を覚まして!!」
ママドラはカオスリーヴァの頭の上に着地すると、必死に声を届けようとするが、カオスリーヴァにはまったく届いておらず、咆哮をあげ続けるのみだった。
「どうして……? リーヴァ、貴方に何があったのよ……!」
ママドラは彼の頭部に手を触れ、何か原因を探ろうとしたが、突如バチッという激しい音に身体ごと弾き飛ばされてしまう。
『ママドラ、大丈夫か!?』
「大丈夫……でも、これは……懐かしくも最悪な奴の気配がするわ……!」
最悪な奴……?
「くふふふ……まさか私よりも貴女がたの方が先乗りしているとは夢にも思いませんでしたよ」
カオスリーヴァの背に、俺にとっての最悪が居た。
「……おや? ミナト氏ではなさそうですね。イルヴァリースですか」
「ギャルン……貴方がこれを仕組んだの?」
ギャルンは能面のようなマスクを触り位置の調整を軽くしてから言った。
「そう、だと言ったら?」
「八つ裂きにして魔物の餌にしてやるわ……!」
予想外で、予定外な事に、ギャルンVSイルヴァリース戦が勃発してしまった。