第412話:肉に釣られて光の元へ。
「ミナト、遅いぞ!」
「これでも急いで来たんだよ。それで、あの光の柱はなんなんだ?」
ネコ、ラム、リリィを連れすぐに拠点に戻ると、既に待ちくたびれたという様子でシルヴァが頭を掻きむしった。
「ああ、もう何もかも分からん……こんな初めてで非常に興味深いのと同時に憤りが止まらん……!」
「落ち着けよ。お前らしくもない」
俺が声をかけるとシルヴァは更に激しく頭をわしゃわしゃとかき回し、そして……。
「……そうだな。僕とした事が取り乱した。興味深さよりも苛立ちの方が勝ってしまうとは情けない」
一緒に拠点に帰ってきたネコとラム、そしてリリィは距離を取っておとなしくしていた。
本当ならリリィもすぐにシルヴァに抱き着きたいくらいだろうが、さすがに今のシルヴァに近寄る勇気は無かったらしい。
「ふぅ、状況を纏めよう。おそらく世界中の人々の魔物化は解消されたと思っていい。これはミナト……そして君達の功績だ。特にリリィ、よくやってくれた」
「……!」
どや! と胸を張る二人と違い、リリィはシルヴァに褒められた事で感極まってしまいぼろぼろと泣き出してしまった。
「いぎででよがったですーっ」
これだけ誰かに真っ直ぐな好意を向ける事が出来るっていうのは凄い。
別の意味でリリィを少し見直した。
「そして、だ。あの光の柱……どうやら軽く調べてみたところあの光は各地の街から立ち上っている」
「やっぱりそうか……急に街から光が出たから何事かと思ったぜ」
「通信でも説明したがあの光はどこか一点に集約している。光の原因は不明、アレがなんなのかも不明だ」
「それで、どうする? 放っておくわけにもいかないだろう?」
シルヴァは目を閉じ数秒考えてから、頷いた。
「そうだな……こうなったら僕自ら光の集約点を調査しに行く。ミナトも来てくれ」
シルヴァはもうすっかりいつもの調子を取り戻したようで、薄ら笑いを浮かべている。
あの光がなんなのか気になって仕方がないのだろう。
「ならどうやって行く? 場所の見当はついてるのか?」
「方法は……そうだな、たまには暇人に働いてもらうとするか。場所についても問題無い。何しろ光を追えばいいだけだからな」
一か所に集まっているのならどれか一本を追いかけていけばいい。
ただ転移と違ってかなりの距離を飛んだまま移動するとなると……。
というか暇人に働いてもらうって言ってたが誰の事だ?
「よし、僕は今から暇人を連れてくるからミナトは準備しておいてくれたまえよ」
俺が「ああ」と答える前に、シルヴァは家から出ていってしまった。
「さて……と、じゃあ俺はちょっとあの光を調べに行ってくるわ」
「えっ、私も行きますよぅ?」
「そうじゃな。儂も行くとするかのう」
「わらわも行きますよー?」
……まるでついてくるのが当然、という顔をしてるなこいつら。
「お前らが考えてるような面白い事はないかもしれないぞ?」
「でも何かあったら困るので一緒に行きたいですよぅ」
「そうじゃよ。いざという時儂が居なくて困るのはミナトじゃぞ?」
「ですですーっ!」
確かに居ないよりはいてくれた方が万が一の時にも対応できるか……。
しかしシルヴァの奴誰を探しに行ったんだ?
「戻ったぞ。皆外に来てくれ」
シルヴァがドアを開けるなり俺達に移動を促すが、そんな事よりドア開けた時に向こうに見えた人影に身体が震えた。
というよりママドラが、だけど。
『ひぇっ! ヤダヤダ私行きたくない!』
俺が行くんだからママドラだって行くんだよ。
『どうしても……?』
どうしても。
それに最近はそこまで害無いだろうが。
『害があるかどうかじゃないのよ生理的に無理なんだもん』
「ギャハハハハ! 俺に任せときなァッ!」
どうやらシルヴァはゲオルに本来の姿に戻ってもらい、その背に乗って移動するつもりらしい。
「約束の品ァちゃんと頼んだぜェ!?」
「うむ、高級ステーキ百人前だな。任せておくといい」
ゲオルの奴相変わらず肉や食い物で動いてるのか。らしいといえばらしい。
そしてシルヴァの質の悪い笑顔を見る限りきっと高級ではないステーキを食わせて誤魔化すつもりだと思う。
「じゃあさっそく行くぜェ!!」
ゲオルは一度屈伸するようにしゃがみ込み、そこから大きく空へと跳躍。
ピカっと一瞬光ったかと思うと、空に巨大な竜が現れた。
「ひっ、ひえぇぇぇぇぇっ!! アレなんですなんです!? でっかーいっ!」
リリィが怖がってるのかテンション上がってるのかよく分からん反応をしてぴょんぴょん小さく飛び跳ねた。
「ではミナト、行くとしよう。あの先に何があるのか……確かめようではないか」
「シルヴァ様ぁ~っわらわもーっ!」
リリィがシルヴァに飛びつき、シルヴァは特に嫌がる様子もなく彼女を受け止めた。
これがシルヴァなりの労いというやつなのだろうか。
転移でゲオルの背中まで移動すると、まるでゴツゴツした荒れ地に降り立ったかのようだ。
「六竜の背に乗る、というのは貴重な体験じゃのう。こんな機会に自分の足で動けるのは幸いじゃ♪」
シルヴァはラムの足に気付いたようで、こちらに説明を求めるような視線を向けたが、どうやらリリィの相手で精一杯らしい。
リリィは自分が受け入れてもらえた喜びで調子に乗りまくってシルヴァに激しく絡みついている。
『……』
べ、別に羨ましくなんてないんだからな。
『まだ何も言ってないわよ』