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第409話:暫定救世主。


「ところで、何か用があったんじゃろう?」


「あっ、そうだそうだ。これを見てほしいんだよ」


 急に妙な事になっちまって忘れてた。

 タブレットの入ったケースをラムに渡し、「これが魔物化の原因なんだが」と言っただけで彼女は見抜いた。


「ふむ、これは例の種じゃな?」


「ああ、種を細かい粉末にしたものに中毒性のある薬物を混ぜて作った菓子だ」


「……それで? 儂に何を求めとるんじゃ?」


 俺がラムに確認したい事は一つ。


「ラムちゃんはさ、こいつが発してる魔力の波数みたいなのって分るか?」


「そりゃ分かるのじゃが……ふむ、いいたい事は分かった。対の魔力をぶつけて相殺できないかって所じゃろ?」


 ラムは腕組みして俺を見上げる。

 この話の速さはさすがとしか言いようがない。


「結論としては、儂には無理……といったところじゃな」


「ラムちゃんでも無理か……」


「勘違いするでない。対になる魔力波数を調整してこちらから流す事は可能じゃ」


 ……? それが出来るなら何も問題が無いように思えるが。


「言っておくがこれは対になる魔力を流せば魔物化した人間が元に戻る、なんて簡単な話ではないぞ?」


「えっ、ダメなの?」


 俺はそれさえ世界中の人に届けられる方法が見つかれば解決できると思っていたんだが……。

 これはシルヴァ達に謝らなきゃならないかもしれない。


「いいか、よく聞くのじゃ。魔物化した人間達は体の組織が大幅に変質してしまっておる。つまりは通常ではない状態な訳じゃ。それは体が壊れていると同じじゃぞ? 効果を打ち消した所で変わり果てた姿の人間が出来るだけじゃ」


「つまり、同時に修復が必要って事か?」


「それも相当高度な、じゃな」


 対の魔力を流しつつ効果を打ち消しながら体の修復を行なう。

 仮に俺の中にある記憶を使ったとしてそれが出来るだろうか?


「二人ともどこいっちゃったんですぅ?」


 俺はハッとして声のした方へ振り向く。


「つまりは、そういう事じゃよ」


 ラムは確かに言った。儂には無理だと。

 しかし、ラムとネコ。この二人がかりならば対象を修復しつつ対の魔力を流す事が出来る。


 少しだけ光明ってのが見えてきたじゃないか。


 後はこれを世界中に届ける方法さえ解決出来れば……。

 しかし本題はこれだ。一番難しい問題なのは間違いない。


 勿論二人に協力してもらって各地を回ればいつかは全員元に戻す事が出来るかもしれない。

 だがそれはいったいどれだけの労力と時間がかかる?


 とんでもない数の人間をこの二人だけに解決させるのはダメだ。いくら二人が無尽蔵の魔力を持っていたり六竜を宿していたとしても、それには膨大な力が必要で、気が遠くなる時間が必要だ。


 それに、そんな事をしている間に時間が経ちすぎて元に戻れなくなってしまう、なんて事もあるかもしれない。


 出来る限り早く一気に解決まで持っていく必要がある。


 その為には、やはりあいつに頼るしかないのだ。


 荒唐無稽で理解不能な力を持つ彼女に。


「ごしゅじーん? あ、外に居たんですねぇ~。どうしたんですぅ?」


「ちょっとちょっとー? ネコさんわらわにお茶入れて下さいなーっ」


「あっ、はぁーい。ちょっと待ってて下さいねぇ。ごしゅじん達もこっち来て下さい。お茶入れますよぅ」


 俺達を探してドアから顔を出したネコにリリィが茶を要求したようだ。

 あいつも部屋に居たらしい。好都合だ。


 俺は家のドアを開けると、お茶を待っているリリィ、用意しようとしているネコに向かって頭を下げた。


「魔物になってしまった人間を元に戻すのにお前達の力が必要だ。頼む、力を貸してくれ」


「ごしゅじん……私はごしゅじんの物ですからねぇ。出来る事はなんでもしますよ♪」


「わらわに対してこうべを垂れるとは自分の立場がよく分かってきたみたいですねーっ! わらわとっても気分がいいので協力してやってもいいですよーっ!」


 そうと決まれば話は早い。

 まずは本当に可能かどうかを実践してみなければ。


「ネコ、リリィ、こっちにきてくれ。ラムちゃんも」


「わかっとるわい。で? どこで試すんじゃ?」


 場所は決めている。

 まずはダリルの王都だ。


 何故なら、助け出し城に連れていった連中の中に知り合いの姿が無かったから。


 つまり、ローラも、その兄である二人、レイズとロイズも魔物化してしまっているという事だ。


 王都へ転移すると、街は更に酷い有様になっていた。

 魔物化して荒れ狂った連中が建物を破壊したのだろう。


 俺は魔物の一人を適当に捕まえて、ラムに拘束の魔法をかけてもらってから街の外へ移動。


 ここなら野良の魔物に襲われない限り邪魔は入らない。


「ラムちゃん、やってくれ」


「分かったのじゃ。ちょっと待っておれ」


 ラムが魔物に手を触れ、種の魔力波数を見極め、真逆の魔力を流していく。


「ネコ、お前はこいつに回復を。丸ごと身体を作り替えるくらい強烈なのを頼む」


「そこまでのはさすがに~とは思いますが出来るだけやってみますぅ」


「わらわは? わらわは何すればいいんですかーっ!?」


「リリィはラムとネコが成功してからだ。一番重要な役目だからよろしく頼むぞ。お前だけが頼りなんだ」


 リリィにはプレッシャーという言葉は存在しないのだろうか?

 責任のある事はしたくないと喚いていた事があったが、とりあえず褒めておだてて甘やかしてやれば謎の自信に満ちたやる気を出し、相応の結果を出してくれる。


 とんでもなく便利な奴だ。

 そして同時に、今この世界に一番必要な存在で、更に言うなら極限アホ女。


『君は素直に褒めてあげる事はできないの?』


 褒めてるさ。

 悔しいけどこの今の状況下で世界を救えるのはこいつしかいないんだ。




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