表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

417/477

第406話:王都混乱。


 俺達は直接ダリルの王城へ転移し、玉座がある間まで向かう。


 途中兵士とすれ違う事は無かった。

 おそらく街中の騒ぎに対処しているのだろう。


「ライル! 居るか!?」


「おぉミナト殿! ちょうど良かった。聞きたい事があったのだ」


 玉座の間にはライルと、その傍らにメイド服のテラ。その二人しかいなかった。


「魔物が服着てるって話か?」


「……うむ、まさにそれだ。アレはやはり……」


 俺は無言で頷く。


「くっ、なんという事だ……国民が魔物に変貌してしまうなどあってはならない」


「実際こういう事態が起きちまったんだ。俺達はとにかく被害を最小限に留めて、無事な奴等を安全な場所まで退避させる事に集中した方がいい」


 俺の言葉にライルは眉間に皺を寄せる。


「ミナト殿……それは、この城を捨てろ、と言っているのか?」


「違うね。確かに俺はお前らを非難させる為に来たが、この城を捨てる必要は無い」


「それはどういう……?」


「ライルがすべき事は、この城に魔物を寄せ付けない事。それだけだ。俺は王都内に残ってる無事な人が居ないか探して連れてくる」


 ライルはまだ何か言いたそうにしていたが、それを飲み込んでくれたようだ。


「って訳だから俺等は行くよ」


「守るのは城だけ……でよいのだな?」


「ああ、それとこういう菓子に見覚えがあったら絶対に食うなって城の連中に言っとけ」


 ライルにケースを見せると、「私は見た事が無いが……」と首を横に振る。


「私は……それ、食べた事あります」


 テラが顔を青くしながら呟いた。


「それ、食べたらどうなっちゃうんですか?」


「現状何も無いなら大丈夫だ。一定以上摂取すると街中で暴れてる奴等みたいになっちまうらしい」


「それが原因で人々が魔物化したと? くっ、すぐに効果が出ない事で人々の目を欺いたのか……狡猾な……」


 ライルは心配そうにテラの手を握り、テラは頬を赤く染める。


 こんな時だってのにこいつらは……いいぞもっとやれ。


「これ以上摂取しなければ大丈夫だ。じゃあ俺等は街を見てくる。行くぞリリィ」


「えー、やっぱりわらわもですかー?」


「お前が無事な人間を探すんだよ! 一分一秒を争うんだ。お前の頑張り次第で助かる人間の数が変わるんだから気合入れろよ!」


「わらわそういう責任ある仕事したくないんですけどー!?」



 リリィは半泣きで喚きながらもきちんと仕事をしてくれた。


「あーそこそこそこにいますーっ! あ、次そっちですーっ! 違います違いますばーかばーか! ざーっこ!」


 ちょっとばかしイラつくような発言が含まれているのは大目に見る事にした。

 俺だけでは無事な人を探し回るだけでも相当な苦労があっただろうから。


 結果的に、勿論守れなかった人も居た。

 街の中には多くの遺体が既に転がっていたし、向かっている最中に反応が無くなったとリリィに告げられた事もあった。


 それでも、ここにリリィが居てくれたおかげで百人以上の命を守る事が出来た。


 後悔や、たらればを言い出せばキリが無いが……それでも今は悔やむよりも守れた命があった事を喜ぶしかないのだ。


 俺はとにかく無事な人を見つけ次第ストレージに放り込んでいった。

 一度その人達を城に連れ帰り、纏めて解放する。


 勿論大騒ぎになった。

 それもそうだろう。急に訳の分からない空間に放り込まれて、やっと出られたと思ったら王城の中ときてる。

 驚かない方がおかしい。


 しかし、この状況を見越していたかのようにライルが一喝。


「静まれ! 皆はこの国の英雄ミナトに命を救われたのだ! 嘆くより前に自らの生を感謝せよ!」


 俺は比較的情けない姿ばかりを見ていたせいか、些か面食らってしまったが、やはりこれでも王様らしい所はあるようだ。


 民衆の騒ぎはシャンティアどころでは無かったのだが、それもすぐに治まる。


 チラリとライルがこちらに視線で何か合図を送ってきているので仕方なく前に出る事にした。


「この街の皆なら俺の事を知ってるとは思うが、改めて名乗っておく。ミナト・アオイだ。この街……いや、この国中が現在人間の魔物化という災厄に包まれている」


 民衆はじっと俺の言葉に耳を傾けてくれた。

 ライルがすぐそこで見張っているのも大きいだろう。


「しかし、既に原因は突き止めてある。このケースに見覚えがある奴が居るか? もし現在持っている人が居るのなら提供してほしい」



 そう声をかけるとおずおずと手を上げる人達が二十人ほど居た。

 こんなにも浸透しているのなら街の惨状も頷ける。


 それらを提供してもらい、皆に注意喚起をする。


「人間が魔物に変わってしまったのはコレが原因だ。でも安心してくれ。今何も変化が無い人達は大丈夫。これ以上コレを食べないようにしてくれれば問題無い」


 街に出回っている菓子が原因だと知って人々はかなりざわついた。


「一旦皆を安全な場所へ避難させる。しかし必ずこの街に戻れるようにするつもりだ。魔物に変わってしまった人たちも……できる限り善処する。だから俺に少しの間時間をくれ」



 ……こうして王都民の避難は完了し、この後俺とリリィは残りの小さな街などを奔走し、拠点に帰れたのは夜になってからだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ