第369話:カオスリーヴァの真実。
「ちっ、このくらいじゃ死なないわね」
「まったく忌々しい」
とても気が合う友達のようにイルヴァリースとアルマはそう吐き捨てて、引っ込んだ。
「あーびっくりしましたぁ。シルヴァさんすいません」
「あぁ、構わないとも。アルマもリースも相変わらず気が荒くていけないね」
『まったくこいつときたら……! でもマリウスは一体……あの時何があったのかしら』
いきなり身体奪って殴り掛かるとかどういう事なの……?
『あいつが失礼な事言うのが悪いのよ。それに身体の周りに薄い障壁張ってたから私達のパンチなんて届いてないわ腹立つ』
で? カオスリーヴァの件詳しく聞いていいの?
『いいに決まってるでしょ。ここまで来て秘密にされたら夜も眠れないわ』
ママドラって寝る必要あるの……?
『眠かったら寝るに決まってるじゃない!』
決まってるんだ……?
「さて、本題に入るが……マリウスは呪いに侵されていた。そのままでは核にまで呪いが進行し、自我は崩壊……荒れ狂うだけの化け物になるところだった」
「だからカオスリーヴァがそうなる前に殺したってのか?」
……いや、待てよ? 殺してないんだったか?
「あの時魔王は我々を仲たがいさせる事が目的だったからね。仮にマリウスを殺さずにどうにかする事が出来たとしてもしつこく嫌がらせを続けたはずだよ」
シルヴァは昔を懐かしむように目を細める。
元々糸みたいな目だが。
「結果的にマリウスは狂い始めていた。自身もそれに気付いて僕に自身を殺させようとしたんだ。しかしそれに反対したのがカオスリーヴァだった。奴と僕は協力してね、カオスリーヴァがマリウスの身体を滅ぼした」
『……どういう事? イリスと同じようにマリウスも呪いを受けていた……?』
シルヴァの話じゃもっと質の悪い呪いをくらっちまったらしいな。
「僕は出来る限り強力な幻術を用いて核ごと滅びたように見せかけた、という訳だ。僕が前魔王戦の時に戦闘に参加しなかったのは裏で動いていたからだよ」
確かシルヴァだけ参加しなかったって話だったが、それにはいろいろ事情があったって事か。
「どうしてカオスリーヴァって奴は仲間殺しの罪を被ったんだ? お前と一緒に後で他の六竜に説明すれば済んだ事だろう?」
「それをしては意味が無いんだ。前魔王は本当に質が悪かったからね。確実に騙す為にはこちらもそれ相応の対処をする必要があった。カオスリーヴァは暴走したマリウスと戦って殺し、六竜は仲間割れをした……という事にしておかなければならなかったんだよ」
『……そんな、だったら、リーヴァは?』
「で、カオスリーヴァはどうした?」
「さぁね。その後は僕にも一切連絡を寄越さずに消えてしまった。そうするべきと判断したのか、そうしなければいけない理由があったのか、そのどちらかだろうね」
良かったじゃないか。お前の旦那は仲間を殺してなんかいなかったんだぜ? 喜べよ。
『だったら……どうして、あの時何も言ってくれなかったのよ……』
ママドラが問い詰めた時の事を言ってるんだろうけど、だから誰にも言えなかったんだってば。話聞いてたか?
『分かってるわよ! だとしても……私にくらい、言ってくれたっていいじゃない……』
ママドラも複雑なんだろうな。
イリスを残して消えた父親を恨むなりしていた方が気が楽だっただろうに、ここに来てそれにも全部事情があったと分かってしまったんだから。
「……しかし不思議だ。魔王キララは現在の魔王に相応しい力を持っていると僕も思うけれど、ミナトが当時相対した時はそこまで強い力を持っていたわけじゃあなかった。六竜が力を合わせて戦った魔王は何処へ行った? キララが殺して新たな魔王になったというのは違和感しかないのだが……」
「それは確かにアルマも驚いてたっけな。あの魔王を俺達だけでどうにか出来たはずがないってさ」
前魔王ってのはそれだけ面倒な相手だったという事だろう。質の悪い呪いばかり振りまいて苦しむ様子を笑ってみているような、そういうクソ野郎だったんだろう。
「ふむ……しかしキララがこの世界に転生してきた時点で新たな魔王として君臨していたのだからそれまでの過程で何かがあった、と見るのが正しいのだろうね。それを想像しても答えは出ないだろう」
ちょっと待てよ?
確かに魔王の事は考えたってしょうがないだろうけど、俺にはもう一つ気になっている事があった。
「さっきの話だとマリウスは殺されてなかったんだよな?」
「そうだが?」
「だったらそのマリウスの核ってのはどうなってんだよ。お前が持ってんのか?」
「いや、とある場所に隠してある。ちょっとした島国というやつだね」
……そこで今でもマリウスは眠っているという訳か。
「しかしユイシスのように偶然イヴリンの器が見つかったアルマとは違い、そう簡単に復活などは出来ないよ。あと数百年はこのままだろうね」
島国……ねぇ。
確かマリウスがイヴリンの器の血統みたいなのを突き止めて、とある島国の血筋に現れやすいみたいな話をしていたがもしかして……。
「おや、気付いたかい? その通りだよ。イヴリンの器を引き継ぎやすい血統ではあるがね、逆に灯台下暗しともいうだろう? 信頼のおける人物もいるので守ってもらっているのさ」
「……一応その島の場所を聞いても?」
ちょっとだけ嫌な予感がした。
そしてこういう時、俺の嫌な予感ってのは大体の場合……。
「ラヴィアンから数十キロ離れた場所から船で二日ほどの場所だが、地図には乗っていないよ」
当たるんだよなぁ。