第360話:したたかな女。
「近いうちに、この世界に破局が訪れる」
「ちょっと待てシルヴァ! なんだそりゃ……今までそんな事一度も……」
「言ってどうにかなる問題でも無いだろう? それに僕なりに情報を集める時間も必要だったからね。それと話の腰を折るんじゃあないよ」
シルヴァは真面目なままの表情で俺を一瞥し、すぐに話の続きに入った。
「まず君達には危機感を持ってもらいたい。現在魔王軍に魔王は不在だが、その腹心であるギャルンという魔物が暗躍している。彼は元々六竜最強にして最狂のカオスリーヴァから生まれた分体である事から危険性を理解して頂けるかと思う」
シルヴァの言葉に一番動揺していたのはゲイ……シャドウだ。
ギャルンが六竜の分体とは知らなかったんだろう。
アレに拉致られてからこいつの人生が歪んだんだから意識するのは当然だ。
「そのギャルンという魔物は度々ミナトの旅路に表れ、ここに集まっている皆の国々で騒ぎを起こしてきた。そしてランガム大森林ではランガム教という宗教を作り、国一つを消し飛ばせるほどの破壊兵器を建造……また、ラヴィアン王国では実際に国を滅ぼしている。その件の詳しい話は当事者から聞いてもらった方がいいだろう」
皆の視線がシルヴァからマァナに移った。
六竜であるシルヴァの話により、既に各国代表達の考えは同盟の必要性を理解していると思うが、そこでダメ押しのマァナである。
彼女は立ち上がり、俯きながら淡々と、そして徐々に切実に、最後にはボロボロと涙を流しながらラヴィアン王国の、ロゼノリアの惨状、そして最期を語った。
「……お見苦しい所をお見せしました。私の話は以上です」
「……おい、大丈夫か?」
あまりにマァナが感情的になり悲しみが溢れ出していたので心配になり、小声で話しかけると……。
彼女は俺の方を振り返ってぺろっと舌を出した。
こいつ……シルヴァに言われた通りの仕事を完璧にこなしただけだ。
全ては完璧にこなす為の演出。腹の底では何を考えているのか、どう思っているのか分からないが、少なくとも現状この場での言動は全て彼女の演技だった。
シルヴァはそれに気付いているらしくうっすらと笑みを浮かべていた。
本当にこの二人ろくなもんじゃねぇな……。
「ギャルン、そして魔王軍の危険性が理解出来た事と思う。これから先どの国がどのように狙われるか分かった物ではない……そこで、だ。僕はダリル、リリア、そしてシュマル……勿論ベルファ王国もラヴィアン王国も含めてだが、同盟を結び、どんな事象にも耐えうる対策を講じていく必要があると判断した。これが僕の考えの全て……何か質問、意見有る者が居ればなんなりと言ってほしい」
シルヴァの言葉にリザインがゆっくりと手を上げ、発言した。
「私としては同盟事態に異論は無い。他国との関係向上における流通網の整備などが出来れば国同士損は無いだろう」
「それは私も賛成だな。ダリルとしてはシュマルの技術力にはかなり興味を持っている。リリアとも長く国交が途絶えているからね、その辺も改善できるのであれば言う事無しだ」
「ふむ、ダリル、シュマル両国とも納得していただけた、と思っていいのかな?」
シルヴァが話を纏めようとした所で、「待て」と声をあげた者がいる。
「私からもシルヴァに聞いておきたい事がありますわ」
まさかのシルヴァの目前に座っているポコナからだった。
「おや姫様……何か問題でも?」
「いや、わたくしも同盟については賛成ですの。わたくしが聞きたいのはそこではなく、ランガム大森林、及びラヴィアンで建造されていたという兵器についてですわ。これに関しては情報を共有しておいた方がいいと思うんですの」
ポコナも一国の代表としての自覚が出てきたのか、シルヴァにだけ任せっきりという訳ではなく自分で考え発言できるようになってきている。
「ふむ、それもそうですね。しかしこれに関しては未知の部分が多いので分かる範囲で、という事になりますがよろしいか?」
「構いませんわ」
「ではまずランガム大森林で作られていた兵器と、ラヴィアンで建造されていた物は全く別の用途で作られた物でした」
シルヴァはランガム大森林にて教徒に作らせていた兵器について語った。
と言っても分っているのは巨大な魔導砲の類である事、その気になれば国一つを消し飛ばす事が出来るほどの物だったという事。
次に、ラヴィアンにあったあの装置。
それについては憶測も含めてどういう物だったのかを説明したが、きちんと理解出来た者はいなかっただろう。
現場に居た俺やマァナだってよく理解しきれていないのだから仕方ない。
「ラヴィアンに有った物について儂から所見を述べさせてもらおうかのう。アレは結果的にラヴィアンを別次元に移動させたが、目的はそれではなく実験の中で起きた事故という扱いじゃ。ギャルンが本来狙っていたのはここと同じようで少し違う並行世界という物が存在するのかどうか、を確認する為の装置であった」
「そしてそんな物は無かった……と?」
反応したのはリザイン。科学的な話に関してはライルよりも明るい為、興味を惹かれる部分もあったのかもしれない。
「うむ、そうらしいのじゃ。ギャルンの話では、もし並行世界が確認出来さえすればそちらから戦力を呼び込んだり、現在こちらで味方についている六竜すら向こう側に取り込む事が出来るかもしれなかった。これは単純に脅威じゃよ」
「そう考えるとそんな物が無くて良かった、と言うべきでしょうかね」
「ただ、儂としては……本当に目的がそれだけだったのかという疑問は残る。この情報はあくまでもギャルンの言葉を元にしたものじゃ。あやつは本当の事をあまり語らないから鵜呑みにするのは危険じゃ。念の為今後も検証していく必要があるじゃろうな」
ラムの言った事はシルヴァが説明した事とほぼ一緒のなのだが、奴はやたら難しい言葉で説明するから本当に分かりにくい。
その点ラムは誰にでもある程度理解できるように仕組みをかみ砕いてくれるので本当に助かる。
細かい部分の理解は出来ずとも話の内容に納得する事は出来たはずだ。
「……」
話がまとまりそうで一安心だなと、俺が一通り皆の顔を見回すと、何故かティアだけが眉間に皺を寄せていた。