第358話:はぁ……尊い。
「ふぃーっ! 疲れたのじゃーっ!」
「ラムちゃん、いつも悪いな。お疲れさま」
「何がお疲れ様、じゃ。重要なのはこれからじゃろ?」
確かにラムの言う通りだ。
何人も纏めてダリルまで転移させる為に、再びイルヴァリースとアルマの魔力を使って強化した転移魔法を使ってもらった。
彼女の負担は大きいだろう。
ネコの計らいで、魔力の使用量はアルマをメインにしてもらったおかげで俺はほとんど消耗が無い状態だった。
万が一の時に備えろ、という事だろう。
出がけにシルヴァによく分からない事を言われたのが気になる所だが……。
「彼女は大きなファクターになる。何かトラブルが起きた際には必ず最優先でティアを守るように」
そんな事は分かってんだよ。シルヴァは思念体への直接攻撃にかなりの興味を持っていたからな……。
今後精神体相手の戦いになる可能性があると思ってるんだろうか?
奴がそうだと言えばそうなのかもしれないが……。後で詳しく話を聞く必要があるかもしれない。
しかし各国の代表陣よりもまずティアを守れというのには首を傾げざるを得ない。
王の代わりは用意できるがティアの代わりは用意できないという事か。
どちらにせよこいつに護衛が必要とも思えないが……。
「ミナト殿! 待っていたぞ! そちらが報告にあったラヴィアンの?」
俺達の到着を真っ先に迎えてくれたのはアリア。
「はい。マァナと申します。本日はよろしくお願い致します」
勿論リリィは拠点に置いて来た。あんなのが居たら話がややこしくなるだけだからな。
「まったく兄上にも困ったものだ。王自ら出迎えに出るなどと言い出して大変だったんだぞ」
「はは、ライルの言いそうな事だな」
俺達はアリアに連れられてダリルの城下町を進む。
そして、その通路にはアレがあるわけで……。
「ほ、本当にミナトさんはダリルの英雄、なんですね……」
「なかなか見事な造形じゃのう♪」
「よく出来てるけどミナト本人には適わないんだゾ」
「しかし心なしかミナトよりも胸が大きい気がしますわ」
「お前らこんなもん見てないで先を急ぐぞ!」
ぶっちゃけ相当恥ずかしいんだこれは。
広場に建てられた俺の像。確かによくできているなとは思うが、だからと言って嬉しいとは思えない。
俺の像を見上げている皆を引っ張って足早に城まで向かうと、既にそこにはきんぴかな男が待ち構えていた。
「……ミナト、余に何か言う事はないか?」
「あっ、べ、別に忘れてた訳じゃ……」
違うだろ! 言うべき事をあらかじめ纏めておいたはずだったんだけどあっれなんだっけ!?
「まさかあのような地にいつまでも放置されるとは思わなかったぞ。余はエクサーでやるべき事が山積みであったというのに……」
「ち、違うんだって俺のせいじゃない」
「言い訳は見苦しいぞ!」
「ご、ごめん……」
「許す!」
一言謝ったら即座に許してくれた。意外と優しい所あるじゃないか。
『これが想い人に対する優しさなのね……』
やめてマジで。
「皆既に準備は整っている。さぁ、貴様等もついてこい」
エクスの後を付いて進む道すがら、マァナがボソボソと小声でティアに質問してるのが聞こえてきた。
「あの、ミナトさんにあの態度を取れるあの方は一体……? ミナトさんも謝ってましたし……」
「あー、あの人はミナトの前のリリアの英傑王だゾ。今はミナトにぞっこんらぶ」
「なんと……ミナトさんはおモテになられるんですね。シルヴァさんだけでなくエクスさんまで……はぁ、尊い」
ぞわわっと背筋に悪寒が走る。
さすがにその勘違いは放置できないと思い、振り返って訂正をしようとしたところで……。
「何をしているミナト。さっさと来い。これ以上余を待たせるな……どれだけ待ったと思っているのだ」
「わ、悪かったってば……」
「はぁ……尊い」
ぐぬぬぬ……! 唯一まともな奴だと思ってたのに! ダメだ。むしろ一番放置しちゃいけないタイプの人間な気がしてきた。
「まぁシルヴァもエクスもミナト大好きだからねー」
頼むからティアも否定してくれよ……。
それを訴える為にチラりとティアを見ると、顔を真っ赤にして顔を逸らされた。
だーかーらーさー。
そんな態度取られたらこっちも意識しちゃうじゃんかよ……。
昨日の夜というか今日の早朝というか……思い出すだけで心臓の音が早くなる。
うわ、顔が熱い。
『君って本当に耐性ないのよねぇ』
そりゃそうだろうよ……。
今まで好き好き言われてたのとは全く違うんだって。
あんな、もう、くそっ!
『ヤケにならないの』
分かってるって……。
しかしどうすりゃいいんだ……。
あれだけちゃんとした告白されていつまでもなぁなぁで済ますわけにはいかない。
どちらにせよ早めに答えは出してやらないと。
『もしかしたら曖昧なままの方が幸せかもしれないわよ?』
それも分かってる。
俺は出来ればそうしたいくらいなんだって。
でもさ、あいつは言ったんだよ。
一番になりたいって。私だけのミナトにってさ。
それは今までの話とは全く別の問題だ。
その後どうなっちまうのかなんて分からない。
だけど、俺は選択すべきなんだろう。
はぁ……気が重い。
「さぁ、この扉の向こうだ。入れ」
エクスは扉を開けようとはせず、俺に顎で合図をしてくる。
俺に開けろって言うのかよこの暴君は……。
仕方ないので扉を開けようとすると、扉の両端に居た兵士が慌てて開けてくれた。
「おっ、ありがとう」
「い、いえ……し、し、仕事ですからっ!」
声をかけた兵士は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
ほら、俺みたいに純粋な奴ってのは居るもんなんだって。
『……へー、ふーん』