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第357話:調子が狂う。


「ミナト! どこに行ってらしたんですの!? 部屋に行っても居ないから慌ててしまいましたわ!」


「あ、あぁ……少し早朝の散歩をな」


「目に隈が出来てますけれど大丈夫ですの?」


 あの後、ティアが自然と目覚めるまで俺は一切身動きが取れなかった。

 身体中が痛い。


 拠点の家に戻るなりポコナが詰め寄ってきてコレだ。


『へたれもここまで来ると病気ね……完全に据え膳ってやつじゃないの』

 うるさいよ。ああいうのはお互いの同意ってのが必要なんだ。寝ている間になんてダメダメ。


『その言い訳がいつまでも通用すると思わない方が良いわよ? 今回は運よくティアが疲れて寝ちゃっただけなんだからね?』


 ……その通りである。

 あのままティアが俺に身を預け、迫って来ていたら俺はどうしていただろうか。

 俺だってティアの事は好きだ。何せ可愛いし気が利くし強いし頼りになる。


 だからと言ってあのまま勢いで重要な決断をするわけには……。


 何かが変われば周りを取り巻く環境も大きく変わってしまう事はよくある事だ。

 俺はそれを恐れているのかもしれない。


『つまりはへたれなのよ』

 ……否定は、できねぇなぁ。


 目覚めたティアは何度も俺に謝って謝って、去り際に突然軽いキスをして逃げるように去っていった。


 その時の俺の気持ちが分かるか?

 身体痛くて身動き取れなかった上に不意打ちだったから避ける事も出来なかったけれど。


『避ける気無かったじゃないの』

 やかましい。


 とにかく俺の心臓はドラゴン製じゃなかったら既に数回爆発して死んでるだろう。


『どういう事なの……』


 とにかく、だ。ティアについては今後ちゃんと考える必要がありそうだ。

 だってあんなにストレートに、いつもの軽いノリじゃなくてしっかり気持ちを伝えてくれたんだから。

 受け入れるにせよ断るにせよ、俺だって誠意ってやつを見せないと申し訳無い。


「大丈夫ですの? 顔色が悪いですわ」


 ポコナが心配そうに俺の顔を覗き込む。


「ああ、大丈夫だよ。ちょっと……あまり眠れなくてさ」


『あーかわいそ。ぽんぽこ姫だって本気で君に愛を伝えてるっていうのにね』

 やめろ。これ以上俺の頭の中にタスクを増やさないでくれ……。


『現実逃避は良くないわよ?』

 だとしても、だ。今はまだそんな余裕がねぇんだよ。ネコとティアだけで処理能力がいっぱいいっぱいだ。


「で、俺を探してたって……?」


「ええ、ヴァールハイト……じゃなかった、シルヴァがミナトを探してほしいと言ってたんですわ」


「シルヴァが……? 日程でも決まったか?」


「その通りだ」

「うわあぁぁぁっ!!」


 突然シルヴァの甘ったるい声が俺の耳元で発せられたので思わず飛びのき、躓いて転んだ。


「いってて……急に背後に出てくるんじゃねぇよ気持悪い!」


「おやおやあんまりな言い草じゃないか。僕だって傷付く事はあるんだよ?」


「うっせー。それで? 日にちが決まったのか? いつだ」


 軽く耳を疑ったね。いつも無茶な事を言う奴だがそれは俺に対してだけだと思ってたよ。


「本日だ」


「……は? 急にも程があるだろ」


「いやいや、なかなか理に適った日取りだよ。なにしろ早く済ませなければいけない上に、シュマル代表のリザイン氏、ダリル王のライル、その両名が丁度今日は都合いいと言うのでね」


 それにしたって、だ。あまりに急すぎる。


「参加者はライルとリザインだけじゃねぇだろうが!」


「別に問題はないだろう? 他の参加者と言えば君、そしてマァナ、ポコナ姫、護衛としてティアとラムくらいなものだ。その全員今日がどうしても無理、という事はないだろうしね」


 確かにこの拠点に居る時点で特に忙しい用事などは無いはずだが……。


「それに君以外にはもう伝達済みでね。皆準備をしていると思うよ」


「マジかよ。なんで俺に言うのが最後なんだ」


「おや、言ってもいいのかな? 君に声をかけるのがはばかられたから後回しにしたんだ。ちなみに君の前にはティアに伝えている」


「分かった落ち着け。それ以上は言わなくていい」


 ポコナが不思議そうに、「なんの話ですの?」と俺の袖を引っ張るので「何でもないから!」と必死に誤魔化した。


 こいつとんだデバガメ野郎だ。

 万が一俺がいざ何かをいたそうとした時にまでこいつに見られてるかと思うと死にたくなるぞ。


「心配には及ばないよ。さすがにミナトの大事な日だと判断したらそこで僕はきちんとやめておくさ。あまりに可哀想だからね」


 心を読むんじゃねぇよ……!

『どっちかというと表情でバレバレなのよ……君は考えてる事がすぐ顔に出るから』


「だから何の話をしてるんですの?」


「ふふふ、ポコナ姫ももう少し大人になると分かるかもしれませんよ」


 シルヴァの奴ポコナに笑顔を振りまいておきながらこっちにはニヤリと質の悪い面を向けてくる。器用な奴だ。


「とにかく、全員準備ができ次第ダリルへ向かってくれたまえ。僕はシュマルへ行きリザイン氏達を連れて行くからね」


 聞けば、アリアはダリル城の方で既に警備に当たっているらしい。

 こちらから連れて行くのはマァナ、ポコナ、ラム、ティア。


「まぱまぱ~どこかいくの?」

「ごしゅじん、私お留守番ですかぁ?」


 ネコが寝ぼけ眼のイリスを連れて居間にやってきた。騒がしくしていた為起こしてしまったのかもしれない。


 ネコがそんな事で起きるはずないのになぁと思いつつも、その眼の下に隈があるのを見てこいつも眠れなかったのかな、と気付く。


「悪い。今回は留守番しててくれ」


「必ず……ちゃんと帰ってきて下さいよぅ?」

「絶対だからね?」


 二人がなんだか目を潤ませながら言うもんだから申し訳ない気持ちになってくる。


「ふぁぁ……儂の方は準備完了じゃよ」

「私も、準備……出来たゾ」


 眠そうなラムと、俺の顔を見て気まずそうに顔を逸らすティアの二人が合流。


 うーん、ティアにそういう態度取られると俺もどう接していいか分からなくなるからいつも通りが良いんだけどなぁ。


 どうにもこうにも調子が狂ってしまう。




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