第354話:ミナトと妙な関係の男達。
「その、少しよろしいでしょうか?」
今まで黙っていたマァナがゆっくりと手をあげる。
「……確かマァナと言ったね。構わないよ」
「ありがとうございます。今までの、その……イヴリン? という存在についてなどは一切理解が及ばなかったのですが……本当に私などが同盟会議に出席してもよろしいのでしょうか?」
「無論問題無い。むしろイヴリンの話など各国の王達ですら知らない話だ。君は一番核心に近い所にいると言ってもいい」
さすがにそれは言い過ぎだと思うが、確かに今まで王族が直接ギャルンやイヴリンと関わるなんて事は無かったからな……。
その点では国を滅ぼされているマァナは一番の当事者かもしれない。
……それを言うならラムもか。
彼女には本当に苦労をかけっぱなしだ。
ダンゲルのせいで精神的にも辛い思いをして、今度は肉体的にも相当な負担をかけてしまった。
ちゃんと労ってやらないとな。
「ラヴィアンは……既に滅びました。残っているのはわずかな兵と私、そしてリリィお姉様……私に何かしらの役割があるというのなら、なんなりと言って下さい」
マァナの真面目さをほんの少しでもリリィに分けてやってほしいくらいだが、そうすると微妙なアホが二人になってしまいそうで不安なのでやっぱりアホは一人でいい。
「……ならば僕も正直に言おう。君にはラヴィアン王国が滅ぼされたという現実を各国の代表達の前で出来る限り悲痛に訴えてほしい」
「うわ、最低だなお前」
つい思った事をそのまま口にしてしまった。
「何を言う。これは同盟を結ぶにあたって決定的なダメ押し要素として非常に重要だ」
「しかしなぁ……」
「良いのです。ラヴィアン王国のような国をこれ以上増やさない為にも同盟は早期に成した方がいいでしょう。その為に利用されるのならば本望です」
本当にどこかのアホとは違って出来た姫さんだぜ。
「よし、そうと決まれば後はこちらで早急に同盟会議の日程を調整させてもらう。申し訳ないがこちらで決めた日程に合わせてもらう事になるが」
「問題ありません。元より今の私にやるべき事は他にありませんから」
「お前さぁ……今回の事はまぁいいとして、今後いつまでもこいつの言いなりにならなくていいからな? 嫌な事はちゃんと嫌って言えよ? マァナの身柄はこの街で預かるから管轄はどっちかっていうとこいつより俺なんだし」
シルヴァの言いなりじゃ幸せになれるもんもなれなくなっちまう。
「ふふ、相変わらず僕に対して厳しいね。そういう所も愛らしいが」
やめろ馬鹿。
俺はキッとシルヴァを睨んだが、どうやらマァナには妙な関係に映ってしまったらしい。
「ふ、二人は……もしかしてそういう?」
「ははは、バレてしまっては仕方ない」
「ちげーよ馬鹿!」
「ムキになって否定して……なるほど。これは、アリですね」
「無しだよ頼むからお前だけは俺の中でまともなままでいてくれ……」
「こほん、失礼しました……それはそうと私が今いるここは街なのですか? ミナトさんの管轄、というのはどういう……?」
「一応ここは俺の街、って事になってるからな。……って言っても俺が拠点として使ってる家の周りに勝手に街が出来ただけだが」
ほんと知らないうちにこんな事になっちまったんだよなぁ。
気が付けばあの転生ジジイやそこの獣人達もこの街に合流してるみたいだし、リリア中から物好きが集まってきている。
それもこの国の姫であるポコナが居着いてしまってるのも原因だろう。
「それだけミナトがこの国では人気者という事だよ。何せ今代の英傑王なのだから」
「……あっ」
英傑王という言葉を聞いて思い出した事がある。
ずっと忘れてた。どうしよう……。
「な、なぁシルヴァ……今エクスってどうなってる?」
「……ふむ、そう言えば忘れていたね。とはいえ僕も魔力をほとんど使ってしまったしすぐに迎えに行く訳にもいかん。ついでだから同盟会議のその日までそのままシュマルの代表を護衛しててもらおう」
……その決定をしたのは俺じゃない。俺は関係ないからな。
会った時にあいつは間違いなく怒ってるだろうし俺に突っかかってくるだろうけれど俺は関係ないシルヴァが悪い。
きちんとそれだけははっきりさせておこう。
いざって時にしどろもどろになってしまったら俺の立場が危うくなる。
あいつ相手に少しでも弱気な所を見せたら一気に論破されてしまうというか押し切られてしまうので気をつけよう。
「ミナトさん? 顔色が悪いですが大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……ちょっと他所に残してきた男を随分と放置しちまってな……会ったら怒られるだろうから今のうちに対策を……」
って何を言ってるんだ俺は。
『君大分狼狽してるわね……エクス絡みになるとほんと精神が乱れるあたりが小物っぽくて面白いわ』
うっせー! 俺がそれだけ奴の事苦手って事だよ!
『なるほどね。それだけ意識しちゃってる相手って事ね』
その言い方やめてお願い。
「なるほど……! つまり他の男性に対して気まずい状況なのですね。でもいい訳などはせずにきちんと謝った方がいいですよ。誠意が一番です。嘘を付かれるのが一番悲しいですから……」
「あ、あの……」
「それにしてもミナトさんも隅に置けませんね……私ずっとそういうのに縁が無かったのでとても興味あるんです。応援してますからね!」
「……つら」
マァナの期待に満ちた目が俺を追い詰める。
勝手に妙な勘違いをされているのを否定するべきなんだろうが、今の俺はもうそれすら面倒になってしまった。
俺が男だって所から説明しなきゃならんの本当に面倒すぎる。
『男だって知ったら知ったで余計応援されたりしてね』
勘弁してくれ……。
有り得そうで怖い。