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第309話:相性は最悪。


「ぎぃひひひひひゃゃゃひゃひゃひゃぁっ!」


「ぐっ……その、気持ち悪い、笑いを……やめろ」


 視界が曇る。

 聴覚が麻痺している。

 少なくないダメージが身体に蓄積しているのを感じる。


「てめぇ……」


「ぎゃーははははっ! 騙されてやんのミナトってばピュアかよ笑いがとまんねー!」


 ゲイリー……こいつは、本当に人をおちょくる事に関して右に出る者はいない。


 あの時、上からダガー爆弾が降ってくるとブラフをかまして上に意識がいった隙に直接攻撃。

 それが効かなかったと俺に誤解させ、上への意識が完全に消えて安心したところに、実はダガー爆弾の雨が本当だった。


 何が問題ってこいつの極まった性格の悪さもさることながら、この空間内で俺が任意のタイミングで弱体化されるという話が本当だったって事だ。


「テメェはいつもこんな卑怯な手を使って邪魔者を消してきたのか……?」


「卑怯? 笑わせんな。俺が強者と渡り合う為に出来る事は相手を騙して意表を突く事くらいなんだよ! こうでもしねーとお前みたいなのには勝てねーんだわ!」


 何を偉そうに……!


 ……いや、実際すげぇとは思う。

 ママドラを封じられているとはいえ普通の人間が俺にこれだけのダメージを与えている。

 こんな展開考えた事もなかった。


 相手が魔族の幹部クラスなら、ギャルンなら、あの黒鎧なら……。

 そう考える事はある。その戦いの脳内シミュレーションをする事だってある。


 だけど人間相手に苦戦する展開も、ここまで陰湿な搦め手も完全に想定外だ。


 斥力魔法で俺に対する攻撃自体を弾こうにも常時発動出来るタイプの魔法ではないのでタイミングが分からない事には防ぎようがない。


 障壁で身体を包み込んで防御を固めれば全てを防げるだろうか?


 俺の皮膚に傷をつける事が出来る攻撃を、俺の障壁で防ぎきる事が出来るか……?

 少なくとも初撃は耐えられるだろう。

 しかし先程のようにいくらでも涌いてくる連撃を向けられたらいずれ崩壊する。

 それなら障壁にリソースを割くのは無駄だ。

 俺はいろんな事を同時に出来るほど器用じゃない。


 こんな時ラムの魔法の才能とその力の強力さを痛感する。


「お前を倒すのになりふり構っていられないな」


「おやおや~? その口ぶりだとまだ何か隠し玉があるのか?」


「あるさ。俺の目に見えている物が本当とは限らないのなら……目に見えていない物をぶっこわせばいい」


 ゲイリーはかすかに口角を下げ、首を傾げる。


「そりゃそうだろうけど……正直何言ってんのか分からねぇぜ」


 そんな風に呟きながらも、俺が何をするか警戒しているあたり抜け目がない。


「ウィンドスラスト」


 これはそこまで強力な魔法では無いが、小さな竜巻を発生させる風魔法だ。

 ダガーを弾き飛ばした魔法とは似ているが少し違う。アレは自分の意図した方向へ向けて風の渦を発生させる魔法。



「な、なんだよ驚かすじゃねーか。まさかそのちっちぇー竜巻で俺を吹き飛ばすつもりか?」


「……そのまさかだよ」


 ゲイリーの表情が険しくなり、身構えた。


「もしかしてサーチ系魔法で俺の位置を……?」


「いや、俺にそんな器用な真似はできないさ」


 そんな事しなくてもいい。


「だったら何を……」


「コピー、ペースト」


 自ら生み出した魔法をコピーし、二つに増やす。


「なんだ!? 今何をした!」


「コピー、ペースト、コピー、ペースト……」


「お、おい……冗談だろ?」


「お前は俺を弱体化できるんだよな? でもこの魔法は重ねれば重ねるほど威力が上がっていく。弱体化した俺の魔法と、強化されたお前……どっちが勝つか試してみようぜ」


「お前……狂ってんなぁ!」


 何故か嬉しそうに笑うゲイリー。こいつの心理状況はよく分からん。


「見えてる物が本当じゃないなら纏めて全部ぶっとばしゃ本体にも当たるだろ」


「いいぜいいぜクレイジーだなぁオイ! そういうのを待ってたんだよ俺はお前と戦う為に生まれてきたのかもしれねぇ!」


「うるせぇよ。気持ち悪い事言うなボケ! 覚悟しろよ……!」


 奴はどんどん数を増し威力をあげていく竜巻を眺めながら「ギャハハ!」と笑う。


「俺はさぁ、そうやってなんでもかんでも力でねじ伏せるような奴も、見境なく破壊して終わらせようとするクレイジーな奴も、そんな奴等に俺のやり方で屈辱を味合わせてやるのが楽しくてしょうがねぇんだ!」


「……これで最後だ。謝るんなら聞いてやる。特になければ……これで死ね」


「いいぜいいぜさっさとその魔法をぶっ放せ! 俺を殺してみせろよ!」


「ああそうかよ。お望み通りにやってやるよ……これでお終いだ!」


 俺は更にコピーとペーストを複数回重ねて、バチバチと互いにぶつかり合い時に反発し、時に融合して威力を増していく暴風と化した竜巻を全方位に放つ。

 こんな部屋など数秒あれば全域を一掃できるだろう。


 ゲイリーが無事で居られるとは思えない。


「ひひひひっ! この女も一緒に死んじまうなぁ! 残念でしたぎゃはははは!!」


 いつのまにかゲイリーの隣には目が虚ろなシャイナが立っていた。


「シャイナ!? くそっ!」


 マジで何がしたいんだこいつ……!

 人質を使って俺の攻撃を防ぎたいならぶっ放す前にシャイナを出すだろうが!


 なんでよりによってぶっ放した後に……。




 ……その答えは簡単だ。


 それは、こいつが俺を苦しめる、なんてくだらない事にも簡単に命をかけられる男だから。


 本当に、度し難い馬鹿だが、俺にとって天敵と言っていい程相性が悪く、戦いにくいのだけは間違いない。




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