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第307話:自由と混沌。


「待ちくたびれちまったぜ」


 うねうねと続く気持ち悪い通路を通り、突き当りを曲がったり階段のようになっている所を登ったり降りたりしてやっとたどり着いた場所はそれなりに広い空間。


 そこでゲイリーは退屈そうに胡坐をかいて待っていた。


「リザインの家の中にこんな広い空間をよく作れたな」


「別に元の家と同じサイズにしなきゃいけないってもんじゃないさ。でもここは地下だからどっちみち家のサイズとは関係なく展開できるけどな」


「……お前こんな魔法どこで習得した? かなり高レベル魔法だろう?」


「さぁな。訓練の中で自然と使えるようになっただけだ。結局これ以上の魔法は習得できなかったけどな」


 ゲイリーは本当につまらなそうに、そう吐き捨てた。


「シャイナはどこに居る」


「無事だよ。大事な人質だからな……あんたとの闘いに最大限利用し潰してやるつもりでちゃんと丁重に扱ってるさ」


 人質……か。


「お前は何が望みなんだ? 何がしたいのかまるで分らん」


「それは俺も同じだ。俺は何がしたいんだろうな」


 奴は胡坐をかいたまま後ろ手をついて天井を見上げる。


「ふざけてんのか? 目的も無くこんな事したっていうのかよ」


「そうだけど?」


 俺の方に向き直ったゲイリーは、何を当たり前の事を。と言わんばかりにきょとんとした表情をしていた。


「自由と混沌。そう言っただろ? 人はいつだって自由で救われてなきゃいけないんだ。食べたい時に食べ、寝たい時に寝て、ヤリたい時にヤる。それが人間ってもんだろう?」


「人間社会にはな、秩序ってもんが最低限必要なんだよ」


 俺は正直決まり事とか秩序なんて言葉は嫌いな方だからこいつの言いたい事も分らないでもないが、だからと言ってこいつの場合は極端すぎる。


「秩序、ねぇ……それに従って人と足並みそろえて生きていく事で幸せって手に入るのかねぇ?」


「幸せってのは人それぞれなんだよ。その中で十分に幸せなれる奴だっている。お前がやっている事は平和で幸せに暮らしている奴等の人生をぶち壊してるのと同じだ」


 ゲイリーは俺の言葉に前のめりになり、にっこりと笑った。


「それは違う。俺は誰もが何にも縛られなくて済むように決まり事をぶっ壊してるだけだ。その後、人間が自由に生きてどんな幸せを掴もうと知った事じゃない。勝手に幸せになりゃあいい。ただ、適応できない奴、弱い奴、迷いのある奴、文句ばかりで動けない奴……そういう奴から死んでいくだけだろ? あんたが言ってる幸せをぶち壊される奴等がそんな奴等の事なら俺はそれこそ知った事じゃねぇ。そんなのさっさと野垂れ死ねばいい」


「話がなげぇよ。ご高説ありがたいがちっとも共感できねぇな。育ての親まで殺そうとしやがって……しかもそれを俺にやらせようとしたのが気に入らん」


 ゲイリーはひどくがっかりしたように肩を落とした。


「なんだよぉ……その言い方じゃあのババァ殺してくれなかったのか? あれほど一気にやれって言ったのによう」


「何故だ?」


「何が?」


「シスターを殺そうとする意味が分からないと言ってるんだ。お前を育ててくれた人だろう?」


「それが? 俺はミナト……あんたを自由にしてやりたかったのさ」


 ……何を言ってるんだこいつ。


「俺がシスターを殺す事が何故自由に繋がる?」


「んー、なんていうかな。俺がぶっ壊してやりたかったのはあんたの倫理感、ってとこかな。それだけの力を誰かの為じゃなく自分の私利私欲の為に使えるように吹っ切ってやりたかったのさ」


 そう言ってゲイリーはゲラゲラと笑った。

 大袈裟に腹を抱えてぶよぶよの地面を転げ回った。


「お前……本当に糞野郎だな」


「おうよ。俺は糞野郎さ。ついでに鬱陶しいババァも始末できりゃ一石二鳥だったのによぉ……ここであんたに真実を伝えて怒り狂う所が見たかったなぁ~ひひっ」


 ……あぁ、こいつダメだ。

 殺さなきゃダメな奴だ。


「お前みたいに心から殺したいって思える人間に会うのは久しぶりだよ。迷いの欠片もありゃしないぜ」


「そりゃ結構。それだけあんたが一皮むけたって事だぜ」


「勘違いすんじゃねぇよ。俺は元から俺の平穏を壊そうとする奴くらい迷わず殺せるさ。今更お前を殺した程度じゃ何も変わらねぇよ」


「へっ、そうかいそうかい。じゃあいっちょヤリますかねっ!」


 ゲイリーは体をバネの玩具のようにくねらせて飛び上がった。


「ぐにゃぐにゃと……お前は本当に人間か?」


「それを言うならあんたのその化け物じみた戦闘力の方がおかしいだろ。人間とは思えないね」


 ママドラとの繋がりが断たれているので記憶のスムーズな読み込みが難しい。

 やる気になれば出来るが選別がまず膨大すぎるのと、読み込みの加減が出来ないので万が一の事を考えるとやめた方がいいだろう。


 となると、俺が今までに使った事がある物に限定した方がよさそうだ。


「残念だが俺はもう人間じゃねぇんだわ」


 加速スキルを使い一気に距離を詰めてそのみぞおちに全力の一撃を叩き込む。


 それだけでゲイリーの身体はバラバラに吹き飛んで終了。


 ……のはずだったのだが。


「おいおい、おっかないねぇ~。そんなおっかない顔するなよ。可愛いのが台無しじゃんよ」


 ゲイリーは一切ダメージを受けた様子がなかった。

 講演会の時は完全に手を抜いてやがったのか……?


「お前……本当に人間か?」



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