第286話:不安の種。
「ぐっ……まったく……面倒な……。この距離を転移してくるとは……」
ラムは代表の居場所を感知するのは無理だと言っていたが、ここに駆け付けたという事は……俺の魔力を追って来たのか。
俺達がここで止まったから目的地に着いたと判断したんだろう。
本当に優秀なお子様だよ。
大森林では痛い目にあったが、ラムを仲間に引き入れる事が出来た功績は大きい。
ジンバが血を流しながらフラフラと立ち上がる間に、ラムはこちら側に転移してきた。
「ラムちゃん、助かったよ」
「儂を褒め称えるのじゃーっ!」
「……人がせっかく、少しでも不利な状況を巻き返せるように心理戦に持ち込もうとしてたのに……全部台無しじゃないか」
「隊長……! もうやめてくれ……。もう勝ち目はないだろう? 今ならまだ間に合う……!」
シャイナの言葉にジンバは顔を歪めつつも笑った。
「君はまだ、そんな事を言っているのか? 私が何をしたのか分かっているだろう? 防衛隊は隠れ蓑として気に入っていたんだがね……残念だけど一度引かせてもらうよ」
痛みで気付いていなかったのか……。
「もう、逃げ場はねぇよ」
「……なに?」
ジンバがおそらく転移で逃げようとして、その顔色が青くなる。
「馬鹿な……何をした……?」
「簡単な事じゃ。空間に干渉できぬようここら一帯を結界で包み込んだだけじゃよ」
ラムが先ほどこっち側に転移した際、同時にこの空間に結界を張っていた。
「ふふ、はは……そうか、もう……逃げる事も出来ないか……ならばどちらにせよ私はここまでだ。それならせめてその男だけでも殺しておかないとな!」
ジンバはおそらく死ぬ覚悟で、代表だけでも道連れにとこちらへ向かって走り、剣を振り上げた。
勿論、そんなヘロヘロな攻撃では代表まで剣が届く事は無い。
俺はジンバの剣を受け止め、そのままへし折る。
「諦めろ。シャイナの言う通り、まだ間に合うかもしれないぞ?」
「……ふふ、そんな甘い言葉で私の決意は揺らがないよ。私を甘く見たのが運の尽きだ!」
突然ジンバの背中から四本の腕が生え、六本腕の魔物に変貌する。
「なっ!?」
人間だと勝手に思い込んでいたせいで反応が遅れた。
背中から生えた腕は一気に伸びて、ネコが抱えている代表の元へ向かう。
そして……。
「隊長、もう……やめましょう?」
その腕をシャイナが切り落とす。
シャイナの背後でネコの目が光っていたが、すぐに光は消えた。
目から光線出して焼こうとした所にシャイナが目の前に飛び出してきたからネコも慌てたんだろう。
一歩間違えばシャイナが蒸発してるとこだぞ……。
「くっ……これまでか……」
魔物化しても話は出来る……という事はやはり元から魔物だった?
俺の勘違いだったんだろうか?
とにかく、これで一件落着だ。
ジンバを拘束しようとしたところで、バギン! と嫌な音が響く。
「ミナト! 儂の結界が破られたのじゃっ! 何か、まずいのが来るぞ!」
ラムの結界を簡単にぶち破ってくるような奴なんて…俺の知ってる相手ならギャルンか、あの黒鎧くらいなもんだ。
俺の予感は的中し、ジンバの頭上の空間がバリバリと砕け、そこからあの黒鎧が降り立つ。
「た、助かった! あんたが来てくれればまだ勝ち目がある……!」
ジンバは這うように後退り、黒鎧の後ろに隠れるように移動する。
「……情けない」
「人には出来る事と出来ない事があるんだよ。私にこの命令は荷が重すぎた。それだけだ」
「失敗しておいて開き直るとは……それにちょっと前から見てたけどあの男を殺そうとしてたね? 生け捕りにしろって言われてたはずだけど?」
「ここで私が死んで何も得られないくらいなら道連れに始末しておいた方がいいと思ったんだ!」
「ふぅん。別にどっちでもいいよ。でも与えられた命令は生け捕り。その命令に逆らったのは確認したから。それにあれだけ時間稼いであげたのに失敗するとか恥ずかしくないの?」
どうやらあの黒鎧はジンバよりも立場が上らしい。あれだけの禍々しいオーラを放っているならそれも当然だろうが。
「し、仕方ないじゃないか! 私にそこまでの力は……」
「言い訳はいいよ。今回私はサポートを頼まれただけで、何がなんでも任務を成功させろと言われた訳じゃない。お前がどうなろうとあの男が生きようと死のうと知った事じゃない」
黒鎧は完全にジンバから興味を失ったように……いや、最初から興味など無かったかのように淡々と言葉を続けていく。
「こんな命令も達成できないならこれ以上お前は必要ない」
「ま、待ってくれ! まだだ、まだやれる……!」
「さっき死ぬ気だったくせに。私はお前が死ぬところを特等席で見たかっただけなんだけどな……まぁいいや。本当にまだやる気があるならせいぜい頑張って。これあげるから」
黒鎧がジンバに何か小さい物を放り、ジンバはそれを受け取ると、口元を引きつらせた。
「……これが、半端者の末路か……」
「別にやる気がないなら返してもらっていいけど? その場合は今私がお前を殺す。どっちがいい?」
「やるさ。やるしかないじゃないか……!」
ジンバは立ち上がり、その小さな物を飲み込んだ。
「ミナト……! アレはあの時のやつじゃ!」
ラムが叫ぶ。
「分かってる。多分あの時のアレだ」
ランガム教の教祖が使った種。おそらくそれと同じ物だろう。
「ぐっ、ぐあ……っ、うごぁぁぁぁぁっ!!」
メキメキと音を立ててジンバの身体が巨大化していく。
「さて……じゃあ後は宜しく」
黒鎧は一瞬だけこちらに視線を向け、そのまま溶けるように消えていった。
あの黒鎧も気になるが、今は目の前のこいつをどうにかしないと。
教祖の時と同じだったらかなり厄介な相手だろうが、こちらには今俺とラム以外にもネコ、そして……。
「ふーっ疲れたぁ~! さすがの私もあの量はめんどくさかったんだゾ!」
勇者様が居るからな、今回は負ける要素ゼロだぜ。
お読み下さりありがとうございます♪
作品冒頭のイラストギャラリーを更新致しました。
お察しクオリティですがお時間有る方は是非覗いてみてくださいませ☆彡




