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第260話:父として、母として。


「あ、おはようございますミナトさん! 昨日はゆっくり休めましたか?」


 ギルドに顔を出すなりニームがとびっきりの笑顔で手を振ってくる。


 俺達の事をよほど信頼してくれたのか、ドラゴン討伐以前とは随分態度が変わったように思う。

 こちらとしては友好的な方がいろいろ都合がいいけれど、やっぱり結果が全てというか、長い物には巻かれろ的な感じなのかなとかいろいろ余計な考えが頭をよぎてしまう。


『根暗すぎ! それに君が今感じてる事は女性だけじゃなくて人間全般に言える事だからね? 女性不信の言い訳にはできないわよ?』


 ……それもそうか。

 人間なんて誰しも腹に何かを抱えているものだし自分に都合のいい相手とは仲良くしておくに限るし、そうでなければ排除するのが普通だ。


 男だからとか女だからとかそういうのはあまり関係ない事なのかもしれない。


『そうよ。だから根暗な君が一人でもやもや悩んでいてもなんの意味も無いし答えは出ないし何かが出来る訳でもないし何も変わらないわ』

 ……手厳しいね。


『だからこそ、君はもっと自由と自分の幸せを謳歌すべきなのよ』


 ……確かに俺は根暗だしネガティブだし後ろ向きだし一人で考えこんでいたらどんどんマイナスな事ばかり浮かんで来るけれど、ママドラが居てくれるおかげでかなり助けられてるよ。

 ありがとな。


『な、何よ急に……照れるじゃない。もっと頼ってくれたっていいのよ♪』

 ああ、今後とも頼むよ。


 ……でもおれが自由や幸せを謳歌するのはイリスを取り返してからでいい。


『……気にするな、とは言えないけれど……それにしたって君は気にし過ぎよ?』

 当然だろう。俺が不甲斐ないばっかりに娘をさらわれたんだぞ? 割り切れるもんじゃねぇよ。


『……そう、ね。イリス、必ず助けましょう。私も出来る限りの力を貸すから。お願いね』

 ああ、言われなくても。


 ……だって、俺達二人はイリスの親だからな。


『ふふっ、そうね。でも私達二人の子だからって言われたらどうしようかと思っちゃった』


 俺達はイリスの親だけどイリスは俺達二人の娘じゃないからな。


『別に私としてはもうどっちでもいいけどね♪ ミナト君との夫婦生活もそれなりに楽しそうだし』

 ……あんまりからかうなよ。俺にお前の旦那は荷が重すぎるだろ。


『そうかしら? 私は結構君の事評価してるわよ? きっとネコちゃんほどじゃないでしょうけどね』


 そう言えばネコは随分と俺を評価してくれていたな。大森林の時の言葉が俺を慰める為の肯定だったとしても、あれに救われたのは事実だ。


 俺を認めてくれて、俺を肯定してくれて、評価してくれる。

 それがあんなに嬉しい物だとは思わなかった。


『みんなだって君の事を信じてるし認めてるし評価してるわよ』

 ……だといいんだけどな。


 好いてくれてるのかな? って奴はいるが何がどう好きなのかを聞いた事があるわけでもないし……。


『あぁ、君は直接的な好意が苦手っていってたけれど、どちらかというと直接的な好意をこれでもかってぶつけられないと好かれている自覚が持てない人なのね』

 人を朴念仁みたいに言うんじゃねぇよ。


『どう考えても朴念仁よ。直接的な愛をぶつけられなければ自覚できないくせに直接的にぶつけられると日和っちゃう。結局ヘタレなのよね』


 直接的過ぎる愛情ってのは殺意と紙一重なんだって言ってるだろうが。

『君の場合愛された経験が特殊過ぎるのよ。他の人達の愛情までそんなんだと思わないであげてほしいわ』


 何度も言うけどそんな事は分かってるんだって。

 ただ俺の中のトラウマが簡単には消えてくれないだけだ。


「ミナトさん? どうかされましたか? 少し顔色が悪いようですけど……」


「い、いや気にしないでくれ。昨日焼き肉食べ過ぎて胃が靠れてるだけだよ」


「大丈夫ですか? 胃薬飲みます?」


 ニームが心配そうに顔色を覗き込む。


「大丈夫、これくらいすぐによくなるさ。それに俺よりネコの方がアホみたいな量食べてるしな」


「うにゃっ?」


 急に名前を呼ばれたのでびっくりしたのかネコの耳がぴこんと立った。

 あの耳の破壊力たるや大したものである。


「あはは……ユイシスさんの食欲物凄かったですもんね……」


 ニームは昨夜の焼き肉パーティにてネコがたいらげたドラゴン肉の量を思い出し遠い目をしていた。

 普通の人はその反応で合ってる。気にするな。


「それはそうと次の依頼はなんじゃ? 何かいいのがあるといいがのう?」


 じっとしてるのに飽きたのかラムがぶわりと車椅子ごと浮き上がりその場で横にゆっくり回転しながら問いかける。


 手持無沙汰になった時に指先をいじったり貧乏ゆすりしたりとかはよくある事だけど、宙に浮いて回り出すっていうタイプの奴は初めて見た。


「あ、はい! あれからいろいろ調べまして、難易度的に他の方々では難しそうな案件がありました。これも長らく放置されていた案件なのですが……」


 そう言ってニーアが大きな地図をカウンターの上に広げて一点を指さす。


「シュマル王国の南東部にある湿地帯が特殊な魔物に占拠されていると報告が入っております。みなさんにはこれの討伐をお願いしたいんですが如何でしょうか?」


 特殊な魔物ねぇ……? それだけ放置されてきているって事は厄介な相手なんだろう。


「分かった。じゃあ詳しく教えてくれ」



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