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第16話:ほんのりとした心境の変化。


 そわそわし始める馬鹿ネコを無理矢理引き摺りながら街を歩き、換金所を見つけ中に入る。



「らっしゃい」

 頭もヒゲもボサボサの鼻がデカいおっさんが出迎えてくれた。

 俺は換金したい物を見せる前に、おっさんに問う。


「かなり高値の物を持ってきてる。鑑定書付きだ……物を見せる前にこの店が最大いくらまで取引できるか教えてくれ」


「……なんだと、そんなにか!? そうだなぁ……素材関連ならある程度は対応できるが貴金属や骨董品は買い手を見つけるのが大変だからあまり高額での取引は厳しいな」


「いくらまで行ける?」


「物にもよるが……五十万~七十万ってところだな。誰でも即飛びつきそうなもんなら百くらい出してもいいが……」


 俺はネアルの取引所でじいさんに鑑定してもらった品物が入った袋をガサガサと漁り、その中から五十万程度とメモ書きをしてあるツヤツヤした生物の牙を取り出した。


「これなんかどうだ? 一応ネアルで五十万程度の価値があると言われてるんだが」


 俺が掌より少し大きいくらいのそれを見せると、「ち、ちょっと貸してくれ!」と奪い取られる。


 小さなレンズであちこち見ていたおっさんは、「確かにこりゃすげぇな……こいつはスノーマンモの牙じゃねぇか。加工すれば飛ぶように売れるぜ……持っていくところに持っていけば七十は行けるぞ。うちじゃ五十……いや、六十までしか出せんがどうする?」と瞳を輝かせて言う。


 そんな素直な反応されたら他所になんて持って行けないだろ。


「金額の事も正直に言ってくれたしおっさんにお願いするよ。五十でいい」

「本当か!? ちょっと待ってな! すぐに金を用意するからよ!」


 大金は店の奥にしまい込んでいるらしく、一度奥へ引っ込んで数分後に帰ってきた時には小さなお盆に分厚い札束を持っていた。


「ほれ、一応枚数数えてくれ。五十万ジャイルきっちりあるからよ!」


「ありがとう。助かったよ」


 これで手持ちが一気に五十万! かなり気が楽になったぞ。


「あのーおじさん、これも一緒に見てもらえませんかぁ?」


 そうだった。馬鹿ネコにくれてやった宝石はどうだろうか?


「ばっ! えっ? おい嘘だろ……? こんなもん持ってこられても困るぜ……うちは貴金属類取り扱ってもなかなか買う人がいねぇんだからよ しかもそんな化け物みたいな宝石王都にでもいかにゃダメなんじゃねぇか?」


「そうですか♪ わかりましたーっ」


 気を取り直して、店を出て商人のおっちゃんが言っていた野良猫亭を目指す。


「お前なんで換金出来なくてあんな嬉しそうにしてたんだよ」

「うにゃ? だって換金できない方がごしゅじん達と一緒に居られるじゃないですかぁ♪」


 ……こういう事をサラッというタイプは苦手だ。

 なんというか本心が分からない。どこまで本気で言っているのだろう?

 悪い気はしないし、普通に照れるからやめてほしい。


「どうせ王都まで行かなきゃ換金できやしねぇよ。そこまでは一緒だろうな」


 その言葉を聞いて馬鹿ネコの表情がパァっと明るくなる。


「ほんとですか!? やったーっ♪ これでまだ一緒にいられますねっ♪」


 ……こいつは俺達と一緒にいるメリットが何かあるのか?


「にゃんにゃんとまだ一緒に居られるのうれしーっ♪」

「ねーっ♪」


 あぁ、妙な勘違いをしそうになった。イリスと仲がいいから離れたくないと思うのは当然か。


 元々女に対しての免疫がほとんどないからついちょっとした事で動揺してしまうな……。この世界ではエリアルと付き合っていたっていうのに。


『君は本当に初々しくて面白いわね』

 ……しばらく大人しいと思えば出て来るなりからかいやがって……。


『君の身体のバランス調整を手伝ってあげていたの。ほら、元に戻るわよ』


 俺の身体から胸が引っ込み、無かった物が現れ髪の毛が黒髪に変わり短くなる。


 おお、確かに今回は早いな。丸一日かかってないじゃないか。


『段々とこの辺の間隔は短くして行けると思うわ。要は慣れとバランスだから』


 ……使い続ければそれだけコントロールもしやすくなるんだろうけどさ、個人的にはいざという時以外にはあまり手を出したくない力だ。


「あれっ、ごしゅじんが元に戻ってる。やっぱり不可思議人間ですねー?」


 てめぇに不可思議呼ばわりされたくねぇなぁ。


「そもそも換金出来るまでの付き合いなんだからそのご主人っていうのやめろよな」

「ごしゅじんはごしゅじんですよー♪ 私がそう決めたのでっ!」


 ドヤ顔で親指を俺の前に突き出してくる。

 いつどういう理由でそうなってしまったんだ。


 やっぱりそうそうに取引き出来る場所を見つけてこいつを置いて行こう。そうしよう。


 王都まではまだ距離があるし街も幾つかあるからな。それまでに換金出来る場所さえあれば……。


 待てよ?

 俺が今持ってる金をいくらか握らせてやればそれで縁が切れるのでは?


 そう思い後ろから付いて来ている馬鹿ネコに振り返ると……。


「んにゃ? どうかしましたかー?」

「どーかしたー?」


 馬鹿ネコがイリスの手をぎゅっと繋ぎ、まるで姉妹のように楽しそうに歩いていた。


 ……もう少しだけ、様子を見てやる事にするか。



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