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第161話:女ったらしと地獄絵図。


「あ、圧倒的ぃぃぃぃっ!! 今年はどうなってんだぁぁ!? 特別参加枠二人が強すぎるぞぉぉ!!」


 そんな実況を聞きながらディグレに近付くと、完全にトラウマになってしまったのか俺の顔を見てガタガタと震えだした。


 ちなみに舞台上の惨劇はディグレが負けを認めた時点で蒸発して全て消え去った。

 しかしあれだけ血が噴き出すって事は本当に実体を持っていたんだなぁ。


 こいつは英傑武器を出さなかったところを見ると、武器というよりこの分身を生み出すための何かが英傑武器だったんだろう。


「ほら、立てるか? さっきはすまなかったな。ちょっとやりすぎたよ」


 そう言ってディグレに手を伸ばす。


「あ、あぁ……で、でも……」


 観客や実況の奴にはまだバレていないが、どうやらこいつは恐怖のあまり失禁してしまったらしい。それを恥ずかしがって立つのをためらっているようだ。


「そんな事気にすんなよ……ほら」


 再び手を差し出すが、それでもディグレは躊躇う。


 なんか変だなぁ。確かに相当な屈辱だろうが……って、ちょっと待てよ。


 さっきまでとディグレの様子が違う。

 どうやらこいつの英傑武器は姿を変える力もあったらしい。

 胸元が膨らんでいる。


「お前……女か?」

「……ッ!? こ、この事は、誰にも……!」


「言わねぇよ。隠してるって事はなんか理由があるんだろ? しかしそれなら確かに……」


 失禁したのは尚更恥ずかしいだろうな。


「とりあえず早く外見元に戻せ。さすがに実況の奴にはそろそろバレるぞ」


「わ、分かった」


 で、だ。後はこれをどうするかだけど……。


 ちょっと一芝居打ってやるか。


「おい大丈夫か? ボケてんじゃねぇぞしっかりしやがれ!」


「えっ、何を?」


 俺が会場の奴等にも聞こえるくらいの声で急に叫んだのでディグレは驚いてぽかんと口をあけて固まってしまったが、俺はそれを無視してディグレの頭上に魔法で水の塊を生み出し、それを奴にぶっかけた。


「ど、どうしたんですか!?」


 実況者が何事かと慌ててこちらに駆け寄ってくるがもう男の姿に戻っているので問題ないだろう。

 それにこいつ自体水浸しなのでアレがバレる事も無いはずだ。


「あぁ、こいつがちょっと意識朦朧としてたから水ぶっかけてやったんだよ」


「ディグレさん、大丈夫ですか? 医務室へ行きますか?」


「だ、大丈夫だ……問題無い」


「ほれ、大丈夫ならさっさと立て。次の試合の邪魔になるぞ」


 もう一度ディグレに手を差し出すと、今度はおずおずとその手を握り返す。


 確かにこうやって手を掴んでみると、見えているサイズよりも小さい。

 どうやら姿を完全に変えるというよりはそう見えるようにしているだけらしい。


「うわっ」


 ディグレがよろけて俺にもたれかかって来た。そして、先ほどの俺の考えが正しい事が実証された。


 なにせディグレを支えた腕にぷにょんとなかなか立派な感触があったから。


「す、すまん」

「いいって事よ」


『いい思いも出来たしね?』

 うっせー。けどそれはそう。


「ミナト……と言ったな。君には、その……借りが出来てしまった」

「気にすんなって。それより身体はどこも異状ないか?」

「……だい、じょうぶ」


 なにやらディグレが上目遣いで俺の腕に絡みついてきた。


 会場がちょっとざわついている。

 でもお前らは間違ってるぞ。本当はこいつが女で俺が男だからな。


「君は……強い上に、その、優しいんだな」

「やめろよ照れるだろ」

「女の人なのに強くて優しい。私……俺が目指す理想そのものだ。正直、憧れる」


「ば、馬鹿。そんなに胸押し付けるなって……ほら、とりあえず舞台から出るぞ」

「……うん♪」


 な、なんか妙な事になっちまった……!


『さすが女ったらしのミナト君ね♪』

 いや、こいつが女だったのは偶然だろうが……!

『そういう偶然も含めて、よ。君はそういう運を持ってるのかもしれないわ』

 そんな運……もっとちゃんと男だった頃に欲しかったわ……。


「お、おいもっと離れろよ歩きにくいだろ?」

「やだ。私がこうしていたんだもん。ダメ?」


 ぐはっ。なんだこいつ急にヒロイン力出してきやがって……!


 それに女言葉とかもう隠す気ないじゃねぇか。


「私……もう自分を偽るのやめる。だって女の子だって私の目指す場所に君がいるんだもん。私だって頑張ればそこにたどり着けるかもしれないでしょう?」


 ディグレはいつの間にか変装を解いていた。

 それに気付いた奴が何人かいたようで会場が突如ざわめき出す。


「お、おいディグレってもしかして……」

「なんだあの胸部装甲は……!」

「俺今年ディグレの街に引っ越そうかな……」


 そんな言葉が飛び交う。

 あーあ、もう知らね。


『そんな事よりもっと切実な問題が目の前にあるわよ?』

 ? なんだそりゃ。


「ミナト様ぁっ! こ、ここここれはいったいどういう事ですのーっ!? せ、説明を求むのですわーっ!!」

「ごしゅじん……どこでも構わず女の子をその気にさせるのは良くないと思いますぅ……」

「ミナト殿……やはり私のようなゴリラ女よりもスレンダーで胸の大きい女がいいのだな……私だって結構あるんだぞ……?」

「まぱまぱもってもてだね♪」



 とにかく一番大荒れだったのはぽんぽこ。

 そりゃもう物凄い剣幕で俺に食って掛かり、俺からディグレを引き離そうとするが、ディグレは俺の腕に絡みついたまま離れず、それどころかぽんぽこに向けて舌を出し、「べーっ!」とかやるもんだからもう地獄絵図。


「こいつっ! 殺す! こいつは殺さなきゃダメなやつですわーっ!」

「ミナトさん、このタヌキなんなんですか!? 害獣の癖に生意気ですっ!」

「誰が害獣ですのーっ!!」


 繰り返す。

 地獄絵図。



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