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第138話:女の底力を甘く見てはいけない。


「……へ? おとこ? ミナト殿が? またまた御冗談を」


 あっさりと暴露したのはぽんぽこ。

「ミナト殿は男性なのですからそんなけしからん物を見せてはいけませんわっ!!」

 だそうだ。


 クイーンは首を捻り、「それは無いだろう?」と否定。

 そうだぞ、俺が男なはずないじゃないか。


「ほんとうにミナト様は男の人なのですわっ!」


「いやいや、ちゃんと街に入る際に行った審査では女性だと……」

「外見は女性なのですっ! 中身は男性なのですわっ!!」


 おいやめろそれ以上はいけない。


「……」


 クイーンがゆっくりと俺の方へ視線を動かし、その眼が訴えかけてくる。「本当か?」と。


「あー、その、まぁ……そういう事だ」


 クイーンが手に持っていた白い布をばさりと落とす。そしてまた胸元が丸見えになって……。


「じろじろ見てんじゃねーですわーっ!」


 俺とクイーンの間にぽんぽこがババっと割り込んで来たのと同時に、ばちこーん! と、その掌は的確に俺の顎を捉えていた。


 油断していた、というのはあるかもしれない。

 完全に警戒を解いていた。だからといって……。


 だからといってただの、一国の姫さんの平手打ち程度でこんな事になるなんて思わなかった。

 余程不意打ちでいい所に入ってしまったんだろう。

 つまり、俺の意識は見事に吹っ飛んだ。



 目を開くと皆が俺を心配そうに覗き込んでいて、俺はやっとここで事情を把握してめちゃくちゃ恥ずかしくなったわけである。


『ご愁傷様。油断大敵ってやつね』

 クイーンにも似たような攻撃を喰らったがそれは耐えられたのになんで姫の一撃はこんなにも響いたんだろうか。

『いざって時に女の子は恐ろしい力を発揮するって事ね』

 クイーンの胸を見せない事がそんなにも必死になる所だったってのか?

『それはそうよ』

 それはそうよじゃわからんて。

『君には何を言っても分らないわよ。はい、しゅーりょー』

 待て、おい!


「だ、大丈夫か? その、男と知っていたらこちらももう少し気を付けたのだが。申し訳ない」

「待て、クイーンが謝る事じゃないだろ。俺が性別詐欺してたみたいなもんなんだからよ」

「いや、確かにミナト殿は最初から女性らしい振舞いをしていなかった。私もそれを疑問に感じるべきだったのだ」


 クイーンは気まずそうに視線を落とす。


「だからもういいって。それよりぽんぽこ」

「ひゃいっ! そ、その……申し訳ありませんでしたわ。まさかその……」


 ぽんぽこはタヌキフェイスを歪ませながらおろおろと取り乱している。


「はぁ……アレはかなりきいた。今後身に危険が迫った時は自分でどうにか出来るな」

「そんないじわる言わないで下さいまし……」


 ぽんぽこが涙ぐんで……いや、本格的に泣き出してしまった。


「ごしゅじーん?」


 ネコからの視線が痛い。分かってるって。


「あー、嫌味言って悪かった。クイーンに恥をかかせないように必死だったんだろ? 俺も見ないようにするべきだったよ」


 そう声をかけてぽんぽこの頭を撫でる。出来るだけ優しく。


「なんだか私にするのと違う気がしますぅ……」

「うっせー」


 うちの馬鹿ネコと違ってぽんぽこは問題行為をしたわけじゃないからな。

 できるだけ丁重に扱わないと。


「もう怒ってませんの?」

「いや、そもそも怒ってないって」

「そうでしたか……なら良かったですわ♪」


 さっきまでの涙はなんだったのかと思うほど、ぽんぽこは明るく笑う。


「……で、クイーンは俺に関して納得してくれたと思っていいんだな?」


「う、うむ……勿論私は姫のやろうとしている事に協力するし、そのお姿を元に戻すのも力を貸すつもりだ。だが……」


 だが、の部分が問題だった。

 本当に申し訳なさそうに言葉を続ける。


「ヴァールハイトの事だろう? それを聞きにわざわざここを訪ねてきたと聞いたが」

「そうだ。ぽんぽこが言うにはそいつが怪しいって話だからな。ジキルが、クイーンが連れてきたと……」

「そ、それは誤解だ! 私が男をわざわざ王の元まで連れ込むような真似をするわけがないだろう!」


 いや、そんな事言われても……。

 どうやら本格的に男嫌いらしいな。


「じゃあジキルのアホが勘違いしてたってのか?」

「勘違いは勘違いなのだが……確かに私が王の元へ連れて行ったのは本当なのだ」


 ……は? 言ってる事がめちゃくちゃじゃねぇか。


「待ってくれ、ちゃんと説明する。えっと……私はただ王に会いに来たという男を案内していただけなのだ。ちゃんとアポも取っているという話だったのでな……うん? 確か……そうだったと記憶しているが……あれ、違ったかな?」


 ……なんか妙な感じだけれど、それならジキルの早とちりか?


「つまり困ってるヴァールハイトを王が居る所まで案内しただけって事か」

「そう! それが言いたかった!」


 ぽんぽこを見ると肩を落とし、明らかにがっかりしていた。

 情報がここでストップしてしまったのだからそれも仕方ない。


「だったらせめてヴァールハイトについて何か情報を知らないか?」

「そもそも本当にヴァールハイトの仕業なのだろうか? 奴を庇う訳ではないし得体のしれない奴なのは間違いないが……情報が少なすぎる気がしてな」


 ……確かにそれはそう。

 状況を考えるとヴァールハイトが一番怪しいってだけで、可能性をそいつだけに絞り込むのはちょっと早計だったかもしれない。


「ならクイーンはぽんぽこがこんな姿になった原因とかに何か心当たりはないか?」


「……ふむ、それは私には分からないが、もしかしたら英傑王なら何か知っているかもしれないぞ。私よりもよほど王に近しい存在だからな」


 えいけつおう?


「わたくしあいつ嫌いですわ」


 ぽんぽこが額に手を当てて唸った。

 こいつが嫌うって事はきっとろくな奴じゃないな。



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