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第124話:劣等感の塊。


 俺達が帰ってきた事に気付いたジオタリスはバツが悪そうに口笛なぞ吹いていたが、姫にやたらとからかわれて哀れだった。


 こちらに帰ってくる時ナージャが一緒に連れていけと大騒ぎだったが、「呑んだくれは来なくていいですわっ!」と姫にバッサリ切られて、まるで犬のような鳴き声をあげて崩れ落ちていたのでその隙に逃げるように帰ってきたわけだ。


 そこからまた半日ほど馬車に揺られ、俺達は奴隷市場があるというウォールの街へ到着した。

 なんていうかね、奴隷市場なんていうからろくなもんじゃねぇとは思っていたけれどここまでとは思わなかったよ。


 まるでシャンティアのスラム街が全体に広がってる感じだ。

 結局あの時は行かなかったが、ブラックマーケットでも人身売買は行われていたんだろうな。

 あの後ノインがスラムに手を入れたようだからその際にブラックマーケットも撲滅されているといいのだが。


「どうかしたんですの?」

「……いや、思ったよりも街の治安が悪そうなんでな。ぽんぽこ姫はあまり俺達から離れるんじゃないぞ」

「ぽっ、ぽんぽこ姫とはなんですの!?」


 姫が顔を真っ赤にして叫ぶ。

 ついうっかり本人に向かってぽんぽこ言ってしまった……。


「可愛らしくていいと思うが」


 アリアが助け舟を出してくれたが、姫はイヤイヤと首を横に振り、「私の事はポコナとお呼びくださいまし!」と抗う。


 なんだっけ、ポンポンポコナだっけ? ぶっちゃけそっちの方が恥ずかしい気がするんだけどなぁ。


「でもよく考えてみろよ、今の姫は獣人の見た目なんだぞ? それで姫の名前を語ってたら不敬だとか無礼だとか言われて何されるかわからんぞ」

「ぐ、ぐぬぬ……確かに、それはそうかもですわね……」

「だから偽名は持っておいた方がいい。ぽんぽこでいいだろ。元々名前の一部だし」


 姫は眉間に皺を寄せて、腕を組み首を傾げながら「うーん……」としばらく悩んでいたが、「まぁ、可愛いのは事実ですし、それで妥協しますわ」との事。

 やっぱり可愛いと思ってんじゃんぽんぽこ。


 街に入って馬車を専門の場所へ預け、街を散策する事にした。


「……という訳だからジオタリスもこいつの事はぽんぽこと呼ぶように」

「こいつとは何ですの! ……でも今の私はどうみても獣人……そうですわよね、獣人にはそういう態度が当たり前なんですものね……そんな国にしてしまったのはわたくし達ですものね……」


 姫がやっと現実を受け入れてくれたようだ。

 俺達が姫に対して敬うような態度を取っていたらリリア帝国の人々は明らかにおかしいと思うだろう。

 ウォールの人なら尚更だ。ここでは獣人はただの奴隷だけではなく、たんなる物なのだから。


「ぽ、ぽんぽこ……何かあったら守ってやるからな」

「ぐぬぬ……! ジオのくせに、ジオのくせに……!」


 何やら面白い事になっているが、わざわざこの国の実情を知る為に奴隷市場なんかに付いて来たぽんぽこはなかなか肝が据わっている。


 ジオタリスもそうだが、この二人はもっとこの国を知り、変えたいと思ってくれているようだ。

 ……別に俺はどうなったって構わないのだが、獣人に偏見があるわけでもないし人と変わらないと思っている。

 だったら悲しむ人が少ない方がいいに決まってるからな。


『それはどうなったっていいとは言わないわよ』

 いいんだよ。人間ってのは自分に何かしらのいい訳をしなきゃ前に進めないもんなんだ。

『人間は、じゃなくてド陰キャなミナト君は、の間違いでしょ?』

 ……そうとも言う。


 ママドラの言う事があまりに的確過ぎてつい納得してしまった。

 俺は何をするにしても、~だから仕方ない。と何かにつけていい訳をしながら生きてきた。


 俺が俺として認識している日本での暮らし、そしてこの世界での暮らし。

 少なくともその二つは言い訳に塗れたものだ。


 日本に居た時は無駄に尖ったガキだったけれど、それだって誰も俺の事なんて分かってくれやしないからと思い込んでただけだ。

 今あの頃の俺が目の前に居たら間違いなく脳天かち割ってやる。


 自分の事を本当に大好きな連中っていうのが羨ましい。例えばジオタリスとかな。顎が割れてるのにどうしてあんなに自分の事を好きでいられるんだろう。


「ん? どうしたミナトちゃん。俺の顔に何かついてるかい? ……もしかしてやっと俺の魅力に気付いたとか……」

「それはない」


 ジオタリスは「照れなくてもいいぞ?」とケラケラ笑う。

 なんでこいつに奥さんが大量に居るんだよマジで理解出来ん。


 やはりこの世界でも陽キャが勝ち組なのか……。


『少なくとも君みたいな劣等感の塊みたいなのには理解出来ないでしょうね』

 うっせーわ!


 ママドラの言葉は完全に笑いを堪えながらのものだった。

 それが俺をさらに惨めにさせる。


『君ももっとあれこれ悩まずに人生楽しめばいいのに。ネコちゃんみたいにね♪』


 何も考えず人生楽しめって言われたってな、仲間だと思ってた奴等に殺されてんだぞこっちは。

 もう復讐も終わったけど、だからと言ってあの時の恨みや妬みが消える訳じゃない。

 俺は完全に汚れちまってんだよ。


 それとな、例えるにしてもネコはやめとけ。


『あらどうして?』


 あいつみたいに、って例えられた時点で俺がそうなりたいって思う訳ないだろ……。


『……それもそうね』


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