20話:謎の卵*4
それから僕らはまた、鳥の巣へ帰ってきた。今度は僕は鳥に掴まれるんじゃなくて、鳳凰に掴まって帰ってきた。鳳凰が僕を運べるのか確かめておきたかったし、ほら、うん。やっぱり掴まれるのはちょっと。
……しかし、どうしようか。鳥はこの森を守る結界とやらを直すために、僕を精霊にしたいらしい。
そういうことなら、僕は手伝った方がいい気がする。鳥曰く、僕が精霊にならなかったら僕も鳥も、フェイもラオクレスもクロアさんも良くないことに遭うらしいし。
けど……それはそれとして、人間中退は……。
うーん。
そして今も、鳥は僕に向かってぐいぐいと木の実を押し付けてきている。早く食え、と言わんばかりだ。
……これを食べると魔力が増えて、精霊になりやすくなって、人間から離れるらしい。うん、ええと、食べたくないな、やっぱり。
「ちょっとやめて」
なので鳥には一度、ぐいぐい来るのをやめてもらって……僕は、提案してみる。
「ええと、ちょっと相談してきてもいい?」
そういう訳で僕は、鳥に一時休戦を提案した。
精霊の卵は、温め続けないと死んでしまうというわけではないらしい。うん。フェイが持ってきてくれた本には、長い時間をかけて魔力を得て孵化することもあるって書いてあった。つまり、放っておいても大丈夫。
ということで僕は一度、家に戻ってきた。するとそこには、おろおろしたラオクレスとクロアさんと馬達が居たのだけれど……。
……馬達の反応が、ちょっと、違う。
「え、あの、何……?」
天馬達は翼をぱたぱたさせて嬉しそうに、僕の周りによってきた。それならまだわかるんだけれど、普段、僕にはそれほど寄り付かない一角獣達も、不思議そうに瞬きしながらずいずい寄ってくる。たちまち僕は馬に囲まれて身動きが取れなくなった。
「……これ、魔力が増えてしまったからなんだろうか?」
思えば、馬達が寄ってくるようになったのって、僕が鳥に木の実を食べさせられてからだ。この馬達ってもしかしたら、魔力が多い人間が好きなのかもしれない。それで僕に寄ってくるとか……?いや、でも、フェイにも懐いているようだし、魔力だけが問題じゃないんだとは思うけれど。
「トウゴ。大丈夫だったか」
そんな馬達を掻き分けるようにアリコーンが進んできて、そのアリコーンの上に乗っていたラオクレスが僕を心配そうに見る。
「……精霊の卵とやらを、孵させられそうになっていたと聞いたが」
「うん。一時保留にしてもらった。まだ人間のままだよ」
とりあえず、まだ僕は人間だ。それを伝えたら、ラオクレスはほっとしたような顔をする。
……けれど。
「でも、精霊になった方がいいかもしれない」
ちょっと……これは、考えないといけないと思う。
さて。僕には3つくらい選択肢がある、と思う。
まず1つ目は、僕が精霊になる、という選択肢だ。この選択肢を選べば、この森は多分、これからも平和でいられる、んだと思う。多分。いや、この後森に何があるのか知らないけれど。
……けれど当然だけれど、僕が精霊になってしまう、ということがどういうことなのかは分からない。
人間の姿のままだと鳥は言うけれど、まあ……鳥の言うことだから、そこは今一つ信じ切れないし。ただ、図鑑に人間型の精霊も載っていたから、多分、人間型で居ることは可能、なんじゃないかな。多分……。
2つ目の選択肢は、僕以外の誰かに精霊になってもらう、っていう選択肢だ。
ただ……うん、僕以外の人が誰か精霊になってしまうことに変わりはないので、僕が精霊になってしまうのとあまり変わらないかもしれない。
そもそも、鳥が気に入ってくれないと精霊にはなれないっていうことなら、これは難しい気がする。鳥はフェイやラオクレスやクロアさんのことが嫌いではなさそうだけれど、ラオクレスとクロアさんと一緒に居たのに僕を選んで誘拐したわけだし。
精霊になるにも適性みたいなものがあるのかもしれない。こう……フェイやラオクレスのいうところの『ふわふわしている』こととか。いや、僕がそんなにふわふわしているかについては異を唱えたいところではあるけれど。
3つ目の選択肢は……このまま、精霊にならない、っていうことだ。
鳥はどうやら僕を精霊にしてこの森の結界とやらを維持してほしいらしいんだけれど、それさえできればいいのなら、何も誰かが精霊にならなくてもいいのかもしれない。その代わり、結界の代わりになるものを用意するか、はたまた精霊なしで結界を維持する方法を考えるかしなければならないけれど。
……と、まあ、考えるまでもない。
正解は多分、1つ目だ。
僕は多分、鳥の望む通り、精霊になった方がいいんだと思う。木の実を食べて、卵を温めて孵して……その時どうなってしまうのかは、分からないけれど。でも、そうするとこの森は安全らしいし、他の誰かに迷惑をかけるわけでもない。この森でお世話になっているんだし、僕もこの森は好きだから、まあ、僕が役に立てるならそれはそれで嬉しい。
ただ……どうなるか分からないから怖い。人間中退はやっぱり、ちょっと抵抗がある。鳥に聞けたら不安も和らぐのかもしれないけれど、鳥は鳥だ。詳細な情報は得られない。根気強く『はい』と『いいえ』だけで答えられる質問を繰り返すにしても限度があるし。
うーん……。
その日の夜。
僕は鳳凰の脚に掴まって、夜空を飛んでいた。どうにも寝付けなかったから、やっぱり気になることを聞きに行こうと思って。
向かう先は鳥の巣だ。
鳥の巣の中では、まだ当分は巣立たないだろうコマツグミの雛が2羽と、精霊の卵が1つ。そして巨大な鳥が1羽。
巨大なコマツグミは僕が近くの枝に下りると、ぱちり、と片目を開けた。
「こんばんは」
挨拶すると、鳥はちょっと場所を開けて、僕も巣に入れるようにしてくれた。……ええと、お邪魔します。
「ここはあったかいね」
巣の中は、鳥の体温でぬくぬくと温かい。枯草や鳥の羽毛は心地いいベッドみたいだ。うん。居心地は悪くない。
「……ちょっと、聞きたいことがあるんだけれど」
鳥は目をぱちぱちさせて首を捻る。『なーに?』ってところかな。
「その、君は精霊になってよかったって思ってる?」
そう聞いてみたら、鳥はきょとんとしたように、目をぱちぱちさせた。それから少し考えるように首を捻って、そして、やがてこくんと頷いた。
「そっか」
また頷かれる。……そっか。
「自分が自分ではないものになってしまうのって、怖いんじゃないかなって、思ったんだけれど」
続けてそう聞いてみたら、鳥はまた首を傾げる。ついでに『よく分からない』みたいな顔をされる。……鳥には難しい話なんだろうか。
「変わってしまうのって、怖いことじゃないかな」
これにも鳥は首を傾げた。けれど今度は傾げた後、少し考えて、それから僕にそっと、寄り添ってきた。
ふわ、と鳥の羽毛が肌に触れる。柔らかくて、ふわふわして、くすぐったい。あとあったかい。
しばらくふわふわくすぐられていたのだけれど、その後、鳥は自分のお腹の下で温めていたらしい雛鳥を2羽、見せてくれた。
雛鳥はもう2羽とも乾いて、すっかりふわふわのヒヨコになっていた。コマツグミのヒヨコだ。猫ぐらいの大きさがあるわけだけれど、これはこれでかわいい。
キュンキュン、と小さく鳴いて、鳥は雛を僕の方へ押しやってきた。押しやられた雛はその時に起きてしまったらしくて、眠たげに目を瞬かせながら半分寝ぼけて、僕の方にやってくる。
……そのまま、2羽の雛鳥が僕の腕の中に収まった。
「……かわいいね」
これ、どうしろっていうんだろうか。いや、かわいいんだけれど。
腕に雛鳥を抱いたままちょっと困っていたら、鳥は嬉しそうに頷いて見せた。ええと……。
「今の頷きは、雛鳥がかわいいね、っていうことに対して?」
聞き直してみると、また何度も頷く。うん、いや、かわいいんだけれどさ。これは……これは、どうすればいいんだ?
困っていると、鳥は僕の腕の中の雛鳥に頬ずりするみたいに頭を寄せてふわふわやっている。愛情表現なのかな。自分の子だもんな。
……あ。
「そうか。この雛鳥、君の子なんだよね」
キョン、と肯定らしい返事。うん。分かった。分かってきた。この鳥が何を考えて、僕に雛鳥を抱かせてくれたのか。
「精霊になっても鳥っぽいことはできるってことかな。或いは、全く違うものになってしまう訳じゃない、って、そういうこと?」
何と言ったらいいのかは分からないけれど、多分、そういうことなんだろう。鳥が言いたいのは、そういうことなんだ。鳥は『やっと伝わった』みたいな顔をして、何度も頷いている。
「……そっか」
まあ……人間ではない何かになってしまうことは確からしいし、僕の中で確実に何かが変わってしまうのだろうけれど。
でも、全てが変わってしまう訳ではないと思うし……うん。
少し、踏ん切りがついたかもしれない。
でも、帰る前にもう1つだけ。これはものすごく大切なことだ。
「気になってたんだけれど、君の体って精霊になる前からこんなに大きかったの?」
すると鳥は、自慢げに羽を広げて頷いてくれた。
「態度も?」
今度はきょとんとして、『別に自分は態度が大きくはないけれど』みたいな顔をして首を傾げてくる。こいつ。
でも……うん。そっか。
この鳥、精霊だから巨大なわけじゃ、なかったのか……。
うん、安心した。そっか。精霊になったら巨大化っていうことは、無いらしい。よかった。
それからまた鳳凰に掴まって家へ帰る。……鳳凰に掴まって空を飛ぶのって、なんというか、もっと大変かと思っていたんだけれど、鳳凰に掴まると自分の体も軽くなるような、そんな妙な感覚があって、自分の腕で自分の体重を支えるのはそんなに難しくない。うん。ありがとう鳳凰。これからもよろしく。
「この森にはお世話になってるし」
改めて、家の前から森を見る。
泉があって、家があって、森があって……馬も居るし、鳥も居るし。竹も生やしたし。
うん。やっぱり僕、ここが好きみたいだ。
初めはここに来てしまったからここに居たけれど、今、多分どこへでも行ける僕は、それでもここに居たいと思う。
だから僕はこの森にこれからも居たいし……この森のために必要なんだったら、まあ、精霊にも、なるよ。うん。
「一応、話してから行こうと思って」
朝、クロアさんが作ってくれた朝食を食べながら、その朝食の席で僕は皆に報告した。
「僕、精霊の卵を孵してくる」
「えっ、いいのかよ!?」
「うん。いいんだ」
フェイは席を立ちかけたけれど、僕がはっきり答えたらそっと椅子に戻っていった。
「……まあ、お前がそう決めたなら俺は止めないが」
ラオクレスはそう言いつつ少し心配そうな顔をしている。でも、止めないでくれるならそれはありがたい。
「私は何も言えないけれど、うーん、少し癪ね。あなたをあの鳥さんにとられるみたいで。……あの鳥、やっぱり生意気よ」
うん。クロアさんの感想は中々いいと思う。なんかこう、心配とかじゃなくて『あの鳥やっぱり生意気』になるあたりがとっても素敵だ。
「いや……でもマジでいいのか?お前がやらなくても、なんかほら、他にも方法があるかもしれねえし……」
「それでも、僕ができることには変わりないよ」
この中だとフェイが一番心配性かもしれない。いや、ありがたいことだって、分かってるけれど。
「できるんだから、やってみたい。この森のことは好きだし、好きなもののために働けるのは嬉しいことだ」
僕がそう言うと、フェイは、そっか、と言ってちょっと困ったような、それでいて嬉しそうな顔をした。
「まあ、お前がやらなくてもいいっつっても、他に適任がすぐ見つかるわけでもなさそうだしな。鳥としては嬉しいと思うぜ、お前が精霊になるの」
「うん、まあ……鳥に教わりながらなんとかやってみる。それに……ほら、やらなくていいなら、余計にやってみたい。無駄なことは大好きだから」
精霊になった時、僕は自分がどうなってしまうのか分からないけれど……きっと、得られるものはある。
「無駄を食べて、心の餌にするんだ」
精霊の力も、この森も、僕の心の餌にする。
それから僕は鳥の巣へ戻って、そこで改めて、抱卵することにした。
「ええと、僕、精霊になることにした」
そう鳥に伝えると、鳥は全身の羽をふわふわ逆立てて驚きか興奮かを表現してから、僕に寄ってきてすりすりと擦りついてきた。
「でも、僕、この世界の人間じゃないんだけれど……いい?僕、どうしてこの世界に来たのか分からないし覚えてない。だから、突然帰らなきゃならなくなるかもしれないし、それが僕の意思で選べないかもしれない。でも、自分で選べる限りは、ちゃんと引継ぎとか代替わりとかしてから帰るようにするから」
次に、免責事項の確認。鳥は何やら神妙な顔で頷いていた。とりあえず、それはいいらしい。
「それから、僕、異世界人だから、この世界の常識とか、よく分かってないよ。大丈夫?」
これには鳥は胸を張って頷いてくれた。うん。確かにこの鳥も常識が分かっている風には見えない。なら大丈夫か。
「……当面は助けてもらうこと、多いと思うけれど。いい?」
そして最後の質問には、キョキョン、と鳴いて答えてくれた。いいよ、っていうことらしい。
「ええと……じゃあ、よろしくお願いします」
鳥との意識のすり合わせもできたし、これでいよいよ、抱卵作業に入れる。
真珠色の卵を撫でながら、そっとお腹と膝の間に抱く。
……それを見て鳥はすごく満足げな顔をすると、ちょっと飛んで行って、また戻ってきて……例の木の実を僕にずいずいやり始めた。うん、やっぱりそれはセットでついてくるのか。
「まあ、いいよ。食べるよ」
でも精霊になると決めた以上、抱卵に適した温度にされてしまうのはしょうがない。これがこの鳥なりの愛情表現らしいし、これを食べると魔力が増えるらしい。
うん。よく考えると魔力が増えるのっていいことじゃないかな。大きいものを出しても大丈夫な体になれるなら、家を建設し放題だ。この後、クロアさんの家の近所かどこかにお客さん用の家を建てておこうと思っていたから、丁度いいかもしれない。
あと、そうだな。大きな建物も描いて出せるようになるんだろうし、大きな生き物だって出せるようになるかもしれない。風景画を描いて、すごく綺麗な風景をそのまま作り出すこともできるかも。
それは純粋に楽しみだ。……うん。これから何を描こうかな。
卵を撫でつつ、僕は眠くなってきたので寝ることにした。今ならなんとなく、いい夢を見られそうな気がする。
……特に夢は見ずに夕方になった。期待外れ。
目が覚めたら鳥が待ち構えていて、また例の木の実を食べさせてきた。うん……これ、もうちょっと味が良くなったりはしないんだろうか?
「これ、カレーの隠し味にしたら丁度いいかもね」
僕が精霊の代替わりをする時には、味に気を遣ってこういうことやりたい。うん。この木の実だったらカレーに丁度いいんじゃないかな。スパイシーさと濃厚な甘さとえぐみというか苦み、そしてまったりした舌触りが、カレーに入れたら美味しそうな気配を伴っている。
先生の家で一緒にカレーを作った時、カレーの中に色々入れてみたことがあったけれど、まあ、バナナ以外は大体大丈夫だった。うん。ええと、バナナは駄目だった。香りが強いから、カレーと大喧嘩する。先生曰く、『なんてことだ!バナナはカレーと殴り合って勝てるだけのポテンシャルがあったのか!この野郎!素直に負けておけよ!』と。
……その点、この木の実は味こそアレだけれど、香りはほとんど無いし、カレーに丁度いいと思うよ。
それから夜になって、朝になった。
僕が目を覚ました時はもう、太陽がもう白っぽくなっていて、森の木々が緑色に輝いていた。この鳥の巣は少し高い位置にあるから、中々見晴らしがいい。
「……あ」
そして、森を見ている内に、抱いていた卵に変化があった。
ぴし、と表面に罅が走って、そこから光が漏れる。……え?この卵の中身、光るの?
「あの、なんだか光っているんだけれど」
爆発したりしないよね、と心配になりながら鳥に聞いてみたら、鳥も起きて、一緒に卵を見守るようになった。鳥が落ち着いているのを見る限り、この卵はこれで正常らしい。
……緊張しながら卵を見守っていると、罅はだんだん大きく広がっていく。
そして、罅がいよいよ大きくなると……ぱかり、と、卵の殻が一部分、外れた。
卵の中から出てきたのは、半透明に光る、真珠色の……小さな、鳥みたいな竜みたいな、もっと違う何かのような……そういう何かだった。
形ははっきりしないし、半透明だし光ってるし、よく分からない。
けれどそれは、僕の目の前でふわふわ浮かぶと……突然、僕の胸のあたりに突進してきて、そしてそのまま、消えてしまった。
僕の胸に溶けてしまったというか、吸い込まれてしまったというか、そういう風にして消えてしまったその謎の生き物はそれっきり、出てこない。
……けれど、多分、さっきのが『精霊の力』なんだろうな、ということは分かった。
謎の生き物が消えてしまってから、じんわりと、僕の中に温かいものが広がったような、そんな気がしたから。
……で、それで終わりだった。
「……え?これで終わり?」
もっと何かあるのかな、と思ったけれど、それで終わりだったらしい。鳥は満足げに頷いているけれど、僕は少し温かくなってそれだけ。
ええと……。
「僕、精霊になったの?」
聞いてみると、鳥は嬉しそうに頷きつつ、キョン、と鳴いた。
うん。僕、精霊になったらしい。全然そんな気がしないんだけれど。何が変わったのかまるで分からないけれど。ええと……自覚できていないだけで、ものすごく変わってしまったとか?それはそれで怖いな。
でも、これくらいで済んだならよかった。うん。体が大きくなりもしていないし、筆も持てるし鉛筆も持てるし。
鳥の目に映る自分を見る限り、姿形の変化はなさそうだ。うん。よかった。
……でも、本当にこれで大丈夫なんだろうか?
あまりにも変化がない自分に戸惑っていると、鳥は僕をガシリと掴んで飛び立った。そのまま飛んでいく先は……例の、大きな木の下の遺跡だ。
鳥は僕を連れて遺跡の中へ入っていくと、一番奥、真珠色の光の球が台座の上で浮いている部屋に入った。
そして、そこで僕の手首を優しく咥えて、光の球にむかってぐいぐい引っ張る。
「ええと、触っていいの?」
聞いてみると、僕の手からくちばしを放して、キョキョン、と鳴いた。どうやら僕はこれに触ることになるらしい。
少し緊張しながら、真珠色の光の球に向かい合った。
真珠色の光の球は、さっき、卵から孵った謎の生き物っぽい何かによく似た色だ。これも精霊の力だっていうことなのかな。
色々と考えつつ、光の球に触れる。これに触れることでこの森の結界とやらに何かいい影響があるのかな。
……すると、途端に光の球が強く輝き始めた。
光が広がっていく。
台座の模様にそって流れて、床へ。壁へ。天井へも。
そしてそのまま広がる光は、森へと届いていって……森を守る結界になった、んだろう。多分。
それと同時に、何か……頭の中に森ができた。
こう、ぽん、と、頭の中に……森が。
森。ええと、なんか居る。鳥?あ、これ、森の外の方……?鹿っぽいのも居る。ええと、これなんだろう。よく分からない。自分が森の一部になってしまった?森が自分?見えてる?いや、見えてる訳じゃないんだけれど、聞こえる……でもないし、ええと、これ、なんだろう?五感じゃない別の感覚が自分の中に一個増えてしまったみたいな……。
これは……ええと、多分、結構、人間じゃなくなってしまったんじゃないだろうか。
うん、多分、やっぱり、人間じゃなくなってしまった……。