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今日も絵に描いた餅が美味い  作者: もちもち物質
おまけ:ずっと絵に描いた餅が美味い
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そのうち、家族の肖像画を

「どうも!トウゴの親友の、フェイ・ブラードです!お邪魔します!」

 ……フェイを見た僕の両親が、目を丸くしている。そうだよね。そういう反応になるだろうなって、僕、思ってたよ。




 前、フェイが『お前の家、遊びに行ってもいいか?』と言ってくれたので、ようやく、僕はフェイを自分の家に連れて帰る、ということをやってみた。

 ……その、ちょっとだけ、勇気が要ることだったよ。何せ、両親は両親だし。

 でも、両親はやっぱり、丸くなった。僕が絵を描き続けちゃうし、魔王を連れてきちゃったこともあったし……。そんな僕らにびっくりし続けている両親は、そのびっくりのあまり、ちょっと丸くなっちゃった。なんか、そんなかんじ。

 ということで、フェイを連れて帰っても流石に大丈夫だろう、と思われたので……それくらいには、両親との信頼関係、というものが、なんとなく築けてきた僕であるので……この度、めでたく僕の親友であるフェイを、連れて帰ってみたというわけなんだよ。




 父親も母親も、ものすごくびっくりしている。そうだよね。フェイは見た目がとにかく、華やかだ。真っ赤な髪に緋色の瞳。それに、太陽みたいな笑顔!こんな人、中々いない。特に、両親の人生の中には今までいなかった種類の人だと思う。

「あ、これ、うちの果物と、あとお菓子です!よかったらどうぞ!」

 けれど、フェイは臆さない。とっても勇ましい。ソレイラの果物と妖精洋菓子店のお菓子の箱詰めを、ひょい、と僕の母親に手渡してしまった。母親は相変わらずびっくりしたまま、ぽかん、と、そのままそれらを受け取ってしまった。

 ああ、よかった。お土産を突き返す、とか、僕らを追い出す、とか、そういうことになる余裕も無いみたいだ!よかった!


 そうして、僕はさっさと、『どうぞどうぞ』と、フェイを家に上げてしまう。フェイは『お邪魔します!』とお行儀よく入場。いらっしゃいませ。そのままリビングまで、フェイを通してしまう。

「じゃあ早速、お茶にしよっか。フェイが持ってきてくれたの、何?」

「ん?妖精洋菓子店のタルトレット。木苺のと、月のだな」

 フェイがそう言うと、僕の母親が、妖精洋菓子店のケーキ箱をテーブルに載せて、怖々、と開いて見ていた。

 ……そうだね。中身は美味しそうな、瑞々しいタルトレットだよ。今、森では早生の木苺が実る時期だし、晴れた夜が続いたから、月の光の蜜も豊作。どっちもとっても美味しいのは、森である僕が保証するよ。

 ただ……『月の』っていうのが何なのかは、僕の両親には分からないから。『月……?』っていう顔でケーキ箱の中を覗き込んでいる。まあ、2人は最終的に『ああ、レモンクリームのタルトを月に見立てているのか……』って納得したらしいのだけれど。でもそれ、レモンタルトじゃないんだよ。本当に、お月様の光たっぷりのタルトなんだよ……。

「そっか。じゃあ紅茶がいいね。淹れるね。あ、お父さんとお母さんも座っててね」

「えへへ、お構いなく。なんか変なかんじだなあ……」

 ……ということで、僕はフェイと父と母を3人残して、台所へ。……その、こうなっちゃうと絶対にフェイは気まずいと思うのだけれど、でも、そこはフェイなので。事前の打ち合わせでも、『俺はそれで大丈夫だぜ!』と、元気に言ってくれたフェイなので……多分、大丈夫。すごいよね、フェイ。本当に、尊敬する。


「その……ブラードさん、は、トウゴとは、どういうお知り合いなんですか?」

「あ、どうぞ、俺のことはフェイとお呼びください!それから、畏まるのもナシで!あなた方は親友のご両親ですから!」

 早速、怖々とフェイに話しかけた母親が、フェイのペースに巻かれている。すごいなあ、フェイ……。

「で、えーと、俺とトウゴは親友です。その、以前、トウゴに助けてもらったことがあって。それ以来の仲です!」

 フェイはにこにこしてるし、裏のありそうな人じゃないから、父親も母親も、ものすごく困惑してる。『これで怪しそうな奴ならまだ分かるんだけれど……』っていうことだと思うよ。

「助けた、っていうのは……あの、学校で?」

「あ、いや。えーと、俺の家の近くの、馬……とかを、虐待する奴が居たんですけど、そいつを懲らしめるのを、トウゴに手伝ってもらって……それから、うちの領地経営を……」

「りょ、領地……!?」

「はい。えーと……その、俺、こんなナリではあるんですけど、貴族やってまして」

 フェイが『確か、トウゴの世界では貴族ってモンはほぼ居ないんだったよなあ……?』と、ちょっと緊張した顔をしている。そして、両親は只々、『貴族!?』ってやっている。そうだよね。驚くしかないよね。その気持ちは分かる。

「あの、お父さん、お母さん。フェイはそういう身分の人なんだけれど、その身分を隠してここに来てる人だから。そのあたり、あんまり詳しく聞いちゃ駄目だよ」

 このあたりをあんまり聞かれるとちょっと説明が大変になっちゃうので、僕は台所から顔を出して、それだけ両親に言っておくことにした。両親はとにかく天地がひっくり返っちゃった時みたいな顔だったけれど、フェイが『すみません、不自由なもんで……』と、心底しょんぼり申し訳なさそうな顔をするものだから、両親もフェイを責めることなんてできない。

「それで……その、トウゴとは、いつから……?」

「ああ、もう何年かの付き合いになりますね」

「そんなに前から……」

 ……まあ、僕、事故で寝ている間に、向こうの世界で3年分くらい、過ごしちゃってるから……その分をカウントすると、そうなっちゃいます。両親は、いつの間に、とか、気づかなかった、とか、ショックを受けているみたいだけれど……その、2人が監視できなかったところで僕はフェイと親友になってきちゃったので……。


「トウゴは俺にとって、唯一無二の親友なんです。トウゴはすごい奴で、トウゴが居たからできたこと、沢山あって……本当に、感謝してます。いや、本当にすごいんですよ、トウゴは。絵を描いて、それで色んな人を救って……時には、絵で政争を収めちまうし!国同士のやり取りだって、トウゴが間に居たからこそ上手くいったことも多い!」

 そうして、フェイは僕のことをやたらと褒め始めた。僕はお茶をティーポットからカップに注ぎながら、『言いすぎだぞ』と思う。思うだけ。思うだけだけど。

 一方、両親は、僕が褒められているっていうのが、なんだか変なかんじみたいだった。特に、僕が絵を描いて、それを喜んでいる人がいるっていうのは、変なかんじなんじゃないかな。

「うちの王立美術館の企画展にトウゴの名前があれば、来館者が一気に倍になるってんで、評判ですし……」

「そ、そんなに……?」

「はい!トウゴは本当に、すごい奴なんですよ!」

 両親は、いよいよ『自分達が知らない息子の話』を聞いて、ぽかんとしてしまっている。そうだよね。僕が絵を描き続けてたことだって知らなかった人達だ。まさか、僕の絵が王立美術館に飾られてしまったり、恐れ多くも『トウゴ・ウエソラとライラ・ラズワルドの対比展』なんかが開かれてしまったりしているだなんて、思いもしなかっただろう。

「トウゴと親友になれたことは俺の人生最大の幸福です!」

「言いすぎです。はい、お茶」

 そろそろ、フェイの褒め殺しが恥ずかしくなってきたので、お茶のカップをお盆からテーブルに降ろしつつ、フェイをちょっと小突いた。フェイはちょっと面白がるみたいに、僕ににやにや笑いかけてくる。全くもう。

「別に、言い過ぎってこた、ないだろ?俺は本心なんだけどよー」

「またそうやって揶揄うんだから!」

 フェイがにやにや、僕はつんつん。ちょっとライラになった気分でフェイを小突いていたら、フェイは嬉しそうに僕のことをちょっと小突き返してくれた。なので僕はフェイの隣の椅子に座って、またフェイを小突く。小突き合い、小突き合い。

 ……そんな僕らを見て、両親はなんだか、またしても僕が見知らぬ生き物になっちゃった、みたいな、そういう顔をした。

 驚きだろうなあ。僕だって、驚いてるよ。まさか、自分に『親友』なんて素敵な存在ができるとは思ってなかったんだから。ましてや、そんな『親友』を家に招いて、両親に引き合わせて……両親の目の前で小突き合いすることになるなんて、本当に、思ってもみなかったんだから!




 それから僕らは、タルトレットと紅茶でおやつにした。

 タルトレットはとっても美味しかった。木苺の方は、新鮮な木苺を丁寧に裏漉しして種を取ったものがたっぷり贅沢に使われたムースと、木苺の味がキュッと濃いゼリー、そして生の木苺たっぷりでできていて、とにかく甘酸っぱくて、いい香りで、とっても美味しい。

 そして、月の光の蜜たっぷりの方は、柑橘類にも似た香りと爽やかさ、そしてほんのり苦味も合わさった月の光の蜜をたっぷり使ったカスタードクリームのタルトレットだ。爽やかで、さっぱりしていて、でも卵のコクがあって、こっちもとっても美味しい。

 今日も妖精洋菓子店のお菓子は美味しいなあ、と思いながら、紅茶と一緒に2つを頂く。フェイも、『あー、木苺って夏だよなあ』とにこにこしているし、僕も、『ちょっと暑い初夏の日に、ひんやり冷やした生菓子を頂くのって、最高だよね』とにこにこ。

 それから、『そういや、森の木苺って実るの、なんか早くねえか?』とフェイが首を傾げていたので、『森には何種類も木苺があるから。早いやつは、もう2週間くらい前からもう実ってるよ』と僕。

 森の木苺は、ソレイラの子供達のおやつになるし、それ以外でも、ソレイラ中のご家庭でパイやケーキ、ジャムやソースになって楽しまれているし……とにかくとても大事なものだから、僕は木苺の実りはちゃんとたっぷりにしています。

「ところでトウゴ。このお茶、どこの茶葉だ?」

「あ、これ、ソレイラのやつだよ。家でも飲みたくて、一缶、持って帰ってきてしまいました」

「え、じゃあうちにあるのと一緒か。ってことはトウゴお前、お茶淹れるの上手いんだなあ……」

「そうかな。クロアさんに基本のき、の部分だけ教わったんだけれど」

 ……そうして僕達が話していると、両親はいよいよ、物珍し気に僕らを見ている。

 そんな両親をちょっと見て……僕はなんだか、ちょっぴり面白いような、誇らしいような、そんな気分です。なんだろうね、この気持ち。




 そうしてお茶の時間の間は、さっきのお返しってことで、僕がフェイを沢山自慢した。

『色んな研究開発が趣味で、彼1人で町のシステムが大きく変わるくらいのことをやってるんだよ』とか。『人とのやり取りが本当に得意で、僕は見ていて眩しいような気持ちになるよ』とか。『僕が失敗するのに付き合ってくれるし、成功したら一緒に大笑いしてくれる、頼れる親友なんだよ』とか。

 そうしてたっぷりとフェイ自慢をして満足したら、お茶も終わったところで、テーブルを片付けて……さて。

「じゃあ、僕ら、部屋に行くね」

 僕はフェイと一緒に、僕の部屋へ。……と、思ったのだけれど。

「あ、あの、部屋で何をするの……?」

 母親が、ちょっと気になるみたいでそう尋ねてきた。まあ、そうだよね。ゲームがあるご家庭ならゲームとかやるのかな。漫画とかあるご家庭なら、漫画の貸し借りとかするのかも。

 でも、僕の部屋って、そういうのは一切無い。友達を連れて行って何をするの、っていうのは、本当にその通りだと思うよ。

 ……ということで、僕達が用事があるのは、本当に、ゲームでも漫画でもないものだ。

「ええと、僕の絵、見せる約束だったから。あと、僕の小学校の頃の教科書とか」

「小学校の……教科書……?」

 あああ、両親の顔に『なんで……?』って書いてある!

「あ、はい!俺、今、勉強中で!漢字もようやく、小学3年生……?のところまでは覚えたんですけど!中々難しいですね!」

 そこへフェイも横から入ってきたので、両親は揃って『ああ、そういうことか……』と納得したらしい。そうだね。フェイは『外国の人』ってことになってるから。

「だから、トウゴが使ってた教科書、興味があって!見せてもらいてえなあ、って話はしてたんですよ!なんだっけ?あの、狐の!アレ読みてえ!」

「ああ、ごんぎつね、かな。ええと、小学生の国語の教科書、まだとってあったと思うから……」

 ……ということで、僕らは両親に『そういうことなので』と説明して、僕の部屋へ。

 ああ、両親が本当に、本当に、心の底から、困惑しているのがよく分かる。そして僕はそれが、案外楽しいみたいで……ちょっといじわるだろうか。




 それから僕らは、しばらくの間、昔の教科書とか、僕がこっそり描いていた絵とか、そういうものを眺めて楽しんだ。

 やっぱりフェイは、小学生の教科書を見て『へー!こういうかんじなんだなあ!』って、興味津々だったよ。特に、理科の教科書はフェイにとって楽しいことだらけみたいで……目の輝き方が、素晴らしかった。なんだろう、フェイがちょっと、妖精に見えた。

 ……それから、フェイとしては、教科書とか参考書とかだけじゃなくて、『僕の部屋』自体も、なんだか面白いらしかった。

 フェイ曰く、『トウゴがこういうところで寝て起きて育ったんだなあ、って思うと、なんか感慨深いよなあ』ということでした。感慨深がられても、僕としてはちょっと恥ずかしいよ!困るよ!




 ……と、まあ、そんな風にしていたら、いい時間になってきてしまったので、そろそろ解散、ということになった。

「すみません。今日は無理言って、来ちまって……」

「あ、いえ……」

 ということで、フェイはまた、僕の両親に挨拶。両親は、フェイが帰るのでちょっとほっとしているみたいだ。まあ、彼らには、刺激が強すぎたと思うし、仕方がないと思うよ。

「その……トウゴのご両親に、一度会ってみてえな、って、ずっと思ってたんです。トウゴから、ご両親とはあんまり仲が良くなかった、っていうの、聞いてたんで……」

 ……そんな両親に、フェイは、そう、ちょっと遠慮がちに話す。

 両親は、途端に、ちょっとショックを受けたような顔をした。まあ、そうだよね。多分、彼らは『仲が良くなかった』っていう風には思ってなかったと思う。仲が良かった、とも思っていなかったとは、思うけれど……でも、フェイに言われてちょっとショックを受けた、っていうことは、彼らなりに思うことも、何かあったのかな。どうだろう。

「でも、それが最近、話すようになった、とか、夢を応援してもらえるようになった、とか、そういうのも、聞きました。だから、余計にお会いしたかった」

 ……それから、フェイがそう続けたのを聞いて、両親はなんだか、戸惑うような、そんな様子で顔を見合わせている。

 そして、両親が、そんな顔のまま、僕のことを見た。なので僕は、笑顔を返す。……今まで、あんまり仲が良くなかった僕らだけれど、でも、まあ、今は、話すことも増えたし、そこまで居心地が悪い間柄でも、無くなったと思うから。

 だから、大丈夫だよ、っていう気持ちで、僕は両親に笑顔でいる。両親はそんな僕を見て、なんだか……ちょっと嬉しそうな、それでいてちょっと寂しそうな、そんな顔をしていた。


「……あの、俺がこういう事言うのも、なんか、変、っつうか、おこがましい、っつうか……ええと、なんかそんなかんじですけど……」

 そうしてフェイは、ちょっと『言うの変かなあ、でもやっぱ、こういうのは言っとかねえとなあ……』ともごもごしてから……。

「トウゴを育てて頂いて、ありがとうございます。俺が唯一無二の親友に出会えたのは、あなた達のおかげでもあるんで……」

 ……そんなお礼を言って、ぺこん、と深く、お辞儀をした。こういう時のフェイは、ぴしっ、としていて、本当にかっこいい。

 かっこいい、のだけれど……ええと。


「あのね、フェイ。そういう言い方をすると、まるで結婚前のご挨拶のようだよ」

 ほら、僕もそうだけれど……僕以上に、両親が戸惑っています!




「は!?えっ、えええっ!?そ、そうなのか!?そういう文化なのか!?」

「うん。僕は今、ちょっと恥ずかしい気分……」

「そ、そうなのか!?えっ、あっ、あの、いや、違うんです!違うんですよ!?すみません!俺、こっちの文化にまだイマイチ馴染みがないっていうか!不勉強で!その、妙な意味は無くてですね!?」

 フェイが大慌てで両親に弁明しているのを見ると、なんだかとっても面白い。ちょっと恥ずかしい気分だったけれど、それに面白い気分が勝ってしまった。

 僕が大笑いしてしまうと、フェイは『笑うなよぉ!』って僕を小突いてくる。なので僕もフェイをつっつき返して、またくすくす。そうしていたら、フェイもくすくす。

 ……そんな僕らを見て、両親は只々、『もう考えるのを止めました』みたいな顔をしていたので、『本当にフェイは親友であって、結婚する間柄ではありません』と説明しておいた。

 あの、やっぱり彼らには刺激が強すぎたかな。でも僕としても、僕の親友を両親に自慢したかったので……。




 そうして僕は、両親に『じゃあ、フェイを駅まで送ってくるね』と言って、フェイと一緒に先生の家へ。

「俺、余計なこと言ったかなあ……」

 その帰り道で、フェイがなんだかちょっと反省会の様相を呈してきた。フェイは案外、こういう風に『言わなきゃよかったかなあ』ってやってる人だっていうこと、僕は知ってるよ。

「ううん。余計じゃなかったよ。あと、両親がとにかく終始困惑していたので、僕としては満足だよ」

「そうかぁ?んじゃあ、ま、よかったってことにしとくかぁ……」

 フェイは『そういうことなら、うじうじすんのは止め!』と、元気に戻った。よかったよかった。


「……トウゴのご両親、ああいうかんじなんだな」

 それからもう少し歩いて、フェイはふと、そんなことを零した。

「うん。フェイのところとは、全然違うでしょ」

「だな。うん……なんか、『ああ、なるほどなあ』ってかんじだった」

 そっか。……フェイから見たら、うちの家族は、なんだか、変なかんじなんだろうなあ、と思う。

 フェイのところみたいに、笑顔が絶えない家庭です、っていう風ではないし。僕に対して、両親は未だに困惑することが多いわけだし。

「……でも、今はそんなに、嫌じゃないんだよな?」

「うん」

 けれど、こっちには胸を張って頷ける。

 僕は、あそこでも生きていけるようになった、と思う。それは、僕の変化があったからでもあるし、僕の変化に巻き込まれて、あの人達が変化したから、でもあると思うけれど。

「嫌じゃ、ないよ。……なんでだろうね。僕、向こうの世界に居場所を貰ったから、こっちの世界でも、やっていけるようになったみたいだ」

 ……僕、向こうで生きていた方が、幸せなんじゃないかな、とは、思う。別に、こっちの世界に帰ってこなくたって、いいんじゃないかな、って。特に、先生はもう、こっちには居ない訳だし。

 でも……こっちでも生きていけるな、っていう風にも、思うんだ。向こうの世界を知らなかった頃には、こんな風には思わなかったのにね。

「そういうモンかもな。俺も、学園での居心地悪かった時期、あったけどさあ。でも、家があったから、まあ、やってけたんだと思うし……」

「フェイも?」

「おー。……ってことは、もしかすると、クロアさんとか、ラオクレスとかもそうなのかもなあ……」

 ……クロアさんやラオクレスが、僕らみたいに悩む様子は、あんまり想像ができない。2人とも、僕から見たら、とても立派な大人なものだから。

 でも……2人もちょっと悩むことがあったら、嬉しい……ような気がする。


「ま、いいや。俺はとにかく、お前が家であんなかんじ、っての見られて、面白かったぜ!」

「それについてはちょっと恥ずかしい……やり返したいけれど、フェイはフェイの家でもあんまり変わらないからなあ……」

「ん?そうか?……そうかなー、俺自身では、ちょっと違う気もするんだけどよー……」

 えっ。フェイはそう思ってたのか。なんだか意外だ……。

 ……フェイがフェイの家でちょっと違うのって、どういうところなんだろう。思い起こしてみても、あんまりピンとこない。うーん……。

「……今度は、フェイの家に遊びに行ってもいい?」

「おう!んで、親父と兄貴と一緒にお茶しようぜ!」

 もう、フェイのご家族と一緒に食事したりおやつしたり、そういう経験は存分にあるのだけれど。

 でも……次は、そういうものだと思って、フェイを観察してみよう。

 もしかしたら、フェイのちょっと違う一面が見られるかもしれないわけだし……。

 うん。気になるので、やっぱり確かめたい。そして、あわよくば、描きたい。

 ああ、いっそ、またレッドガルド一家の肖像画を描かせてもらおうかな。今は、水彩だけじゃなくて、魔法画もできるから、そんなに時間はいただかなくても大丈夫だし……。

 ……或いは、僕が僕の家族を描いてみても、いいかもね。


 なんて、そんな珍しい気分になった日でした。

『今日も絵に描いた餅が美味い』のコミックス13巻が6月10日に発売されます。ネット予約ももうできるようです。よしなに。

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― 新着の感想 ―
ライラを連れて行ったらご両親はどうなってしまうのか気になるw
過去と今の親子関係を見比べて、本当に、泣きそうになりました。 良かった。本当に良かった。 多分、完全に分かり合える事は、きっとないのでしょう。 それでも、受け入れて貰えるのは、きっと『桐吾』君にとって…
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