笹の葉さらさらの森
まおーん、まおーん。さらさらさら。
……今日の魔王は、ぽてぽて歩きながらも、サラサラといい音をさせている。
それもそのはず、今日の魔王は身の丈を超える竹を一本抱えて、それを持って歩いているから。
そしてその竹には、サラサラいい音をさせる葉っぱだけじゃなくて……カラフルな紙で作られた短冊が飾られているんだよ。
きっかけはいつも通り。先生だよ。そうだよ先生ったら、ソレイラにすっかり、僕らの世界の風習を色々と持ちこんでしまって……別に悪いことじゃないし、楽しいからいいんだけどね。
まあ、そんな先生が、ソレイラの子供達に学校で聞かせる物語として、『織姫と彦星』のお話をしたらしいんだ。
話自体は、よく聞くやつ。なんだけれど……『思い合っていた織姫様と彦星様は、仕事を放り出して遊んでいたので怒られて年に一度しか会えなくなってしまいました。つまり何事もほどほどがよろしいということだな!』と、先生がまとめてしまったので、なんだかロマンチックなかんじは無くなってしまいました。
けれど、そのついでに『芸事の成就を願って、短冊に願い事を書いて竹に飾る風習が、まあ、僕やトーゴの故郷にはあってね』なんて話をしたら……『トーゴさんの故郷の風習ならば、トーゴさんのためにもやらねば!』と、ソレイラの人達が立ち上がってしまったんだよ。
ええと……その、いつもありがとうございます。ちょっと照れくさいし恥ずかしいけれど、でも、嬉しい。
……そうして、今日、ソレイラでは七夕祭りが開催されている。
とはいえ、『タナバタ』っていう言葉はこの世界にはあまりにも馴染みが無いので、『笹の葉祭』っていうことになっている。『ソレイラ花祭り』とか『枝豆収穫祭』とか、植物に由来するお祭りが多いソレイラだから、これはこれでいいのかもしれないね。
ただ……気になるのは、笹の葉。というか、竹。
「……光ってるなあ」
光っているんだよ。竹。光ってる。魔王が『まおーん』と鳴きながらゆさゆさサラサラ鳴らして歩いている、あの竹。それに加えて、ソレイラのあちこちに切った竹が飾られているんだけれど……それらも全部、光っています!
「ああ、トウゴさん!あの、竹という植物、不思議な植物ですね!光る植物なんて、妖精の植物みたいだなあ!」
「あっ、ふわふわ様、こんばんは!あの竹っていうの、おもしろいね!」
ソレイラの人達が、『そうか、竹っていうのは光る植物なんだなあ。トウゴさんとウヌキ先生の故郷には不思議な植物があるんだなあ』なんて話しながらにこにこしているのを見ると、ああ、違うんですよ、と訂正したくなるのだけれど……実際、この世界の竹は、光るんだよ!
「竹……いつにも増して、元気だね」
この竹は、例の竹だよ。ほら、以前、僕を侵略しようとしたあの竹。今では最初の2倍ぐらいになった竹の領土の中で、すくすく元気に育っている、あの竹。
元々、うちの竹は月の光を集めてこういう風に光っているし、それに妖精が集まってきては楽しんでいる様子だし、月の光は竹の節の中で月の蜜になるから、ありがたくそれを分けてもらっているし……まあ、光るのは別に、いいんだけれど……今日は気合が入っているのか、いつにも増して、明るい。
妖精達はいつにも増して明るい竹の光に集まってきては、その光を浴びて楽しそうにしている。うーん、楽しそうだ。
それに加えて、竹の節の中にはいつにも増して月の蜜が溜まっているみたいで、時々、妖精達が蜜を汲み出して瓶に詰めては運んでいく。多分、妖精カフェに運んでるんだと思うよ。
……ところでこの竹、飾るために当然、切って持ってきちゃったんだけれど、森の中に生えている竹の本数は変わっていません。僕が魔力をちょっと分けてやって、竹がその分増えて、その分、古い竹をいくらか切ってもらってきたんだ。
竹にも新陳代謝が必要だから、こういう風に時々切ってやった方がいいみたい。そういう意味でも、今日の笹の葉祭は丁度よかったかもしれない。
それに何より、お祭りがあると皆が楽しんでくれるし……。
「あっ、トウゴー!やっと来たのね!」
「とうごー!とうごー!こんばーにゃー!」
……ライラもレネも、このお祭りを楽しんでくれているようなので!
「ごめんね、お待たせしました」
「別にいいけど。何?今日はマスターのところに行ってたの?」
「うん。あの喫茶店でアルバイトでした」
ライラも行ったことのある、あの例の喫茶店。あそこが今の僕のアルバイト先なので……今日もちょっと働いてきたよ。お役に立てている自信はあまり無いのだけれど、マスター曰く、『トウゴ君が店に居ると、お客さんが増える!』とのことで、喜んでもらえているので……そのお言葉に甘えて、雇ってもらっているんだ。
『これはトウゴの故郷のお祭りなんですか?とっても綺麗です!』
『ええと、厳密に言うと少し違うんだけれど、でも、竹に短冊を飾る風習はあります。ソレイラの新しいお祭りとして楽しんでもらえたら嬉しいです』
レネがにこにことスケッチブックを見せてくれて、ライラが横から翻訳機を僕の頭に載せてくれたので、僕も鞄からスケッチブックを出して、筆談。最近ではレネも昼の国の言葉をちょっと喋るのだけれど、でも、やっぱり僕らの間のお喋りはまだまだ、スケッチブックのことが多いよ。
「ところで、ライラもレネも、綺麗だね。すごく似合ってる」
さて。挨拶も済んだら、僕は早速、この綺麗な生き物達を褒め称えなければならない。
……何せ、ライラもレネも、浴衣を着ているんだ。ソレイラに持ち込まれた浴衣や着物は、いつの間にやらお祭りの日の衣装として定着しつつあって……この世界風にアレンジされたものもあるんだけれど、それがまた、2人によく似合ってる。
ライラが着ているものは、スタンダードな浴衣だ。先生が監修したのかな。鮮やかな藍色の地に、ぱきっ、と白く七宝柄が染め抜かれた浴衣だ。多分、彼女が自分で染めたんだろうなあ。
その上にそこに赤銅色の帯がぴしりと結んであって、かっこいい。……あっ!?よく見たらこの帯、魔王柄だ!小さく魔王の姿が何匹分も、ライン状に染めてある!なんてこった!
レネは、ふわふわした印象の、ちょっとアレンジされた浴衣。薄くて柔らかい布でできた薄藍の浴衣は、フレアスカートみたいに裾がふわふわしてる。その上に紺の兵児帯がふわふわと大きなリボン結びになって、銀細工のチェーンと銀細工が飾られている。夜の国風だね。
そして上に一枚、薄衣の羽織りを羽織っているのだけれど……それもふんわりして見える。うーん、織姫様ってこういうかんじかもしれない。
「きれーい?たきゅ、とうご」
「ま、綺麗でしょ、当然!レネのこれ、自信作なんだから!」
どうやら、レネの方もライラが染めた布で作ったらしい。成程なあ、確かに、これも藍染だ。
「とうご、きれーい!にゃ!」
「そうね。トウゴ、あんたも似合ってるわよ。これもいい出来だわ!」
「うん、ありがとう。流石、すごくいい出来だ」
……そして僕も、浴衣。白地に藍色で笹の葉の模様が入ってるやつ。ライラが染めてくれた布を、さらさら洋裁店で仕立ててもらったんだ。そこに金茶の縞の角帯を結んで、浴衣姿。
ところで僕、向こうの世界よりこっちの世界での方が、浴衣や着物を着る機会が多い。不思議だ……。
「さて、と。向こうにクロアさんとラオクレスが屋台出してるのよ。折角だから冷やかしに行きましょ」
「え?2人で?」
「ええ。2人で!珍しいでしょ?」
早速、ライラに連れられて、僕とレネは一緒にお祭りの中へ。
ソレイラの通りには、竹が飾られていて、さらさら、さらさら、と葉擦れの音が聞こえる。ひらひらしている短冊も綺麗で、そこに竹の光がふんわり明るくて……ああ、描きたくなる風景だ!
「こっちよ。……ね?」
「わあ」
けれど、そんな通りよりも描きたくなる風景があった。それは……屋台で『きらきら星飴』を売っているクロアさんとラオクレス!
「描きたい!」
「ああ、そう言うと思ってたわ。飴買ってきて食べながら描きましょ」
『あの飴はきっとおいしい奴です!食べましょう!』
ライラとレネの提案もあって、僕らは早速、屋台の前へ。
「いらっしゃいませ。ふふ、皆来てくれたのね」
「描きたい!」
クロアさんは、浴衣にエプロン、という恰好で屋台に立っている。その姿がなんとも涼やかで、綺麗で、描きたい!
「ラオクレスとクロアさんを見に来たのよ。あ、きらきら星飴、1袋頂戴!」
「……クロアはともかく、俺を見に来る必要は無いだろうに」
そしてラオクレスも浴衣だ!たすき掛けにして袖を捲っているのだけれど、それが何ともお祭りっぽくて良いと思うよ。こちらも描きたい。
「で、1袋だったな。3人で分けるのか」
「ええ。これだけでおなかいっぱいになっちゃうのは勿体ないから!」
「そうだな。それがいい」
ラオクレスは、大瓶から銀色のシャベルみたいな道具で、ざっくりと『きらきら星飴』を掬って、ハトロン紙の袋に入れてくれる。
……この『きらきら星飴』は、飴は飴でもカチカチに硬くないんだ。月の蜜でできていて、口に入れてちょっと噛むと、しゃりっ、ほろっ、と脆く崩れて溶けてしまって、後味はすっきり。そんなお菓子。
月の蜜だから、甘さも控え目。すっきりした香りとさっぱりした後味が美味しくて、中々の評判のようだ。
「はい、銅貨1枚ね」
「うん。ありがとう、クロアさん」
ライラがラオクレスからきらきら星飴の袋を受け取っている横で、僕が袂から財布を出して、銅貨をクロアさんに渡した。すると、クロアさんはまじまじと僕らを見て……くす、と微笑んだ。
「それにしても、3人とも可愛らしいこと。ね」
……あの、ライラとレネが可愛いっていうのは分かるけれど、僕は可愛くないと思うよ、クロアさん。
「かーわいい?」
「ええ。とっても!」
「ふふ。たきゅ、くろあ!」
でも、レネが僕とライラの腕にそれぞれ左右の腕を絡めて、嬉しそうにしているので……ええと、レネが2人分可愛らしいから、3人とも可愛らしい、ってことでいいか、という気分になってきた……。
さて。有言実行の僕らは、きらきら星飴を口に入れながら、クロアさんとラオクレスの様子をスケッチしていく。
……クロアさんは涼やかで華やかで綺麗だし、ラオクレスは黙々と働く様子がなんとも格好いい。それにしても、ラオクレスがクロアさんと一緒に働いているのって、珍しいなあ。
「ところでクロアさん、今、偵察中らしいわよ。ソレイラに厄介ごとを持ち込みかねない奴が、今日、偵察に来そうなんですって。だから、そいつが来た瞬間に取り押さえるためにラオクレスが居るんですって」
あ、その報告は僕も聞いた。けれど、今日捕縛予定というのは聞いてないよ!
まあ、クロアさんもラオクレスもとても強いので、心配は無いか。一応、ソレイラの中の様子にはしっかり気を配っておいて、不審な人が居たらしっかり摘まみ出せるようにしておこう……。
そうして、僕とライラが楽しくスケッチして、レネがそれを覗き込んではにこにこしていたところ。
「おっ!トウゴ達もここだったか!」
明るい声が聞こえて、僕は思わず、ぱっ、と顔を上げる。
「あっ、フェイ!……ルギュロスさんとラージュ姫も一緒だったんだね」
「はい。折角なので、休暇を頂いてきたんです。ね」
「私は不本意ながら休暇を取らされ、無理矢理連れてこられたのだ。やれやれ、全く……」
そこには、フェイとルギュロスさんとラージュ姫の3人組。珍しいなあ。ラージュ姫もルギュロスさんも休暇を取れたっていうのは、とても珍しい!
「ところでラージュ姫、浴衣、お似合いですね」
「ふふ、ありがとうございます。ウヌキ先生から贈っていただきまして……」
ラージュ姫も浴衣だ。濃い紫の地に、白百合の模様。それに金刺繍の少しエキゾチックな帯が、ラージュ姫によく似合う。
「でもルギュロスさんは浴衣じゃないんだね」
「ソレイラの祭りの衣装らしいが、私はそんな恰好をする趣味は無いぞ」
「えー、着てみると楽しいもんだぜ?夏祭りには一緒に浴衣着ような、ルギュロス!」
そしてルギュロスさんは、品の良いシャツにベストっていう恰好。いつも通り。フェイは緋色の浴衣だ。よく似合う。
……フェイは結構、浴衣や半纏や何やらを着ていることが多いから、こういう恰好もちょっと見慣れてきた。でも描きたい。描こう。だってね、僕の親友は何を着ていても中々の男前なんだよ。
「ところでトウゴぉ。お前、もう短冊書いたか?」
僕らがまたスケッチしたところで、フェイがそう、聞いてきた。
「ううん、まだ。これからライラとレネと一緒に書きに行こうかと思って。フェイ達はもう書いたの?」
「おう!『次は電卓!』って書いてきた!」
「ああ、次の発明品かぁ。うん、いいと思う」
フェイは最近、専ら、僕の世界の物品をこっちで再現できないか、試行錯誤してるからなあ。是非頑張ってほしい。
「ルギュロスなんかよー、ガラにもなく、『ソレイラの平和』とか書いてたぜ?」
「くだらん。真に願うことなど、自力で叶えられるものでな」
そっか。ルギュロスさんらしくていいと思う。……それでいて、『ソレイラの平和』を願ってくれるのもきっと嘘じゃないから、この人、やっぱりいい人だなあ、と思うんだよ。
「私は楽器の上達を願ってきました。本来、芸事の成就を祈るものだとウヌキ先生からお聞きしましたので……」
成程。ラージュ姫、楽器を演奏するんだなあ。……ちょっと聞いてみたいな。いつか、お願いしてみようかな。
そんなこんなでフェイ達とも別れて通りを進んでいくと、いくつかの屋台の店主さんから声を掛けられて、枝豆パンやお菓子、肉の串焼きなんかを頂いてしまった。いつもありがとうございます。
お金はちゃんと払ったり、払わせてもらえなくて、『今日のお供えってことで、代わりに精霊様にお届けしておいてくださいよ!で、半分はお駄賃ってことで!』って言われて持たされてしまったり。
……本当にいつもありがとうございます。美味しく頂きます!
そうして、色々と食べ物を手にしながら広場に出ると、そこには魔王が居て、魔王がさらさら振っている竹があって……周りには子供達が居る。
「魔王ったら、元気いっぱいだわ!お星さまのお祭りだからかしら?」
「ああ、魔王って、月とか星とか、好きだもんな」
「まおーんちゃん、おまつりも大好きだもんね」
見ると、カーネリアちゃんとリアンとアンジェが、それぞれ魔王の竹に短冊をくっつけているところだった。
「カーネリアちゃん!リアン!アンジェー!ちょっとお菓子、食べない!?トウゴが一緒に居ると、貰いすぎるのよ!」
「え?うわ、ライラ姉ちゃん、すげえ量だなそれ……」
……そんな子供達のところへライラが突撃していって、ライラが持っていたお菓子の袋とか、菓子パンの袋とか、そういうものが子供達の手に渡されていく。よかったよかった。流石にこの量は僕ら3人じゃ食べきれないところだったから助かった!
「ん?あっ、リアン、ごめんねそれは駄目だったわ。トウゴ!これ、お供え!」
「あっ……そうだった。これは僕が頂くね」
けれど、『お供え』として頂いたものは、流石に僕が食べます。……じゃないと子供達が魔力酔いしちゃうよ!
「あー、それ、俺達が食ったら酔うんだったな。やめとくやめとく」
「ふふふ。精霊様へのお供えは、私達にはまだ早いものね!」
「アンジェはちょっぴりならだいじょうぶだよ!でも、いっぱい食べちゃったら、ねむねむ、ってしてきて、ねちゃうの……」
「えっ、アンジェ、食べたことあるの……?」
……アンジェが僕へのお供えをつまみ食いしたことがあるという話は初耳なんだけれど、まあ、アンジェも妖精の女王様をやっているわけなので、お供えへの耐性はリアンやカーネリアちゃんよりあるんだろうなあ。
うん、別に、僕へのお供えをつまみ食いしてたからって怒らないよ。大丈夫だよ。
「ところで皆は何書いたの?」
「俺は『計算速くなりますように』って書いた。今、練習中だから」
「私は、『綺麗な文字が書けますように』って書いたわ!綺麗な文字はレディーのたしなみだもの!」
さて。子供達は短冊に、なんとも実直なお願い事を書いたらしい。本来の七夕はこういうお願い事をするところなんだったっけ。うん。いいと思う。
「アンジェはね、『みんなでおひるね、おいしいおやつ、たのしいかいぎ』ってかいたよ!」
……アンジェはアンジェで、妖精の女王様に相応しいお願い事を書いたようだ。ああ、アンジェの周りで妖精達が『すばらしい!』と拍手している!
「で、ライラねーちゃん達は何書いたんだ?」
「私とレネはまだ書いてないのよ。トウゴ、あんたは?」
「僕もまだだよ」
ね。折角なんだから、何か短冊に書きたいな、とは思っているのだけれど、何を書こうかなあ。
……と、思っていたら。
「あら!だったら丁度いいわ!この通りをまっすぐ行くとウヌキ先生がいらっしゃるから、そっちで短冊を書くといいんだわ!私、そっちには『杏の模様のティーセット』って書いたわ!」
「あ、俺は『便箋と封筒』って書いた」
「アンジェはね、『おリボン』って書いたよ!」
……なんだか、不思議なことを聞いた。
ええと、先生が……先生が、なんだって?
ということで、子供達に教えられたとおりに進むと……不思議な光景があった。
「先生……それ、どうしたの?」
「おお、トーゴにライラにレネではないか!いや、ちょっとね……見ての通りさ」
「見ても分かんないわよ。なんでウヌキ先生、短冊くっついてんのよ」
「たんざーく……?わにゃ……?わにゃ……?」
……そこでは、先生が髪やら帯やらに、短冊を飾られていた。な、なんで!?
「いや、何故か、妖精達がこぞって僕に短冊をくっつけていくものでね……妖精の言葉なので、アンジェに翻訳を頼んだんだが……」
あ、本当だ。先生にくっつけられている短冊、全部妖精の文字で書いてある。僕も、妖精の文字と魔物の文字はなんとなくそれぞれ分かるようになってきたよ。
「……これには、『ロールケーキ』と書いてあるらしい」
「注文じゃないのよ、それ」
「だよな?妖精さん達、何かを勘違いしているよな……?」
……先生、何かを勘違いした妖精達に、何かを勘違いした短冊をくっつけられてしまっているらしい。あああ……。
「ついでにこっちには、『木綿のレース』と書いてあるらしいし、こっちは『タタミの草』と書いてあるらしい。多分妖精さん達の欲しいものだ!」
「ああ……成程!」
「だから僕はサンタさんになることに決めたぜ、トーゴ。メリークリスマス」
「それは半年早いよ、先生」
まあ、先生はこの状況を楽しんでいるらしいので、別にいいか。
「うぬきせんせ、じー!」
……と思っていたら、レネまでもが先生に短冊をくっつけ始めた!ああ!なんてこった!
「ん?レネも……レネも僕に短冊をくっつけるのかい!?おいおい、まあいいか。どうぞやってくれ。どんどん僕のファッションが賑やかになっていくなあ」
先生も最早、一周回って楽しむことにしちゃったらしく、レネが帯に短冊をくっつけるのをにこにこ見守っている。
……あれっ。
「あの、レネ……『トウゴのお話を聞きたいです』っていうのは、これは一体……」
「あ、レネはね、最近、ウヌキ先生のところであんたの話聞いてることあるのよ」
「ええっ!?」
ああ、レネがちょっともじもじしながら『トウゴの世界のお話はとても楽しいです。トウゴのお話も、とってもとっても楽しいです』と書いて見せてくれた!なんてこった!
「ちなみに私も聞いてるし、フェイ様も時々聞いてるわよ」
あああ、なんてこった!もう!僕のいないところで僕の話をされているっていうのは……遺憾の意!恥ずかしいの、は!
「なら僕も先生に短冊くっつけてやる」
「あら。じゃあ私もくっつけてやろ」
「うむ。いいとも。やってくれたまえ」
先生は丁度、生成りに竹模様を染めた浴衣に竹色の帯を締めているから、丁度いいね。これも竹っていうことで。
「じゃ、そうねえ……ウヌキ先生の世界のお料理のレシピ教えてください、っと……」
ライラはサラサラそう書いて、先生の帯に早速、短冊を吊るし始めた。
……そうだね。これは星へのお願いじゃなくて先生へのお願いだ。だから僕は、『満足のいくものをかけますように』って書いた。僕も先生も、描いて、書けますように。
それが僕らの、一番の願いなんだから!
「おや、見たまえ、諸君。星が綺麗だぜ」
ふと、先生に誘われて空を見上げたら、そこには綺麗な星空があった。レネの瞳みたいな、濃紺に光が沢山散らばった、そういう空。
「天の川は、この世界にもあるんだね」
「そうだな。実に美しい」
夜空を見上げて、レネの『きれーい!』とライラの『本当に綺麗よねえ』という声を聞いて。
そよ、と吹き抜けていく風に吹かれて、その風に揺れる竹の葉のさらさらした音を聞いて、魔王の『まおーん』というのんびりした声も聞いて……。
……折角だから、星にも、お願いしておくことにした。
これからも沢山、沢山、満足のいくものをかけますように!