夏でも冬でも甘酒は美味い
蝉の声がみんみんと賑やかな夏の日。今日も僕は、先生の家から向こうの世界へ向かう。
「ああ、暑い……」
駅から先生の家までの道程だけでも溶けてしまいそうなくらいに暑いんだ。今日の最高気温は38度。うう、とても暑い……。
でも、向こうの世界はずっと涼しいんだよ。向こうは夏場も気温が30度ちょっとまでしか上がらない。こっちと比べると、ずっとずっと涼しいから、先生は嬉しいんじゃないかな。先生はとても暑がりだから……。
先生の家に入って、僕は、あれ、と思った。
エアコンがついている時みたいに、部屋の中が涼しい。
僕、うっかりエアコンを点けっぱなしにしてしまっただろうか!ちょっと慌てながら家の中を確認してみるけれど……エアコンが稼働している気配は無い。
「あれ?ええと……」
じゃあ残された部屋は……と、いつも僕が使っている、『門』がある部屋を覗くと……。
「……冷えてる!」
何故か。何故か……部屋が冷えていた!エアコンも付いていないのに!
原因はすぐに分かる。『門』だ。ここから、冷気が噴き出している!
僕は慌てて門を開けて、向こうの世界へ飛び込んだ。何か、嫌な予感がする。ああ、皆、無事で居てくれるといいんだけれど!
「あっ!見て!トウゴー!雪よー!雪だわー!」
「うわあ」
……門を抜けたら、雪国でした。いや、積もってはいないんだけれど。雪が、雪が……舞ってる!
「こ、これ、どうしたの!?」
「分からないわ!でも、最近暑い日が続いていたでしょう?妖精さん達、大喜びなの!」
雪がふわふわ舞う中を、妖精達が踊っている。アンジェとカーネリアちゃんも踊ってる。……妖精達も、暑いのが苦手らしい。
「ええと、妖精達の魔法?」
喜んでいるし、妖精達が何かやったのかなあ、と思って聞いてみると、妖精達は皆揃って首を横に振った。違うらしい。そっか。
じゃあ、誰が……と思った僕の前で、妖精達がきゃらきゃらさらさら何か喋りながら、皆で同じ方を指差す。
……そっちには、先生の家がある。そして。
「……吹雪いてる!」
先生の家は、吹雪に包まれていた!ああ、ああ!なんてこった!いや、なんてことをしているんだ、先生!
絶対に先生の仕業だろうなあ!と思いながら先生の家へ向かう。
……のだけれど、玄関のドアが凍り付いていて動きませんでした。まさかここまでとは!
「ああもう!」
仕方がないので、中庭から侵入することにした。……のだけれど、ガラス戸も開かない!けれど、ガラス戸の向こう、前、鳥がばりっとやってしまった障子から中が見える。……なので、頑張って覗いてみると……。
「せ、先生!た、大変だ!ああ、ああ……!」
先生が、畳の上で倒れている!ああ、大変だ!
後で描いて直すから許してもらうことにして、僕は鳥を呼んだ。
「鳥ー!ここのガラス戸と障子、破って!」
鳥は、すわ出番か、とばかりに元気にやってきて、そして……ばりっ、と、勢いよくガラス戸も障子も蹴散らしてくれた。
その途端、ガラス戸と障子が吹き飛んだところから、ぶわっ、と冷気が吹き荒れる。さ、寒い!
「先生!」
けれど、寒がってなんかいられない!先生が、先生が大変なんだから!
僕はすぐ、和室に駆け込んで、先生を……。
「……先生?」
先生を抱え起こしてみたら……先生は、動かなかった。呼吸もしていない。心臓も……。
「先生……先生!先生!」
僕の心臓も止まってしまうんじゃないかと思った。そのくらい、僕は気が動転してた。
その時。
ふく、と、鳥が僕と先生を抱卵するようにお腹の下に入れてしまう。ああ、ふわふわで、あったかい……。
少し温められて、僕は少し落ち着いた。先生が、先生がもし死んでしまったのだとしたら、描いて生き返らせてやるぞ、という気持ちになる。早速、スケッチブックを取り出して……。
「ん……?」
……というところで、先生が、身じろぎした。
「うん……トーゴ?うん……ふふ、トーゴだな」
「先生……?」
先生はにこにこしながら僕に笑いかけて、それから……。
「……ぐう」
「寝ないで!」
また寝ちゃった!ああ!もう!先生は!これだから!あああああ!
それから僕は、先生を起こした。先生は寝ていたかったらしいのだけれど、それでも……状況が分かってきたら、一気に目が覚めたらしい。
「うん!?これは一体……う、いててて……」
「大丈夫?先生……」
さっきまで先生の心臓も呼吸も、止まっていたんだ。よく分からないけれど、でも、とても怖かった。怖かったから、まだ油断できない。僕は先生の体を鳥の下で包み込むようにして抱きかかえて、そのまま先生の様子を窺う。
先生は頭が痛いみたいだった。ちょっと眩暈もするのかも。そういう顔をしてる。……えーと。
「すまない、トーゴ……。この寒さは、多分、僕の仕業だ」
「うん、そうだと思うけれど……」
「暑さにやられてね。『一気に室内の温度が氷点下に!ここら一帯超涼しい!』と書いたのは覚えているんだ。だが、そこから先のことをよく覚えていなくて……」
先生の説明は端的で、とっても分かりやすい。成程ね。そういうことか……。
「ええと、トーゴ。僕は一体、どうしていたんだ?」
「先生。それは多分、魔力切れだよ先生」
「何!?これがかの有名な!?」
うん。僕がしょっちゅうなるやつだよ、先生。
……ああ!魔力切れって、本当に、本当に……心臓に悪いんだなあ!
今まで僕が魔力切れになる度に、フェイや他の皆は心臓に悪い思いをしていたんだろうなあ。うう、本当にごめんなさい……。
僕が反省している横で、先生もまた、反省中だ。
「すまない、トーゴ。本当にすまない」
「無事だったからよかったけれど……もうこんなこと、しないでね」
「ああ。本当に申し訳ない」
とりあえず、僕ら2人鳥の下。反省会はここで打ち止めだ。
「……ところでこれって、どうやって止めるの?」
まずはこれをどうにかしないと。夏の森が冬になっちゃう!
「……書き換える、のが妥当だろうなあ。だが……えーと……」
けれど、先生はそう言いながら、メモ帳にペンを走らせて……。
「さっきからやっているのだが、発動しないのだ……」
……そして、文字が『ふにゅ』と困ったみたいにねじれて、『くにゅ』と元に戻る。……発動、しないね。
「先生。それは多分、魔力が足りないんだよ」
「そういうことか!?成程なあ!」
「無理しちゃだめだよ、先生。魔力が無きゃ、魔法にはならないし、無理したら……その、死んでしまうかもしれない」
多分、先生は魔力切れなんだ。さっき倒れてたのだって、魔力切れなんだろうから……魔力切れから起きてすぐ魔法を使おうなんて、そんなのよくないよ。
「だが、しかし、どうしたらいいだろうか……」
「……先生に僕の魔力を分けてあげるのが現実的だろうか」
その、先生の魔法は、『書いた文章を現実にする』やつだ。一方の僕は、『描いた絵を現実にするやつ』。……気温とか、そういうものは描くのが難しいんだ。
僕が変に何かやって、魔法を使った先生自身に何か影響があったらいけないから、今はとにかく、先生がもう一回魔法を使えるようにするのが先決だと思うのだけれど……。
「君の魔力を?うむ、是非やってくれたまえ!すまんが頼んだぞ、トーゴ!」
「……では、遠慮なく」
なので、その、レネにやった時みたいにやってみた。……やっぱり恥ずかしいなあ、これ。先生相手ならまだマシかと思ったんだけれど、やっぱり恥ずかしいよ。
「……そ、そうか。こうやるのか」
「うん、こうやるんだよ、先生」
「う、うむ……びっくりした」
先生は『びっくりした……』と呟きながら、なんだかもじもじしている。先生ももじもじするんだね。うん。知ってるよ。先生は『努めて気にしていないふりをしていますがとてもそわそわもぞもぞしています!』っていうタイプの人だから……。とても人間らしくていいと思う。
「それで、先生。魔力は足りそう?」
「うーむ、それがだな、トーゴ。なんだか上手くいかないようだぞ……」
先生はメモ帳にペンで文章をつらつら書き連ねていくのだけれど、文字は、くにゅ、ぽよん、ふに、と飛んだり跳ねたりするばかりで、ちっとも現実になってくれない。文字の反抗期だ!
「……僕の魔力だと、先生は上手く使えないのかな」
「そうかもしれないなあ。或いは、僕は他の誰の魔力でさえも上手く使えないのかもしれない……」
先生はちょっと特殊だから、魔力を分けてあげてもダメなのかも。そっか。うーん、なんだかちょっと寂しいな。
「……くそ、寒いな。暑いのは嫌だが、こうまで寒いと、寒いのもちょっと……」
どうしようかなあ、と思っていたら、先生がぶるり、と震えた。
それもそのはず。先生は『お日様ぽかぽか』って書かれた例のお日様ぽかぽか地区Tシャツにジーパン、というラフな格好なんだ。これじゃあ寒いはずだよ。
「すまない、トーゴ。君は部屋の外に出ていなさい。こうまで冷えてしまうと風邪をひいてしまう」
「先生は?」
「もうちょっとここで粘ってみる。できるだけすぐに解除したいしな……。いや、もうちょっとだけ回復すれば、なんとかいけそうな気がしないでもないのだ。こう、鳥さんの下に居ればまあ大丈夫そうだし……」
先生は僕をそっと、外へ出そうとする。外はまあ、雪がちらちら舞っているだけで、気温自体は『ちょっと涼しくて過ごしやすいね』というくらいに収まっているから……。
……でもね、先生。僕はやっぱり、先生に育てられた、『無駄を食べている生き物』なんだよ。
「先生。こういう時こそ楽しむべきだよ。折角だから」
だから僕は、こういう変な状況もたくさん食べて、元気に生きていく所存だよ。僕らはそういう生き物だから!
……ということで。
「はい、先生。押し入れから出すのは面倒だと思ったから、描いて出しちゃった」
「おお、素晴らしい!」
先生と僕は、炬燵に入っています。……ほら、冬場に炬燵でアイス、っていうのが先生は好きみたいだけれど、だったら、アイスな気温になっちゃった夏に炬燵、っていうのも悪くないと思ったんだよ。
「ついでに甘酒も出すね。あったかいの」
「実にいい!ああ、君は本当に気が利くなあ、トーゴ!」
ついでに甘酒がほこほこ湯気を立てる湯飲みを出してみれば、如何にも、冬!
「半纏も出しちゃう」
「おお!夏に半纏を着ることになるとはなあ!いいぞいいぞ!」
僕ら、すっかり冬支度。そんな恰好で、炬燵で甘酒だ。うーん、今が何月なのか、忘れちゃいそうだよ。
「子供達が雪と戯れている……風流だなあ。季節外れだが」
「季節外れだねえ、先生……」
窓の外、庭の向こうでは、子供達が相変わらず、妖精達と一緒に雪と戯れている。彼らは『ウヌキ先生がまた変なことしちゃったみたいだから、そのオマケを楽しむのよ!』ととても前向きにこの状況を受け止めているみたいだ。あ、鳥もそっちに混ざりに行った。元気だなあ……。
……そんな時。
「ちょっとー!ウヌキせんせーい!?これ何よーっ!」
ライラだ!ライラがやってきた!
「……というわけだったのさ」
「あー、成程ねぇ。暑くて暑くて嫌になっちゃって思いっきり寒くしたら寒くしすぎた挙句魔力切れでぶっ倒れてたってわけね。ウヌキ先生、流石にちょっと迂闊過ぎない?」
「面目ない……」
先生はライラに叱られて縮こまっている。僕も『ちょっと迂闊だよ先生』とは思うけれど、僕も似たようなことやっているので、あんまり強く言えない。こういう時、ライラはとてもパワフルでとてもいいと思うよ。これからも先生のこと、それから僕のことも、時々叱ってほしい。あ、でも、お手柔らかに……。
「もう、びっくりしちゃったわよ。染色の版作って、ちょっとクロアさんのところにでも行こうかしら、って思って外出たら、雪舞ってんだもの!」
「子供達と妖精達が楽しそうにしてたね」
「ね。思わず描いたわ。5分スケッチしてからそれどころじゃないって思ってこっち来たけど」
そっか。ライラもお絵描きを楽しんでいるようで何より。……やっぱりライラ、ちょっぴり僕っぽくなってないだろうか。ちょっと嬉しい……いや、これを嬉しがっちゃ駄目な気がする!ああもう!僕って、本当に!本当に!
「……で、これは何よ」
「うむ。これは炬燵だ」
「あと、半纏と甘酒だよ」
「そういうこと聞いてるんじゃないわよ」
それから僕らは、ライラにまた説明。つまり、『寒くなっちゃったのでいっそ寒さを楽しむことにしました』というやつ。
ライラはちょっぴり呆れてたけれど、でも開き直って物事を楽しむことに定評のあるライラだ。『私にも甘酒ちょうだい!』と言い出したので、ライラの分も出してみたよ。あと、半纏も。ライラだって夏服なんだから、こんなところに居たら風邪をひいてしまうよ。
「甘酒って、寒い時にあったかいの飲んでも美味しいわよねえ……。最近、妖精カフェで冷やした奴が人気だけど」
「えっ、妖精カフェ、また甘酒フェアやってるの?」
甘酒というと、お正月に先生が『無限に甘酒が出てくるとっくり』を生み出してしまって以来、妖精カフェのメニューの1つになってしまったのだけれど……夏にも甘酒フェアとは!
「やってるやってる。冷やし甘酒でしょ?それに、甘酒のパウンドケーキと、甘酒のムースと、甘酒のアイスクリームやってるわ」
どうやら、甘酒人気は今もしっかり健在らしい。先生や僕から漏れ出た異世界の文化がこの世界に根付いている……。
「ふむ。甘酒アイスは中々美味しそうだなあ。明日にでも食べに行ってみよう」
「そうね。ここの気温戻したらね」
先生がウキウキ宇貫状態になっているのだけれど、ライラが手厳しい。じとっとした目でライラに睨まれると、先生のウキウキ具合はションボリしてしまう。
「……ま、暑いところから急に寒いところ、っていうのも、面白いけどね」
「そうだなあ、折角だし、今晩はこの気温の中で鍋にでもしてみるか……」
「いやさっさと戻してよ。このままここを中心に森が涼しくなったらトウゴが風邪ひいちゃうでしょ」
いや、僕は別に大丈夫なんだけれど……あれ?でも、よくよく考えてみると、確かに僕、今、体の中心が冷えてる状態……あれ?あれ?もしかしてこれ、僕、風邪ひきまっしぐらなのでは……?
「そ、それはいかん!トーゴが風邪をひいてしまう!……ん?いや、トーゴではなく、森が風邪をひくのか……?風邪ひきの森ってどういう状態だろうなあ……紅葉し始めちゃったりするのかい?トーゴ……」
先生が『トーゴ。森が風邪をひくってどういう状態だい?』って聞いてきたんだけれど、そんなの僕にも分からないよ。生憎、僕、森としては風邪をひいたこと無いし……。
「……まあ、よし。甘酒を飲んだら、なんだか魔力が戻ってきたような気がするぞ!よし!いける!」
そうして甘酒と半纏と炬燵でぬくぬくしていたら、先生が唐突に立ち上がった。
「本当に大丈夫?先生、無理しちゃだめだよ」
「無理なものか!すっかり涼んで、元気モリモリウヌキだ!」
先生、本当に大丈夫かなあ。僕が風邪ひきにならないように、って、無理してないかな。……僕のことはいいから、先生のことを大事にしてほしいんだけれど。
いや、でも、僕ら、多分互いにそうだから……言うだけ無駄だね。僕らは食事を忘れて絵を描いていても文句を言わないし、めんつゆを飲んでいても文句を言わない。だからお互いにお互いが大事でも、文句は言いっこなしなんだ。
「よし、じゃあ早速……よし!上手くいったみたいだぞ!」
そうして先生が文章を書くと、文字はもじもじ、くねくね、ぽよよん、と宙に溶けていって……そして。
「……あっ、戻ってきた」
「ああ、夏の気温ね」
少しずつ、じわじわと……気温が夏に戻ってきた!どうやら成功したらしい!
「あっ駄目だ暑い溶ける溶ける溶ける……」
……そして、魔力の消費以上に、暑さが先生を襲う。先生はまた、みるみるぐったりしてしまった。ああ、さっきまでひんやり冷えて元気だった先生が、こんなとろとろぐったり具合に!
「あっ、ウヌキせんせーい!ちょっとぉ!溶けないの!もう!ほら!妖精カフェ行きましょ!甘酒アイスあるわよ!」
「先生、氷出したよ。ほら、これで少し涼を取りながら元気を出して……」
ぐったりしてしまった先生を、左からライラが引っ張って、右から僕が引っ張って、なんとか立ち上がらせる。そのまま縁側に出て、サンダルをつっかけてもらって、僕らも靴を履いて、さあ、妖精カフェへ出発だ!急がないと、先生が溶けてしまう!
そうして僕らは妖精カフェで、冷やし甘酒フェアを堪能することにした。
さっきまで炬燵であったかい甘酒を飲んでいた僕らとしては、何とも不思議な気分……。
「うう……次こそは、丁度いい具合の気温になるように調整してやってみようとも……」
「もうやんないで」
「アイスを食べて涼んでからもう一度冷静になって考えた方がいいと思うよ、先生。僕は本当に怖かったんだよ、先生」
「う、うむ……」
今回は本当にびっくりしたから、先生にはもう、いきなり室温を氷点下にするような真似はやめてほしいし、魔力切れにならないでほしい!もう!
まあ、そんなこんなで、いきなり寒くなってしまった宇貫邸は無事に戻ったのだけれど。
翌日……。
「……すまない、トーゴ。もう二度とあれはやらないと約束する!」
「う、うん……大丈夫だよ、先生……」
……僕が、夏風邪をひきました!
いや、僕が、っていうよりは、森が……?うう、とにかく、体調不良になってしまって、先生の家の布団の中でぐったりしている僕です。
「まさかホントに森が冷えちゃったせいで夏風邪ひくなんてね。あんたって、ほんとにもう……」
ライラにも呆れられているし、ガラス戸にミッチリ張り付いてこちらを見ている鳥にも呆れられている気がするけれど、でも、でも、しょうがないじゃないか!先生が僕のこと冷やしちゃったんだから!
うう、でも、僕がこうして夏風邪になっちゃったせいで先生に申し訳なく思わせているのが、申し訳ない……。
「……ま、いいんじゃないの。トウゴも向こうの世界で暑い思いしてるんでしょ?ならちょっと休憩ってことで、ウヌキ先生に看病してもらって風邪ひきを堪能しなさいよ」
「ライラは本当に前向きだなあ……」
「何よ、悪い?」
「ううん、かっこいい」
でも、まあ、ライラの言う通りだ。ライラもそうだったけれど、風邪ひいちゃったなら、それを楽しめるくらいの心の余裕が無いといけないよね。うん……。
「そうだな、トーゴ。折角だ。僕に全力で看病されてくれたまえ!さあトーゴ!何か欲しいものはあるかい!?」
先生もすっかり乗り気みたいだし、ライラもにやにやしているし……うん。そうだ。僕も開き直って楽しんでみようかな。
たまには、こういうのも悪くないよね。
ということで、先生に先生が書いた最新作の絵本……『こんにちはの魔王』を朗読してもらうっていう役得を楽しみつつ、夏風邪を堪能する、そんな夏の日のことでした。
ちょっと先生に甘えすぎただろうか。でもまあ、たまにはいいよね。いいってことにさせてもらおう……。
コミックス7巻が8月1日発売です。よしなに。