森のチョコレートの日
「見てー!トウゴー!チョコレートが実ったのよ!」
「わ、わあ……」
……今、僕の目の前には、満面の笑みのカーネリアちゃんとアンジェ。そして、チョコレートが実る蔓草。
そう。なんだか、変な植物がまた、生まれてしまったみたいなんだよ。
きっかけはすごく単純で、『僕の世界の僕の国では、2月の14日にはチョコレートを贈る習慣があるよ』という話をしたところからだった。
その……先生が、『ところでトーゴ。今年も君はバレンタインのチョコレートを沢山もらってくるんだろうね!』とくすくす笑いながら思い出させてくれたから!
そう。僕、去年は受験でそれどころじゃなかったけれど、一昨年までは、その、毎年毎年、クラスメイトの女の子達からやたらとチョコレートやお菓子を貰ってしまっていた。
多分、僕の席が丁度いいところにあったとかそういうことだと思うんだよ。それで皆して、僕の鞄に余ったお菓子をぽいぽい入れていったっていうだけで、他意は無いと思うんだけれどね……。
まあ、そういう季節なので、妖精洋菓子店にもチョコレートのお菓子が増えていたりするんだろうか、と思ったら……この世界にはバレンタインデーなんて無いし、そもそも、なんと!この世界、チョコレートはちょっと貴重品みたいで、無かった!
ええと、ココアパウダーみたいなものは、まあ、あるんだよ。僕もココア、出したことあるし。けれど、それを滑らかに練り上げたチョコレート、となると、技術が追い付いていないのか、そもそも素材が無いのか、あんまりこの世界に存在していないらしくて……少なくとも、僕の世界みたいに、気軽に食べられるものじゃ、なかったらしい。
……あれっ!?ということは、今思ってみると、僕が王様達の兵団に向かってチョコレートの雨を降らせたあの時って、とてつもない天変地異だったのではないだろうか!とんでもない貴重品を降らせてしまった!なんてこった!
まあ、ええと、チョコレートの雨の話は置いておくとして。
そういう訳で、この世界ではチョコレートを気軽に食べられないから、妖精カフェにもあんまり並ばない、という状態らしいことが分かってしまったんだ。
ココアについても、どうやら『ココアパウダーっぽいものが採れる植物がある』っていうことらしくて、僕らの世界のカカオとはまた違うものみたいだし。まあ、味はほぼ一緒なのだけれど。
だったら、まあ、折角なので……僕、チョコレートを皆に振る舞ってみたんだよ。丁度、僕がアルバイトをしている例のカフェでもバレンタインデーのメニューを出す予定があって、その試作で色々とやっていたものだから。
……そこで森の皆にチョコレートを食べさせてみたところ、特にカーネリアちゃんとアンジェのお口に合ったらしい。2人とも、それはそれは目を輝かせてチョコレートを食べてくれて、なんだか僕まで嬉しくなった。こういう風に知らない食べ物を食べられるっていうのも、異世界同士の交流の中にあっていいよね、って。
だけれど……それが今、これ!
「こ、これ、どうしたの?」
まさか、チョコレートがそのまま実る蔓草が生まれてしまうなんて!これ、どういう仕組みなんだろう!
「あのね、アンジェね、チョコレートの木を作ろうとしたのよ。妖精さんたちも、みんないっしょにチョコレート、食べられたらうれしいから」
うん。まあ、アンジェか妖精さんの仕事だろうなあ、とは思ったよ。こんな不思議な植物、絶対に妖精の力によるものなんだから!
「それでね、トウゴおにいちゃんにもらったちょこれーとね、ここに一つぶ、埋めたの」
……植えちゃったのか!植樹ならぬ、植チョコレート!
「それで、まいにち、おさとう入りのミルクをあげて育てたら……これが生えてきたの!」
「すごいわ!すごいわ!アンジェも妖精さん達も、すごいんだわ!」
えへへ、と嬉しそうににこにこするアンジェと、ぴょこぴょこ跳ねて喜ぶカーネリアちゃん。そして『どうです、すごいでしょう!』とばかりに自慢げな妖精達。
そして妖精の内の一匹が、蔓草からつやつやのチョコレートを一粒もいで、僕の手まで運んできてくれた。うん、綺麗にテンパリングされてつやつやのチョコレートだ。星型をしていて、何とも可愛らしい。妖精達は『どうぞ!』とのことだったので、いただきます。
……うん。
「チョコレート、だね……」
「でしょう!?とっても美味しいでしょう!?」
その……なんだか、とても美味しいチョコレートなのだけれど……ええと。
これ、これ……いいんだろうか!?蔓草にチョコレートが実ることなんて、あってもいいんだろうか!?
僕が『この謎の植物と竹を戦わせるべきだろうか』なんてところまで考え始めていたら、その間にもアンジェとカーネリアちゃんの会議が進んでいた。
「やっぱり、後は包み紙だわ!かわいい袋に入れて、おリボンを結んだらいいと思うの!」
「妖精さんの国で、ちょうど新しいおリボン、作ってるの。もってくるね!」
……ええと、これはラッピングの話、だろうか。
「チョコレート、包むの?」
「ええ!それで、皆に配りたいの!だって、トウゴの世界ではそうするんでしょう?」
成程。どうやらカーネリアちゃんとアンジェは、チョコレートを収穫してラッピングして、配りたいらしい。……流石に僕の世界でも、チョコレートの無差別配布はしないのだけれどなあ。でも、この世界は大らかだし、何より、このチョコレートはとても美味しいし……。
「そういう訳で、いいかしら……?」
「うん。まあ、いいと思うよ」
悪いことには使われないだろうし、止める理由も無い。僕が許可を出したら、カーネリアちゃんもアンジェも、きゃあきゃあと喜んで飛び跳ねてる。かわいいなあ。
まあ、この世界における貴重品らしいチョコレートが無料で無差別に配布されてしまう、ということについては、もう、『ソレイラだから』で済ませてしまえそうな気がするし、いいっていうことにしよう……。
……駄目かなあ。僕、大らかになりすぎているだろうか。うう、ちょっと心配になってきてしまった。
僕の心配は他所に、アンジェとカーネリアちゃんは元気にチョコレートの収穫とラッピングを進めていった。
薄く透き通るハトロン紙の小さな袋にチョコレートが3粒くらい入れられて、口にはリボンが結ばれる。袋の口はピンキング鋏でギザギザにカットされていて、それがリボンの縛り口からふんわり広がっているのが、まるで薄紙細工の花みたいだ。
……と、まあ、こういう風に可愛らしいチョコレート包みがどんどん出来上がっていった。途中からは妖精達が『なんだなんだ、楽しそうなことをやっているぞ!』って加わって、どんどん増えて……いつの間にやら、妖精達が総出でわっせわっせとチョコレートを収穫したり、詰めたりするようになってしまった。
「ところでこの蔓草、どんどんチョコレートが実るね」
よくよく考えてみると恐ろしいことに、チョコレートの草にはチョコレートがひっきりなしに実る。蔓草の先っぽがふるん、と震えたと思ったら、そこにぷっくりつやつやのチョコレート色の雫が膨らんで、ぽよん、と揺れて、そこには星形のつやつやチョコレートが完成。う、うーん、どういう仕組みなんだろう……。
「いっぱい食べられていいわね!」
「みんなに分けてあげられるね!」
うう、確かにそうなんだけれど……そうなんだけれど……本当にいいんだろうか!ああ、僕、いよいよ心配になってきたなあ!
「ところでフェニックスもチョコレート、食べるかしら……」
更に、カーネリアちゃんがそんなことを言うものだから、僕、いよいよ心配になってくる!
「いや、人間以外の生き物にはチョコレートが毒になることもあるから、あげない方がいいと思う」
確か、チョコレートは犬や猫には毒になるんだよね?フェニックスがどうかは分からないけれど、害があるかもしれないものを食べさせるのはかわいそうだ。
「じゃあ、トウゴおにいちゃんも……?」
「……あのね、アンジェ。僕は人間なので大丈夫だよ」
アンジェの素朴な疑問がなんだかとても僕の胸に突き刺さる。うう、僕は人間……。精霊かもしれないけれど、でも、僕は人間だよ!
「他の皆は大丈夫かしら……」
「う、うーん……どうだろう、分からない」
僕のことは置いておくにしても、他の皆については、確かにちょっと考えた方がいいかもしれない。
この世界にはチョコレートって無いんだろうし、だとしたらチョコレートによる健康被害とか、あるかもしれないし。もうカーネリアちゃんとアンジェは食べてしまっているけれど、この2人だって、妖精の女王様だったりフェニックスの加護があったりするわけだし……。
「いざとなったら、フェニックスの涙を飲んでもらえればいいと思うの。この子の涙は何でも治してくれるから!でも、一気に全員、ってなっちゃったら、困ると思うわ……」
どうしようかしら、とカーネリアちゃんが悩む横で、妖精達も『それは考えてなかったね』っていう顔をしている。
そのまま、皆で悩んで、悩んで……。
「じゃあ、ちけんってやつをやってみるわ!」
カーネリアちゃんが、そういう結論を出したのだった。
……治験、ではないと思うけれど、確かにちょっと試してもらうのは悪くないかもしれない。
「さあ!ライラ!フェイお兄様!ちけんにご協力くださいな!」
「ちけん?知見を得るってことか?おう、いいぜ!よく分かんねえけど協力する!」
そうして最初に見つけたフェイとライラが、最初の実験台になることになった。『治験』が『知見』にされているけれど、それでもなんとなく意味が通っちゃうのは不思議なかんじだなあ。
……でも、大丈夫だろうか。ライラは人間だけれど、フェイはドラゴンだし、ちょっとだけ心配。
「これ、どうぞ!チョコレートよ!」
早速、アンジェがチョコレートの包みを手渡していく。フェイとライラはそれぞれに包みを受け取って、チョコレートを取り出し始めた。
「わー、かわいいじゃない!どれどれ……へー、つやつやしてて綺麗ね。これ、トウゴの世界のお菓子なんだっけ?」
「うん。でもこれは妖精公園でできたやつだよ。蔓草に実ってしまった……」
「実ったの!?これが!?うわあ、流石は妖精の魔法だわ」
ライラはけらけら笑いながら、早速1つ、チョコレートをつまんで口に入れた。お気に召すといいのだけれど。あと、毒じゃないといいんだけれど。
「ん!これ、美味しい!」
あっ、どうやらお気に召したらしい。そっか、よかった。……それで、まあ、ぱっと見た具合では、ライラの体調も大丈夫そうだ。もうしばらく、様子を見た方がいいのだろうけれど、まあ、ライラは人間だしなあ。大丈夫だと思う。
ということで、問題はどちらかというと、フェイの方、なんだけれど……。
「うおっ、これ……これ、美味いな!」
フェイは目を輝かせていた。口には合ったみたいだ。まあ、それはよかった。よっぽど気に入ったのか、一気に3つ、食べてしまった。そっか、フェイはチョコレート、好きなんだね。親友の好物が1つ分かって、ちょっと嬉しい。
「これが実ってるって!?なあトウゴ!あとアンジェとカーネリアちゃんも!俺、そこからもいでいってもいいか!?親父と兄貴にも食わせてえ!」
「ええ!勿論いいわ!是非、沢山食べていってほしいわ!」
「わあ、うれしい……おきにめしてよかった、です!えへへ」
フェイは少し興奮気味だし、カーネリアちゃんとアンジェはにこにこ嬉しそうだし、まあ、こちらも問題はなかった、かな。よかったよかった。
……と、思っていたら。
「いやー、これ本当に美味いなあ!これが実る草があるっていうんなら、うちの庭にも一株、植えてえ……んおっ!?」
楽しそうに話していたフェイが突然、びくっ、として、それから一拍おいて、つう、とフェイの鼻から一筋、血が出てきた!
「んっ!?うわ、あー……わりい、トウゴ、なんか、布とか」
鼻血が出てしまったフェイは、慌てて自分のハンカチで鼻を押さえていたのだけれど、ハンカチがだんだん赤く染まっていく。うわうわうわ、結構な出血だ!
「あ、うん。これどうぞ。鼻に詰めておくと止まりやすいから」
僕はポケットからティッシュを出して、フェイの鼻に詰める。鼻血の時にはこれに限る、って先生も言ってた。僕はあまり鼻血を出したことが無いので、やったこと、ないのだけれど……。
「あー……悪ぃな、見苦しいもん見せて……」
「ううん、気にしないで。大丈夫?鼻血の他に症状は?」
「いや、後は……あれ、なんか、ぽーっとしてきた……んあ、駄目だ、なんだ、これ」
フェイを心配して皆で見ていたら、その内フェイはとろんとしてきて、その場にくて、と倒れてしまった!ああ、大変だ!フェイはやっぱり猫とか犬みたいにチョコレートが駄目な体質だったんだろうか!?
「……へへ、なんか、きもちいーんだけどよお……これ、魔力酔いかぁ……?」
……そういえばフェイはドラゴンの末裔で、同時に、魔力敏感肌なんでした。じゃあ、そういうこと、なんだろうか。それとも、ドラゴンにとってチョコレートって、猫にとってのマタタビみたいなものなんだろうか。
それから倒れたフェイの顔の上でフェニックスがぴるぴる泣いて、フェイの鼻血は無事に止まった。そしてフェイの魔力酔いっぽい症状も、少ししたら落ち着いたらしい。それでもしばらくは、なんだか気持ちよさそうにとろんとしていたので、僕は巣ごもりしていた時のフェイを思い出した。うん、あんなかんじ。
「ライラは大丈夫?」
「え?私?うん。まあ、なんか気分がいいけど……これはものすごく美味しいもの食べた時のやつよ」
「そっか、よかった……ライラまでフェイ並みにとろとろになっちゃったらどうしようかと思った」
「流石にこうはならないわよ。……っていうか、フェイ様、これ、大丈夫なの?こんなとろんとしちゃってさあ」
フェイはすっかりとろんとしてしまって、僕の隣で丸くなっている、試しに手を伸ばしてフェイをつついてみたら、僕の手にすりすりやってきた。ああ、やっぱりドラゴンになってる気がする。
ライラが『なんかいいわね』って言ってるけれど、その、別によくないよ!あと描こうとしないで!こら!
「フェイ様がこうなるとさあ……」
ライラは僕にもたれているフェイをスケッチしながら、ふと思いついたみたいに言った。
「……レネに食べさせてみたいわよね」
……いや、気になるけど。確かに、気になるけどさ。
ライラの誘惑に負けて、僕、夜の国に来てしまった。うう、ごめん、レネ。でもチョコレートが美味しいのは確かだし、妖精公園で育った採れたてのチョコレートだから、きっと光の魔力もたっぷりだと思うし、許してほしい……。
訪問の際には、光る鳥に乗って直接レネの部屋へ。いや、僕は自力で飛ぶけどね、ライラは自力では飛べないので。
僕がレネの部屋に窓からお邪魔すると、レネの歓声が上がった。どうも、お邪魔します。いつも歓迎してもらえるので嬉しいな。
それから続いて窓に、もすん、と鳥が首を突っ込んだら、ライラが鳥の羽毛を掻き分け掻き分け、レネの部屋の中へ。鳥ももすもすやりながらなんとか、部屋の中へ。
……ねえ、鳥、最近太った?この間見た時よりも、きつくなってない?ただ冬毛になってるだけ?
鳥は置いておいて、さて。
『ってことで、チョコレートの試食をお願いしたいの。やってくれる?』
『はい!トウゴの世界のお菓子には興味があります!ぜひ、食べてみたいです!』
ライラがにこにこしながら文字のスケッチブックを見せれば、レネも目をきらきらさせて頷いてくれる。ああ、レネは本当に良い人だから……いや、良いドラゴンだから……。
『それから、色々な種族の『ちけん』を得たいなら、タルクとナトナにも試食をお願いできると思います!』
『それはいいわね。タルクさんと竜王様にもお願いしたいわ』
更に、レネは良いドラゴンなので、タルクさんと竜王様にまでチョコレートの輪が広がってしまった!うう、大丈夫だろうか。ライラは『竜王様がさっきのフェイ様みたいになっちゃったらなんかいいと思うわ』って言ってるけど、その、いいの?本当に?
レネがぱたぱた駆けていって、それから少ししたら、レネの部屋にはふわふわとタルクさんがやってきて、それから少ししたら、竜王様と一緒にレネが戻ってきた。
『此度はトウゴ殿の世界の珍しい菓子を試食できるとのことで、楽しみにしている。昼の国ともまた異なる異世界のものに触れるのは初めてだ。是非、よろしく頼む』
『甘いものは好きだ。興味がある。存分に楽しませてもらうよ』
竜王様とタルクさんがそれぞれにスケッチブックに文字を書いてくれるのを見て、僕もライラもにっこり。ご協力いただき、誠にありがとうございます。
「じゃあ、早速どうぞ。1つずつね。お代わりもあるけれど、一気に食べると体に変調があった時に対処できないから」
「フェイは3つ一気に食べて倒れちゃったんだ。気を付けてね」
僕ら、文字を見せつつ喋りつつ、1粒ずつチョコレートを渡していく。レネはつやつや星形チョコレートを見て目を輝かせて、『きゃう』と歓声を漏らしていた。
それから、ちら、とレネは僕らを見て、またチョコレートを見て……ぱく、と口に入れた。
その途端。
「……てりしーりゃあ!えすうぇーたっ!うみゃあ!」
レネは目をきらきら輝かせて、蕩けるような笑顔になってしまった!どうやら、美味しかったらしい!
「……てりしーりゃ」
更に、竜王様も静かに目を輝かせて、半分齧ったチョコレートの断面を興味深げに眺めている。あ、眺めていたと思ったら食べちゃった。そして表情が綻ぶものだから、僕らもなんだか嬉しくなってしまう。
「なとな!なとな!てりしーりゃーれ?にゃ?」
「いー。じーじあ、てりしーりゃ、いーな、ばうあ、あるま、じぇーすた……」
レネは興奮気味に、竜王様も静かながら確かに興奮気味に、何か話している。多分、『美味しいね』『美味しいね』っていうかんじだ。
……そして。
「あっ!タルクさんが元気!」
「本当だ……タルクさん、大丈夫ですか?」
タルクさんが、やたらとぱたぱたひらひらしていた!風も無いのに、マントの裾がひらひらひらひら、美しいドレープが生まれては流れていき、生まれては流れていき……まるで波を見ているみたいだ。
「たるくー?……ふふ、てりしーしゃーれ?」
「えうあ。てりしーりゃ、てりしーりゃ!……とうご、とうご。あーもーら!」
タルクさんもチョコレートを気に入ってくれたみたいだ。スケッチブックに『もう1つ頂けるか?』と書いて見せてくれたところを見ると、お気に召したみたいだ。レネがタルクさんを見てくすくす笑っている。
「とうごー」
くすくす笑っていたと思ったら、レネが僕にすりすり寄ってきた。
「ふふ、とうごー……んう」
なんだかちょっぴり眠たげなような、そんなかんじだ。レネの色の白い頬がほんのり紅色になっているところを見ると、多分、光の魔力で温まっているところ。
「とうごー……ふふ、りり、せうーと……」
「えっ」
かと思ったら、レネが変なことを言っている!確か、『りり、せうーと』は『とってもかわいい!』みたいな意味だったはずだ!
「へー、レネってば、なんか酔っぱらってるみたいなかんじね。さっきのフェイ様っぽいわ。ちょっと顔、見せて?顔色は……わあ、赤くなってる」
「にゃあ!らいらー、らいらー、りり、りり、てぃあーれ……いーゆえらいきゃ、えおーら、りーぴあらいきゃ、ふわーわ……」
ライラがレネを引き取っていったなあ、と思ったら、レネはうっとりライラを見つめながらなんだか、ぽーっ、としてしまっている。
「あはは、何言ってるのか全然分かんないけどレネ可愛いわね!なんかいいわ!」
「ふふ……んー、ふりゃあ……」
ライラがレネを、きゅう、と抱きしめると、レネも『ふりゃあ』とご満悦の表情で、きゅう、とライラにくっつく。2人でくすくす笑いながらくっつき合っているものだから、僕は一体どうしていいのか……。
「……ひゅーあ、とうご」
僕がどうしようかなあと思っていたら、ふと、竜王様が僕の隣に来ていた。そして、その手に持っていたスケッチブックを見せてくれたのだけれど……。
『少しだけ、光の魔力を分けて頂けないだろうか。手を握らせてほしい』
そんな内容だった!
僕はびっくりしながら、でも、断る内容でもないし、少し恥ずかしがって俯き加減な竜王様を見ていたら、なんだかレネに似ているなあ、なんていう気がしてきて、余計に断る気が消えていってしまった。
「いいですよ。どうぞ」
なので、竜王様の手をとって、きゅ、と握ってみる。竜王様の手は、レネの手にも似たひんやり具合だ。夜の国に居ると、皆、手や足の先が冷えてしまうんだろうな。
「ふりゃー?」
ついでに聞いてみたら、竜王様は、ほう、と嬉しそうに息を吐いて、にこ、と控えめに笑ってくれた。
「ふりゃ。せきゃ、とうご」
そっか。あったかかったなら何よりです。
でも……うーん、この竜王様も、なんだかいつもよりしおらしいというか、普段だったら言わないようなことを言ってきているわけだし、なんだか様子がいつもと違うことは間違いない。
やっぱり、猫にまたたびで、ドラゴンにチョコレート、っていうことなんだろうか。うーん……。
ドラゴンがチョコレートを食べると、なんだかとろんとして、人恋しくなってしまうらしいことが分かった。
それでいて、レネも竜王様も、そしてタルクさんも大変にチョコレートがお気に召したようだったので、『用途用法をお守りの上喫食してください』という注意付きでいくらかチョコレートをプレゼントしてきた。まあ、まだまだたくさん実っているようなので……。
さて、昼の国に戻ってきた僕らは、盾の手入れをしているらしいラオクレスと、その隣で編み物をしていたクロアさんと、その周りにキョンキョンキュンキュン集まって寝ている鳥の子達、そして鳥の子達に埋もれて寝ている子供達を見つけた!
「これは一体」
「あら、お帰りなさいトウゴ君。あのね、さっきまでここで、カーネリアちゃんとアンジェがチョコレートの試食会をしていたみたいなのよ」
ああ、なるほど。こっちはこっちで試食していたのか。ええと、カーネリアちゃんの言葉を借りるなら、『ちけん』。
「それで、鳥さんの子供達も食べに来て、それからしばらく鳥の子達とこっちの子供達が一緒になって遊んでいたのよね」
えっ、鳥の子と人の子達が遊んでいたっていうのは、とても珍しい光景だったんじゃないだろうか!なんていったって、ここの鳥の子達は親鳥に似て、自由気ままなものだから!
「今は遊び疲れて皆揃ってお昼寝しちゃったところよ。リアンは『俺は寝ねえよ!』って言ってたのだけれど、鳥の子達に囲まれて温められたら寝ちゃったわね。ふふ、かわいい」
ああ……リアンもなんだか穏やかな顔ですうすう寝てしまっている。そっか。これだけぐっすり眠っているところを見ると、よっぽど遊んで遊び疲れちゃったのか、鳥の子達に囲まれるととてつもない安眠効果があるのか……。
鳥の子達は、無事に親鳥に回収されていった。鳥が子供達を優しくつついて起こして、それから皆で一塊になって巣へ飛んでいくのを見送る僕らの、何とも言えないこの心境。ああ、毛玉が森の上空を飛んでいる……。見た目が毛玉なこともそうだけれど、あの鳥が親鳥っぽいことをしていると、なんとも不思議なかんじだ……。
それから、ライラが『ほらほら、お布団が居なくなっちゃったんだからあなた達も起きなきゃ風邪ひくわよ!明日はチョコレート配るんでしょ?起きて起きて』って、アンジェとリアンとカーネリアちゃんを起こして家まで送っていった。そっか。明日はチョコレート無差別配布の日か……。
「あ、トウゴ君。ちょっといいかしら」
ライラ達を見送っていたら、クロアさんがちょっと笑いながら手招きしていた。
「ちょっと見てて。面白いから」
僕が首を傾げていたら、クロアさんはほっそりした指でチョコレートを1粒つまんで、綺麗な動作で、すっ、とラオクレスの口に運んでいた!
僕が見ていたら、ラオクレスは盾の手入れを続けながら口を開いて、それを受け入れてしまった!ああ!ラオクレスがクロアさんに給餌されてる!なんてこった!
「ら、ラオクレスが……給餌されてるなんて!」
僕がビックリして見ていると、ラオクレスは、もぐ、と口を動かしながら、ふと、徐々に我に返ってきたらしくて……。
「……おい!クロア!今、何をした!?」
「あら、やっと気づいたの?よっぽどお手入れに夢中だったのかしら。本当にその盾、大事なのねえ……。気づいてなかったみたいだけれど、あなたこのチョコレートで3つ目よ?」
どうやらラオクレス、盾のお手入れに夢中になるあまり、無意識になってしまっていたらしい。そ、そっか。それで給餌されてしまったのか……。ああ、なんてこった!
「おい、まさか、何か幻惑の魔法の類を使ったんじゃあないだろうな」
「まさか!あらあら、疑うの?」
ラオクレスはすっかり苦り切った顔なのだけれど、クロアさんはころころ笑っているばかりだ。流石のクロアさん……。
「……こういうことをするもんじゃない」
「そう?あなたが人の手から食べ物を食べるの、なんだか可愛げがあって好きなのだけれど」
「トウゴの前だぞ」
「じゃあトウゴ君が見ていないところでやるわ」
「そういう意味じゃない」
うん、その、ラオクレスは顰め面で、時折、気まずげに僕の方をちらちら見ている。多分、僕の前でこういうことになっちゃったのが恥ずかしいのであって、クロアさんと2人きりとかだったら、そもそも気づかないんじゃないかな、ラオクレス……。
……うん。
「僕、クロアさんに給餌されてるラオクレス、もっと見たい……。描きたい……」
「なんだと」
そう思っていたら、なんだか無性に描きたくなってしまった!
ということで、描かせてもらいました。ラオクレスが給餌されている姿を描かれるのは恥ずかしがったので、ただ盾のお手入れをするラオクレスと、その隣で編み物をしているクロアさん、という絵になってしまったけれど。まあ、これはこれで……。
描いて満足して画材を片付けていたら、ふと、クロアさんが僕に近づいてきた。
「1粒、トウゴ君にもあげる。はい」
「へ?あっ、んむっ」
クロアさんの長い指が綺麗な動作でチョコレートを1つつまんだと思ったら、僕の口に、ふに、と押し当ててきた!あまりにも自然な仕草だったから、僕、そのままチョコレートを食べてしまった!
「ふふふ、おいしい?」
「うん……僕、もう試食してるんだけれど」
「あらそうなの。でも私が食べさせたかったから」
そ、そっか。うーん……クロアさんも変わった人だなあ。いや、別にいいけど。でも、食べさせてくれるのは、ちょっと……。
「うん、美味しい!とっても滑らかで、香りもよくって……ついでに魔力もたっぷり、ね?」
「魔力?」
「ええ。感じない?」
魔力、魔力か。ええと……生憎、よく分からないな。
というか僕、この世界の食べ物を食べて、『わあ魔力たっぷり!』って思ったこと、無い気がする。いや、まあ、龍の木の実の中身を飲んだ時には元気が出るし、そういうのは、分かるのだけれど……。
「だから、もう少し、チョコレートを育てる時に力を抜いて育てた方がいいわよ、って妖精さん達に教えてあげなきゃ。この魔力の量じゃ、フェイ君が酔っぱらっちゃうのもしょうがないわ」
うん。いや、でもあれは魔力酔いと同時に、猫にまたたびドラゴンにチョコレート、だったと思うのだけれど……。まあ、魔力いっぱいチョコレートは、バレンタインデーの特別仕様チョコレート、ってことにした方がよさそうだ。
「きっと、このチョコレートっていうお菓子、食べるとちょっぴり楽しくなっちゃうのね。こんなに美味しいんだもの、仕方ないけど」
クロアさんは編み物を終えて、編み上がったマフラーをそのままくりくりとラオクレスの首に巻いていた。そして、『なんだ、これは俺のか』『そうよ。鳥さんに頼まれた分は編み終わったから』『そうか。なら貰っておく』というやり取り。……ん!?鳥さんに頼まれた分!?それは一体どういうことだろう!
「このチョコレートって、なんだか、わくわくするようなかんじ。ね?」
「うん……ちょっと分かるかもしれない」
ま、まあ、鳥の依頼とやらは置いておくとしても、チョコレート。うん。チョコレートは、確かにちょっと、わくわくするお菓子だと思うよ。
「トウゴ君の世界では、これを配る風習があるんでしょう?なら、その日は皆、わくわくしているのね」
「うん。特に女の子達はそうだね」
バレンタインデーの女子の様子って、まあ、楽しそうだよなあ、って思う。僕には縁が無い、はず、なんだけれど……いや、その割に毎年巻き込まれてしまっているような気もするけれど……。
……うん。
そうだ。たまには、能動的に巻き込まれてみようかな。そういうのも、悪くないかもしれない。
ということで、2月14日当日。僕は、沢山包みを抱えてこっちの世界へ。
「あ、トウゴ。来たんだ」
「うん。こんにちは。……それで、ライラ。はい、これ」
門を抜けて最初に見つけたライラに、早速包みを1つ渡す。
何々、とライラは早速包みをかさかさ開けて……中から出てきたのは、小さな紙のカップに入れて焼いたフォンダンショコラだよ。
「ん?なぁに、これ。わ、美味しそう!これ、チョコレートのお菓子でしょ?焼き菓子にしたんだ」
「うん。カフェのマスターに教えてもらって作ったんだ」
ええとね、例のカフェでは、バレンタインデーのメニューとして、チョコレート関係のケーキや飲み物を提供してるんだ。そこで提供していたもののうちの1つが、このフォンダンショコラ。
マスターに教えてもらいながら、大体僕1人で焼きました。教えてもらったおかげで、上手にできたと思うよ。マスターや妖精ほどじゃないけれどね。
……ただ、『これはトーゴ君が焼いたんですよ!』ってマスターがにこにこしながら自慢して回るから、その、非常に居た堪れなかった。お客さん達も、にこにこしながら『それじゃあ注文しなきゃ』って注文してくれるものだから、ますます居た堪れなかった!
「この世界のチョコレートで作ったフォンダンショコラだから、多分、美味しいと思う」
「成程ね。……ん?それ、カフェのマスターとしてはいいの?こっちの世界のチョコレートって、向こうの世界では大丈夫だった?」
「うん。『香りもコクも抜群!こんなに上等なチョコレートを使い放題とは、異世界恐るべし!』ってにこにこしながらホットチョコレート作ってた。副作用は、向こうの世界では特に無いみたい」
「あー……カフェのマスターからしてみたら出所の分からないチョコレートでしょうに、ホントにあの人、ウヌキ先生っぽいわよねえ」
うん。僕もそう思います。まあ、類は友を呼ぶんだよ。
それから僕は、森中にフォンダンショコラを配って歩いた。
その、僕がお菓子を作ることなんて普段無いから、皆珍しがってくれた。特に、レネ。
レネは夜の国からこっちに遊びに来ていたので、丁度渡せた。『食べちゃうのがもったいないです!』って喜んでくれた。ええと、勿体ないっていうことも無いと思うから、是非食べてください。……あんまり喜んでくれたから、もう1個余分にあげてきました。ええと、沢山食べてね。
それから、魔王もフォンダンショコラを気に入ってくれたらしい。あげてみたら、『まおーん!』と大きな声で鳴いて、のびのび伸び上がって、それはそれは嬉しそうにしていた。その様子がちょっと可愛らしかったので、ついつい撫でてしまう。魔王はかわいいなあ。
フェイの家にも配りに行ってみたら、こっちのドラゴン達もチョコレートを大層気に入ったようで、『ほう!チョコレートのお菓子か!それは楽しみだよトウゴ君!ありがとう!』『チョコレートというものはすごいな!仕事の合間に食べると、疲れが吹き飛ぶようでね。妖精印の星チョコレートも美味しく頂いているよ。こちらもありがたく頂くとしよう!』と目を輝かせてくれた。
やっぱりドラゴンの皆さんはチョコレートがお好きなようだ。うーん、やっぱり、猫のマタタビ、ドラゴンのチョコレート……。
それからフェイは、『トウゴが菓子作るのって、餅と大福以外だと初めてじゃねえか?』って面白がってくれた。……確かに僕が作ったお菓子、大体、餅関係だった気がする。桜餅とか、大福とか……。いや、でもあれはそもそも描いて出したのであって、作っていないよ!
あと、フェイは『じゃ、これ、俺からもお返しってことで!』って言って、お菓子をくれた。薔薇と菫の花の砂糖漬けだってさ。どうやら、サフィールさんの家から最近贈られてきたもののお裾分けらしい。ぱりぱりした食感で、花の香りがして、なんだかお洒落な味だ。こういうのも悪くないね。
それからまたソレイラに戻ってきたら、ソレイラの人達が『最近、妖精公園でチョコレートなるものが栽培されはじめたようで、不思議な美味しさなんですよ』『食べるとわくわくした気分になれるんです!』って教えてくれた。どうやらソレイラにはチョコレートが無事、受け入れられたようだ……。
妖精カフェで早速チョコレートのケーキが出ているのを見たり、それを美味しそうに食べているラージュ姫とルギュロスさんの姿を見つけたり、ルギュロスさんがいつもよりもちょっとご機嫌で柔らかい様子に見えるから、やっぱりチョコレートって、ちょっと人間じゃない人にはマタタビになるんだろうか、なんて思ったり。
……それから僕は森に帰って、先生の家へ行く。
「先生」
「おや、トーゴ!よく来たね!……おや?その袋は、毎年恒例のアレかい?」
先生の言う『毎年恒例のアレ』は、僕が貰っちゃったチョコレートの類を先生の家に置いておかせてもらっていたやつだ。その、家に持って帰ると母親が何かとうるさかったものだから。
「今年は堂々と家に持って帰ってるよ。お返しはもう、貰ったその場で渡しちゃうことにしたので」
でも、今年からはそういうのはもう、無いよ。僕はアルバイトで少しお金を稼げるようになったし、それに何より……まあ、ちょっとだけ、逞しくなったので。
「おお……逞しくなったなあ、トーゴ」
「うん」
先生にも『逞しくなった』って言ってもらえるの、嬉しいな。先生には長らく、ずっと、心配ばっかりかけていたから……。
「それで、これは僕から。あと、こっちはカフェのマスターからだよ」
「おお!?君から!?カフェのマスターのはなんとなく分かるが!」
先生に箱を渡すと、先生はそれを受け取って、大事に大事に机の上へ持っていって、そこで開封して……おおー、と歓声を上げた。
「ホットチョコレートはマスターからだね?ということは、こっちのガトーショコラかフォンダンショコラかよく分からない奴が君からか!」
「うん。フォンダンショコラ。中にガナッシュが入っています」
「成程!つまり手間がかかっている奴、という訳だな!こりゃあ楽しみだ」
先生はうきうきと箱の中身を出していって……それから、にや、と笑いながら僕の方を見た。
「それで、2つずつ入っているっていうことは、君も付き合ってくれるっていうことでいいんだな?」
「うん。そのつもりで来ちゃった」
「そうかそうか!ならゆっくりしていきなさい。ほらほら、炬燵が温まっているぜ、トーゴ」
僕は早速、先生に勧められるまま炬燵の中に入って、ぬくぬく温まる。……あっ、炬燵の中から魔王が出てきた。魔王は炬燵が大好きらしいので、冬の間は結構な頻度で先生の家に居る。
それから先生と一緒に食べたチョコレートメニューは、とろんとまろやかな舌触り。それに甘くていい香り。濃厚な味わいに、後を引く甘さ。……チョコレートって、美味しいなあ。
「ふむ。僕の人生でも指折りの美味しいバレンタインデーだなあ」
「それはよかった」
先生は満足気だし、僕もなんだかほっとしてしまって、炬燵でぬくぬく、いい気持ちだし……。
確かに、僕の人生でも指折りのバレンタインデー、かもしれない。
「ただ、飲み物も食べ物もチョコレートだと、しょっぱいものも欲しくなるな!」
それから先生はそんなことを言いながら台所へ行って、ごそごそやって……。
「ということで、おせんべはどうだい、トーゴ」
醤油のおせんべいを持ってきた。その瞬間に、まおーん!と元気に魔王が伸びあがっておせんべいの袋を受け取った。魔王は本当におせんべいが大好きだなあ。
更に、キョキョン、キョキョン、と声がして、見れば庭に鳥の子達が集結していた。彼らもおせんべいを食べにやってきたのかもしれない。
の、だけれど……。
「……鳥が着ぶくれしているよ、先生」
「そうだな。うむ。着ぶくれ……着ぶくれしているなあ、トーゴ」
なんと!集まってきた鳥の子達も、鳥の子達の後からででんとやってきた鳥も!皆、着ぶくれしていた!
鳥は、毛糸の帽子と毛糸のマフラーとで、ふわっふわになっていた。
「ああ、そういえば、クロアさんが鳥に何か、編んでやっていたようだけれど、もしかしてそれがこれ?」
鳥達はみんな揃って、毛糸のマフラーと毛糸の帽子。だからいつも以上にふわっふわだ。そしてキョンキョンキュンキュン非常にうるさい。まあ、これはいつも同様に……。
「うむ……まあ、こういう光景を眺めながらおせんべを齧るバレンタインデーというのもオツなものだぜ、トーゴ」
オツなもの……オツなもの、なんだろうか。うーん、僕、よく分からなくなってきたよ、先生。
まあ、でも、魔王は早速先生からおせんべいの袋を受け取って嬉しそうに踊っているし、そんな魔王からおせんべいを分け与えられた鳥の子達はキュンキュンキョンキョン嬉しそうに鳴いているし、鳥も、いつもの3割増しくらいにふかふかの恰好で、キョキョン、と満足げに鳴いているし。
……これはこれで、いいのかもしれない。バレンタインデーってなんだっけ、っていうかんじもするけれど、でも、まあ、平和なのが一番……。
と、まあ、そんな2月14日のことでした。
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