7話:甘い罠と罠破り*2
何度か途中で休憩をはさみながら、僕らは王都へ向かった。王都まではレッドドラゴンとアリコーンがゆったり飛んで半日程度かかるらしい。今回は召喚獣達に無理させたくないから、少しのんびりしたペースで飛ぶことになった。
レッドガルド領は王都まで比較的近いところらしくて、馬車を使っても2日あれば辿り着くんだそうだ。……逆に、召喚獣が居なかったら僕ら、2日の旅路になっていたのか。居てくれてよかった。
そうして、おやつ時には王都に到着した。
……レッドガルド領の町とは比べ物にならないくらい、大きな町、だった。
門があって、門番らしい人達が行き交う人達を見張っている。そこでフェイが何かやり取りしてから中に入れば、大きな通りが真っ直ぐ伸びて、その両脇には大きな店が立ち並ぶ。そして道に居る人達の数は、凄く多い。
「……すごい」
「だろ?王都だからな!」
フェイは僕の反応を見て楽しんでいるようだった。うん、前言ってた『異世界人に町を案内するのは絶対に楽しい』っていうやつかな。
「よし!じゃ、早速、宿に行くぞ!荷物置いたらちょっと見物していこうぜ!折角だし!」
「うん」
そして僕とラオクレスはフェイに案内されて、今日泊まる予定の宿へと向かった。
宿は、大きな建物だった。王都の大通りに建てられているだけあって、どうやらここは貴族御用達の宿らしい。……一流ホテル、みたいな扱いだろうか。そう考えると少し緊張する。
「よし。終わったぜ。行こう」
一方でフェイは堂々と手続きを終えて、部屋の鍵らしいものを持ってきていた。
「……あれ?一部屋?」
けれど、フェイが持っている鍵は1つだけに見える。まあ、同室でも別に構わないけれど。
「ははは。一部屋だけど、心配しなくていいぜ」
フェイはそう言うと意味ありげににやりと笑って、それから僕とラオクレスを連れて歩き始めた。……何かあるのかな。
それから僕はフェイの後についていって……そこで、僕らの部屋になるらしい場所で、部屋番号を確認して、扉を開ける。
すると。
「……えっ」
「びっくりしたか!?びっくりしただろ!俺も初めて見た時はびっくりしたぜ!」
そこにあったのは、あまりにも広い空間だった。ええと、あまりにも広い。物理的に無理がある広さだ。どう見てもこれ、部屋のあるべき大きさよりもずっと大きい。
「これはどうなっている」
「なんかよ、古代魔法を部屋に埋め込んで、狭い空間を広くしてるんだとさ。おかげで複数人の宿泊でも困らない広さが確保できるってわけだな!」
フェイがそう言って歩いていくと、広い広い部屋の中に、扉がいくつかある。うわあ、一部屋じゃないんだ。部屋の中に部屋がある。
「寝室は……うん、4つあるみてえだから、好きな部屋選んでいいぜ!1個は余りな!」
そっか、部屋の大本が1つでも、その中に更に部屋があるんだ。道理でフェイが『心配しなくていい』なんて言うわけだよ。
「ま、そういうわけだ。ここの部屋の鍵は一応、俺が預かったけど、お前らも使えるようにしとくから」
更にフェイはそう言って、僕に手を出すように言った。
僕が手の平を上にして手を出すと、逆、逆、と言いながら僕の手をひっくり返して、手の甲に部屋の鍵をちょん、と押し当てた。
……その途端、僕の手の甲がちょっと熱くなって、次の瞬間には何事も無かったかのように元通りになっていた。
「ラオクレスも。ほら」
それからラオクレスも同じように手の甲に鍵を当てられて、最後にフェイ自身も同じことをやる。それが終わってから、フェイは鍵を部屋の中、鍵ホルダーみたいな場所に置いた。
「じゃ、この部屋に入る時はドアの所にある金属の板に手ぇ当てればいいからな」
どうやら、これで僕らは部屋の鍵を開けられるようになったらしい。これ、どういう仕組みなんだろうか……。
異世界の魔法の力を目の当たりにしてちょっとびっくりしながら、僕は早速、部屋の中の部屋を1つ選んで、そこに荷物を下ろした。……とは言っても、僕の荷物はそれほど多くない。まあ、1泊の予定だし。ほとんどの生活用品は宿にあるって聞いていたから、そういったものもあまり持ってきていない。
……要は、僕の荷物のほとんどはスケッチブックや画材の類だ。あと、竹の実とその他の木の実。要は、召喚獣達のご飯。
「……召喚獣の宝石もこの部屋みたいなかんじなんだろうか」
部屋の天井を見上げながら、なんとなく、宝石の中に入る召喚獣もこんなかんじかな、と思う。小さな宝石の中に大きな召喚獣が入ってしまうんだから、もしかしたら、宝石の中にはこの部屋みたいに、大きな空間があるのかもしれない。
もしかしたら『魔力が高い宝石』とか『魔力が高い竹筒』っていうのは、『中にある部屋が広い』みたいな意味なのかもしれない。
さて、部屋の中を見物したら、早速町に出る。
フェイは王都にも何度か来ているらしくて、楽し気に王都を案内してくれた。
おいしいおやつを出してくれる店に入ってみたり、武器屋らしいところを覗いてみたり。はたまた、宝石屋に入ってみたり。
レッドガルド領の町にも武器屋や防具屋、宝石屋などはあったけれど、王都のそれらは規模が違う。やっぱり、人が沢山集まっているところのお店は大きいし、品物も沢山集まっている。
……ちょっと興味があったので、宝石屋で宝石を観察してみた。
僕が出す宝石は割と召喚獣達に気に入ってもらえることが多いみたいで、フェイ曰くの『魔力が高い魔石』らしい。じゃあ魔力の低い魔石ってどんなのだろう、と気になった。
そこで、宝石屋に並んでいる宝石を値札と共に観察して……ちょっと、分かった、かもしれない。
魔力を制御できるようになってから、ある程度、自分以外の魔力についても分かるようになったのかな。やっぱり、高い宝石には魔力らしいものをなんとなく感じる気がするし、安い宝石はあまり魔力が無いように見える。
「ねえ、フェイ。もっと訓練したら、僕、ものの魔力がもっと良く見えるようになるんだろうか」
「ん?そうだな。なれるぜ!……ま、俺もあんまり得意じゃねえけどさ。でもまあ、分かると便利なことも多いし」
フェイにそっと相談してみたら、そんな答えが返ってきた。訓練していけば、自分以外の魔力が見えるようになったりするらしい。そういえばフェイも、竹筒を見て『魔力の籠った竹筒』って言ってたし。そういうことなんだろう。
……うん。頑張ろう。
晩ご飯は宿で食べて、そして僕らは眠ることになった。
……なんというか、ちゃんとしたベッドで1人で寝るのって少し久しぶりな気がする。ハンモックで寝ることが多いし、そういう時は大抵、馬達が近くに居てくれるし。
あと、フェイの家で泊まる時は大抵、ラオクレスが一緒だ。そう考えると、なんというか……少し寂しい。
自分の気配しかしない空間というものは、まあ、慣れているはずだし、嫌いなわけでもない。むしろ、1人で居る方が落ち着く性質だった。ただ、最近は、あまり1人で居なかったものだから……。
「……うーん」
何となく落ち着かないような気分を味わいながら、僕は、どうしようかな、と考えて……。
「よし。おやすみ」
僕は鳳凰と管狐を出して、彼らと一緒に寝ることにした。肌触りがいいし、落ち着く。
きゅるる、こんこん、と彼らが鳴くのを聞きながら、僕はすとん、と眠ってしまった。
翌日。召喚獣をしまってから部屋を出ると、もうラオクレスが起きていた。
それから少ししたらフェイも起きてきたので、僕らは揃って朝ご飯を食べに行った。
その後は……少しのんびり過ごして、僕は窓から見える風景を写生しながら時間を潰して……そして昼過ぎ。
僕らは早速、パーティに向けて身支度を始めた。
「ま、男3人だと身支度が楽でいいよな」
身支度と言っても、そう大変なことじゃない。僕の服はスーツみたいなものだから、十分1人で着られる。……ただ、蝶結びをバランスよく自分の首元でやるのは中々難しかったので、それは何度か頑張った。
……これ、女性のドレスだと、1人で着替えられないって聞いたことがある。うん、僕、男でよかった。
着替えたら最後に持ち物の確認をして、それから出発。
目指すは王城。この国で一番立派な建物、らしい。
王城に入るところには門番の人が居て、そこでフェイは何か手続きをした。招待状を見せたりしていると、門番の人達はあっさりと僕らを通してくれた。
進んでいくと、僕らは建物の中へ入ることになって……そしてそこで、驚かされた。
「すごい……!」
とにかく、広い。
石造りの豪奢な建物は、外から見ても圧巻だったけれど、中に入ってみたら改めてその大きさが分かる。
お城に入って最初の大広間には、どっしりとした柱が何本も立ち並んでいた。天井は高く、どうやら吹き抜け構造になっているらしいことが分かった。ただ、それにしても天井が高い。なんだか、自分が小さくなってしまったように感じる。
そしてこのお城は、大きいだけじゃなかった。
お城の名に恥じない装飾がそこかしこにある。まず目を引くのは、この大広間の壁いっぱいに描かれた壁画。フレスコ画だろうか。色鮮やかな絵は、何かの物語を描き表したもののように見える。
僕の数少ないこの世界の知識を総動員して考えると、この壁画は『勇者が魔王を倒した物語』の絵なんだろうと推測できた。確か、文字の勉強中にそういう本も読んだ。
見どころは壁画だけじゃない。どっしりした柱は、微かに優しいグレーの縞が走った大理石。そしてそこには精緻な彫刻が施してある。
柱1本1本に違う彫刻があると気づいた時、思わず息を呑んだ。それぞれの柱にはそれぞれ違う生き物が彫刻されているように見える。ドラゴンとか、フェニックスとか。アリコーンも居る。……流石に鳳凰と管狐は居ないかな。
床は濃いグレーの大理石。敷かれた絨毯の赤が眩しい。奥に見える階段は優雅な曲線を描いて伸びていて……恐らく、パーティの来客だろうと思われる着飾った人達がそこを上がっていくのが見えた。それがまた、絵になる。
「どうだ?トウゴ。来て良かっただろ」
「うん!」
これはもう、頷かざるを得ない。これはすごい。本当に来て良かった!
「あの、フェイ。パーティの会場に行く前に、あの壁画、もう少し見てもいい……?」
「おう!いいぜいいぜ!じっくり見ていこうな!んで、時間潰すぞ」
フェイとしてはパーティ会場に入るのはギリギリがいいみたいだし、丁度いい。僕は早速、大広間の壁画を見に、壁へ近づいていった。
見れば見る程、壁画は素晴らしかった。ただ、どういう画法で描かれたものなのかがよく分からない!
最初は、フレスコ画かな、と思った。漆喰で塗った壁に顔料を乗せていって、そして、描き上がって時間が経って漆喰が結晶化していくにつれて、色が深く鮮やかになっていく、っていう。
ただ、壁が漆喰壁にしては少し透明感があるというか、もっと硬そうに見えるというか。うーん、やっぱりこれ、フレスコ画とは違う気もする。
……それから、絵の具がちょっと特殊なように見えた。
「ねえ、フェイ。この絵の具って、なんだろう」
「ん?……んー、悪ぃ。分かんねえや。俺、絵は詳しくねえからさあ……」
フェイに聞いてみたけれど、よく分からない。けれど見る限りどうも、絵の具から微かに魔力、らしいものを感じる気がする。
「けど、魔力があるように見えるなあ。ってことは、魔石を砕いて絵の具にした、とかか?……やっぱ、王城ってだけあって贅沢だなあ」
うん、そうか。これ、魔石の絵の具なんだ。
……ということはこの絵、もしかして、魔法で描いた絵、だったりするんだろうか。気になる。
それから壁画をゆっくり見せてもらった後は柱の彫刻を眺めた。ドラゴンの鱗の1枚1枚が彫り込まれていたり、フェニックスの羽の柔らかさが固い大理石で表現されていたり、はたまたアリコーンの尻尾の靡き方がまるで彫刻に見えなかったり、これも勉強になった。すごいな。いつか彫刻もやってみたい。
更に、階段を上がる時には手すりの象嵌細工に見惚れて、階段を上がり切ったところで水晶細工に見えるシャンデリアに驚いて、敷かれている絨毯に織り込まれた模様に感心して……パーティ会場らしい部屋の前に到着するまでに、何度も何度も興奮させられた。
「さっきっからトウゴの目が輝きっぱなしで俺は嬉しいぜ」
「普段とまるで表情が違うな……」
フェイもラオクレスも、僕に付き合って色々面白がりつつ、あちこち見て回ってくれた。
あれはなんだろうか、と聞けば、フェイは案外博識で色々と教えてくれたし(どうやらさっきの手すりに象嵌されていた金属は魔鉱だったらしい)、ラオクレスは僕が絵や美術品に夢中になって周りの人にぶつかったりしないようにしてくれた。何度か彼に引っ張られた。うん、ごめん。
「さて。じゃ、そろそろ入るかぁ……。ま、いい時間だしな。まさか入城してからここまで時間潰せるとは思ってなかったぜ。上出来」
そうして僕が満足した後、フェイはそう言ってにやりと笑った。
「トウゴのおかげで結構時間が潰れたぜ。ありがとな」
「ごめん、結構時間をとらせてしまったけれど」
「おう。いいのいいの。それが目的だった訳だし。俺としては『うちのお抱え絵師に絵の勉強をさせていました。何せ王城に上がったことのない奴でして、随分興奮してしまったらしく』で通せる。言い訳としては最高だな」
うん。僕がフェイの言い訳になれるなら、それは何より。
「……ってことで、トウゴ。いいな?俺がヤバくなったら、お前、体調不良になれよ?」
うん。……うん?
「ちょっとしおらしく『具合が悪くなっちゃった』っつって俺の服の裾引っ張ってくれりゃいいから」
……うん。
「努力はする」
「おう。頼むぜー」
まあ、フェイが変な人に話しかけられて困っていたら、体調不良になろう。それくらいはするよ。
パーティ会場に入ったら、途端、音楽が僕らを包み込んだ。
弦楽器らしいものや、笛らしいものの音が重なり合って、音楽になっている。1つ1つの音を聞き分けることはできないけれど、逆に言えば、それだけ音が溶け合って1つの音楽に、そしてこの会場の空気になってしまっている、ということなんだろう。
音楽に合わせて踊っている人も居る。歓談している人も居る。その人達全員が着飾っていて、特に女性は華やかなドレス姿だ。成程、これは確かに、一見の価値がある。
「とりあえず飲み物貰って壁の花になるぞ!」
「うん」
フェイの前向きに後ろ向きな言葉を少し可笑しく思いつつ、僕はフェイがウェイターの人を呼び止めるのを見ていた。
……その時だった。
「ごめんなさい。私にもおひとつ、頂けるかしら?」
フェイが飲み物を貰った後、その横からウェイターの人に声を掛けた女性が居た。
その女性はふと、隣に居たフェイがラオクレスに飲み物を渡しているのを見て、それから、フェイの隣に居た僕をちらり、と見て……。
……うん。その時、僕と目が合った。
そして僕は、その人の目を見た瞬間、奇妙な感覚を覚えた。ふわり、とベールを被せられてしまったような。
周りの音が遠のいて、周りのものがよく見えなくなって……ただ1つしか、見えなくなる。
……目の前にある芸術品めいたその人しか、見えない。そんな感覚だった。
女性の黒いドレスは大胆に肩が出るデザインで、更に体の線がよく出るような、そういうドレスだった。
けれど、いやらしいかんじはない。……生々しく見えないのは、現実味がないくらい綺麗だから。まるで、彫刻か何か、芸術品を見ているような、そんな気分にさせられてしまうからだ。まるで、曲線美のお手本みたいだ。ドレスのデザインといい、アール・ヌーヴォーの世界を感じる。
色も素敵だ。鮮やかな金の髪は長く腰まで伸びて、黒いドレスによく映えている。そして、白く滑らかな顔の中、すっと通った鼻筋も小さな顎も綺麗だけれど、何よりも……その鮮やかな翠の瞳が、印象的だ。
翠の瞳は金色の濃い睫毛に縁どられて、まるで1つの宝飾品みたいに見える。そして、一度見てしまったら、目を逸らせない。まるで、そういう魔法みたいに。
その女性は僕を見て、ぱちり、と一度、瞬きをした。それから数度目を瞬かせた後、ちら、と横を見て……それから、その薄紅色の薔薇の花弁みたいな唇の端をそっと持ち上げて、僕に微笑みかけた。
……芸術品が笑った。
僕が驚いていると、女性はウェイターの人から飲み物のグラスを受け取ってお礼を言って、優雅に去っていってしまった。
「おい、トウゴ。どうしたんだ?ほら、壁際行くぞ」
「うん……」
フェイに声を掛けられたけれど、咄嗟に頭が働かない。
フェイはそんな僕を見て、きょとん、として、それから、僕の視線を辿って……そして。
「お……?」
にやーっ、と、笑った。
「お?どうしたトウゴ。さっきの人、見てるのか?まさか一目惚れか?」
如何にも嬉しそうな、そんな様子で聞いてくるフェイに連れられて移動しながら……僕は、頷いた。
「うん……そうかもしれない」
「おお!トウゴが!トウゴが一目惚れか!そっか、お前も女に興味が!いいじゃねか!な!」
フェイは声を潜めながらも嬉しそうにそう言って、僕と、僕の視線の先、もう人ごみに紛れてしまったさっきの女性の方とを見ている。
「俺はちらっとしか見てねえけど、お前は顔、覚えてるだろ?なら探して、声かけてみようぜ!な!折角の機会だ、動かなきゃ損だろ!」
何故か僕よりはしゃぐフェイの言葉を聞きつつ、僕は、心臓がいつもよりちょっとうるさいのを感じて、もう一度自分の気持ちを見直して……確かにそうだ、と思った。
「うん。一目惚れだ……ラオクレスを見つけた時と一緒だ」
「……おい。待て。今、聞き捨てならないことを言ったな?」
僕がぽーっとした気持ちで居ると、ラオクレスが妙に焦りを浮かべて僕を見ていた。
「トウゴ。俺もなんかこう、聞き捨てならねえことを聞いちまった気がするんだけどよ?」
更に、フェイも妙な焦りを浮かべて、じっと、真正面から僕の目を見つめてきた。
「おい。おいトウゴ。お前、お前……ラオクレスに一目惚れしたのか?」
「……うん。多分、そうだったんだと思う」
僕は今まで、一目惚れというものがどういうことか分からなかったけれど、今、言われて分かった。
この気持ちが『一目惚れ』だ。
「僕、あの人、描きたい」
「そうか!一目惚れって!お前の一目惚れってそういうことなのかよ!成程なあ!くそっ、納得しちまった!」
「俺はこれに安心していいのだろうか。それとも心配すればいいのだろうか……」
「俺はなあ!トウゴも女に興味が湧いてきたんだと思って!なんか嬉しかったんだぞ!?お前のことだからきっと微笑ましい恋路を行くんだろうと思って、すごくワクワクしたんだぞ!?おい!」
「うん、僕もわくわくしてる」
「そっかあ!ワクワクか!つまりそれは描きたくてワクワクしてるんだな!?」
「うん。描きたい」
僕もわくわくしてる。すごくわくわくしてる。一目惚れしてしまった。
……うん。あの人、すごく描きたい。