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今日も絵に描いた餅が美味い  作者: もちもち物質
おまけ:ずっと絵に描いた餅が美味い
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森の巣ごもり

 初夏の気配が満ちてきた今日この頃、僕は妙にむずむずしていた。


 こっちの世界に来てすぐ、むずむず、そわそわ。鳥に抱卵のための果物を食べさせられちゃった時みたいに、体の内側から魔力がくすぐってきて、どうにも耐え難いくらいにむずむずするんだよ。

 なんでだろう、って思いながらも体がむずむずするものだから、困った。

 現実の世界へ帰ってしまえば魔力があんまり関係なくなるからか、むずむずは収まるのだけれど……でも、だからといって問題を先送りにしても仕方がないし……。

「おーい!トウゴー……ん?お前、どうしたんだ?なんか具合悪いのか?」

 ……どうしようかなあ、って思ってた矢先、フェイがやってきたものだから、僕……ついつい、やってしまった!

「んっ!?お、おい、トウゴ?どうした?おい、おーい、トウゴー、トーウーゴー?」

 ぎゅ。

 ……魔力が少ない生き物にくっついていると、体のむずむずがちょっと落ち着くんだよ。ということはやっぱり、僕、今、魔力が一時的に増えちゃってる、のかもしれない。そういえば最近、お祭りやったばっかりだしなあ。ソレイラ花祭りはかつてないほどに大盛況で、僕への祈りもいっぱい捧げられていたから……あれのせいかなあ。

「んんん?これ……まさかトウゴ、お前、魔力の具合、悪いのか?」

「うん……多分……」

 心配そうなフェイの声を聴いて、ああ、急に抱き着いちゃ駄目だよなあ、というか急じゃなくても駄目だよなあ、と思い出す。フェイにくっついていると体が楽なものだから離れがたいのだけれど、でも、それはそれ、だ。僕はフェイから離れて……。

 むぎゅ。

「フェイ?あ、あの、離して」

 離れたはずだったんだけれど、フェイの方から抱き寄せられてしまった。途端にまた体が楽になってきてしまって、とっても離れがたい!離して、なんて言っておきながら、僕自身に離れる気が無いんだ!ああ、なんて奴だろう、僕って!

「ま、いいだろ。魔力が昂っちまってるみたいだし……そういう時には魔力が少ない奴にくっついてるのが一番!な!遠慮なんてナシだぜ!」

 更に、フェイは僕のことを抱えると、そのまま歩き出した!うわうわうわ、ラオクレスならまだしも、僕、フェイにすら運ばれちゃうのか!

 フェイはラオクレスみたいに軽々と、という訳ではないけれど、僕を運んで、シーツや毛布で僕を包んで……そして。

「ってことでお前、巣ごもりな!」

 満面の笑みで、そんなことを言うのだった。

 ……巣ごもり!?ぼ、僕、ドラゴンじゃないよ!森だよ!ただの森だよ!




 僕の主張は空しく、フェイによって巣ごもりの準備が進められていった。

 ……まあ、魔力が不安定な時に活動しない方がいい、っていうのは、僕も賛成だ。僕の魔力が不安定なせいでソレイラに悪影響が出たら大変だし。

 だから、安静にしておくのは、賛成。けれど……。

「ねえ、フェイ。僕、巣ごもりはしなくても、いいと思うんだけれど……」

 僕、巣ごもりは別にしなくてもいいと思うんだよ。今も、せっせとフェイがシーツや毛布で巣を作ってくれているけれど。あの。ねえ、フェイ。

「んー?ドラゴンが巣ごもりするのって魔力が不安定だからだろ?なら、お前も巣ごもりしてみたら安定するかもしれねえだろ?」

「いや、でも、僕ドラゴンじゃないんだけれど……」

「いやいや、そういう訳にはいかねえ!」

 主張してみるも、フェイはにんまり笑って僕の巣作りを止めない。

「俺は巣ごもりしたんだからお前も巣ごもり!な!」

 ……フェイはどうやら、前回フェイが巣ごもりした時のお返しをしようとしているらしい。ああああ……。


「フェイ兄ちゃん、どうしたんだよ、急に」

「お邪魔しまーす!……わあ、トウゴ、鳥さんみたいだわ!かわいいわ!」

「ふわふわ……とりさんのす、なの?」

 それから少しして、子供達がやって来た。フェイが召喚獣伝いに呼び出しちゃったらしい。いや、確かに成長期の子供が近くにいてくれたら、魔力が安定するかもしれないけれどさ。

「わあ、鳥さんになった気分だわ!ここ、中々居心地がいいのね!」

「そりゃあどうも……」

 そして、子供達が僕の巣に潜り込んでくる。おかげで毛布とシーツの巣の中がきゅうきゅう。でも、これはこれでいいかんじ。ああ、いざ巣ごもりしてしまったら、なんだかとっても落ち着いてきてしまった!

「どうだ?やっぱり子供達が居るのが一番だろ?」

「うん……ちょっと楽になってきてしまった」

 申し訳ないような恥ずかしいような、そんな複雑な気持ちで頷いたら、フェイはにこにこしながら僕の頭を撫で始める。撫でないで、撫でないで!

「他に何かほしいもん、あるか?何でも持ってきてやるから言えよ?」

 更に甘いことをいうものだから……ええと。

「ほら、レネは好きなものとか気に入ったものとか、巣に入れてたんだろ?」

 うん。確かにそうだ。レネはそうしていたし、フェイは魔力がいっぱいのものとか、集めていたし。

 そっか……好きなもの。気に入ったもの。大好きな、もの……。

 なんだろうなあ、と考えればすぐ、結論が出てくる。

「な、どうだ、トウゴ」

「ええと……」

 結論は出たので……後は、解決に向かうだけ、だ。

「ちょっと、外に巣を作り直すね」




 ということで、僕は家の裏手に巣を作り始めた。

 若い木をぐるりと円形に並べて生やして、枝を伸ばして……宙に、がっしりした枝で組み上がった巣の土台をこしらえる。その上に乗せるのは、まずは細くてしなやかな木の枝。その次に葉っぱ。その上にふかふかの苔の布団だ。スポンジみたいな質感の苔を手近な地面から生やして、それを運んで巣の中へ。

「と、トウゴが本格的に巣作り始めた……おもしれー」

 フェイがぽかんとしつつも楽しそうに僕の作業を見ている。そしてすぐ、苔を巣へ運び込む手伝いを始めてくれたのだけれど……うん。

「フェイは巣に入っててね」

 もう苔が敷き詰められてふかふかになった箇所があるから、フェイにはそこに居てもらうことにする。ちょっと蔓を伸ばしてフェイを抱き上げて、ひょい、と巣の中へ。

 フェイは急に抱き上げられてびっくりしていたようだけれど、それは後で。今は巣を早く作って、大事なものでいっぱいにして、巣ごもりしたい。巣ごもりしたくなっちゃった!うう、フェイが誘惑してくるから……。


 巣の中に苔を敷き詰め終わったら、ちょっとあちこち腕を伸ばしつつ、家の中へ戻る。画材の類を一式運んで、巣の中へ。それから……。

「きゃー!?蔓に捕まっちゃったわ!」

「う、うわうわうわ!お、おい、トウゴ!この木の蔓お前かよ!離せよー!」

「わあ、木のえだにだっこされちゃった……」

 まだ家の中の仮の巣に居た子供達も、抱っこして巣の中へ。大事なものは巣に入れなきゃいけない。

 それから僕も巣の中へ。子供3人とフェイ、あと画材が入った巣の中は、なんだか落ち着く。体のむずむずも少し収まるようなかんじ。


 ……そうして少し待っていると。

「おお、やっぱりトーゴの仕業か!やあ、トーゴ!愉快なことになっているね!」

「先生!」

 先生がやってきてくれた。……いや、僕が連れてきちゃったんだけれど。木の蔓を伸ばして、先生の手首に巻き付いて、くいくい引っ張ってこっちまで連れてきちゃったんだけれど。先生も連れてこられてくれたっていうことだから、なんだか嬉しい。

「お邪魔していいかい?」

「どうぞ!あっ、ここまで上るの、大変だよね。ええと、じゃあ……よいしょ」

「おわっ!?」

 巣の下まで来てくれた先生を、木の蔓で抱っこして、ひょい。巣の中へ運び込む。

「……君、本当に森の精霊様なんだなあ、トーゴ」

「うん。僕、森だよ」

 なんだかちょっと複雑そうな先生に何故か撫でられつつ、ますます居心地が良くなった巣の中で、僕はなんだか嬉しくなってきてしまう。

 ……よし。もっと大事なもの、大好きなものを集めるぞ!




 それから少しして、ラオクレスとクロアさんもやって来た。

 ラオクレスは最初、手首に巻き付いた蔓を見て『何だこの蔓は!』と驚いていたのだけれど、一方のクロアさんは『あら?トウゴ君かしら。どうしたの?私を連れていきたいの?ふふ、いいわよ。運んで頂戴?』って言ってくれたので、そのまま蔓で抱っこしてバケツリレーの要領で運んで、巣までひょいひょい運び込んでしまいました。ありがとう、クロアさん。

 ラオクレスは手首をくいくい引っ張られながら歩いて来てくれたので、巣の下まで来たところで、蔓で抱っこして、ひょい。『俺を持ち上げた、だと……!?』ってラオクレスはびっくりしていた。どんなもんだい。

 ……それから、ライラ。

「あーあーあーあー、トウゴ、あんた何やってんの?」

 ライラは、呆れた顔をしながらやってきてくれた。そ、そんな顔しなくたって!

「この蔓、あんたでしょ。そうだと思ったわ」

 ライラの腰には僕の腕……いや、腕じゃなくて、木の蔓が回してある。いや、ライラはちょっと遠いところにいたものだから、その分、ちょっと力が入ってしまっても大丈夫そうな腰を捕まえさせてもらいました。

「よお、ライラ!今、絶賛トウゴの巣ごもり中だぜ!」

「あー、フェイ様も居るの?……いや、この調子だともう大分集まってんのかしら……?」

 フェイが巣から顔を出してライラに手を振る。ライラは呆れた調子だったけれど、嫌がってはいない、みたいだ。

 じゃあ、ということで早速、ライラを抱き上げて巣の中へ。

「うわ、この木の蔓やっぱりトウゴなのね……」

「え?うん。だって僕、森だから……」

 ライラは急に抱き上げられてびっくりしていたみたいだけれど、なんだかちょっとジトッとした目で蔓を見つめて、つんつん、と指先でつつき始めた。あっ、やめてやめて、くすぐったいよ!それ、僕なんだからな!




 そういう訳で、僕の巣の中は大分賑やかになってきた。皆が居てくれると、なんだか嬉しい。居てくれるだけで、もう嬉しい。

 更に、鳥がバサバサやってきて、いつの間につれて来たのかレネを運んできてくれたので、ますます巣の中が楽しくなったよ。ありがとう、鳥!……尤も、レネは『わにゃー!?わにゃっ!?わにゃっ!?』としばらく混乱気味だったけれど。ごめんね、レネ。


 賑やかになった巣の中で、僕はまたむずむずしてきた体をどうにかすべく、ひとまずリアンにくっつく。リアンは『俺にくっつくんじゃねえー!』と抵抗していたけれど、その内『今日だけだからな!』って許してくれた。ありがとう!

 リアンが魔力で満たされてしまったら、次はカーネリアちゃん。その次はアンジェ……と思ったら、アンジェはもう妖精の国で大分魔力を貰っているらしくて、僕の魔力の余剰を吸い取ってくれる隙間はほとんど無かった。なんてこった!

 しょうがないから次はラオクレス。膝の間にすっぽり収めてもらって、太腿に凭れて丸くなる。『猫のようだ……』とご感想を頂きましたが、僕、森です。

 そうこうしていたらラオクレスの脚の間に居る僕を撫でに、クロアさんがやってきた。2人に魔力を吸い取ってもらって、撫でられて、なんだかいい気持ち。

「それにしても、なんでトウゴは皆集めてるの?魔力が少ない人間達が居ると具合がいいとか?」

 そうこうしていたら、そんな僕を面白がっているらしいライラがレネと一緒に僕を覗きにやって来た。レネは『とうご、かあいい!』とにこにこしている。かあいい……えっ、可愛くないよ!僕は可愛くないってば!

「そーそー。最初、トウゴが急に俺に抱き着いてきてさあ。ま、知恵熱の時、魔力が少ない奴にくっつくのは常套手段だよなあ」

 そこへフェイも入ってきて、にまにましながらライラに説明する。そ、それは内緒にしておいてくれたって……うう、いや、文句は言えない。くっついちゃったのは僕なので……。

 ただ、訂正もさせてもらうぞ、という気持ちで、僕は顔を上げて主張する。

「それもあるんだけれど……巣ごもりの時には、大切なものや大好きなもので巣をいっぱいにするものらしいから」

 だから、大切で大事な皆に来てもらってしまいました。そう説明すると、ライラもフェイも、ついでに僕を撫でていたクロアさんもラオクレスも、この様子をメモしていたらしい先生も、ぽかん、としてしまった。

 ……そして。

「へー。可愛いわねー。何、皆が大切で大好きだから集めちゃったんだ?ふーん?」

 ライラがなんだかにこにこしながら僕を揶揄ってくる。なんだか改めて言われると、恥ずかしくなってきてしまう。うう……。

「あらあら。トウゴ君、今日はいつにも増して可愛いわねえ。甘えんぼさんだわ」

 更に、クロアさんがにこにこ、やたらと嬉しそうに僕の頬をつついてくるものだから、なんだかとっても恥ずかしくなってきてしまう!

「……まあ、体調が悪い時くらいは、こういうことがあってもいいだろう」

「ラオクレス、あなた本当にトウゴ君には甘いわねえ。ふふふ……」

「そんなことは無いが……」

 いや、ラオクレスは結構僕に甘いと思うよ。……それが心地よくって、僕がこうやって甘えてしまうから、余計に、だと思うけれど。うう、ごめんなさい。でも今日はどうしようもないから許してほしい……。




 それから僕は、皆に思い思いに過ごしてもらうことにした。

 リアンとアンジェとカーネリアちゃんには、絵本を沢山用意する。……ええと、妖精図書館からちょっと借りてきた。ちゃんと貸し出し手続きもして、木の蔓リレーでここまで運んだよ。

 クロアさんは刺繍を始めている。材料とやりかけの刺繍がクロアさんの家にあるって聞いたので、それを持ってきた。

 先生にはノートパソコンを持ってきて、カタカタやってもらう。フェイはそれを覗き込みつつ、僕の家から持ってきた漢字ドリルで向こうの世界の言葉の勉強を始めた。

 レネは森の花で花冠を編み始めた。夜の国に持って帰って、魔力不足の人達にプレゼントするんだってさ。

 ラオクレスはクロアさんの横で剣や鎧の手入れをして、ライラはクロアさんとラオクレス2人の絵を描く。

 そして僕は、そんな皆を描きながら、日差しが強くなって来たら枝葉を伸ばして木陰を作ってみたり、巣材の苔を増やしたり、巣のお手入れ。

 ……皆が巣に居てくれるこの状況が、なんだかとっても幸せだ。満たされている……。


「さて、トーゴ。甘えん坊ついでに何かしておきたいことは無いかい?」

「えっ、これ以上?」

 そうして僕が幸せになっていたところ、ふと、パソコンから顔を上げた先生がそう、言ってきた。

「折角だし、今日は一日わがまま放題しちまうといいさ。まだ魔力は不安定なようだし……」

 先生、僕の魔力の調子が分かるの?と不思議に思いつつ先生を見つめてみたら、先生は僕の額に大きな手で触って、『うーん、見た目通りだ。非常にあったかい』と感想を述べてくれた。成程、僕、熱っぽい見た目になってるんだね。

「折角だしそうしたら?あんたがこういう甘えん坊になってるの、なんかいいのよね」

 ライラがそう言いつつ、レネを連れてきて僕にぺそ、とくっつけた。レネはひんやりして気持ちいい。レネも「ふりゃあ!」と嬉しそう。僕ら、WIN-WINの関係。

「あの……それじゃあ、我儘、言ってもいい?」

 レネをきゅ、とやりつつ、僕は……その、お言葉に甘えて、もっと甘えてしまうことにする。気の迷いだろうし、巣ごもりが明けたら後悔する気もするのだけれど……でも!

「皆に触りたい」

 さっきからずっと、うずうずして仕方ないんだよ!


「……さっきから触っているような気がするが」

「ええと、撫でてもらったり、抱きしめてもらったりするんじゃなくて……僕が、そういうことをしたい」

 ……言ってしまってから、ちょっと冷静になってしまう。僕、随分ととんでもないことを言っていないだろうか。気持ち悪い奴だって思われるんじゃないだろうか。

 いや、でもよく考えたら、その前から随分ととんでもないことをしている!今更だ!もう気持ち悪いって思われていてもしょうがないし、なら、僕は今すぐ謝るべきじゃないだろうか!

 ……と、一瞬の内に頭の中で色々と考えた矢先。

「よし!かかってこい!受けて立ーつ!」

 笑顔でフェイが両腕を広げて、僕の前に立っていた。

 ……あああ。

「……お言葉に甘えて!」

「んっ!?撫でたり抱きしめたりって、木の蔓でやるのかよ!」

 僕はフェイを捕まえて、ぐるぐる、と木の蔓を胴体に回して、きゅ、とやらせてもらってしまった!あああ、ごめんなさい!ごめんなさい!ああ、でも、でも……とっても落ち着いてしまう!




 それから僕は、もう自棄になって全員を抱きしめてしまうことにした。

 柔らかくてすべすべした木の蔓をするする伸ばして皆を抱きしめて、花の蕾をつけた蔓を伸ばしてそれで皆を撫でたり、つついたり。柔らかい蕾でつつかれるとくすぐったいらしくて、皆、くすぐったがってくれた。特にレネ。

 他にも、甘い蜜を出してご馳走してみたり、木の実を実らせてご馳走してみたり。子供達やレネを優しく揺すっていたら眠くなってきてしまったらしいので、そのまま木の蔓を揺り籠の形にして、ふかふかの苔を敷き詰めて、柔らかい葉っぱや花びらを布団にして、寝かしつけてみたり。

「あらやだ、私、トウゴ君に甘やかされてるわ……」

 クロアさんは複雑そうな顔をしつつ、今、木の蔓の揺り籠の中。何となく眠くなってきているみたいだったから、子供達よろしく寝かしつけるぞ。

「……妙な感覚だな」

 ラオクレスは体重を全部僕に預けて、木の蔓のリクライニングチェアの上。ラオクレスの体を僕が支えているのって、すごく不思議な心地だ……。

「なあ、トーゴ。これは昼寝しろってことかい?」

「眠くなったら是非どうぞ」

 先生はすっぽり、花の中。……ほら、森の中に元々咲いていた大きな百合の花。ああいうかんじの大きな大きな花で、先生の胸のあたりまですぽんと包んでしまっているんだよ。はみ出た分は苔と花弁のマットレスでどうぞ。

「気温も丁度いいし、至れり尽くせりの昼寝環境だ……よし、おやすみ!」

「おやすみなさい」

 先生がウキウキ寝てしまったのをちょっとだけ蕾で撫でさせてもらいながら、僕はなんだか満たされた気持ちになる。……大好きな人達を寝かしつけるのって、なんだかとっても幸せなかんじがするなあ。

「……トウゴに甘やかされるとよー、なんか変なかんじするんだよなあ」

「そうねえ。なんていうか……うー、森って、大きい、わね……うーん、そんなかんじだわ……」

 フェイとライラはなんとなく釈然としない顔をしているけれど、僕は森なので。僕に住まう森の子達は可愛いし、可愛がりたい。

 ……うん。そう。僕、皆を甘やかしたい。大事に包んで、抱きしめて、撫でていたい。それでいて自由であってほしくて、居心地よく過ごしてほしくて……うう、複雑な気持ち!




 そうして、皆を寝かしつけてしまった。ああ、充足感……。

 木の蔓や花の蕾越しに伝わる皆の体温で、なんとなく安心してしまう。気持ちよさそうに寝ている森の子達を眺められるって幸せだなあ。

 ……ということで、僕も昼寝してしまうことにした。適当に居心地のいい姿勢を作って、ころん、と横になる。ふかふかの苔の感触を楽しみながら目を閉じて、大事で大好きなものでいっぱいな巣の中で、そのままとろとろ、眠りの中へ……。


 目が覚めたら夕方だった。僕が目覚めてちょっとしたら、他の皆もゆるゆると起きだしてくる。

 もう夕方だし、ということで、召喚獣達にお願いしてソレイラのお持ち帰りメニューを運んできてもらって、巣の中でパーティにしてしまった。ついでに木苺や杏や桃なんかを実らせて皆に食べてもらったり、そこらへんにいた魔王を捕まえて連れてきたり、ソレイラに帰ってきたルギュロスさんも蔓で捕まえて連れてきたり、鳥が勝手にやってきたりして、随分と好き勝手に過ごさせてもらった。

 ……皆、よく付き合ってくれたなあ、って思う。




 そうして翌日。ぐっすり眠って起きたら、もう体のむずむずは消えていた。どうやらお祭りのせいで昂ってしまった魔力は無事に収まったみたいだ。

「ふわ……おはよう、トーゴ。なんだかいい夢を見たなあ」

 先生は起きて開口一番にそう言って、よっこいしょ、と花の寝袋から抜け出してきて……それから、もさもさ、と僕の頭を撫でる。

「うむ。木の蔓に撫でられるのもあれはあれで面白かったが、やっぱりこうでなくては」

 そして何やら満足気な顔で、先生は僕を撫で続ける。ああああ。

「あの……怒らないの?」

「怒る?」

「いや、僕、好き勝手してしまったので……」

 そして魔力が収まって多分正気に戻った僕としては、昨日の自分の暴れ方にちょっと、その……自己嫌悪している、というか……。皆の迷惑も考えずに、一体何をやっているんだ、僕は。

「いいじゃあないか。僕らは『森の巣ごもり』なんていう、滅多にないイベントを経験させてもらえたわけだし。中々楽しかったぜ、トーゴ」

 先生はそう言って笑ってくれるけれど……うう。

「それに、君はレネやフェイ君の巣ごもりにも付き合ってるらしいじゃないか。彼らもそれなりに好き勝手やっていたんじゃあないのかい?君はそれが嫌だったか?」

「ううん、嫌じゃなかったよ」

「ならそれとおんなじさ。僕らだって、君の好き勝手が嫌になりはしないよ。ただ『面白い!』って笑って終わりだな」

 ……まだ申し訳なさと自己嫌悪が残るけれど。でも、確かに先生の言う通りかもしれない。僕が気にしすぎても皆、気にするだけだろうしなあ。うう、ここは図太くなった方が、いいかもしれない。……ああ、僕って皆に甘えてばっかり!




 それから皆が起き出してきたところで、朝食にトーストとハムエッグを作って振舞って……そうして解散、となりました。お世話になりました。ご迷惑をおかけしました。うう。

「それにしてもトウゴの巣ごもりも面白かったなあ!」

「そうね。ま、妙なことになってるトウゴを描けたし、中々楽しかったわ」

「らいらー、らいらー、『にゃんかいーのよ』?しー?」

「トウゴの巣の中で眠ると、その、妙に夢見がいいな。随分とすっきりした気分で目覚めたが……トウゴ特有の魔法か何かか」

 けれどもやっぱり皆、いい人達なので。こうやって、僕の我儘に付き合って楽しんでくれちゃう人達なので……だから僕、この人達が大好きなんだなあ、と思うよ。

「これからも定期的にお祭りを開いてもらいましょうね。すっかり森として巣ごもりしちゃうトウゴ君は中々見ていて可愛かったから。時々は見たいわ」

 クロアさんの言葉を聞きつつ、もう二度とこういうことにならないように、お祭りは控えてもらった方がいいだろうか、なんて思いつつ……。

「……ところで私には何の説明も無しか?ソレイラに戻ってすぐ、謎の蔓によってここまで連れてこられた私への謝罪も無いようだが?」

「うん、ごめん、ルギュロスさん……急に連れてきてしまって……」

 急に被害に遭ったルギュロスさんも怒ってるし。いや、この人は大体いつも怒ってる気がするけれど……。

「良かったな、ルギュロス!お前もトウゴが巣に入れておきたいくらい大切で大好きなものらしいぜ!」

「ど、どういうことだ、それは」

 ……けれどフェイが説明し始めたら、ルギュロスさんは何とも言えない顔で『ほう……』とか言いつつ僕を見て、『……正気を失っていたなら仕方ないな』って許してくれた。うう、ありがとう、ルギュロスさん。

「次は最初から参加できるといいな、ルギュロス!」

「次があるのか……?」

 ……ルギュロスさんの言う通り、次は無い方がいいと思うんだけれど。皆に迷惑が掛かってしょうがないよ。

「でも、ソレイラでお祭りを盛大に開くたびにこうなっちゃうかもしれないじゃない?」

「だがソレイラの祭を無くすわけにもいかんだろう」

 う、ううう、いや、でも……せめて、町の皆に、精霊への祈りを捧げないようにお願いする、とか……?

 ……また巣ごもりすることになっちゃったらどうしよう!




 結局、打開策は見つからなかった。そして、解決もしない方向になっちゃった。

 というのも……ソレイラの町に下りてみたら、町の農夫の皆さんが「トウゴさん!見てください!ほら、こんなに実りが!」って、畑の様子を見せてくれた。どうやら、僕の魔力がいっぱいになってしまった分は、僕が巣に連れていってしまった皆に吸ってもらった他、ソレイラの大地に溶け込んで作物の生育に貢献していたらしいんだよ。

 杏は木にたっぷり、たわわに実って1粒1粒がとっても大きい。キャベツは如何にも柔らかそうな葉っぱが瑞々しくて、たまねぎも立派に葉っぱを揺らしていた。更に、ちょっと早めのさくらんぼがたっぷり実っていたり、秋蒔き小麦がたっぷりとした黄金色の波になって麦畑でさわさわしていたり……。

『とっても豊作!品質も抜群!』とのことで、その、大喜びする皆さんを見ていたら、『もうお祭りはしません』なんて言えないし、『精霊への祈りも捧げないで』とも言えない……!

 更に、町の人と行き会う度に『なんだか夢見が良かったんですよ』とか『お祭りの後はソレイラ全体に力が漲るようですね!』とか、そういうことを聞いてしまった。

 ……うん。

「トウゴが巣ごもりするのって、つまり、森の調子を整えて一皮剥けるためだもんなあ。そりゃ、森にもソレイラにもいい影響があるわけだ!」

「興味深いところよね。ふふふ……」

 まあ、そういうわけで……僕は今後も森とソレイラの発展のため、時々、もしかすると、巣ごもりしちゃう、のかも、しれない……。

 ……いっそ、もう全員、巣ごもりして!それで引き分けってことにさせてほしい!

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[良い点] なんか、いいのよ…(今回ずっと頬が緩みっぱなし) [一言] ルギュロスさんほんとだだ甘にww
[一言] なんか、こう、いいのよ……(語彙力喪失)
[一言] なんだこのたまらん気持ちは・・・たまらん(語彙力)
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