妖精公園へようこそ!*4
「へへへ……俺も腕が上がったかもしれねえ!前回見た時全然分かんなかったけど今回はちょっとは分かってきたぜ!へへへへ……」
「酔ってるね、フェイ……」
「おー、酔ってるぞぉー……」
フェイがいよいよぐでんぐでんに魔力酔いしてしまったところで、休憩。外に出て、フェイを魔力の薄いところまで運んで……そこで僕とアンジェは揃ってフェアリーローズを出してみる。
いつも通り、水色からピンクまでのグラデーションの小さな薔薇の花がぽんぽん咲いて、茂みの出来上がり。
「これ、妖精公園の飾りつけにしてもいいね」
「うん!アンジェ、このお花、すきなの!」
相変わらず、フェアリーローズは綺麗な花だ。妖精達が早速近くにやってきて、嬉しそうに花をつついて遊んでいる。絵になるなあ。よし、描こう。
「……おー」
……僕が妖精とフェアリーローズを描いていたら、フェイがふらふらしながらやってきた。酔っぱらってるなあ。
「へへへ、きれーだなあ」
「綺麗だよね。ところでフェイ、お水飲む?」
「んー」
フェイがフェアリーローズの茂みに頭を突っ込みそうな勢いだったので、慌てて支えて、描いて出した水を飲ませる。フェイは大人しく、くぴくぴ、と水を飲んで……そして。
「……ぐう」
寝てしまった!今度こそ、フェアリーローズの茂みに頭を突っ込んで、寝てしまった!あああああ!
「フェイ!フェイ!起きて!」
「フェイおにいちゃーん!」
僕とアンジェは揃ってフェイを起こしにかかるけれど、フェイは起きない。僕はフェイの背中を軽く叩いているし、アンジェはフェイのお尻をぺちぺち叩いているのだけれど、やっぱりフェイは起きない!
いよいよこれは本格的に駄目か、と僕らが困る中……フェイが、もぞ、と動いた。
「……んんー」
そして何かもごもご言って、もそ、と動いて……また動かなくなる。寝るにしてもお尻を突き出した状態で頭からフェアリーローズの茂みに突っ込んでいる、っていうこの姿勢はやめようよ!ほら!妖精達が何かの決意をしたような顔で布団叩きみたいなの持ってる!お尻叩かれるよ!ほら!
……ということで、フェイのお尻を叩こうとしている妖精達を止めて、フェイを起こすべくまた背中のあたりを叩いて……とやっていたら。
「おおー!すげえー!」
唐突にフェイがそう声を上げて、がばり、と起き上がった。な、なんだなんだ!
「な、トウゴ!これ見てみろよ!」
そしてものすごく興奮した様子で僕をガシリ、と掴むと……僕の頭をフェアリーローズの茂みに、もそ、と突っ込んだ!な、なにするんだ!フェアリーローズは葉っぱも枝も柔らかいから怪我をするようなことはないんだけれどさ!
「地面から生えてるあたり、見てみろよ!」
けれどフェイがそう言うので、頭を茂みに突っ込んだまま、フェアリーローズの観察を行う。
……茂みの中は、案外すかすかだった。そりゃそうだね。葉っぱで隠れる位置に葉っぱがあっても光合成できないし。内側に花があったって受粉しにくいだろうし。
当然のことを再確認して、なんだかちょっと新鮮な気持ちのまま、茂みの内側を観察する。フェイの言っていた『地面から生えてるあたり』に注目してみると……。
「……うん?」
何か。根本の方の枝が、よく分からない伸び方をしている。
それはまるで、くねくねと枝が捻じれて曲がって、何かの模様を創り出すみたいに……。
「な!な!すげえだろ!」
「……もしかしてこれ、ゲートの魔法の模様、なの?」
茂みからようやく脱出しつつフェイに聞いてみると、フェイは未だに酔いがしっかり残っている顔でにこにこしていた。
「おう!多分、森の結界とはちょっと違うけどよ!これもまた1つの魔法の形だ!」
……なんと。
フェアリーローズって天然の、妖精専門のゲートの魔法を生み出す存在だったんだ!これはすごい!
ということで。ぐでぐでのフェイを僕の家に連れ帰って寝かせて、しっかり休ませて、翌日の深夜。
「えーと、じゃあこの設計図通りにフェアリーローズの根っこ、広げてくれるか?」
「えーと……どうしよう。地面の中のものは目に見えないものだけれど、こればっかりは先生より僕がやった方がいい気がする」
「そうだなあ。複雑な模様を描く根っこっていうのは、僕にはちょっと荷が重い」
そうして僕と先生とフェイとアンジェ、という4人組は妖精公園の入り口に来ていた。入場門の整備、ということにしているので、ソレイラの人達も近づいてこない。ありがたいなあ。
「じゃあ一旦地面を掘って、根っこまで僕が描いて実体化させよう」
「そうするしかなさそうだなあ……いいかい?トーゴ」
「任せて!」
まずは僕が入場門近くの地面を掘る。そしてそこに、フェイ指定の模様の通りに根っこを生やして絡ませたフェアリーローズの茂みを描いて出す。根っこの絡んだ位置にはフェイが日中に作っておいてくれた魔法の模様の金属板と宝石とを一緒に埋めて、ちゃんと地面を綺麗に戻して、フェアリーローズの咲き具合をアンジェがチェックして……。
「……よし!これで、妖精と妖精の魔力が通れないゲートの完成!だと思う!」
フェイはゲートの出来に満足したらしい。……どうやら、フェイはフェアリーローズの持つゲートの力をちょっと書き換えた……らしい。僕は説明されてもよく分からなかったのだけれども。
「森の結界の要素を足してみたんだよ。これで妖精はここを通れなくなった!だから攫われるようなことは絶対に無い!」
「じゃあ妖精用の入場門をこっちに作るね」
人間用の入場門が妖精出入り禁止になってしまったので、人間用入場門のよこに小さな小さな門を描いて作る。こっちが妖精用。そして人間は通れない、通常のフェアリーローズの効果を使ったやつだ。
「ついでに森の結界の要素をちょっと入れたから、改めてここでも魔物も立ち入り禁止だ!召喚獣は除く!」
「なるほど」
そして多分無いと思うけれど、人間用入場門の方は魔物の入場も……あっ。
「……ルギュロスさんが魔物判定されないだろうか」
「あー、大丈夫だろ。あいつはライラの召喚獣なんだし」
「あっ、そうか」
そうだったそうだった。よかった。ルギュロスさんだけ妖精公園に入れない、なんてことになったら、彼、拗ねてしまうところだった。危ない危ない。
さて。こうして加工したフェアリーローズの入場門が人間用と妖精用とで2つ完成したところで……僕らはもう1つの問題に行きあたる。
「これで妖精が誘拐される、っつう最悪の事態には対処できるけどよー、結局のところ、公園内のものの持ち出しとか盗難については対応できねえんだよなあ……」
「うん……」
今、僕らが対応できた問題は、妖精の誘拐。
これが一番防ぐべきところだと思うし、実際、妖精って……その、お金になる、らしいので……だから、妖精を誘拐しようとする人が居る可能性は十分に高いから、妖精の誘拐対策ができたのはすごく大きい、とは思うんだ。
けれど……。
「でっかいキノコの椅子とか、光る花のランプとか、持って帰っちまう奴、居ないとも限らないからなあ……」
妖精以外にも、色々、不思議なものが多いから。この公園。何せ、妖精の国の雰囲気を味わえるテーマパークなので。この公園。
だから珍しい物は沢山あるし、それを欲しがる人が居るかもしれない、っていうところも含めて、考えてしまうわけで……。
「なあ、トーゴ。フェイ君。僕は考えたんだがなあ」
そんな中、先生が、すっ、と挙手した。
「転売されるのが嫌なら、公式が供給を生み出しておくといいぞ」
……僕とフェイが先生を見つめる中、先生は、言った。
「いっそ売り出しちまえ。妖精の国公式グッズとして、売りだしちまうんだ!」
……ということで。
妖精公園に入った店舗第一号は、家具屋さんになりました。
キノコのスツールとか、花のランプとか。そういうそんなに大きくないものを幾らか売り出してみた。あと、ここで妖精達が作った細工物もちょっと売り出している。こういうものを作るのが趣味の妖精達が発表と販売の場を与えられてものすごく嬉しそうなので、こういう店舗を作ったのは正解だったと思う。
「さて!これで設置物を持ってかれる可能性は減ったな!」
「まあ、盗んで公式より安い値段で売るっていう輩が出てこないとも限らんが……可能性は減った。これは間違いないと思うよ」
お店の中にあるものを盗むのは結構難しいはずだ。広い公園の中で何かしている人を見つけるのは少し難しいけれど、店内だけなら十分に妖精達の見張りが効く!
「さて、となると残る問題は……珍しい植物とか、かぁ?」
「これはある程度、持ち出しを許可してもいいと思っているけれど……」
「まあなあ。いい薬が出回るっていうのは必ずしも悪いことじゃない。今の市場にある薬を駆逐しちまう可能性はあるわけだが、それは製薬の定めみたいなもんだしなあ。それは仕方無いが……やっぱり転売が怖いな!」
うん。結局はそこに来てしまう。
僕は、ある程度は持ち出しを許可してもいいかな、と思うんだ。例えば、薬草1本とかだったら、全然いい。必要で使ってくれる分にはどんどん持って行ってほしい。
けれど……乱獲されてしまうと、それはまた、話が別なので。それは困る。けれど、そのあたりって線引きが難しいからなあ……。
「まあ、結局のところ盗難の可能性は消しきれないし、対策も難しい。何せ僕らは泥棒じゃないからね。泥棒がどういうことを考えてどういう風に物を盗んでいくのかなんて分からないから対策しようが無い……」
……普通にこの公園を利用してくれる人達には、是非、ご自由に、楽しく過ごしてもらいたい。
けれど、泥棒達、悪意のある人達がこの公園で悪さをしないように対策しなきゃいけない。
でもその対策がすごく難しい!何故なら僕ら、悪い人達が何を考えるか、よく分からないから!
「だよなー。くそー、どっかに泥棒、落ちてねえかなあー……」
「うん……」
だから僕ら、お客様の中に泥棒さんは居らっしゃいませんか、なんて気持ちになりつつ、ちょっと困って……。
その時だった。
ぽよよよん、ぽよよよん、と気の抜ける音が鳴る。ついでに、りんりん、と可愛らしいベルの音も鳴る。
……これらは、入場門に飾り付けてある妖精の国の植物が鳴らしている音だ。前者はラッパみたいな形の花から。後者はベルっぽい花から鳴っている。
何で鳴っているのかって……当然、妖精を持ち出そうとした人が居たからだ!
「お、おい!なんで出られねえんだよ!」
そして入場門には光の壁ができていて、その壁にぺたっと貼りつけられてしまったかのように固まっているルスターさんも居た。
「おおー……すごい、お客様の中に泥棒さんがいた」
「渡りに船ってこういうことだよなあ、トーゴ」
そうして兵士詰め所へ連行されていくルスターさんを見送って、僕らもこっそり、兵士詰め所へ向かうことにしたのだった。




