妖精公園へようこそ!*2
と、いうことで。
「ちょっと本格的にこの辺りをテーマパーク化してみたいんだけれど、アンジェ、協力してくれる?」
僕は本格的に、ソレイラの観光名所を増やす試みを始める。
ソレイラって今も、外貨が割と落ちる町なんだよ。妖精カフェは王都からのお客さんも来るくらい人気だし、数々の飲食店も競い合うようにして美味しいものを出してくれるからとっても人気。
精霊御前試合も月に一回くらいのペースで行われるようになったから、そこでも観光客が見込めているし、ソレイラ郊外の温泉施設に観光や療養の目的でやってくる人も多いし。
……そこにもう1つ、レジャースポットというか、観光名所というか、そういうところを増やしてみたい。
僕がそう提案してみたら、レッドガルド一家は皆さん揃って満面の笑みを浮かべてくれたので、僕としても俄然、やる気が出てきた。
そして……僕以上にやる気が出ているらしいのが、妖精。
「うん!妖精さんたちも、よろしくね」
アンジェがにこにこしながら挨拶している先で、妖精達がぱたぱたしゃらしゃら、何かを話しながら若干興奮気味な様子を見せている。彼ら、自分達のテーマパークができるのが楽しみだそうだ。
「妖精も楽しめるように作ろうね」
「うん!ありがとう、トウゴおにいちゃん!」
……僕はここを、人間と妖精のためのレジャースポットにしたい!あちこちから人と妖精が集まる場所になったら、きっと楽しいよ。
早速、公園を造っていく。
滑り台は長く長く。滑る場所に辿り着くまでにも楽しいようにちょっとしたアスレチックを設けたり、ツリーハウスみたいにしてみたり。その内、ツリーハウスっていうかお城みたいになってきたり。
ブランコは花の蔓が絡み合ってできているものになった。所々に咲いている花が何とも可愛らしいし、ブランコの土台からぶら下がる細い蔦の先には妖精用のブランコがある。子供達と妖精が一緒に遊べるように、とのことだ。
他にも、シーソーみたいなキノコも設置された。……このキノコ、2つセットになっていて、片方に重さが掛かるともう片方のキノコがぽっふん、と上に乗ったものを弾ませる仕組みらしい。いや、どうしてこうなってるのかは分からない。妖精の国のキノコらしいんだけれどね……。妖精の国のものは、こう、異世界から見ても異世界なんだよ!
アンジェがそうしてどんどん遊具を増やしていく傍ら、僕はコンセプト宿を建設していく。
巨大な切り株の中をくりぬいて造ったような家。大きな大きなキノコの家。花のテント。
普通に石と木で作った素朴な家の内部に植物を沢山飾っただけの家も建てたし、蔦に覆われた塔やツリーハウスも建てた。……そういう、小さな家をどんどん建てていく。
勿論、家をただ建てるだけじゃない。ちゃんと立地にもこだわった。
巨大な切株の家は、ちゃんと林の中に設置したし、大きなキノコの家はキノコの森の中だ。花のテントは小さな湖の真ん中の浮島の上。他の家もちゃんと、風景画に収めた時に綺麗に見えるように設置した。
そして、そんな家が集まったエリアの真ん中のあたりには、宿の受付の家と水場と炊事場。宿に泊まる人はここで自炊してもいいよ、ということで。ちょっとキャンプ場っぽい、のかもしれない。僕は行ったことないから分からないけれど、先生は『キャンプだ!キャンプだ!』と喜んでいた。
お客さんは受付を済ませたら、好きな家を選んでそこに泊まる。色んな家があってそれぞれ内装も違うから、色々楽しめると思う。僕のおすすめは小さいツリーハウス。縄梯子を上った先の小さな家の中は、素朴な木製の家具や森の奥に生えている光る花を模したランプで飾ってある。このランプが僕のお気に入りなんだ。
ちなみに、机の上の花瓶には花が活けてあるんだけれど、これは妖精がやってた。彼らの気まぐれで森の花が飾られる予定らしい。中には猫じゃらしが飾られている部屋もあった。それは……まあいいか。妖精が楽しそうなので……。
そうして設備をある程度整えたところで、アンジェの方も遊具をある程度造り終わってきたらしい。
花の生垣でできた巨大迷路とか、大きな花でできた森みたいな場所とか。結構大掛かりなかんじになってきたなあ。
「トウゴ!トウゴ!ここに泉を出してほしいの!そうしたらお花の間を抜ける小川ができるわ!きっと綺麗だと思うの!」
「うん。分かった。じゃあちょっと離れててね……」
「トウゴおにいちゃん!それがおわったらね、こっちにも大きなお池がほしいの!スイレンのお舟でお池をぷかぷかしたらきっと楽しいと思うの!」
それから僕は、カーネリアちゃんやアンジェの指示通りに水場を造ってみたり。また遊具を追加したり。装飾を思いついて描いてみたり……。
その間、妖精達はリアンと一緒にあちこちの飾りつけをしていた。ものの隙間に小さな花を咲かせたり、ふわふわの苔を敷き詰めたり。はたまた、妖精の国の細工物らしいランプを吊るしていたり、リボンを飾っていたり、池に早速水の妖精達がちゃぷちゃぷ入って遊び始めたり……。
こうして妖精公園は段々とそれらしく整っていく。完成が楽しみだなあ。
そうして、翌日。
妖精公園の中心になる大きな広場を造って、そこに敷き詰めるタイルの色や材質をアンジェと妖精達と相談していた時のことだった。
「すげえ!なんかすげえことになったなあ!」
フェイが空からやってきた。上空から妖精公園をざっと見てきたらしいフェイは、目をきらきらさせて興奮気味にそう話す。
「いや、ソレイラでも『精霊様が何か頑張ってらっしゃるみたいですね』って話題で持ち切りだったからよお、どんなもんかと思って見に来たんだが……すげえな!」
「すごいだろ」
フェイに対して僕は胸を張る。僕の隣でアンジェも控えめに胸を張っていた。そしてアンジェの周りでは妖精達がこれでもかという程に胸を張っているし、その後ろでは全く関係がないはずの鳥がいつの間にかやって来ていて、誰よりも自慢げな顔をしている。こら、君は今回、何もしてないだろ!
「色んな施設を入れられそうだよなあ」
「うん。こっちは貸衣装の部屋にしようかと思って。あと、お土産を売るお店がここに入る。広場には妖精カフェや他のお店の屋台が出る予定」
フェイにざっと説明していくと、フェイは楽しそうに、切り株型のお店を覗いたり、花のテントをつついてみたり。明るい色のテラコッタタイルが敷き詰められた広場では、妖精達が綿飴を作るべく試行錯誤中だ。妖精達は大規模な飲食店を妖精カフェの他にもう一軒持つ気はあんまり無いらしくて、屋台メインにのんびりやるつもりらしいよ。
「町の施設がこっちに移設される予定ってあるか?」
「え?うーん……まあ、飲食店が分店を出す可能性は高そうだな、って思ってる。ほら、結構ソレイラの飲食店通りは激戦区だから。だから、向こうを1日定休日にしてもこっちで週1回営業したい、っていうお店はありそうじゃないかな」
「あー、成程なあ。うんうん。俺もそう思うぜ。観光客がこっちに来るなら、こっちで出店する価値は十分にある!」
フェイはにこにこ頷いて、『ここの広場でぽかぽか食堂のシチューを食うのも悪くねえなあ』なんて言っている。そうだね。そういう飲食をしやすいように、広場の片隅にはガーデンテーブルと椅子のセットが置いてあったり、ベンチが多めに設置してあったりする。
ベンチは妖精が昼寝するのにも使われるので、本当にあちこちに置いてある。今も妖精達がふわふわやってきて、昼寝をしようと画策中のようだ……。
「……で、店はまあ、それでいいんだけどよー」
そんな妖精達を眺めつつ、フェイはふと、思い出したように言う。
「なーなートウゴー。大図書館を妖精公園の中に建設してくんねえかなあ」
「へ?」
図書館は今、ソレイラにあるけれど……なんでまた。
僕が不思議に思っていると、フェイは満面の笑みを浮かべて、教えてくれた。
「出来たんだよ、異世界の技術を取り入れた、本の検索装置!」
……おお!
「……けど、異世界の技術だ、って言っちまうと色々問題がありそうだし、かといって黙って使うには色々と危ない気がするしよお……なら、『妖精の技術です!』って誤魔化しちまえば問題ねえかな、ってアンジェ。いいか?」
「うん!どうぞ!」
「ありがとな!……ってことで、トウゴぉ。いいか?」
「うん。僕も賛成だよ」
そうか。新しすぎる技術をこの世界に導入する時、『異世界の技術です!』なんて言っても受け入れにくいか。
幸い、この世界には精霊信仰というか、人ならざるものへ対する敬意みたいなものが根付いているので……『妖精の技術です!』ということにしておけば、大分受け入れられやすい気がする。
……いつもみたいに『精霊様のおかげです!』とやってしまってもいいのかもしれないけれど、ほら、精霊がものすごく頑張っていることをよく思わない人達も多いんだな、と、フェイの同窓会で思い知ったし。偶には僕じゃなくて妖精が働いたことにしてもいいよね。
……いや、フェイが頑張ってるんだからフェイが頑張ってることにしたいんだけれど!でもそれはそれで問題があるから、しょうがない……。
ということで、フェイご所望の妖精大図書館を建設した。
大分人間離れしたデザインの建物にしてやろう、と思ったので、まずは湖を設けて、そこに一本、大きな塔を建てる。大理石と水晶と大木が混ざり合ったようなデザインの塔は、不均衡で、天然美。そういうかんじ。
……こういうかんじのものを描くにあたって、ライラに手伝ってもらった。やっぱり思い切りのいいデザインはライラに仕上げてもらった方が綺麗にできる……。ちょっと悔しいけれどいいものができてうれしい。
洞窟と大木を混ぜたような、塔を侵食して育った大木のような、はたまた鉱石を取り込んで成長した大木のような、そんな印象の塔は、フェイのお気に召したらしい。大興奮だった。
そんなフェイを横目に、どんどん図書館内部を作っていく。一階は受付。二階からは大量の本棚を出していって、最上階である五階は展望台、ということにした。
この世界にしては結構大規模な建築になったなあ。これには妖精達も大喜び。城が増えたみたいで嬉しいそうだ。早速、あちこちに秘密の抜け道や隠し部屋を作り始めている。
……一応ここは森の範囲内なので、僕には抜け道や隠し部屋の位置がちゃんと分かるんだけれど……妖精ってすごいなあ。とんでもないのがいくつかある!
出来上がった図書館内部では、フェイが魔法の仕掛けを施している。本の検索ができるシステムを作っているみたいだ。その間、僕はフェイにお願いされるまま、色々な部品や素材を描いて出していく。設計は任せたので、製造は頑張るよ。
僕とフェイと妖精達があれこれやって妖精大図書館のシステムを作っている間、先生とリアンはアンジェとカーネリアちゃんに引きずられてアスレチックコースへと連れていかれていた。……明日の先生は筋肉痛。間違いない。
そうして妖精大図書館が誕生した。
ソレイラの図書館の蔵書をコピーしてこっちに運び込む作業はソレイラの住民の皆さんも手伝ってくれたので、案外早く終わった。ソレイラの皆は親切だなあ。僕とリアンが本を抱えて歩いていたら、横からやってきてどんどん本を持ってくれるんだよ。ありがたい限りだ。
……と、まあ、本の運搬もそうだし、飲食店の出店希望を募るのもそうだし、ソレイラの住民の皆さんにも妖精公園がお披露目されることになった。
ソレイラの人達は妖精が見えることが多いので、公園内を楽しく飛び回ったり、花の上に座って日向ぼっこしたり、綿飴の屋台で試行錯誤したりしている妖精達を見ては笑顔になっていた。
遊具たっぷりの広場や休憩用大広場、宿の並びやお店を開ける建物なんかを見て回って、ソレイラの人達はたちまち、『出店してみたい』とか『ちょっと泊まってみたい』とか、手を挙げてくれた。
……ということで早速、試運転。宿に試しに泊まってもらったり、お店を出そうと思っている人達にはお店の中を見てもらったり。
……けれど。
「すごいなあ……こんな施設ができてしまうなんて!それに、この花は貴重な薬草ですよね?」
「えっ?そうなんですか?」
そんなことを話してくれたソレイラの住民が居たので、ちょっと気になる。
「はい。これは妖精の力がこもった薬草で、色々な病気に効くんだそうですよ。流石、妖精公園というだけありますねえ……」
教えてもらった草は、エメラルドグリーンのゼンマイみたいな、くるくる巻いた形の草だ。花も咲くのだけれど、ほんのりピンク色できらきらしていて可愛らしい。そっか。これ、そういう薬草なのか。
「ここの薬草は摘んで帰ってもいいものなのでしょうか……?」
……ええと。
ええと……ちょっと、僕、嫌なことに思い当たってしまったのだけれど。
この公園……宝の山に、なってないだろうか。
そして……宝の山の割に、セキュリティというものを、今のところあんまり考えていない!
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