竹林VSちんちくりん*2
「な、なんだってー!?すまん!トーゴ!君の魔力、美味かった!ご馳走さん!」
「あ、お粗末様でした……じゃなくて!竹が!竹が、僕の魔力、盗ってる!」
なんてこった!竹の奴、もしかして本格的に森を侵略しようとしているんじゃないだろうか!ああ、どうしてこんなことに!
「これは最早、勿体ないとか言っている場合ではないのかもな。なあ、トーゴ。どうする、これ。君が描いて消しちゃうっていうのも手だと思うが」
「そ、それをやっちゃうと、竹に盗まれた魔力ごと消えてしまう……うう、こいつ、森の大事な魔力を人質にしやがって!このやろ!このやろ!」
「トウゴが珍しく荒れているな……」
竹を蹴ってみたのだけれど、びくともしない。そりゃそうか。竹だもんね!ああもう!
「森の魔力が無くなってしまったら、一時的にとはいえ、森の結界が弱ってしまう。ソレイラの豊かさも一時的にちょっと落ち込んでしまうと思うし……できれば、森の魔力をちゃんと取り返してから竹を消したいんだけれど……」
「ということは、ただ竹を消すのではなく、伐採して筒に溜まったお前の魔力を確保してから、か。どうすればいい。ひとまず全部、切るか」
うん。まあ、最終的には全部の竹筒を切って中身を取り返さなきゃいけない。それで、筒の中身を森に撒けば、まあ、元通り……?
「あ、でも、竹のあるところで魔力を零しちゃうと、それをまた竹が吸い上げてしまうので……あ」
……その時だった。
何か来る、という感覚が僕の中に走る。それはじわじわむずむず、確実にやってくるんだ。
「どうした?トウゴ」
「な、何か来る……や、やだ、来ないで、来ないで」
何が起きるのか分からないのに何かが起こる予感だけは確かにあって、それは僕の体の感覚ごと、どんどん強まっていって……。
ずん、と体を貫かれるような衝撃が走った。それと同時に……僕らの目の前には、普通の竹の数倍はある太さの竹が、にょきっ、と生えてきていた!
「ひゃあ!や、やめ、駄目!駄目だよ!ねえ、止まって!止まってえええ!」
にゅっ、にゅっ、とリズミカルに竹が伸びていくのに合わせて、僕は自分の中から何か搾り取られていくような感覚に襲われる。あああ!魔力盗られてる!
「ど、どうする!?切るか!?消すか!?」
「ど、どっちもだめ……」
「とりあえず地下茎は消すぞ!被害と竹の拡大を防ぐからな!」
僕が竹にやられている間に、ラオクレスはおろおろして、先生は慌ててまた文章を描いてくれた。
「どうしたの?トウゴ君の可愛い悲鳴が聞こえてきたから慌てて戻ってきたけれど……あら」
そして、町でタケノコの処理をしていたクロアさんとライラも戻ってきて……。
「まあ、立派ねえ……」
「すっごいわね。ラオクレスの腕ぐらいあるんじゃない、この竹」
竹を褒め始めた!それどころじゃないっていうのに!もう!
……ということで。
「また竹が増えてしまった……」
僕らの目の前には、元気に伸びた竹が何本もある。ラオクレスの腕ぐらいの太さの竹が、いっぱい……。
「妖精の魔法だものね。植物に活力を与える魔法だったみたいだけれど……それが竹に作用して、森の魔力を奪う植物になっちゃったみたいだわ」
「ごめんね、トウゴおにいちゃん、ごめんね……」
アンジェには『気にしなくて大丈夫だよ』って言うけれど、でも、それでも僕、確実にちょこっとは竹林になってしまった……。
「うう……僕、竹林になってしまう……」
「げ、元気出せよぉ、トウゴぉ。な?大丈夫だって。そんな心配しなくても。ちゃんと竹を処理して、元に戻そうな?」
フェイはまた励ましてくれるけれども、僕、竹林になってしまう……竹林に……。
「フェイぃ……僕が森じゃなくて竹林になっちゃっても、親友でいてくれる……?」
「お、おう……?」
「やっぱり竹林は嫌?」
「い、いや、嫌じゃねえって!な、大丈夫だ、トウゴ!俺はいつだってお前の親友だからな!」
フェイはそう言って僕の頭をわしわしやり始める。……その横で、ラオクレスと先生とクロアさんが、何とも言えない顔をしていた。いや、そんな顔されても……僕、不安なんだけれど……。
「とりあえずこの竹をどうするか、だな」
僕がちょっと落ち着いてきた頃、先生が早速、計画を立ててくれた。
「普通に切っちまうと中の蜜が零れて、その分だけ竹が元気になってしまう。それじゃあいつまで経っても解決しない」
うん。さっきやってしまったやつだよね。そう……竹の節の中に入っている僕の魔力を竹の根元に零してしまうと、そこからものすごく元気な竹が生えてきてしまうので……それは避けたい!なんとしても!
「まずは地下茎……根っこの方をどうにかしよう。それは僕に任せてくれたまえ。しっかり消しておこう。ついでに根っこをもう伸ばせないように書き換えてみるか。これはもう少し時間がかかるかもしれないが……それから、生えてきてしまっている竹については、一番下の節の中にたまっている森の魔力を取り除いてから伐採していこうか。ええと、月の光の蜜を採る器具があったね?あれを使おう」
「一気に切ってしまうんじゃなくて、下処理してから切るっていうことね?」
「ああ。ちょっとばかり時間はかかってしまうだろうが、そうしないとなあ……トーゴが竹林になってしまうと大変だしなあ」
先生はそう言って、僕の頭を、もそ、もそ、と撫でてくれた。うう、ありがとう、先生。僕やっぱり竹林にはなりたくない!
「よし!じゃあ早速、竹から魔力を取り返そう!」
僕は張り切って、準備を始めることにした!僕と僕に住む多くの人達の為に!全力で戦うぞ!
ということで、竹から蜜を汲みだす時に使っている器具を描いて量産して、それをどんどん、すごい太さの竹の下の方の節に打ち込んでいく。
節にそっと穴を開けて、そこから流れ出してくる蜜を器具で受け止める、っていうやり方なので、そんなに時間はかからない。
「トウゴ君。汲めたわよ。はい、どうぞ」
「ありがとう、クロアさん!」
そして、汲めた蜜は……飲む。
……僕が飲むのが一番手っ取り早く、森に魔力を返す方法なので。いや、下手に竹の近くに撒いたらまた竹の栄養になっちゃうし。そうしないためにも、僕が魔力を飲んで還元していくのがいいんだけれど……。
「ねえ、トウゴ。森の魔力の蜜、だけどさあ……ちょっと味見してもいい?」
僕が蜜を飲んでいたら、ライラが横からそっと、やってきた。
「え?あ、うん。いいよ。どうぞ」
「えっ、いいの?聞いといてなんだけど、それ、森の魔力でしょ?」
ライラに蜜が入った竹筒を手渡すと、ライラはちょっと戸惑い気味だったけれど……まあ、問題無いと思う。
「うん。ライラは森の子だから。森の魔力がライラに入る分には別に、循環の妨げにならないし……」
「あ、そういうもんなんだ……」
「うん。蜜を飲んだ人が一晩くらいソレイラに居てくれれば、余剰な魔力は森へ還るし、そうじゃない魔力も森の子を元気にするために使われるなら全然問題ないし……」
要は、竹が竹の成長のために魔力を使いすぎてしまったり、竹の中に魔力が蓄えられてばかりで森の魔力が循環しなくなってしまったりすると困る、というだけなんだよ。
ということで、ライラに森の魔力の蜜を飲んでみてもらうと……。
「……お、美味しい!」
ライラは目を瞠って、ぱっ、と顔を輝かせた。そ、そんなに?
「なにこれ、すごく美味しいわね!月の光の蜜も好きだけど、こっちはもっと好き!すっごく好きだわ!」
「あ、ありがとう……」
「……別に、あんたを褒めてるわけじゃないわよ。勘違いしないでよね」
「え、あ、うん、そっか、ごめん……なんとなく嬉しくなってしまって……」
ライラが妙にじっとりした目を向けてくるけれど、あの、僕は森なので、魔力を褒められるとなんとなく褒められている気分になってしまうのは仕方がないっていうか……うう。
それから皆で森の蜜を味見して『すごく美味しい!』ってやっていた。泣きべそをかいていたアンジェも美味しい蜜で元気になったらしい。にこにこ笑顔だ。クロアさんは妖精カフェで出そうかしら、なんて言いつつ褒めてくれている。ちょっと恥ずかしい……。
「よし。これで最後か」
そしてどんどん竹は切られていって、いよいよ最後の竹になった。
最初に竹が生えていた巨大プランターの中、心持ち肩身の狭そうな具合に生えている竹に向かって、ラオクレスが斧を振りかぶって……。
ぽん。
……ラオクレスの斧が竹に触れるより先に、竹に、急に花が咲いた。
そして……ぽん。
竹の花はすぐさま、実へと変わる。
そうして……竹には、たわわに竹の実が実ることになった。
……な、なんだろう、これ……。
「……これは降伏宣言なんだろうか」
僕らは実が実った竹を前に、悩んでいる。急な竹の動きは、まあ、竹の魔力を竹の実にほとんど全てやってしまう行為だったので……ええと、敵意無し、と判断して、切ってしまうのをとりあえず保留にしている。竹がこれ以上増えないように、切った竹の地面に残っていた部分は描いて消してしまったし、石のプランターも描き直したし……これだけ包囲しているので、まあ、大丈夫かな、と。
「鳳凰が喜んでるなあ」
「鸞もこれ、好きだったのか。知らなかった」
ひとまず、鳳凰と鸞がものすごく喜んだ。鳳凰にとって竹の実は嗜好品というか、おやつみたいなものらしいんだけれど、まあ、好きな食べ物であることには変わりがないらしいので。
鳳凰と鸞は竹に実った竹の実を美味しそうに啄んで、きゅるる、きゅるる、と楽し気に歌っている。更に、ご機嫌な様子で僕やリアンやアンジェにすりすり。よしよし、よかったね。
「……どうしようかな、竹」
「え?まさか残しておくのかよ」
さて。喜ぶ鳳凰達を見ていて、僕はちょっと、悩んでしまう。
「竹の実がいつもより美味しくなっているのかもしれない。……いつもより鳳凰の反応がいい気がするんだよね」
僕がそう言うと、鳳凰は『その通り!』と言うかのように、僕にすりすり。そっか、やっぱり美味しいのか……。
「でもよー、また竹が増えたら、今度こそお前、竹林になっちまうかもしれねえぞ?」
「う……それは嫌、なんだけれど……うーん」
そう。僕は森なので、竹林にはなりたくない。今回みたいに竹が領地を侵してくると非常に困る。この森、あっというまに竹林にされてしまうよ。
……それは困る。それは、困る。けれど、竹がここに生えていることで、鳳凰達は美味しい竹の実を食べられる訳だし、妖精達が遊び場にしているし、月の光の蜜だって集まるし……月の光の蜜が採れなくなると夜の国へ行く方法が無くなってしまうし、妖精カフェのメニューも減る……。
と、いうことで。
「あのね!地面にある魔力は森のためのものなんだから、吸わないでほしいな!」
僕は、竹にそう、主張してみた。
……いや、僕は森だし、こいつは竹だし。言葉が通じてもいいよね、と、思ったので。
すると、ぽん、と、竹に実が生った。う、うーん……?
「……これは『分かった』っていうことなんだろうか」
「いや、トーゴが分からんなら僕らはもっと分からんが」
あ、うん、そうだよね……。
いや、でも、多分意思の疎通はできている、と思う。思いたい。ということで、僕は竹に向かって主張を続ける。
「……あの、それから、そのプランターから出ないでほしい。僕が竹林になってしまうし」
すると竹は、さわさわ、と葉っぱを揺らす。……不服、っていうことだろうか!
「君が増えるのに魔力を使ってしまうと、森の魔力が無くなってしまって、僕も、ここに住まう人の子達も困ってしまうんだ。だから、森に住むなら決めた区画から出ないでほしいんだ。あとやっぱり僕は竹林になりたくないんだよ。竹はあくまでも隣人っていうか、そういうかんじであってほしい……」
竹は変わらず不服気にさわさわ揺れていたんだけれど……『隣人』という言葉を出した途端、ぽんぽん、と竹の花が咲いた。うわ、なんだなんだ。
「……良き隣人、であってくれる?侵略しない?」
更に僕が聞いてみると、竹は花を実に変化させてくれた。……多分、肯定!
よかった!これで森と竹の間に平和が訪れた……と思う!多分!
「で、でも、また侵略してきたら、その時は容赦なく滅ぼしちゃうからね!」
僕が念押しすると、竹はまた、ぽんぽん、と実を実らせてくれた。分かってくれればいいんだ。うん。
「だったら、その、魔力を地面から吸い上げられたら困るのだけれど……けれど、月の光みたいに空中に滲んでいる魔力だったら、その、ちょっとだけなら……吸っても、いいよ」
……なのでこちら側もちょっと譲歩する。流石に、この竹が生きていけなくなってしまうのは可哀相だし。
ただ、僕がそう言った途端、竹は石のプランター内にニョキニョキ生え始めたので慌てる。
「ちょっとだけ!ちょっとだけだからね!」
僕が慌てて言うものの、竹はまたにょっきり増えて、そしてそれぞれ、また実を実らせていた。ええと……多分、分かってくれている、とは、思う。地面の魔力は持っていかれていない。あくまでも、空中に漂っていて、使うのにあんまり効率が良くない魔力だけが竹に吸い取られて使われている、らしい。
……まあ、これならこれでいいか。これ以上、竹とのコミュニケーションを図るのは無理だし、ここで妥協しよう……。
ということで。
「竹の領土がちょっと増えました。あと、森の空気に流れている魔力は竹が吸っていいことにした。けれどその代わり、竹に溜まった森の蜜や月の光の蜜は相変わらず分けてもらうことにしたので……ええと、妖精カフェのメニューにどうぞ」
翌日。僕は、竹との間で取りまとめたことを皆に報告しておく。
いや、結局、こちらとしては美しい竹の姿を見たり描いたりしたいのは確かだし、月の光の蜜も欲しいので、ある程度は竹に譲歩する形をとったんだ。共生関係でありたいね、ということで。なので、石のプランターの大きさを従来比2倍くらいにしてある。
「あと、妖精の遊び場やお宿としても使っていいみたいだよ」
そして、元々妖精達が遊び場にしていた竹なのだけれど、これからは竹が積極的に妖精を誘致するようになる。竹に小さな穴を開けて、その中に妖精サイズの布団を入れて、妖精のお宿の準備は万端。
「ふーん。まあ、よく分かんないけどよかったじゃない」
「うん。よかったよ、ちゃんと和平を結べて」
僕は竹と握手(竹の枝を握ってちょっとふりふりやるだけ)してみせつつ、なんだか気の抜けた顔をしているライラに笑いかける。
「そうねえ。よく分からないけれどよかったわねえ」
「ああ。俺にもよく分からんが、トウゴが良いと言っているならそれでいい」
「そうだなあ。俺にも全然分かんねえけど、まあ……平和に落ち着いたってことだろ?」
……もしかして僕以外全員、よく分かってないのか。そっか。まあそんなものか、竹と森の和平なんて……。
と、まあ、そういうわけで。
竹は以前より元気に、ついでに何故か意思らしいものを持って、わさわさと控えめに生い茂るようになったし、妖精は竹と仲良くやっているようだし、鳳凰と鸞は我慢せずにおやつを食べて毛艶がよくなったし、カフェにはメニューが増えた。
妖精カフェの新メニューは特に好評だ。『森の魔力たっぷりムースケーキ(※食べてから24時間はソレイラを出られません!)』と『森の魔力たっぷり茶(※飲んでから24時間はソレイラを出られません!)』は、口にするととても元気になるらしい。
……森の魔力を食べた人がそのまますぐソレイラを出ていってしまうと森に魔力が循環しなくなってしまうので、食べちゃった人には24時間以上、ソレイラに滞在してもらうことにしている。その都合で、このメニューはお持ち帰り無し。ソレイラ限定メニュー。宿とのセット販売メニューがおすすめ。
けれどそんな不便さがまたプレミア感を演出したらしくて、王都の方からも人がやってきて注文していくようになった。おかげでソレイラには外貨が落ちるようになって、フェイのお父さんがにこにこしている。レッドガルド家が嬉しいみたいで、僕も嬉しい。
……ただ、時々、24時間経たずに森を出ようとする人が居たり、評判を聞きつけてこっそり町の外に持ち出そうとするする人が居たり。
そういう人には申し訳ないけれど、町の門の手前で根っこに捕まってもらうことにしている。そこを門の兵士達に見つかって捕まるのがセット。
……こうして、竹はソレイラにいい影響を与えてくれた。まあ、侵略してこなければ、良き隣人、なんだよ。本当に。
それから、更にもう1つ。ちょっと思いがけない嬉しいことがあった。
「なーんか最近、森の居心地がいいんだよなあ。魔力酔いしなくなったっつーか」
フェイがそう言って笑う。
……フェイは前から、遺跡のあたりの空気にはちょっと弱かった。魔力酔いしてしまうらしくて、あんまり長居はできなかったわけだ。そしてどうやら、彼にとって僕の家の周りも、時々魔力過多で、ちょっと酔うかんじがあったらしいんだよ。
けれど、竹が余分な魔力を吸うようになったから、フェイにとってこのあたり、居心地が良くなったらしい。曰く、『魔力は感じるけれど、酔うことは無くなった!』とのこと。
「竹のおかげかなあ」
「うう、ちょっと複雑な気分だ……」
複雑な気分だけれど。複雑な気分だけれど、僕としては僕の親友が魔力酔いせずに快適に居られるっていうのは嬉しいことなので……まあ、竹がちょっと増えてよかったな、と、思っている。
「……でも、ありがとうね」
一応、お礼を言ってみる。すると竹は、わさわさ、と揺れて、ぽん、と実を1つ実らせた。ええと、これは『どういたしまして』だろうか……。
……鳥よりもコミュニケーションしづらい仲間が森に増えるとは思ってなかったなあ!
「それにしても、こいつ、急に増えたり、かと思ったら今はこんなに大人しく協力的になったり、一体どういう風の吹き回しなんだろうなー」
それから、ふと、フェイはそう呟いて首を傾げた。
「もっと森をガンガン侵略してくるのかと思ったけどなあ……流石に、トウゴと宇貫せんせー相手じゃ分が悪かったってことかなあ」
まあ……森の魔力が多少失われることを許せば、竹を一瞬で絶滅させることもできなくはないので。それが竹にも分かっているなら、消されない程度の大人しさで生きていこうという判断になってもおかしくはないと思う。
「ふふふ。もしかしたら寂しかったのかもしれないぞ」
……と思っていたら、先生がそんなことを言いつつ、のんびりやってきた。
「先生」
「やあ、トーゴ、フェイ君。そして竹。元気かい?」
先生の挨拶に僕らは応える。竹もちょっと揺れて応えていた。……まあ、トレントだって居るから風が無くても動く植物には抵抗が無いけどさ。でも、こいつ、もう竹じゃない何か別の植物なんじゃないだろうか……。いや、今更か……。
「なーなー宇貫せんせー。寂しかった、ってどういうことだよ」
僕が竹の生物的分類について思いを馳せていたら、フェイは興味深げに先生に聞いていた。先生はそれに応えるように僕らの隣に腰を下ろすと、そこでちょっと話してくれる。
「竹はずっと、森の皆が仲良くやっているのを見て羨ましく思っていたのかもしれないね。もっと関わりたいと思っていて、そこに丁度良くアンジェの魔法が命中して、竹は自力で色々できるようになって……それで竹は嬉しくなって、伸びに伸びてしまった。……のかもしれないね」
「……寂しかった、のかあ」
先生の説明を聞いて、なんだかしっくりきた、というか。竹が心なしかしゅんとしおらしくしている気がするし。
「まあ、僕には竹の気持ちは分からんから、全ては憶測と妄想だが」
先生はそう付け加えるけれど、でも、僕としては竹の気持ちは大体そんなところだったんじゃないか、というように思えるんだよ。
まあ……実際、竹がどう思っているのかなんて、知らないけれどさ。いや、そもそも竹が何かを思っているのかどうかなんて本当に分からないんだけれどさ!
「……ええと、これからもよろしくね」
竹に挨拶しつつ、まあ、こういうのも悪くない、と思う。
仲良くできるならそれに越したことはないよね。お互い、寂しくないように仲良くやっていこうよ。
……そうして、竹との和解が終わって、少し時が経つ。
そろそろ春の気配がしてきたなあ、という森の中……。
「トウゴおにいちゃーん」
僕の姿を見つけてぱたぱたと駆けてきたアンジェを見つけて、あれ、と思う。
アンジェの周りには、ふわふわと妖精達が伴っている。お散歩休憩中かな、とも思ったけれど、それにしては全員、真剣だ。
「どうしたの?」
「あのね、森の精霊さまに、妖精の国の女王より、おねがいにまいりました」
聞いてみたら、アンジェも妖精達も、ぴしり、と姿勢を正して、言った。
「妖精さん達が、人間と楽しくあそべるところを、作りたいの!」




