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今日も絵に描いた餅が美味い  作者: もちもち物質
第十六章:恐怖の病
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24話:月白の酒盛り*1

「お、おー……?なんでねこじゃらしがこんなに生えてんだ……?」

 一回家に戻って報告と連絡をして来たらしいフェイが僕らのところに戻ってきて……今、呆れと困惑の混ざった顔をしている。

「いや、ライラとねこじゃらしの練習してて……」

「意外と難しいのよね、猫じゃらし……」

 そして僕とライラは、猫じゃらしと馬に囲まれているところだ。


 ……いや、やってみてたんだけどさ。意外と、猫じゃらしの質感って難しかった。最初に描いたらふわふわのたんぽぽの綿毛みたいになってしまって、逆にライラが描いた奴は大分固めに見える絵になってしまって。

 今度はライラのを参考にもうちょっと固め、と思って描いたらタワシになってしまって……ライラが描いた絵は綿毛っぽくなっていたし。

 ああでもない、こうでもない、と納得いくまで2人で猫じゃらしを描いていたら、その、この有様です。

 馬が鼻面で猫じゃらしをつついては、みょんみょん、と猫じゃらしが揺れる。どうやら、馬には好評らしいよ、ねこじゃらし。いや、うーん、馬じゃらし……?

 試しに、ねこじゃらしを一本抜いて、馬の前でふりふり、とやってみたら、馬が興味深げにねこじゃらしを見つめていた。尻尾を振ったり羽をパタパタやったりしているところを見ると、馬はこれ、割と好きみたいだ。


 ……ということで。

「……ちょっと癖になりそうだわ」

「うん……」

「だなあ……な、なんだろうな、これ……」

 僕ら3人、並んで座って、ふりふり、みょんみょん、猫じゃらしを振っている。馬達の反応が面白いのと……あと、いつの間にか馬に紛れてやってきていた魔王がまおんまおん言いながらじゃれているのがかわいいし、やっぱりいつの間にかやってきていた鳥の子達がキュンキュン鳴きながら猫じゃらしを追いかけるのがかわいいし。

 ……うーん、平和だ。




「ところで、ラオクレスとクロアさんは?」

「今夜は2人で夜の国のお酒で酒盛りだってさ」

 フェイが気にしていたので教えると、フェイは、へえ、と声を上げて……それからふと、思いだしたように言う。

「夜の国の酒って、昼の国の俺らからしたら滅茶苦茶に強いんだっけか?」

 ええと……多分、そう。前、ラオクレスが昼の国のお酒、タルクさんが夜の国のお酒を持って2人でラオクレスの家で飲み明かしていた時、そんなような話を聞いたことがある。確かあの時はラオクレスもタルクさんもすっかり眠ってしまって、僕とレネが起こしに行ってやっと起きたんだよなあ。

「あー……明日の昼、ラージュ姫がこっち来るからそこで情報共有して今後の方針決めような、っての、伝えたかったんだけど……ま、ちょっと伝えてくるだけなら邪魔にはならねえかな」

 フェイはちょっと気まずげに頭を掻きつつ……ふと、言った。

「それに気になるしなあ……クロアさんとラオクレスって、一緒に飲んでたらどっちが先に潰れるんだ?」

 ……うーん。

「多分、ラオクレスじゃないだろうか」

「そうね、クロアさんが酔い潰れる様子って想像できないし……」

「だよなあ……ラオクレスも相当に強い気がするんだけどなあ……」

 なんでだろうね。あの2人に関しては、力勝負以外は大体全部、クロアさんの勝ちな気がするんだよ……。


 ……まあ、そういうわけで。なんだかどきどきしながらラオクレスの家のドアをノックしてみると、はあい、と、明るい声でクロアさんが返事をする。そして。

「あら?皆揃ってどうしたの?」

 案外普通の顔をしたクロアさんが、出てきた。

「クロアさんが酔っぱらってるところ、見に来たのよ」

「あらあら。それは残念だったわね。生憎、私、睡眠薬や毒薬、それからそういう魔法にもちょっと耐性が付いてるのよ」

 ライラとクロアさんはそんな話をしつつ、どうぞ、とまるで我が家のように僕らを招き入れるクロアさんに従って、ラオクレスの家の中に入る。

 ……すると。

「でも、まあ。彼は睡眠薬への耐性なんて、無いみたいだから」

 ……ラオクレスが寝ていた。

「おーおーおー……ラオクレスが寝てるぜ……」

「寝てると本当に彫像みたいよね……」

 ラオクレスは寝相がものすごくいいので、寝ている間はほとんど動かない。それで余計に、彼が石膏像に見える。すごい。

「それにしても面白いわね。多分、夜の国のお酒って、私達にとっては睡眠薬として働くんだと思うわ。夜の力……ええと、闇の魔力、なのかしら。そういうのが眠りに誘っちゃうのよね」

 クロアさんは寝ているラオクレスの横で、早速、夜の国のお酒の解説をしてくれる。彼女の手にあるガラス製の小さなグラスには、ほんのりと青白く色づいたような、そんなお酒が入っている。……色だけ見ると、ムーンストーンとか、ナタデココとか、ハマグリのお吸い物とか、そういうかんじ。不透明にならない程度に乳白色と薄青を混ぜたような……ええと、こういう色、月白、というのかな。うん、夜の国らしい色合いだ。

「逆に、タルクさんは昼の国のお酒で寝ちゃったんでしょう?ならきっと、夜の国の人達には昼の国のお酒が睡眠薬なんでしょうね。どんな感じ方なのかしらね。柔らかくてあったかい陽だまりの中でぽかぽかお昼寝しちゃう気分なのかしら……」

 くすくす笑いながら、クロアさんはお酒をちびり、と飲んだ。そして、『美味しい!』とにっこり、蕩けるような笑顔。

「な、なあ、クロアさん。俺もちょっと貰っていいか?気になる」

「あら。いいわよ」

 フェイがうきうき好奇心いっぱいの顔で居ると、クロアさんは予備のグラスにお酒を注いで、フェイに、どうぞ、と渡す。フェイはグラスの中で揺れる青白い綺麗な液体を眺めて、へえ、と感嘆の声を漏らすと……中身を、ちび、と飲む。

「……ん!あ、これ、なんだ?めっちゃうめえな……へえ、風変わりな味だ。酒ってかんじしねえ」

 なんだかフェイはそんなようなことを言いつつ、へえ、とグラスの中身を眺めて……。

「……ん、あ、これ、駄目だ。うわ、すっげえ酔う。くそ、急に……睡眠薬っての分かる……わ、悪ぃ、トウゴ、これ、残りやるから……」

 ……そして、かく、とフェイの体の力が抜けたのが分かったので、慌ててフェイの手からグラスを受け取ると、フェイはそれで安心したのかその場で丸くなって寝てしまった。

「あらあら。寝ちゃったわねえ」

 うん。フェイ、寝ちゃった……。すごい速度で寝ちゃったよ。びっくりだ。

 覗いてみたら、いい顔で寝ている。いい夢見てるといいね。

 ……いや、ちょっと待って!しまった!この場で起きているの、僕とライラとクロアさんだけだ!ラオクレスは寝ている!どうやって彼らをベッドまで運ぼう!

 ええと、ええと……。

「……どんな味、するのかしら」

 僕が困っていたら、僕の手にあるグラスをライラが覗き込んでいた。

「綺麗よね、これ。夜の国のものって、色合いが繊細で、光の具合が綺麗なものが多くってさ。描いて表現するのが難しくもあるわけだけれど」

 うん。分かる分かる。この、ほんのり乳白色が混ざった透明、みたいな色合い、絵にしようとするとものすごく難しい。特に、白を残して描いていく水彩みたいな画法だと、ものすごく、難しいんだよなあ……。

「ねえ、トウゴ。それ飲まないなら頂戴。味、気になるわ」

 僕が『これどうやって描こうかな』と思っていたら、ライラがふと、そんなことを言いつつ僕の手のグラスを見つめていた。

 ……フェイが途中まで飲んで寝ちゃって取り残されたグラスだ。元々そんなに量は入っていなかったのだけれど、それでもまだちょっと残っているところを見ると……フェイはお酒に弱いらしい。いや、お酒っていうか、夜の国の魔力に弱い、のかもしれないけれど。

「これ、飲むの?」

「え?うん。瓶に戻すわけにはいかないでしょ?でも捨てちゃうのは勿体ないし」

 ライラが、はい、と手を出してきているのを見つつ……もう一回グラスに目を戻して……うん。

「あ!ちょっと!トウゴ、あんたが飲むの!?」

「うん。僕がもらったやつだし」

 ライラの代わりに僕が飲んじゃうことにした。未成年飲酒にはちょっと目を瞑るとする。いや、ほらだって、今までだってお供え物でお酒、貰ったことあるし……。

 ということで、意を決して、ちびり。

 ……夜の国のお酒の味は……ええと、よく晴れた冬の、夜の空気の味がした。

 冷たくきりりと冴え渡った空気みたいな、そういう味。冷たい風に背を丸めてぼんやり歩いている時に、ふと、澄んだ空に瞬く星を見つけた時みたいな気持ちになる。……そういうかんじの味だった。少し切なくなって、なんだか落ち着く味、とも言えるかも。

「……おいしい」

 ほう、とため息を吐きつつ、言葉が漏れる。うーん、これ、本当に美味しい。なんだろう、飲んだことのない味……。

「え、ちょ、トウゴ。あんたは寝ないの?」

「うん……平気、みたいだ」

 アルコールの影響なのか、それとも夜の国の魔力の影響なのか、ちょっと頭がぽやぽやするかんじはあるけれど、でも、平気。寝ちゃうほどじゃない。これなら、前、ワインをお供えされた時の方が酔っぱらったなあ。……というか、これは本当にアルコール飲料なんだろうか。ノンアルコールで、眠くなる魔力だけ添加されてる、とか、そういうかんじだとしてもおかしくない味だよ、これ。

「へー……あ、クロアさん。私も分けてもらってもいいかしら」

「どうぞ」

 それからライラもクロアさんにお酒を分けてもらって、くぴ、とグラスの中身を飲んで……目を輝かせた。

「……不思議なかんじね。夜の国の空気に似てる、っていうか……晴れた日のかんじだわ。でも冷たいから……そうね、雪が積もって、影ができるくらいに明るい月灯りの中、冬の森を歩いてたらこういうかんじかも」

 不思議ー、なんて言いながら、ライラは順調にグラスを空けていく。どうやら、ライラはフェイよりも夜の国のお酒に強そうだ。


「夜の国のお酒って、こっちのお酒とは全然違うわよね、これ」

「うん。アルコール飲料っていうよりは、魔法で酔っぱらう飲料っていうかんじだ……」

「……あるこーるって何よ」

 まあ、こうして僕ら、異文化を楽しんでいた。やっぱり夜の国のお酒はアルコールじゃなくて魔法で酔っぱらうものなんだろうなあ。ただ酔っぱらって楽しくなってくるんじゃなくて、しみじみ切なくて、じっくり物思いに耽りたくなるような、そういうかんじ。

「なんというか……このお酒、クロアさんにぴったり、ってかんじ」

 そんなお酒を片手に、ふと、ライラがそんなことを言う。

「そう?私に似合う?」

 クロアさんはちょっと笑って、グラスを自分の顔の横へ持ってきた。はい。どっちも綺麗です。

「ねえ、そう思うわよねえ?トウゴもそう思うわよね?」

「うん」

 そして僕も考えてみると……うん。確かに、クロアさんっぽい、かもしれない。でも、他にも似合うもの、たくさんあると思う。夜の国の空を飛ぶレネにもこれ、似合うし、絵を描いているライラの藍色の瞳にもこの透き通った月白がよく似合うと思う。あとは……そうだ!

「ラオクレスにも似合うと思う!」

 静かで凛と張り詰めたかんじ。研ぎ澄まされたようなかんじ。これ、ラオクレスっぽいと思う!

「ラオクレス?……まあ、そっか。確かに、そうかも。ねえ、クロアさんはどう思う?」

「……そうね。確かに、似合いそうだわ。まあ、寝ちゃったけど」

 そう言いつつ、クロアさんはくすくす笑って、ラオクレスの顔を見る。窓から差し込む月光に照らされているラオクレスの顔を見ていると、まあ、確かに、こういう月灯りが似合う人だなあ、と、思う。

「……うん。よく似合うわぁ」

 クロアさんはそう言って、また楽し気にお酒を飲み始めた。


「ところでこのお酒、何ていうお酒だろう」

 クロアさんが手酌でお酒を注ぐのを眺めつつ、お酒のラベルを見てみる。

 綺麗な書体で何かの模様みたいに書かれたラベルは、当然だけれど夜の国語で書かれているから、僕には読めない。

 うーん……後で翻訳機持ってきて、読んでみようかな。

 ……もし、とんでもなく間抜けな名前だったらどうしよう。『ふりゃふりゃ酒』とか。いや、それは流石に無いか……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 猫がじゃれてこない!?いや…そ言えば猫って居たっけかな
[一言] なるほど、ライラに睡眠薬みたいなお酒を飲ませたくないのではなく、フェイが口つけたグラスから飲ませたくないと……なるほど……なるほどなるほど……(笑顔)
[良い点] さんはい♪ ネッコッジャッラッスィ ネッコッジャッラッスィ アワナメイキュトゥザッ ネッコッジャッラッスィ [気になる点] おかわり? ウッマッジャッラッスィ ウッマッジャッラッスィ ネコ…
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