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今日も絵に描いた餅が美味い  作者: もちもち物質
第十六章:恐怖の病
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22話:聞きそこなった質問*1

 それから僕は皆のところへ戻って、ルスターさんを逃がしてしまいました、と報告した。それと同時に、大体、聞きたいことは聞けたので、それも共有。

 ルスターさんを逃がしたことについては、誰も文句を言わなかった。『それが落としどころかもね』と、クロアさんはため息交じりにそう言って、『トウゴ君、お疲れさま』と、僕の頭を撫で始めた。まあ、クロアさんが撫でたいなら撫でてもいいですよ、ということで、大人しく撫でられることにする。

「まあ、分かっちゃいたけど、グリンガルの魔導士の幽霊はカチカチ放火王に洗脳されてて、ついでに封印の宝石がたんぽぽまみれにされるのを阻止するべく、俺達より先に宝石を手に入れようとしていた、と……。それで精霊様を封印しやがったのかあ。ま、納得はいったな」

「だが、それ以上のことは分からんな。『奴』とは一体誰なのかも結局分からないままだ」

「それはカチカチ放火王からもう一回聞くしかないかもね。ほら、グリンガルの精霊様に案内していただければ、次のカチカチ放火王まではすぐでしょうし」

 結局はそういうことになってしまうと思う。

 けれど……次は、僕、『奴』の名前を聞き取れるだろうか。……不安だ。

「……トウゴ。今お前が話した以外に、ルスターが何か言っていたことは無かったか?」

 少しでも手掛かりを、と思ったらしいラオクレスがそう聞いてくる。

「ええと……」

 僕はさっきまでのルスターさんとの会話を思いだして……これ、絶対に関係ないなあ、と思いながらも、言ってみた。

「……『お前、あの筋肉野郎とカレンのガキか』って言われた」


「……それは」

 ラオクレスが絶句している。なんというか、色々な考えが頭の中をぐるぐるしていて、結局何も考えられていない、っていうかんじの顔だ。

「……よくよく考えると、2人がお父さんとお母さんだったら、それはそれで楽しそうだな、って、思った」

 そこで僕が正直な感想を発表すると、ラオクレスは頭の痛そうな顔をし始めた。

「でもねえ。私がトウゴ君を産んだとすると、一体、何歳の時の子っていうことになるのかしら。うーん、5歳とか?」

「サバを読むにしてもせめてもう少し控えめにしろ」

「あら。あなただって私の齢、知らないくせに」

 クロアさんはくすくす笑っているし、ラオクレスは頭の痛そうな顰め面でため息を吐いている。

 ……クロアさんって、何歳なんだろうなあ。まあ、聞かないけれどさ。

「それから、『どうせならカレンにも恐怖だったか聞いてこいよ、あいつこそどうせそんなもの感じちゃいねえから』って言ってた」

「恐怖?」

 次にもう一つ思いだしたことがあったのでそう言ってみたら、クロアさんは首を傾げる。そこで僕は、ざっと先生の言うところの『恋』について、話してみた。即ち、恐怖です、と。

 ……すると。

「恐怖、ねえ。感じたことなかったわ」

 クロアさんは案の定、そんなことを言って……それから、ふと、虚空を見つめて、小首を傾げた。

「まあ、それなりに綺麗でいるつもりだし。まず、相手に好きになってもらえない、っていうことは、ないのよね。魅了の魔法もあることだし……」

「うん」

「それこそ、私を見て『別にそんなには美しくない』なんて言うの、ラオクレスくらいなもので」

「うん」

 言ってたね、そういうこと。……ああ、ラオクレスが憮然とした表情を浮かべている!

「自分を制御できないっていうこともないし、格好つけて格好つけられないっていうことも、まず、無いわねえ……。取り乱すようなことも、そんなには無いつもりだし……」

 だろうね。クロアさんはいつでも綺麗で格好いい。

「……先程のあれは取り乱していたが」

「……偶にはそういうこともあるわよ」

 ラオクレスの言葉にクロアさんはじっとりした目を向けて……それから、ふと、眉根を寄せた。

「幻滅させたかしら」

「あれくらいの方がいい。俺の役割が無くなる」

「あら、そう。それはよかったわ。複雑な気持ちだけれど」

 クロアさんはそう言って、安堵とがっかりの混ざったようなため息を吐きだして……。

「……ん?」

 ふと、じっと、ラオクレスを見つめ始めた。

「何だ」

「ん……んー?」

 クロアさんはなんだか頭の痛そうな顔をしながら、自分の指で額をつっつく。考え事をするクロアさんの図。

 ……そして。

「……なんでもないわ」

 やがて、クロアさんは顔を上げて、ものすごく複雑そうな顔で、考え事をやめた。あ、もういいの?そっか……。『考えるクロアさん』、もうちょっと描きたかったんだけれど……。




 さて。僕がルスターさんと話している間に、鳳凰が皆の怪我を治してくれたらしい。その分、泣き疲れて今、鳳凰はフェイの腕の中で眠っている。……フェイって火の魔法を使える人だからか、なんだか体温が高めであったかいんだよ。鳳凰はそんなフェイに撫でられながら寝るのが気に入っているらしい。ちょっぴりやきもちを妬いてしまいそうだ……。

「さて。じゃあ、そろそろ封印の宝石をなんとかしないとね。はあ、元々の目的を忘れちゃうところだったわ……」

 僕らはそのままぞろぞろと、カチカチ放火王封印の宝石を探しに皆で進む。

 先頭はラオクレス。そのすぐ後ろに僕とグリンガルの精霊様。……鳳凰を抱っこするフェイが羨ましかったので、僕はグリンガルの精霊様を抱っこしている。というか、半分くらいは巻き付かれていると言った方が近い。でもいいんだ。精霊様としては、これ、居心地がいいらしいので。

「……カチカチ放火王もなあ、目的がよく分からねえんだよなあ。この世界を滅ぼしてどうするってんだかなあ」

「うん……魔導士の幽霊、『世界を滅ぼして外なる国へ行く』って言ってたけれど」

「……つまり、夜の国か?」

「うーん……だとすると、うちの魔王こそ真の魔王、っていう説を裏付けることになってしまう気がする……」

 僕の頭の中で、うちの魔王が『まおーん!』と元気に鳴く。最近の魔王はソレイラで果樹園のお手伝いをすることが多い。尻尾を数メートルにまで伸ばしては木の高いところの果物を収穫してくれるので、農夫の人達、助かっているとのことだった。お礼に分けてもらった果物を抱えてご機嫌な魔王は、秋の風物詩。

「……案外、本当にそうだったりしてなあ」

「だとすると夜の国にカチカチ放火王が行ってしまうっていうことだから、やっぱり阻止しないといけないと思う」

「いやいや。ほら、もしかしたら夜の国を炎で温めてくれるかもしれねえ」

「……聞いてみる?」

「そうだな。聞いてみようぜ!」

 僕とフェイはそんな話をしつつ、振り返ったラオクレスに『お前達は一体何の話をしているんだ』みたいな顔をされつつ、精霊様の案内で森の中を進んでいくのだった。




 ……そして、僕らは森の一角、大きな木の下に鎮座する、封印の宝石を見つけた。

 の、だけれど。

「ま、まずい!もう輪っかが外れそうだ!」

 フェイは大慌てで鳳凰をラオクレスに預けて駆け出していって……封印の宝石の上でカタカタ動いていた封印の輪っかを抑え込んだ。

「トウゴー!急いでたんぽぽ生やせ!」

「うん!」

 フェイが輪っかを抑え込んでいる間に、僕は慌ててたんぽぽを生やす。急いで魔力を吸って、少しでも、カチカチ放火王をパワーダウンさせなければ!

 もうたんぽぽはすっかり描き慣れて、素早くたんぽぽを生やすことに成功した。更にもう一株。ついでにもう一株。駄目押しに更にもう一株。

 ……そうやって生えたたんぽぽは、急いで封印の宝石から魔力を吸い上げてくれる。間に合え、間に合え、と思いながら、僕はなんとか、たんぽぽを生やし続けて……。


 そして。

「くそ、もう駄目だ!おい、出てくるぞ!」

「分かった!フェイ、すぐに離れて!」

 いよいよ駄目だ、となった時、フェイが封印の宝石から手を離して、こちらへ駆け戻ってくる。それと同時に……火柱。

 腕ぐらいの細さじゃなくて、もっと、ちゃんとした火柱が、森を焼く勢いで燃え盛る。

 ……そして。

『……よくも好き勝手やってくれたものだな』

 ラオクレスと同じくらいの大きさのカチカチ放火王が、現れた。

 ……どうやら、今回は踏み潰すわけにはいかないみたいだ。




『魔導士は失敗したか。全く、ふがいない奴め』

 カチカチ放火王は周囲を見回して、そう言った。……魔導士の幽霊にお願いしていたのは、時間稼ぎ、だったのかな。

『だが、まあいい。……久々に、貴様らを蹂躙してやることができそうだ』

 けれど、カチカチ放火王は魔力を完全に吸い取られたわけじゃない。それなりの強さで、今、僕らの目の前に立っているはずだ。

「トウゴ!通訳を頼む!」

「うん!ええと……魔導士の幽霊は失敗したか、ふがいない奴め、って言った。それから、久々に貴様らを蹂躙してやるぞ、みたいな!」

「そっか!させねえからな!」

 フェイは僕が訳したカチカチ放火王の言葉を聞いてそんなことを言いつつ……じっとカチカチ放火王を見て、言った。

「正直、さっきの魔導士の幽霊よりは弱そうだな」

 ……うん。

 まあ、魔力の量だけ見ると、そう、かもしれない。魔導士の幽霊の魔法、相当に強かった。うちの魔物達が簡単にやられてしまっていたぐらいだ。けれどもあれはあれで無理の利かない体だったみたいだし、ルスターさんという弱点もあったわけで、カチカチ放火王はまた、それとは事情が……。

「総員、かかれー!」

 ……僕がちょっと考えている間に、フェイが号令をかけていた。

 すると。

 すごい勢いで、魔物達が、動く。

 ……そうか。彼ら、さっきのリベンジマッチだと思って、カチカチ放火王に向かっているのか。

 カチカチ放火王にルスターさんみたいな弱点が無かったとしても、こちらだってさっきと同じじゃない。士気は十分。こっちが多勢。そして……カチカチ放火王は、魔物達が大量に現れたのを見て、驚いている!

 なら、今しかない!

 僕も彼らに加勢すべく、カチカチ放火王の頭上に……大きな大きな、水入りバケツを描いて出した。




 ばしゃ、と、水が降り注ぐ。カチカチ放火王の炎めいた体が大量の水で掻き消されるように揺らめいた。

 勿論、流石にそれくらいじゃカチカチ放火王は消えてくれないみたいだったけれど、それでも、炎みたいな魔物に水は中々効いたらしい。姿を揺るがせながらもカチカチ放火王は姿勢を立て直して……けれども、そこに魔物達が襲い掛かる。

『邪魔だ!』

 カチカチ放火王が、一際突出した位置に居た骨の騎士団に向けて、炎を吐き出した。ごう、と大きな音を立てて、炎が彼らを包み込む。

 ……けれど、まあ、彼らは、骨なので。

 既に一度、火葬されているような(もしかしたら土葬だったのかもしれないけれど……)体の彼らには、さほど、炎は影響しなかったらしい。

 炎を気にせず突進していく骨の騎士団の存在は、カチカチ放火王にとって想定外だったかもしれない。骨の騎士団はその剣を鎧を陽の光と火の粉の残滓に煌めかせて、一斉に、カチカチ放火王を斬りつけていく。

 走り抜けざまに繰り出されていく剣は、確実にカチカチ放火王を傷つけて、それでいて、カチカチ放火王は走り抜けていく骨の騎士達を捕まえられない。

 続いて、空からハルピュイアがバタバタと襲い掛かる。するとカチカチ放火王はたちまち、空に向けて炎を吐き出した。……と、思ったら、ハルピュイア達は空中で一塊になって、バタバタバタバタ、と、一斉に羽ばたき始めた。

 ……すると、巻き起こった風が、炎をぐい、と押し返してしまった。炎はハルピュイアまで届かない。

 そうしている間に、二足歩行の牛とか、三つ首の犬とかが、一斉にカチカチ放火王を攻撃していく。牛のこん棒に殴られて、犬達に噛まれて、カチカチ放火王は一気に衰弱したように見える。

『ええい、邪魔だ!』

 そうして遂に、カチカチ放火王は苛立ったように吠えて、炎を、周囲一帯へと撒き散らし始めた。

 一気に撒かれた炎に、魔物達は慌てて退避する。中には炎に当たって火傷を負う魔物も居たけれど、そういう魔物は他の魔物が手伝って、彼らはすぐ退避した。怪我人には鳳凰が飛んでいって即座に治療。

 ……そして。


 ひゅ、と、空気を切るような音が響く。

 それは、レッドドラゴンが飛ぶ風切りの音。……急降下するレッドドラゴンが、カチカチ放火王に迫る音だ。

「よし、行けー!」

 レッドドラゴンに乗ったフェイは、レッドドラゴンと一緒に急降下して……そして。

 ぷち。

 ……カチカチ放火王を見事、踏み潰してしまった。

「どうだーっ!踏み潰してやるの、三回目だぜ!」

 フェイが喜びの声を上げると、ぎゃう、とレッドドラゴンも鳴く。レッドドラゴンは随分と満足そうに、カチカチ放火王を踏み潰した地点で羽をぱたぱたさせていた。


「……君、出ていき損ねたね」

 僕の横で鳥が、キュン、と不満げに鳴いている。

 ……これは、最高の出番を待っていたらうっかりタイミングを逃してしまった、っていう顔だと思う。

 ええと……元気出してね。


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― 新着の感想 ―
[良い点] カチカチ放火王のメンタルに乾杯! [一言] 久々にそこそこの力を持って登場出来たけれど、魔物たちのリベンチマッチにやられて候う レッドドラゴンの急降下踏み付け!効果は抜群だ!
[良い点] カチカチ放火王、今回は活躍するかと思いましたがあっさり負けちゃいましたね。数って強い。 ルスターさん対策で連れてきた魔物達が大活躍だったので、ある意味ルスターさんのおかげ?本人に言ったらい…
[一言] >お礼に分けてもらった果物を抱えてご機嫌な魔王は、秋の風物詩。 その内俳句の季語になるやもしれん。
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