12話:妖精の国*4
「いや、騙してついてきちまったのは悪かったって。あ、こらこら。ぽこぽこ叩くな。痛くはねえけどくすぐってえっつの」
妖精がフェイに群がって、ぽこぽこぽこぽこ、頑張って叩いている。とは言っても、妖精のぽこぽこだから、痛くはないらしい。まあ、妖精って小さいし、軽いし。
「ええと……でも、僕、彼らが居ないと困ってしまうので……やっぱり駄目?」
ということで、改めて妖精達にお願いしてみる。どうやら妖精達、僕に対してはある程度我儘を聞いてくれそうな気配がしているので……。ちょっと狡いかな。狡いか。ごめん。
「もし、どうしても駄目だっていうなら引き返すけれど……その、妖精の国が困っている、っていう手紙を見たものだから。何か力になれることがあれば、僕も、後ろの人達も、全力で協力するよ」
お願いしてばかりなのも心苦しいし、そもそも僕らの目的は、妖精の国の問題解決とカチカチ放火王の封印の解決だ。妖精の国に危害を加える気は無いよ、ということを前面に押し出しつつ、改めて妖精達にお願いしてみたところ……。
……妖精達は、しゃらしゃら声を上げながら、何かひそひそ相談を始めた。
僕らはそっとそれを見守って、しばらく待って……そして。
妖精達は意を決したように頷くと、僕ら全員に向かって飛んできて、それぞれの指に、きゅ、と抱き着く。僕だけじゃなくて、皆。あれだけ妖精の国への侵入を拒まれていたラオクレスの指にも、数匹の妖精がくっついて、妖精式の握手。
そして何か、妖精達は僕らに向かって話しかけてくれるのだけれど、妖精語は分からない。……けれど、妖精達の表情は分かる。
妖精達はどうやら、何かを決意したらしかった。
何かを決意したらしい妖精達は、僕らをそっと引っ張っていく。行く先々に何匹か妖精達が出ていっては合図をして、合図があったら僕らが動く。そんなかんじに。
「これ……何か、見張りとかを警戒してるっぽいよなあ」
「うん。何だろうね」
「妖精達も一枚岩ではない、ということかもしれんな」
「或いは、この妖精達は『人間を通すな』って上から命じられているのかもしれないわ。ほら、手紙にもあったでしょう、『妖精の国がへんなやつに乗っ取られてしまいます』って。そういうことじゃないかしら」
成程。皆の推測を聞いていたら、なんだかそんな気がしてくる。
妖精達は真剣に僕らを何処かへ連れていこうとしている。僕らはそれに応えるべく、妖精よりずっとずっと大きな体でもできるだけ目立たないように、素早く、それでいて静かに移動して……。
「……ここ、かしら?」
やがて僕らは、天然のテントの前へやってきていた。
すごいんだよ、これ。大きな木があって、大きな木からはたくさんの花がついた蔓が何百本と垂れ下がっていて、それが天然の暖簾みたいになってテントを形作っている。花は薄いピンクや薄い紫、薄い水色などなど。フェアリーローズの色だ。
「綺麗な場所だね。実に良い。これは父上にも見せたかったな」
「ああ。実に素晴らしい景観だ。我が家のフェアリーローズの茂みの中に潜ったらこんな具合かもしれないなあ。うーん、今度は妻と子供も一緒にお招きいただきたいものだ」
僕らは全員、そのテントの中に入ると……そこには。
「あっ!トウゴおにいちゃん!」
「ああ、よかった!皆、ここに居たんだ!」
そこには、アンジェとリアンとカーネリアちゃんが……何故か、白くてひらひらした服に着替えて、そこに居た。
「あの、大人の人たちも来れたの?」
「おう。妖精達が快く招き入れてくれたぜ!……あ、こらこら。だからぽこぽこ叩くなっつの。くすぐってえ!」
僕らがやってこられたことに疑問を覚えたらしいアンジェが首を傾げているけれど、フェイがバレバレの嘘を吐いている。そして妖精達に囲まれてぽこぽこやられている。フェイはある意味で妖精と仲良しだなあ。
「ねえ、アンジェ。もしかして私達は招かれざる客、っていうことかしら?」
「トウゴ以外は招かれていないからな。何か事情があるようにも見えたが……」
フェイが妖精と戯れてローゼスさんに笑われている間、僕らはアンジェに状況を聞く。何と言ってもこの中で唯一、妖精語が分かる子だから。……通訳が1人でも居るって、すごいことなんだよ。本当に!
「ええとね……妖精の国のあたらしい女王さまが、大きな人間は通しちゃだめ、って、言ってるみたい。きょうい?になるから、って。とくに、雷の力がある人は駄目、って」
「成程……ええと、僕ぐらいの大きさまでは脅威にならない、って思われてるのか……」
「あのね、本当はトウゴおにいちゃんも、だめなんだって。でも、トウゴおにいちゃんは人間じゃないからいいんだって」
ちょ、ちょっと待ってほしい!僕は……僕は、人間……じゃないね。うん。もう諦めよう。僕はもう人間じゃない……。うう。
僕は人間であることを諦めた。まあ、既に羽が生えている分際で人間であることに固執するのも馬鹿らしいか……。
「ねえ、見て!トウゴ!この服、似合うかしら?」
僕がちょっとしょんぼりしていたところ、カーネリアちゃんがやってきて僕の目の前でくるくる回った。
彼女がくるくる回ると、白い服の裾がふんわり広がって、なんとも綺麗だ。
「似合うよ。……そういえば君達、着替えたんだね」
アンジェもリアンもカーネリアちゃんも、全員白くてひらひらした服に着替えている。ええと、ギリシア神話とか古代ローマとかの服を彷彿させるような、そういう服だ。ゆったりしていて、布をたっぷり使って綺麗なドレープが出ているような、そういう。そしてついでに、男でもズボンじゃなくてスカートというか、ワンピースというか。なのでリアンがそわそわしている。気持ちは分かる。夜の国で僕も似たようなかんじだったよ。あの国も服が男女関係なくワンピースだから……。
「妖精さんのおようふくに着がえるの。そうすると、この国にいてもだいじょうぶ、って」
……成程。ええとつまり、今、アンジェ達が着ているこの白くてひらひらした、如何にも妖精の服、っていうかんじの服が、ある種の通行許可証みたいなものなのかな。それとも、何か防護服みたいなものなのかも。いや、よく分からないけれど。
「そっか。似合うよ、アンジェもカーネリアちゃんも。あとリアンは天使っぽい」
「あーそうかよ!」
「ね!リアン、似合うのよ!とっても綺麗だわ!でもね、トウゴ。リアンはこの服、あんまり好きじゃないみたいなの!すごく似合うのに!」
「ヒラヒラしてて落ち着かねえんだよ……」
……リアンもカーネリアちゃんも、妖精の国の服、よく似合うよ。アンジェは言わずもがなだ。元々、天使か妖精みたいな子だからかな。こういう恰好、よく似合う。3人とも、大きな妖精みたいだ。
更に、妖精達がそれぞれ、腕いっぱいに花を抱えてやってきた。妖精よりも花が大きいものだから、色とりどりの花束がふわふわ飛んできたようにも見えて面白い。
やってきた妖精達は、アンジェ達をこぞって飾り始めた。花で冠を編んで頭に乗せたり、服の帯に花を挿したり。妖精達はとても楽しそうに仕事をしている。……リアンも容赦なく飾られていくので、なんというか、見ていて微笑ましい。本人は嫌がっているけれど、カーネリアちゃんが『リアン、綺麗だわ!』と大喜びなので大っぴらに嫌がれない様子だ。微笑ましい。とても微笑ましい。
「みんな可愛いわ。よかったわね、妖精さんに飾ってもらって」
クロアさんもにこにこ笑顔だ。アンジェは照れながら、カーネリアちゃんは満面の笑みでクロアさんに応えている。リアンは『なんとか不機嫌にならないように頑張っています』みたいな顔をしている。えらいぞ。
「まあ、リアンも災難だけれど……似合うからまだよかったよね、っていうことで」
リアンを励ますべく、僕はそう言ってリアンの肩に手を置いた。するとリアンは、じっとりとした目で僕を見て……言った。
「……トウゴ、他人事みたいに言ってるけど」
うん。他人事だから落ち着いています。
「お前も着替えるんだからな」
……えっ?
「ちょっと待ってほしい。僕は着替えなくてもいいんじゃないだろうか」
「俺が着替えたんだからな!トウゴだって着替えろよ!」
リアンは開き直ってにやにやしている。『足を引っ張ってやれ!』っていう顔だ!
「あのね、これ着てる子は、妖精さんにお招きされた子、っていうことみたいなの。これを着てる子は悪い子じゃないよ、っていう印なんだって」
そしてアンジェからそんな説明を受けてしまって……な、成程。つまり、僕らが元の恰好で出歩いていたら、それは本当に『招かれざる客』の印になってしまう、ということなのか……。
「ね、ね!クロアさんもきっと似合うと思うの!妖精さん!さっきの、丈の長い、すべすべしたやつ、どうかしら!クロアさんにはきっとあれがいいわ!」
「え、わ、私も?あらあら……」
早速、クロアさんがカーネリアちゃんと妖精達に手を引かれて、カーテンで区切られた一角へと連れていかれてしまう。多分、更衣室。
「……ちなみに、俺達もか?いや、まさかな?」
……そして、フェイとローゼスさんとサフィールさん、更には、いつにも増して石膏像の威圧感たっぷりのラオクレスまでもが、妖精にちょいちょいと引っ張られている。
……どうやら。
僕ら全員、着替えるみたいです。ええと、ラオクレスまでもが。ラオクレスまでもが!
そうして僕らは妖精の国の服に着替えさせられてしまった。
「へへ、トウゴ、似合うじゃん。よかったな!」
リアンがにやにやしながら僕を見ている。……そうだよ。僕も妖精の国の恰好だよ!ひらひらで落ち着かないよ!
……ええと、僕の服、布の面積が少ない。背中が出るんだよ。首で服の端っこを結んで残りを腰のあたりに巻く形の服だから、胸と下半身しか隠れない。腕と背中は出っぱなし。
だから羽がそのまま出てる。ちょっと恥ずかしい。けれど羽は妖精達には好評みたいで、妖精達は僕の背中側に回ってはぱちぱちと拍手をしている。……ちょっと恥ずかしい!
「……ま、いいじゃん、トウゴは。元々妖精みたいなもんだろ」
「精霊です……」
リアンの言葉にちょっと反論する。僕は妖精ではない。妖精ではない!
「あっち見てみろよ」
……けれど、妖精ではないけれど、僕は精霊なので……まだマシだった、ということなのかもしれない。ええと、主に、フェイを見てそう思った。
「フェイ兄ちゃんの兄ちゃんとか、サフィールさんとかはなんかいいけどさ。……フェイ兄ちゃん、似合わねー」
「うん」
フェイって、こう、容姿は整ってるんだけれど……白いヒラヒラした服とかお花とかが似合う人ではない。ゆったりした服よりはぴしっとした服の方が似合うタイプだし……そもそも、妖精っぽさは全く無い!
そんなフェイが、白くてひらひらしたワンピースを着せられている!そして妖精達に『本当にこれでいいんだろうか』みたいな顔をされつつ、花を飾られている!
「……おい、トウゴー、リアンー。お前ら、お前ら……覚えてろよ……」
「大丈夫だよ、フェイ。絶対に忘れないから」
フェイは半笑いで僕らに怖いことを言ってくるのだけれど、そう言う間も妖精の国の服なので、僕はにこにこするしかない。
「忘れられねえっつうかさ……いや、ごめんな、フェイ兄ちゃん……」
「あ、そうだ。ねえフェイ。描いていい?」
「よくねえ!残すな!俺のこの格好の記録を残すな!残すなら兄貴達にしろ!まだそっちの方がマシだろ!」
スケッチブックを出したら怒られてしまった。駄目か。そっか。残念。
「ふむ、久しぶりに家を離れて冒険してみたら、こんな格好をさせられるとはね。妖精の国の文化というものは非常に興味深いな」
「随分と気合が入っているな。歓迎以外の意味もあるように思える。まさか下着まで着替えさせられるとは思っていなかったが……」
ローゼスさんとサフィールさんは、揃ってそれなりに似合っているからすごい。2人ともちょっと線が細めで中性的な男性2人だからかな。ローゼスさんなんかはフェイと比べて幾分女性的な顔立ちをしているからか、こういう恰好をしても『こういうもんか』という具合にうまく落ち着いている。妖精達も2人を飾る分には違和感が無いらしくて、ちゃんと似合う服を選んできたみたいだし、今も張り切って色々な花や布を飾っている。
「……ん?下着?おい、サフィール。君、下着まで着替えたのか?」
「ああ。ローゼスは着替えさせられなかったのか?」
「着替えさせられなかったが……ふむ」
ローゼスさんはちょっと不可解そうな顔をした数秒後、何かに納得がいったらしくて、にこにこしながら頷き始めた。
そして僕らは、ただ黙って、笑わないように、顔に出ないように頑張る。
……いや、あの、多分、だけれど。
多分……多分、とんでもない色の、パンツ……!
それからクロアさんが出てきた。こちらは……文句なしに、とても綺麗だ!
「どうかしら」
「描きたい!」
「あらあら。ということはお眼鏡に適った、っていうことね。よかったわ。こういう恰好は中々しないから、自信が持てなかったのよ」
早速スケッチブックを出してクロアさんの姿を描きつつ、クロアさんの観察。
クロアさんは、すとん、としたデザインの、後ろの裾を引きずる形のドレスを着ている。黄色と緑と白の草花で飾って、そして背中にはアレキサンドライト蝶。艶の深い金色の髪は綺麗に結ってあって、そこにも花が飾られている。
文句なし。妖精の女王様みたいな姿だ!
これには妖精達も大満足みたいで、妖精達はクロアさんの周りを飛び回ってはうっとりしている。更に、クロアさんがその内の一匹を指先に止まらせてにっこり微笑みかけたら、その妖精、うっとりのあまり墜落してしまって、慌てて他の妖精達が救助していた。うん。気持ちは分かる。
「ところで、ラオクレスは?まだ終わらないのかしら」
……そして、クロアさんに一頻り見惚れて、クロアさんを一頻り描いたところで……気づく。
ラオクレスが、まだだ。
……僕らは緊張しながら、ラオクレスの着替えを待った。
一体どういう姿のラオクレスが出てくるのか、いっそ恐ろしいような気持ちで待った。クロアさんだけ、ぷるぷるしながら笑いを堪えていた。
そして、緊張の時間が過ぎ、遂に……ラオクレスが現れる!
「笑いたければ笑え」
開き直ったというよりは悟りを開いたかのような無表情。堂々とした仁王立ち。筋肉質の体を覆うのは、サイズが小さくて丈が短くて布面積が相対的に足りていない、白い薄絹でできたワンピース!
そして、駄目押しとばかりに飾られた色とりどりの花!花冠の他にも、服にまで花が飾られて、それはそれは可愛らしい出で立ちだ!中身がラオクレスじゃなかったなら!
僕らは全員押し黙ったまま固まって……ただ1人、クロアさんだけが、手を叩いてきゃらきゃらと笑い声を上げている。
ラオクレスは『俺は開き直ったぞ』みたいな顔をして、努めて冷静に、かつ堂々としているのだけれど……ふと、僕の脳裏に閃くものがあった。
あんまり似合わない、女性らしい恰好にされてしまっている筋骨隆々の英雄。そして、にこにこと楽し気な、女王様みたいに美しい女性。となると……。
「……クロアさん。ちょっとこれ持ってラオクレスの隣、立って」
「へ?」
笑っていたクロアさんに、描いて出したこん棒を持ってもらう。
「ラオクレス。これ持って、クロアさんの隣、座ってて」
「……なんだ、これは」
ラオクレスには糸紡ぎの道具を持ってもらう。
「あと、クロアさん、ラオクレスの肩に腕を回して。そう。そんなかんじで」
困惑しながらも、2人は僕の指示通りにポーズをとってくれて……。
……よし!
「ヘラクレスとオンファレだー!」
「待てトウゴ!描くな!」
ルモワーヌの『ヘラクレスとオンファレ』の構図が出来上がったところで早速描こうとしたら、ラオクレスがずんずんやってきて、僕をひょい、と持ち上げてしまった!やめてやめて!描けなくなっちゃうだろ!ヘラクレスとオンファレ!ヘラクレスとオンファレ描きたい!これ描きたい!すごく描きたい!
「この格好で描かれるくらいなら裸を描かれた方がましだ!」
「あら、いいわよ。じゃあ私も脱ぎましょうか?それとも私は服を着たままの方がいいのかしら?」
「あ、じゃあクロアさんの方はそのままでお願いします」
「クロア!ふざけていないでお前もトウゴを止めろ!」
……その後、僕は描くのを断念した。しょうがない。ラオクレスがあんまりにも恥ずかしがるので、流石に申し訳なくなってやめることにした。けれどいつかリベンジしたい。
そして、ラオクレスの恰好はクロアさんによって修正された。一頻り笑って満足したらしいクロアさん、『ちょっとこっちへいらっしゃいな。直してあげる。このままじゃフェイ君達が呼吸を忘れちゃいそうだし、トウゴ君の目がきらきらしっぱなしだもの』と言ってラオクレスを服置き場へ引っ張っていくと、それから少しして、ギリシア神話とか古代ローマとか、そういう恰好になったラオクレスを連れて出てきた。クロアさんが諸々の服をアレンジして着せたら、それなりにちゃんと男性の恰好になったらしい。
ラオクレスは落ち着いた顔になったし、妖精達が『勉強になります!』みたいな顔をしている。
「……マシになったか」
「うん」
この格好なら違和感が無い。頭に乗っているのも花冠から月桂樹の冠になって、ますます違和感が無い。
というか、違和感が全くないものだから、神話の一節がそのまま形になって出てきたようにも錯覚してしまう。すごいなあ、ラオクレス。こういう恰好すると、ますます石膏像だ。正に古代の騎士だ!格好いい!これはこれで描きたい!
「……あの、これなら描いていい?」
「好きにしろ」
ラオクレスは疲れ果てた表情で許可をくれたので、僕、こちらは遠慮なく描かせてもらうことにした。よし!
さて。その後フェイが『クロアさん!頼むから俺も何とかしてくれ!頼む!トウゴが描く前に着替えてえ!』と言ったため、フェイの恰好も修正された。こっちも古代ギリシアな格好になった。僕の表情筋に優しい恰好とも言う。
「……さて。私達、着替えたわけだけれども。この後どこかへ連れていってくれるのかしら?」
すっかり妖精達の尊敬の的になっているクロアさんがそう尋ねると、妖精達は揃って頷いて……アンジェを通して、何か話してくれた。
……アンジェが妖精の話を聞いている。僕らはアンジェの翻訳待ち。そわそわ……。
そうして、アンジェが一通り妖精の話を聞いたところで、ようやく、僕らにもこの国の状況が分かることになる。
はずだった。
「あの……あのね。アンジェ、妖精さんに、『妖精の国の女王さまになってください』って、言われちゃったんだけれど……どうしよう」
……聞いてもよく分からなかった。
ええと、どういう状況なんだろうか、これは。