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今日も絵に描いた餅が美味い  作者: もちもち物質
第二章:言葉にできるように
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13話:依頼と雷*1

 僕は、そんなにたくさんのお金は要らない。他の人に迷惑を掛けない程度にお金があればそれでいい。

 それから、仕事も多分、別に要らない。絵を描くことを仕事にしなくても絵は描ける。

 ……なので僕は、『絵師』になる気が、あまり無い。

 フェイに頼まれた絵を描くのは嫌じゃないし、頼まれれば可能な限りで幾らでも描く。……けれど、それって恐らく、僕にとって『仕事』ではない。

 そう。僕にとって、『絵を描くこと』は、『仕事』ではない。

 だから僕は多分、『絵師』になれない気がする。

 ……ややこしく考えすぎ、なんだろうか。

 単純に、その先にあるものが不安なだけなんだろうか。




 いい加減、天馬に下ろしてもらった。そして僕はラオクレスと一緒に食事を摂る。(パンにチーズ挟んだやつ。ハムは黒いお化けに食べられたっきりなので無い。少し楽しみにしてたのに!)

「ねえ、ラオクレス」

「なんだ」

「僕、フェイに『レッドガルド家のお抱え絵師にならないか』って誘われてる」

 ラオクレスは『どうしてその話を自分にするのか』みたいな顔をしたけれど、僕は構わず続ける。

「どう思う?」

 ……いよいよラオクレスは『そんなこと聞かれても』みたいな顔になるけれど……それでも、考えて、答えてくれた。

「お前があの貴族を悪く思っていないなら、受けるべきだろうな」

 そっか。

「それはなんで?」

 理由を聞いておきたかったのでもう少し、ラオクレスには喋ってもらう。彼も喋るのはあまり得意ではないらしいけれど、そこは頑張ってもらおう。

「お前には保護が必要だろうと思ったからだ」

 ……うん?


「金銭については……保護は不要だな。お前は」

「うん」

「だが、お前は、その……人付き合いが得意なようには見えない」

「うん」

 その通りだ、という思いを込めて頷く。そうだね。僕は人付き合いがあまり得意な方じゃない。話すのは苦手な方だ。それから、近づいてくる人の善悪を見極めるのも、何となく苦手だ。多分。

「これから先も絵を描くなら、厄介ごとはあるだろう。今回、俺に巻き込まれたように、誰かに巻き込まれることだってある。そしてそれ以上に、向こうからお前を巻き込みに来ることだって増えるだろうな」

「うーん……」

 向こうから、巻き込みに。

 ……嫌だな、それ。避けようがない気がする。

「そういう時、後ろ盾があった方がいい。お前1人ならただの世間知らずのガキ1人だが、レッドガルド家が後ろに付いているとなれば、そうそう手は出せない」

「そういうもの?」

「少なくとも、お前をただの世間知らずと侮るのは難しくなる。特定の貴族との繋がりが分かっていれば、その伝手で色々な対策ができるはずだ、と誤認させられる。お前が何もしていなくても、な」

 うん。そっか。何もしてなくても。

 確かに、フェイは領主の家の人だ。領主を敵に回したい人は居ないだろうし……僕が変わらずにぼんやり絵を描いているだけでも、レッドガルド家を警戒して手を出さないでもらえる、っていうことか。

「そっか。うーん……」

「……逆に、何を迷うことがある?」

 僕が悩んでいると、ラオクレスは不思議そうな顔をする。

 うん、そうなんだよな。そういう反応が普通なんだと思う。

 ……僕も、なんでこんなに躊躇うのか、分からない。

 レッドガルド家の人達は良い人達だ。僕がそこに居るのが少し申し訳ないくらいに。

 だから、彼らに不満がある訳じゃなくて……それから、絵を描けるようになるんだから、絵師になる、というのも、悪い話じゃないはずで、更に後ろ盾にもなってもらえて、金銭の援助……これは必要無さそうだけれど、でも、色々と勝手が分からない異世界生活をサポートしてもらえる。

 うん。悪いことなんて何も無い。

 何も無い、のだけれど……考えようとすると、頭の奥で、1枚の紙がちらつく。

 僕を『そっち側』に連れ戻そうとする手が、伸びてくる。




「……答えが出ないならもう少し待たせてもいいだろう」

「うん……」

 ラオクレスはそう言ってくれる。うん。元々、お抱え絵師の話はそう急ぐ話じゃない。何せ、僕自身がまだ、自分の魔力を制御しきれていないから。

 まだ、一番強い封印具を身に着けていないと、実体化しない絵は描けない。これじゃあ、まだ絵師としてはやっていけないだろうし……。

「ただ、お前には保護が必要なように見える」

「うん」

 けれど僕は今すぐ、保護、が欲しい、のかもしれない。

 僕は……僕自身はどうでもいいのだけれど、ラオクレスやフェイ、馬や鳥達に迷惑を掛けるかもしれないし、犯罪に巻き込まれないような工夫だけは、しておかないといけない。少なくとも今回みたいに、店に入った瞬間に殺されかけるようなことは無い方がいい。あと、密猟者みたいなのも来ないでくれると嬉しい。

 だからこそ、今すぐにお抱え絵師の話を受けるべきなのかな、とも思ったのだけれど。

「……盾をくれ」

「え?」

 突然、ラオクレスがそんなことを言い出す。

 びっくりして、彼の顔をじっと見ていると……ラオクレスは、言った。

「剣と盾があれば、ひとまず戦える。多少の厄介事なら、俺がなんとかできるだろう」


 ラオクレスの申し出に、驚いた。

 そっか、彼は……戦える、って、確かに言っていたけれど。

「それは……護衛をしてくれる、ってこと?」

「ああ」

「モデルだけじゃなくて、護衛もしてくれるの?」

「……俺は元々モデルよりは護衛だ」

 まさか、僕の護衛をしてくれるとは、思ってなかった。そっか。やってくれるんだ。

「ただし、お前が貴族連中と上手くやっていくには枷になるかもしれない。権力ではなく武力で物事を解決するのは」

「ううん、いい。すごくいい。よろしくお願いします」

 僕は嬉しくて、嬉しくて……早速、画材を持ってくる。

「待っててね。すぐ盾、出すから」

「待て」

 そして僕が画用紙に鉛筆を乗せかけた時。


「今日はもう寝ろ」

 ……そう、言われてしまったのだった。

 うん……。


「おやすみなさい」

「おやすみ」

 言われてしまったので寝ます。




 朝になったので、すぐ起きる。おはよう。

 起きてすぐ、水浴びしに行った。

「おはよう」

 今日は鳥が一緒だ。鳥はいつものように、我が物顔で水浴びしている。そういえば、この鳥見たのはちょっと久しぶりだったかな。最近は僕がフェイの家にお邪魔することも多かったし、単純に魔力切れで寝っぱなしのこともあったし。

 ……僕も水浴びして、さっさと湖を出る。

 今日はラオクレスの盾を描く日だ。気合を入れていきたい。


「おはよう!」

 ということで、僕は早速、画材を一通り持ってラオクレスの家に向かった。ラオクレスは家の前で剣を振っていた。その姿が堂に入っていて、とても格好いい。

「……今日は早いな」

 早いよ。だって盾を描くから。昨日は早く寝たから。

「盾、描こうと思って……」

「そうか」

 ラオクレスは剣を納めて、僕に近づいてきた。……そして、僕が画用紙に鉛筆を下ろそうとして下ろせないのを見ながら、首を傾げている。

「……描くんじゃないのか」

「うん。描く。描きたい。んだけれど……」

 僕は……ここにきて初めて、大変な事態に直面している。


「盾って、どういうのだろう。僕、盾を見たことが無い気がする」

 なんと、僕は盾の構造が分からなかった。




 ということで、僕らは町へ出た。

 フェイの召喚獣に乗らずに町へ出るのは初めてだな。

 道は分かる。天馬が飛んでくれるから。……うん、今回も天馬選びに苦労した。皆、寄ってくるから……。

「ペガサスというのは、速いな……」

 ラオクレスも馬に乗ってる。……ラオクレスには未だに、一角獣は寄り付かない。けれど、天馬は割と慣れてきたらしい。ラオクレスの方が戸惑い気味だけれど、彼も『乗せてあげてもいいよ』というように近づいてきた天馬に乗って、一緒に町へ向かうところだ。

 森の中、木々の間を飛んで抜けて、町までは平原の上をひとっ飛び。地面を走っている訳じゃないから、ほとんど揺れない。すごく快適。

「……俺が乗っていていいのか?」

「うん。ね」

 ラオクレスが天馬に対して尻込みした様子だから、少し面白い。天馬に確認してみたら、やっぱり、ひひん、と鳴いてくれた。多分、肯定。

 ……ということで、僕らは町に到着した。


「ついに自力で森から出てくるようになったか!」

 とりあえず、フェイを訪ねた。なんとなく。やっぱり『自力でこっちまで来たよ』と伝えたかったので。

「そっか、ペガサスかぁ。速いもんな、こいつら。ラオクレスも乗ってきたのか?」

「ああ」

「よかったじゃん。俺、まだ乗せてもらってねえんだぞ」

 フェイがそう言って天馬の鼻の辺りをつつくと、天馬は『まあ乗せてあげてもいいけど』みたいな顔をした。こいつはフェイよりラオクレスの方が気にいってるらしい。

「で、どうしたんだ?急に。あ、まさかお抱え絵師の」

「その話はごめんなさい。もうちょっと保留させてほしい」

「それは構わねえよ。で、どうしたって?」


「盾、買いに来た」

 僕がそう言うと、フェイは、「ほー」と言いつつ、ラオクレスを見て……それから、にやりと笑った。

「そっか。ようやくラオクレスは剣と盾を買い与えられて、ただの家事手伝い兼モデルから、護衛の騎士に昇格するってわけか!よかったなあ!」

 フェイはそう言って、自分のことのように嬉しそうにしている。

 けれど……。

「いや、買う盾は資料用で」

「……ん?」

 僕は、そこは間違えない。


「買った盾を見ながら、盾、描くことにした」

 やっぱりラオクレスには最高の盾を装備してもらいたいから。

 妥協はしない。


明日から1日1話更新になります。

更新時刻は大体21時から22時頃になる予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 石膏像が欲しいなら石膏像を描けば良いのに、石膏像が無いので石膏像は描けないのです……。(しくしく) もし描いた場合、出ないのか、何処となく間違えてる像が出る?
[良い点] 盾を買って盾を描こう!な点 どんな立派な盾ができるのか… [一言] 今後もしかしたら資料用の物品が増えたり資料用の物品保管庫が出来るのだろうか…今後とも彼の動向が気になります!
[一言] 盾もエンチャントされる!あ、剣とかにエフェクト付けて描いたら属性付与出来るかな?
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