表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も絵に描いた餅が美味い  作者: もちもち物質
第十五章:桜餅の葉っぱのように
325/555

4話:吸い取る素材*3

 夜の国は相変わらずの静けさだ。

「一応、昼……だね」

 ただ、以前とはやっぱり雰囲気が違う。今、夜の国は昼間だ。空をのっぺりと覆っていた魔王が居なくなって以来、夜の国には朝が来て、昼が来て、夕方になって、そして夜になって、夜が明けて……という、当たり前のサイクルが戻ってきている。

 けれど、夜の国の空は、なんとなく色褪せた具合に見える。今も青空が見えているけれど、グレーがかって見える、というか。

『夜の国も大分、色鮮やかになりました』

 けれど、レネは嬉しそうにそう書いて見せてくれる。どうやら、これでも相当に色鮮やかになった方、らしい。

 ……ということは、夜の国の人達を昼の世界に連れていったら、あまりの色鮮やかさに目が痛くなったりするんだろうか。

「夜の国の色合いって、優しいかんじよね」

 ライラはちょっと目を細めて、夜の国の彩度の低い景色を眺めている。

「こういう色合いの雰囲気、嫌いじゃないわ」

「うん。僕も好き」

 まあ、必ずしも、鮮やかであることが美しさだとは限らない。夜の国みたいに、彩度が低めの、落ち着いた色合いの景色っていうのも、中々いい。ちょっと古めかしいかんじがする、というか、懐かしいかんじがする、というか。そういうところがいいよね。




 それから僕らは飛び立った。フェイは火の精。ライラは鳥。それぞれの乗り物で飛ぶことにして……。

『トウゴも飛べますか?』

 僕も鳳凰を出そう、と思っていたら、レネがわくわくした様子でそう、聞いてきた。そんなレネは、既に自分の背中にドラゴンの翼を生やして、それをふるんと震わせているところだ。

 ……初めて僕がドラゴンになりかけのレネを見た時、レネは恥ずかしがっていたというか、見られるのを嫌がっていた。多分、レネは自分に羽や尻尾が生えて手がドラゴンのそれに変化した状態で居ることがちょっと嫌だったんだと思う。けれど、今はそういうかんじもない。

 レネはちょっともじもじしながらも、薄絹でできたような繊細な羽をゆっくり震わせて、濃紺の星空みたいな鱗に覆われた尻尾をゆらゆらさせている。

 そして、期待に満ちた目で僕を見ている。

 ……あ。成程。

『偶には自分の羽で飛んでみることにします』

 折角、便利な羽があるわけだし、鳳凰頼りじゃなくて自力で飛んでみてもいいかもね。丁度、レネも自力で飛ぶことだし。


 ……ということで僕は自分の羽を出して、それで飛んで移動することにした。レネは僕が羽を出した瞬間からずっと、うっとりした表情で僕を見てくるのでちょっと落ち着かない。並んで飛んでいる間も度々僕を見ては「きれーい……」と呟いてにこにこするので、やっぱり僕は落ち着かない!

 でも……並んで飛んでいる間、レネはすごく嬉しそうだったので、まあいいか、と思うことにした。多分、レネは同い年ぐらいのドラゴンが居なくて、一緒に飛ぶ相手も居なかったんだろうし……そう思えば、まあ、多少見つめられて落ち着かないくらいは我慢できるよ。




 そうして僕らはひとまず夜の国のお城へ。竜王様への挨拶もそこそこに、レネに案内してもらったのは……。

「……すごく綺麗だ」

 宝物庫、だった。

 並べてあるものはどれも、素晴らしい宝物ばかり。

 夜を閉じ込めたような大粒の宝石。レースみたいに繊細な銀線細工。透き通って輝く不思議な花。ぼんやり光る蝶の羽。深い青色をした刃のナイフ。

 細かく彫刻された黒檀の宝石箱。織り模様で星空が表現された絹の布。温かい薄紅色をした焼き物の壺。星屑が上に向かって流れていく砂時計のようなもの……。

 思わず見とれてしまうようなものばかりだ。ついつい、目的も忘れて宝物庫を眺めていると、レネが、ひょこ、と僕の顔を覗き込んで笑う。

「きれーい?」

「うん。すごく綺麗!」

 僕が答えると、レネは嬉しそうに頷いた。レネの気持ち、分かるよ。同じものを見て綺麗だと思えるっていうのは嬉しいことだ。

『魔力を吸ってしまうのは、これです』

 そして、レネは宝物庫の一角から真っ黒い塊を持ってきた。……ちょっと、魔王に似ている。真っ黒くて艶もなくて、只々黒い、っていうところが。

 ということはふにふにした手触りなのかな、と思ってつついてみると……。

「う、うわ」

 ……一気に、力が抜けてしまった!あと、ふにふにしていない!硬い!

「とうごー!?にぇ!どーにぇとーちぇ、じー!」

 レネは慌てて僕から真っ黒な塊を引き離す。ちなみにレネは、布越しに黒い塊を持っているし、手袋をしている。成程、こういう装備なしに触ろうとすると魔力を持って行かれちゃうんだな……。

『これがあの塔の素材ですか?』

『はい。これを加工して、あの塔の建材に使っています』

 成程。……まあ、加工してもうちょっと効果を薄めて使っているんだろうけれど、これでできた塔、か……。そこに閉じ込められていたレネは、さぞ、力が抜けて寒くて辛かっただろうな、と思う。

「へー。成程なあ、トウゴが『へにょ』ってかんじになるんじゃあ、結構な勢いで魔力を吸うんだな、これ」

 フェイは決して触らないようにしながら真っ黒の塊を見つめて、へー、なんて言っている。

「……これを使えば、カチカチ放火王から魔力を吸い取る絵の具ができたり」

「そんなことしなくてもこれを直接封印の宝石にくっつけてやれば事足りる気がする」

「……成程なあ!」

 うん。なのでとりあえず、この真っ黒な塊があればオーケー。これがあれば大分変わる……んじゃないかな。多分ね。


『この真っ黒な塊はどこで採れますか?』

 ということで早速、レネに聞いてみる。……すると。

『魔王の侵略が最も激しかった地域から採れます。その地域は今も魔力を吸うので、立ち入り禁止です』

 レネはそう答えてくれて、ついでに宝物庫の中にあった地図を見せてくれて、『ここだよ』というように一か所を指さしてくれた。……えーと、多分、ここから1日掛からないくらいの距離。

「よし。じゃあちょっくら行ってみるかー」

「うん」

 まあ、そこにこういう塊がたくさんあるなら、是非採ってきたい。カチカチ放火王対策に良さそうだし、何より……。

「……ねえ、トウゴ。あんたさ。この真っ黒い奴、絵の具にしよう、とか思ってない?」

「え?そりゃあ、まあ……」

 この真っ黒さ!絵の具にしてみたら、ものすごく黒い黒が作れると思うんだ!そうすると、ものすごく暗い絵だって描けるだろうし、ものすごくコントラストのはっきりした絵も描ける!やってみたい!

「……ほんとあんたってさ……いや、なんでもないわ」

 ライラは頭の痛そうな顔をしているけれど、多分、『ものすごく黒い黒の絵の具』が出来上がったら、ライラも使ってみたくなると思うよ。うん。間違いない。僕らはそういう生き物だ。知ってる知ってる。




 ということで早速出発……と行きたかったのだけれど、どうやらそうもいかないらしい。

 なんでも、レネ曰く『これが採れるのは真夜中です。でも、今から出発すると夜が明けた頃に到着すると思います』とのことだったので……半日程度、お城で時間を潰してから出発することになった。

 ならば、と、レネが早速飛び回って……僕らは、竜王様と一緒に食事を摂ることになった。

 どうやら竜王様、僕らとゆっくり話がしたかったらしいよ。よくレネに『お前は昼の国へ行けていいな!私も行きたいのだが!』と愚痴をこぼしているらしいので……え、ええと、僕らでよければお話ししますよ。


『なんでも、夜の国以外にも魔王が居たとか』

 竜王様は食事の合間にそう書いて、見せてくれた。どうやらレネから話を聞いているらしい。

『はい。封印の仕組みがよく分からなくて、どうしていいものやら。ひとまず、封印の宝石から魔力を吸い取ってしまう方法で進めています』

 フェイはそう書いて返しながら、苦笑い。竜王様はフェイの顔を見てゆったりと頷いて……。

『そういうことであるならば、この国の素材は丁度いいだろう。何せ、魔力を奪わねば生きていられなかった生物や、魔力を少しでも取り戻そうとしていた物質の集まる国なのだから。何かいい素材があれば好きに持って行ってくれて構わない』

 太っ腹にも、そう言ってくださるものだから、僕らとしてはありがたい限りだ。

『それにしても……封印を解いて対処するのではなく、封印したまま対処する、か。確かに実体がある形で封印が為されているのであれば、ある程度の干渉は可能であろう。被害を抑えたいというのであれば、非常によい策であるように思う』

 竜王様はそう書いて、フェイを褒めてくれている。フェイは嬉しそうだ。人に認められるのって嬉しいよね。分かるよ。

『問題は、吸い取った後の魔力をどう活用するか、かもしれないがな』

 ……けれど、竜王様の話がそう続いてしまうと、僕らとしても詰まるしかない。

『夜の国では、魔力を吸い取った生き物や物質は、どうやって魔力を消費していますか?』

『生きることで消費していた。……或いは体を大きくするであるとか、仲間を増やすであるとか。まあ、要は生命活動に使っていた、と一括りにすることができるだろうな。或いは、魔力を周りから吸って生まれる者も居るが……』

 成程。光の魔力が少なくて生命維持すら危うかった夜の国では、生き残るために周りから魔力を吸うし、魔力を吸って、生まれてくる……。

 ……魔力を吸って、生まれて、くる?

「あっ。もしかして!」

 フェイも同じく気づいたらしく、僕の方を勢いよく向いたと思ったら、喋り始めた。

「あの、琥珀の池に居た女の子!水でできてた、失礼なやつ!」

 そう言ってやるなよ。失礼だったけれどさ。

「あいつ……池の水が封印の宝石から魔力を吸って、それででっかく育った魔物だったんじゃねえか!?」

 ……成程!

 確かに、封印の宝石は水に浸かっていたわけだし、そういう可能性もあるのか。あの女の子、元々のサイズが手乗りサイズだったとしても不思議ではないし。

 ということは……。

「……あの封印、ある程度は魔力を奪われていた、っつー仮説が成り立つな」

「うん……」

 ……魔力がある程度吸い取られたとしてもあれだけ強いのが、カチカチ放火王、か。

 うーん……魔力吸い取り法は、上手くいくだろうか?




『それにしても、美しい羽だな』

 僕が悩んでいたら、竜王様はそう書いて見せて、笑う。

『この国では類を見ない形状だ。繊細で美しい。昼の国の光の下で見たならば、また違って見えるのだろうな』

 ……ちょっとうっとりした目で見られると、その、僕、落ち着かないです。なんだろう、夜の国の人達って、そんなに僕の羽が好きなんだろうか?てっきり、レネが特別、僕の羽を気に入っただけだと思っていたんだけれど……。

『レネが気に入る気持ちも分かる。この間昼の国へ出かけてきた時には『トウゴの羽がますます美しくなりました』と、それはそれは興奮していて』

 竜王様がにこにことスケッチブックを見せてくるものだから、僕としてはちょっとどういう顔をしたらいいものやら分からないし、レネはレネで恥ずかしがって羽で顔を隠してしまうし……。

 ええと……と、とりあえず、羽を気に入ってもらえてよかった、と思うことにしよう。




 そうして翌日。

 僕らはレネの案内で飛んで、例の真っ黒い塊が採れる場所を目指す。

「こっちの方はまだ暗いかんじがする」

 ……飛んでいく先は、魔王の侵略が激しかった土地。つまり、光の魔力を根こそぎ食べられちゃった土地だ。だからか、空もなんとなく暗いかんじがするし、地上を見ていても動植物が少ないか、或いは、動植物があってもすごく変わった形状をしているか。

「光の魔力が不足している地域、ってことなのよね、きっと」

「これをレネが直してるところなんだよな。結構大変そうだ」

 一度無くなってしまった光の魔力を取り戻して大地に満ちさせるまでに、大変な労力と時間が必要だろう。そして、それがレネの仕事なんだ。

「……ねえ、レネ。僕、手伝うからね。何かあったら、言ってほしい」

 書かないと伝わらないのだけれど、それでも何か伝わるものがあるかもしれないから、僕はレネの隣を飛びながらレネの手を握る。するとレネは嬉しそうににこにこするので……ええと、意味は伝わらなかったと思うけれど、気持ちはちょっと伝わった……のかもしれない。


 飛んで、飛んで、途中で一度、お昼ご飯休憩やおやつ休憩を挟んで……そうして夕方。

「とうご!じー!」

 レネが指さす方向……より一層暗く黒く、光の欠片も感じられない場所。

 ただただ真っ黒で、ものの輪郭もよく分からないような、そんな場所があった。

 ……どうやらこれが、魔力を吸い取っちゃう諸々らしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
封印石を魔王に食わせるだけで良いような気がしてきた...
[一言] それはもしかしなくてもまおーんのうん●……
[一言] カチカチ放火珠をガン黒鉱石で包み込むシーンを想像したらデーモンコアが浮かんできました。封印できとらんやんけ!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ