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今日も絵に描いた餅が美味い  作者: もちもち物質
第十四章:森でおやすみなさい
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12話:琥珀の池*4

「さっきから無礼よ!何様のつもりなのよ、お前達は!」

 水でできた女の子は、そう言って僕の前で腕組みをして立っている。……うわあ。ええと、どうしたらいいんだろう、これ。

「こっちの台詞だっつの」

 僕が困っていたら、颯爽とやってきたフェイが、ぺちん、と女の子のおでこを叩いた。

「インターリアさんだのトウゴだの、攫おうとしやがってよー」

「侍女が欲しかったの!水の底で私のために働く侍女が必要だわ!ケルピーったらちっとも気が利かないんだもの!役立たず!」

 ケルピー、と呼ばれた水の馬はそう言われて、ぷるぷる……と鳴きながら、ちょこんと縮こまってしまった。……気が利かない、というか、ちょっと変な馬ではあると思うけれど、そう言ってやらなくてもいいと思う……。

 ……僕、この水の女の子、ちょっと苦手だ。




「申し訳ないが、私はカーネリア様の騎士だ。そちらの侍女にはなれん」

 それから、インターリアさんがそう言って、カーネリアちゃんを守れる位置に陣取る。すると、水の女の子は透明な頬を膨らませて、透明な瞳でじっとインターリアさんを睨む。

「この私が折角、侍女にしてあげるって言ってるのに?そっちの子より、私の方が絶対に可愛いのに?」

 ……可愛い、と言われても、水でできた、透明な顔に可愛いも何もあまり無い。強いて言うなら、よくできた造形ですね、というくらいなもので……それって、可愛いとか可愛くないとかそういう話ではない。

 そして、インターリアさんはというと、何も言わなかったけれど、水の女の子とカーネリアちゃんとを見比べて……『カーネリア様の方が圧倒的に可愛い』みたいな、そういう顔をして満足げに頷いている。美しき主従愛……だと思う。多分。

「あら、あなたも相当に失礼ね!ぶれいもの、だわ!」

 そして、カーネリアちゃんがインターリアさんの前に進み出て、両手を腰に当てて堂々と立つ。

「インターリアは私の騎士よ!終身、私の騎士よ!そして、終身、マーセンさんのお嫁さんだわ!だから、マーセンさんにならインターリアをあげてもいいけど、あなたにはあげないわ!駄目!」

 これは、インターリアさんにとってものすごく嬉しかったらしい。なんだかしみじみと嬉しそうに、にこにこと優しい笑顔を浮かべて、カーネリアちゃんを見つめている。よかったね。




 カーネリアちゃんとインターリアさんの間に結ばれた強い絆が見えて、水の女の子はちょっとむくれた顔をしている。でも、欲しくってもあの子達は駄目だよ。強い絆で結ばれているし、そうでなかったとしても森の子だ。あげない。

 ……と、思っていたら。

「じゃあ、そっちの子でもいいわ」

 水の女の子が、僕を指さして、言った。

 ……へ?僕?

「あなた、私の侍女にしてあげる!」


 ……うん。あの。あのね。ちょっと待ってね。ええと……。

「……色々と、言いたいことはあるんだけど」

 頭の中を整理しながら、僕は……とりあえず、聞いてみた。

「僕……女の子に見えるんだろうか」


「……男には見えない、けれど」

 ……ああ、そう!




「へえ……あなたみたいな男も居るのね!」

 そうだよ。悪かったな、男らしくなくて。

 けっ、ていう気分だ。フェイが『珍しくトウゴがやさぐれてるぜ……』ってにやにやしている。いいよなあフェイはこういうところで間違われるようなこと、無くてさ!

 ……身長が低いから?体重が軽いから?声がそんなに低くないから?筋肉が足りない?どうして僕、女の子に間違われるんだろう!

 マーピンクさんの時もそうだったけれど、どうして、僕のことを女の子に間違う人がいるんだろうか!目が節穴だと思う!

「……まあ、落ち込むな」

 絶対に僕の悩みを味わったことが無いであろうラオクレスが、ものすごく気遣うように、僕の肩に手を置いた。

「その……お前は、精霊になってから特に、だが、そもそも人間の雰囲気ではない。そのせいで、余計に中性的に見えているだけだ」

 そ、そうか。人間中退しちゃったせいで、僕は、余計に……。そもそも人間の雰囲気ではない、っていうのは、ええと……ま、まあ、しょうがない。しょうがないことだから、そこの是非はおいておく。

「そうね。元々トウゴ君、綺麗な子だもの。睫毛は長いし、髪の毛はさらさらだし、造形が整ってるし。それが精霊様になっちゃったものだから、なんだか雰囲気が、人間の男っぽくないのよね」

 ……うう。そういえば前、ライラとクロアさんに揃って『人間の匂いじゃない』ってやられた記憶がある。そうか、そもそも僕は、人間じゃない……。ま、まあ、それは、もう納得していることだけどさ……。森の子達を守るためには、これが一番いいって、納得づくなんだけれどさ……。

「まあ、俺はトウゴが精霊になる前、初めて出会った時にも男か女か迷ったけどな!」

 ……それはそれとしてフェイには怒っていいかな!いいよな!よし!怒ったぞ!




 僕は、すっかりやさぐれた。

 すっかりやさぐれた気持ちで、フェイの脇腹のあたりをずんずんつついて抗議の意を示す。フェイは「痛い痛い」と言いつつも半笑いで、僕の頭を撫でてくる始末だ。もっと怒るぞ!

「ところであなた、だあれ?ずっとここに居たの?」

 そんな中、物怖じしないカーネリアちゃんが、水でできた女の子にそう話しかける。

「そうよ!ここ半年くらいずっとここに住んでやってるの!」

 成程。最近越してきたばかり、と。

「半年?その前には、ここには他に誰も居なかったの?」

「他?……ああ、ここに元々居た奴は追い出したわ。汚らしい、藻の塊みたいな奴でしょ?ちょっと脅かしたら逃げていってね。あーあ、面白かった」

 成程。この子、意地悪、と。

「それで……あなた、この『ふーいん』を、守ってるのかしら?」

「は?ふーいん?何それ?」

 成程……。この子、特に、カチカチ放火王の関係者ではなさそう、と……。




 この子自身は、カチカチ放火王について知らないようだ。もうちょっとカーネリアちゃんが聞いていく中で、『綺麗な宝石だから渡したくない』というような供述が得られた。つまり、封印はさておき、宝石としてこれが好き、ってことなんだろう。それでさっき、腕を伸ばして封印を奪い返そうとしていたんだな。

「でも、それじゃあ困るのよ!ふーいんが解けちゃったら、カチカチ放火王が出てきちゃうのよ!」

「そんなこと言って、私からこの宝石を奪うつもりでしょう!そうはさせないわよ!」

 ……ついでに、この調子だと、封印を僕らに渡してくれるつもりは無さそうだ。困ったなあ……。


「ええと、要は、宝石が欲しいんだよね」

 このままだと封印を調べることもできなさそうなので、僕はそう、声をかけてみる。そして……。

「それならこれと交換、っていうことじゃ、駄目だろうか」

 ざっと描いて出した、大きな宝石。それを差し出して、聞いてみた。

 宝石は琥珀の色とは真逆の色、って考えて、青っぽい色合いにしてみた。大きさは封印の宝石以上。金細工の飾りも付けて、立派に仕上げました。

「どう?」

 まじまじと宝石を見つめる水の女の子に改めて聞いてみると……。

「いいわ!こっちの宝石と交換してあげてもよくってよ」

 やった!どうやら、封印を貰い受けることができそうだ!これでカチカチ放火王対策を始められる!


 ……と、思っていたら。

 がしり、と、僕の両手首を、水の手が掴む。

「それから、私、あなたのこと、気に入ったわ!」

 水でできた顔が僕に近づいて、そして、うっとりと、目が細められる。その目も、目を覆う瞼も、何もかもが水でできているから、只々透明なだけで……けれど、声は確かに、聞こえた。


「侍女になれないなら執事にしてあげるわ!或いは……そ、そうね。あなたなら、私のお婿さんにしてあげても、よくってよ!」

 ……プロポーズされてしまった。




「いや、僕、森だから……」

「森ではない」

「森ではないけれど、森の精霊だから……」

 ラオクレスにすかさず訂正されてしまったけれど、僕、森……の精霊だ。うん。まあ、半分ぐらいは森だけど。

「そんなのいいじゃない!役目なんて放り出しちゃったって、水の底へ来れば誰も文句は言わないわよ!」

 いや、文句を言われるから、とか、そういう問題ではない。僕は僕の意思で森になったし、森を守りたいと思っているし、皆と一緒に居たいと思ってる。

「あと、役目とかそういうの置いておいても……僕、君のこと、苦手だ」

 なので……やさぐれている僕は、正直に、言うことにした。

「失礼な子は好きじゃない」




 水でできた女の子は、すっかり不貞腐れた。そして『無礼者!』って言いながら、池の中に帰っていってしまった。なんだったんだ。まあいいか。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 元々居た精霊様を追い出して居着いたって事かな? しかも封印の台座の宝石も自分の物にしてるし、そんな奴に描けばいくらでも出せるからと宝石をあげたりするのはモヤッとするなぁ... [一言]…
[一言] 睫毛長いし、髪もさらさらのトウゴちゃん絶対に可愛いよね… ていう事は和服の時は完全に女装状態だったから龍の巫女的な感じで気に入られてたのか… 今回はギリギリ婿入りするように言われたけど最悪嫁…
[良い点] 押しの強い相手にもしっかり意見を言えたトウゴくん [気になる点] 藻の人は無事なんだろうか… [一言] 藻のが精霊さんだったら、精霊が去った場所って少しずつ廃れてしまいそうだけど大丈夫なの…
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