7話:半分取材旅行*6
「……頭痛え」
やがて、数時間後。ラオクレスに運ばれたベッドの上で目覚めたフェイは、気だるげにそうぼやいた。
……うん。お疲れ様です。
とりあえず、フェイに水を飲ませて、話を聞く。
「あの、フェイ。結構気になることを言い残して寝ちゃったんだけれど、覚えてる?」
「あー……多分」
フェイはまだぼんやり熱っぽい様子でそう言うと、思いだすように空中をふわふわ眺めて、それから、話し始めてくれた。
「えーと……台座の、脚。あれ、7本あるだろ?」
「うん」
それは聞いた。
「で、その7本が、それぞれの封印を表してるっぽいんだよな」
「うん」
それも聞いた。
「それでだな……それぞれ、嵌ってる石の色がばらばらで……その中で赤い石だけなんか違うの、見たか?」
「あ、うん。描いてる途中で気づいた」
僕のスケッチブックを確認すると、石の色は全部で7色。
赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。これで七色だ。ちなみに、ソレイラに落ちていた石は赤い色をしていて、ここの宝石の色は黄色だ。
スケッチブックを見せると、フェイはそれを見て、そうそうこれこれ、とばかりに頷く。
「そうそう。この赤い石……これだけ、様子がおかしいんだよな」
そう。微妙に光沢が違うような、そんなかんじがする宝石が1つだけあったのは、覚えてるよ。
「多分、この石に対応してる場所の封印がもう機能してない、っつうことなんだと思うんだよな」
「つまり、ソレイラの?」
僕がそう聞くと、フェイは頷いた。
「そういうこった。……で、多分、なんだけどよお……」
フェイは、重々しく頷くと……言った。
「……この台座の脚に書いてあるもんって、多分、封印の場所、なんだと思うんだよな」
……そ、それは。
大発見だ!
「あら、フェイ君、すごいじゃない!ということは、その文字さえ読めれば、封印の場所は全部分かる、ってことね!」
クロアさんが笑顔でちょっとはしゃいだようにそう言うと、フェイは……ちょっと暗い顔になった。
「そうだな。読めればなあ……」
「……読めないの?」
いや、僕も読めないけどさ。というか、この模様が文字だとも思ってなかったよ、僕。
「ああ。サッパリだ。夜の国の言葉でもねえし、古代語でもねえ。前、アンジェに見せてもらった妖精の文字とも全然違うし……」
……うん。
「全く、手掛かりがねえ!」
……そっか!ならしょうがない!
「ま、まあ、ひとまず、封印の場所が7か所、ってことは分かった」
うん。それだけでも十分、成果だと思う。封印が全部でいくつあるのかさえ分かってなかった状態からしてみれば、随分と前進したと思う。
「つまり、カチカチ放火王があと5回出てきたなら、その次が最後で、その場所は王城の裏手、ってことになる、のよね」
「……つーかよ、俺は思ったんだけどよ。先に王城の裏手にあるっつう封印の地を見てから旅に出てもよかったよな」
……うん。
とりあえず、ここを出たら、次は王城だね。決まり。
「で、問題は、これをどうやったら封印を上手いことどうにかできるのか、ってことなんだよなあ」
それから、フェイはそう言って悩む。
「今のところ、『封印は全部で7か所だろう』ってこと以外何も分かってねえからな。台座の意味が少し分かった程度か。宝石自体が魔法の媒介なんだろうけど、制御は台座と、この輪とでやってるんだろうし……でも、刻まれてる言葉が何も分からねえんだよなあ……」
うん。……古代の言葉でもないし夜の国の言葉でもないし、妖精の言葉でもない。となると、一体何の言葉なんだろう。昔、一部の地域でだけ使われていた言葉、とか、そういうかんじだろうか。
「とりあえず、本が届いたらそれと照合してみて、何かとっかかりが見つかりそうならそのまま分析だな。けど、何も分からなかったら……一度ここを離れて、王城の裏手、見に行った方がいいかもしれねえ」
うん……手がかりが何もないなら、しょうがない。これがカチカチ放火王の封印だって分かっていたって、どうするのがいいのか分からない以上、下手なことはできないし……まだ、時間には猶予があるって、信じるしかない。
「ねえ、トウゴ。ゴルダの精霊様には避難してもらったり、できないの?」
「うーん……精霊って、土地につくものだから……どうだろう。僕だって、多分、森がまるきり燃えてしまったら、多分、死んでしまうから……」
ここに残していく精霊様が心配だから、できるだけ早く、戻ってきたい。それで、最悪の場合はここで封印を解いて、光の剣でカチカチ放火王をチクチクやって、それで、次の封印まで移動しておいてもらう、っていうことになる、のかな。でも、それをやった結果、森が焼けた時みたいになったら困るしなあ……。
「ここ以外の場所の封印が先の順番である可能性も否めんな」
「そうね……多分だけれど、ここの前に1つ、別の場所の封印が間に挟まるんじゃないかしら。ほら、ソレイラが赤で、その次に橙の脚があるでしょう?その次が黄色だわ。ということは、ここ、3か所目なんじゃないかしら」
成程……。脚の順番に封印の順番が決まってるなら、そうか。
でも、何から何まで、分からないことだらけだ。でも、やれるだけのことはやらなきゃいけない。
ということで、僕らはこれから王城へ向かう、のだけれど……そうすると、ここでゴルダの精霊様を残していくことになる。精霊様を動かすわけにはいかないからしょうがないんだけれど、もし、ここでカチカチ放火王が復活してしまったらあまりにも危険なので、少しでも、リスクを減らすため……僕は、封印の強化に努めることにした。
「……あんた、器用ね」
「まあ、一応、精霊なので……」
森の結界と同じような感覚で、魔力を足す、っていうのかな。そういうことをやっておくことにしてみた。これで少しでもカチカチ放火王の復活が遅れれば儲けものだ。
僕がそうやって封印の宝石を強化していたところ、するする、と根っこが伸びてきて、ぴとり、と僕にくっついた。……途端に、どっしりとしてひんやりして気持ちいい魔力が加わる。
……どうやら、ゴルダの精霊様も協力してくれるらしい。ということで、2人で力を合わせて頑張る。
僕は、封印の宝石自体に魔力を足していくようにやっていたのだけれど、ゴルダの精霊様は封印の周りに石塁を築き上げるように魔力の壁を詰み上げていくので、僕もそっちに方向転換。封印をすっぽりと囲むように、結界を張った、ようなかんじになる、のかな。
「ん?なんか急に楽になったな」
封印を覆いきってしまうと、フェイがそう言って目を瞬かせる。どうやら、魔力で魔力をすっぽり覆ってしまったので、酔いにくくなったみたいだ。
……成程。こういう風にするとフェイの負担を減らせるのか。次からもこれ、やってみよう。
ということで、僕らは王城へ向かう。ゴルダの精霊様には、くれぐれもお気をつけて、っていう旨を伝えてある。精霊様はのんびりとした調子でおしべをふりふりやって僕らを見送ってくれた。お邪魔しました。また来ます。
さて。ゴルダから王城までは、そんなにかからない。丁度、山を出たのが昼前だったので(鉱山の中に居ると時間の感覚がおかしくなるよね……)、王城には夕方に到着。それからすっかり顔パスになってしまった門番さんの横を通り抜けて、ラージュ姫のところへ。
「あら、トウゴ様!」
「こんにちは」
ラージュ姫は、中庭で読書中だったらしい。疲れた顔をしながら、本数冊を横に積み上げたベンチに座っているところだった。
「読書ですか」
「ええ。魔王……いえ、かつて魔王と呼ばれていた、かのカチカチ放火王の伝承について、調べていたんです。少しでも皆さんの……この世界の役に立ちたくて」
ラージュ姫はそう言って立ち上がって、ちょっと伸びをした。
「おー、丁度良かった!俺達、王城の裏手にあるっつう『封印の地』を見に来たんだ!」
そこへフェイが表情を明るくして出ていくと、ラージュ姫は頷いて、にっこり微笑み返す。
「ええ。ご案内します。私も、実物を見たことはありませんが……皆様と一緒なら、何か分かる気がするんです」
忙しいだろうに、ラージュ姫は僕らを案内してくれた。……というのも、この『封印の地』、王家の人しか開けられない扉の奥にあるんだ。
「要は、王家以外から勇者を出さないための工夫、とも言えるでしょうね」
ラージュ姫は呆れたような顔をしながら、門に刻まれた王家の紋章に手を置く。
「こうして、王家の者にしか開けない扉の先にカチカチ放火王の封印を置いておけば、カチカチ放火王を倒すことができるのは王家の者か王家の許しがあった者だけですから」
成程。……だからこそ、アージェントさん達は、ここじゃなくてソレイラの封印を解いてしまった、っていうことなのかな。なんというか、そう考えるとちょっと色々考えさせられる話だ……。
「着きました。ここ、だと思います」
門を抜けた先、古びた石造りの建物の中。そこに……それは、あった。
「……どういうことだ、これは」
僕らは只々、困惑する。
そこにあったのは……僕らの森にもあるものに、そっくりな見た目をしていたからだ。
「これ、カチカチ放火王じゃなくて、まおーんの封印用なんじゃねえか……?」
月の模様の祭壇。
それが、建物の中央に鎮座していた。




