1話:ピクニックでも餅が美味い
真夏の日差しの下を歩いて、先生の家へ向かう。
今日はとても暑い。昼前からこの日差しなのだから、きっと昼過ぎにはものすごい暑さになっているんだろう。
……今日は、先生の家で勉強させてもらうことにした。
何故かっていうと、少しだけ……昼寝ができそうなら、昼寝させてもらいたいから。
……最近、ふらふらする。熱い日差しの下にずっと居たら、倒れてしまいそうだ。
どうしてか、って、多分……寝不足、なんだと思う。そろそろまた大規模な模試があって、それに向けて、勉強してる。それに睡眠時間を削っているのもそうだし……勉強を終えてからも、あまり、眠れない。
そのせいで寝不足になって日中ふらつくんだから眠ればいいのに、いざ、夜、ベッドに入っても眠れない。自分の体なのに妙にままならなくて、それが悔しいし腹立たしい。
……だから今日は、先生の家で勉強させてもらいついでに、昼寝できそうなら少し眠らせてもらいたい。
なんとなく……先生の家だと、落ち着いて昼寝できてしまうような気がする。
……ということで、すっかり押し慣れたインターホンを押す。ぴん、ぽーん、と、聞き慣れた音が響いて……。
返事が無い。
……あれ、先生、外出中かな、と思いつつ、でもおかしいな、とも思う。だって先生は、こういう暑い日は絶対に外に出たがらない人だ。
先生曰く、『あんな強い日差しの下に僕が出てみろ!溶けるぞ!僕、溶けてしまうぞ!或いは燃える!多分燃える!夏の日差しに焼かれて炭になる!』とのことだった。多分、溶けはしないし燃えもしないのだけれど、先生の気分の上ではそういうことらしい。
なので、先生はまず間違いなく、家に居る、と思う……のだけれど。
「おや、トーゴ。すまないね。待たせたか」
……驚くべきことに、先生が、外からやってきた。
「先生……それ……どうしたの?」
「いや、そんな驚いてくれるなよ、トーゴ。僕だってなあ、偶にはスーツぐらい着るんだぜ」
そう。更に驚くべきことに、先生は、ぴしり、とスーツを着ていた。
……先生はいつも、ちょっとよれよれしたYシャツか変な文字が書いてあるTシャツにチノパンかジーパン、という恰好なので、こうしてちゃんとした格好をしているところはものすごく珍しい。
「今日は雪が降るんだろうか」
「僕がスーツを着る度に雪が降ってくれるんなら僕、夏の間は毎日だってスーツを着てやる所存なのだが、残念だな、トーゴ。今日の天気予報によれば、本日は終日快晴だ。憎いぜ。太陽が憎いぜ」
先生はそう言いつつ、大切に使い込まれて重厚感がある柿渋染めの鞄から、家の鍵を取り出して玄関を開けた。
「ま、そういう訳でさっさと入ろうじゃないか。このまま日差しに晒されていたら、君も僕も溶けちまうぞ」
幾分疲れてぐったりした先生はそう言ってさっさと玄関の中に入っていくので、僕もそれを追いかけてお邪魔します。
「スーツなんざ着るもんじゃないな!脱いだら途端に涼しくなったぜ、トーゴ!」
やがて、エアコンをつけたリビングが涼しくなってくる頃。リビングで早速勉強道具を広げさせてもらっていた僕の所に、先生が戻ってきた。スーツを脱いで、いつもの恰好になっている。
ちなみに今日の先生のTシャツには『村人』と書いてあった。ここ、村じゃないけど。
「いやー、いいね。実にいい。エアコンが効いた室内で扇風機に煽られるっていうのは中々にいい!少なくとも、スーツを着たまま炎天下を歩くよりはずっといい!」
先生はこの世の喜びを謳歌するかのように、扇風機に向かって話しかけている。扇風機越しに先生の声が、わわわわわ、というように妙に揺れて聞こえるのだけれど、先生はそれすらも楽しいらしくて、ずっと半笑いぐらいの表情だ。
「先生、今日は何の用事だったの?」
というところで、早速、聞いてみる。いや、だって、炎天下に出たら溶けてしまう先生がこの炎天下に出ていたんだから、何か、とてつもない重要な用事があったんだと思うんだけれど……。
「ああー……いや、ちょいとね」
僕が聞くと、先生はちょっと言い淀んで……それから、渋い顔で、ちょい、と、外の方を指さしつつ、言った。
「まあ……大失敗の顛末を説明してもらって、その謝罪もされに、駅前のファミレスまで」
先生が指さした方角には、駅がある。そして、駅前にはファミレスがあるのだけれど……成程。
「仕事の人との打ち合わせ?」
「まあそうだ。打ち合わせっていうか、観客が僕1人の謝罪会見っていうか」
先生はそう言いつつ立ち上がって、ふらふらと台所の方へ向かう。多分、お茶を用意するんだろう。先生の家の冷蔵庫には、この時期はいつも、麦茶が用意してある。麦茶パックを入れっぱなしにするものだからとんでもない濃さになった麦茶が出来上がっている、というわけだ。
「すごーく簡単に言うとだな、トーゴ」
「うん」
こぽこぽ、と、麦茶がコップに注がれる音がする中、先生は……。
「『cyan』が『思案』になった状態で出版された」
……よく分からないながらもイントネーションの違いで微妙に伝わる説明をしてくれた。
「あのな、思案ブルーってなんだよ、って話だ。思案ブルーだぞ。思案ぶるー。なんかこう、それってシアンブルーよりも鮮やかさが絶対違うだろ!というかそれは気持ちであって色じゃないだろ!なんだ、思案ブルーの蝶って!思い悩んでるのか!ちょうちょが思い悩んでるのか!」
僕の頭の中にしょんぼりした蝶の姿が思い浮かぶ。思案ブルーのちょうちょ……。
「どうしてそんなことに」
「……まあ、多分、犯人は僕なんだが。該当箇所の修正を求められたもんだから、そこらへんを結構直して……その時、変換ミスしたらしい」
成程。それで鮮やかな水色の蝶が、思い悩むちょうちょに。
「あれ、でも、そういうの確認する係の人が居るんじゃなかったっけ」
「ああ、居る。居るんだが……その係の人が、うっかり気づかずにスルーしてしまった。おかげで蝶は鮮やかな水色から思い悩むどんよりさに変わった状態で世に羽ばたいていったのだ」
先生はそうしみじみと言った後、コップの中の麦茶を静かに一気飲みした。そして渋そうな顔をした。実際、そういう味なんだろうな、あの麦茶。
「……ということで、まあ、それについての説明と謝罪だ。一応、向こうは向こうで誤字とか誤謬とかを見つける仕事をしているわけだからな、うむ……」
2杯目の麦茶をこぽこぽと注ぎながら、先生はそう言って……。
「だが……まあ……何よりも、僕が妙な誤字をやらなければ、そもそもこんなことにはなっていないわけで……ついでに、僕は、うっかりな校正さんを責めないだけの良識と理性を捨てない矜持ってもんを持っているので……」
麦茶の容器を冷蔵庫の中に戻して、麦茶のコップをシンクの横に置いて……。
「それで僕は落ち込んでいるのだ、トーゴよ!」
ずるっ、という表現が相応しいような様子で、床に寝っ転がった。
「落ち込んでてもしょうがないんだけどな。分かってはいるんだけどな。もう世に羽ばたいていった思案ブルーのちょうちょ並びに出版されちまった本はどうしようもないんだよな。まあしょうがないんだけどな」
夏の日差しで溶けてしまったかのように、先生はでろん、と床の上。
僕はそんな先生を眺めてから、もう一回勉強に戻る。
……そのまま数学の問題を丸ごと1ページ分終わらせたので、僕も麦茶を貰いに台所へ。
「はい、どうぞ」
そのついでに、シンクの横に置かれっぱなしだった先生の分の麦茶を、床の上の先生に手渡す。
「おお、ありがとう、トーゴ……」
先生は、ずる、ずる、と床から起き上がって、上体を起こして、床の上に胡坐をかいた状態で麦茶を飲み始めた。
「勝利には美酒。敗北には渋みがイッちまってる麦茶。いいね。実にいい……」
そしてよく分からないことを言い始めたので、折角だから僕も先生の横に正座。そして麦茶を頂きます。……『苦汁を舐める』って、こういう味なのかもしれない。
「……これが、完璧に向こうが悪いなら、ここまで落ち込まないのかもしれないんだがなあ。今回の場合、向こうの不注意は間違いないが、僕がやっちまったことで、僕だって十分気づけたかもしれないものだったからな、それで余計に落ち込んでるってわけさ」
先生は床に胡坐のまま、キッチンのシンクを見上げるような恰好でそう言う。
「その上、これ以上挽回のしようがないものだからどうしようもない。強いて言うならば、『次はこういうことがないようにしましょう』なんだが、次を頑張ったところで思案ブルーのちょうちょはシアンブルーに戻らんしな」
うん。それは、分かる。失敗は永遠に失敗のままだ。1回でも間違えたら、もう100%にはならない。そういうのはよく知ってる。
「……まあ、しょうがないもんはしょうがない、と諦めるしかないんだが。そのな、諦める、っていうことはある程度、忘れる、ってことで……忘れるには、時間が必要で……」
先生はコップの中身を飲みほして、また、ぐでん、と、床の上に溶けた。
「つまり、向こう数日は落ち込みっぱなしであろう、という予測が立つ」
「なるほど」
先生を見ていて、僕も少しだけ、苦しくなる。
なんとなく……本当になんとなく、だけれど、先生の気持ちは、分かる。
『完璧じゃない』っていうことは、それだけで苦しい。
それに、非が自分にもあるなら、怒りは自分に向けるしかない。だから、余計に苦しい、のかもしれない。
「だが、僕は立ち上がらねばならない。一生落ち込みっぱなしって訳にはいかない。なんとも面倒なことに……。そこで、だ」
けれど、先生はやっぱり、先生だ。
「トーゴ。冷凍庫を開けてくれ。そして、その中から、僕を元気にする秘薬を取り出してくれないか」
先生に言われた通りに冷凍庫を開けてみたら……そこには、業務用アイスの大きな容器が、でん、と、入っていた。
「うまい」
「うん」
ということで、僕らは床に座ったまま、アイスを食べている。
先生は『このまま容器ごと抱えて食うってのも夢があっていいんだが、僕がそれをやると間違いなく体調を崩すからな。アイスも薬も摂取しすぎは却って毒だ』などと言いつつ、大人しく器に取り分けてからアイスを食べることにしたらしい。それでも、僕が貰った量の2倍ぐらいは食べているけれど。
更に、冷蔵庫に常備されている大根の漬物も出して一緒に食べている。口の中が甘くなったら漬物。柚子の香りがふわりと広がって、中々美味しい。そうやって大根をぽりぽりやったら、またアイス。……ちょっと不思議な食べ合わせだ。
そして、そんな食べ合わせを思う存分堪能しているらしい先生は、なんとなく、口元が緩んできて……その、さっきよりはずっといい表情になっている。
「……少し、元気になった?」
「ああ。まあな。やっぱりアイスは美味いなあ……どうしようもないことについて落ち込んでる時にはこれが一番だ」
先生はそう言ってスプーンをふりふりと顔の前で振ってみせる。
「僕もこの齢になったからな。ある程度は、自分の落ち込みに効く特効薬が何なのかは分かってきた。とりあえずアイスだ。あとは肉。どちらも食べ過ぎると体調を崩すが。後は白菜の浅漬けだろ、柚子大根だろ、手羽先だろ、よーく煮込んだカレーだろ、ココアだろ、ミルクティーだろ……お茶漬けも割といい薬になるなあ」
「食べるものがいっぱいだ」
「その通り!……僕は単純な人間だからなあ、美味いもので腹いっぱいになると眠たくなってくる。で、そのまんま寝ちまえば、ある程度は落ち着いて最低限の元気は出ている、ってわけさ」
成程。今の不思議なおやつは、眠るための薬みたいなものなのか。……僕も、お腹いっぱいになったら眠れるだろうか。いや、でも、お腹いっぱいになることって滅多に無いな。
うちの食事は……その、母親がとても気を遣っているのだけれど……すごく健康的で、それがちょっと、息苦しい。食べ過ぎると頭が働かなくなるから、っていうことで、量は控えめ。消化性抜群。なので、寝る前にお腹いっぱい、っていうことにはまずならない。
……あと、あまり美味しくない。まあ、そのおかげで空腹には慣れたし、食にこだわりのない人間に育った僕です。
「で、食べて、寝て……それで概ねは元気になるとして、残りは、だなあ……」
それから先生はふと、僕の方を見て……へにょ、と、ちょっと情けない笑顔を浮かべる。
「まあ……あと、だな。うむ。やっぱり、憂鬱にはアイスも効くが、共にアイスを食べる良き理解者も効く気がする」
「……僕?」
「ああ、そうさ。ありがとうな、トーゴ。君のおかげで少し元気が出てきたぜ」
先生は僕より多いアイスを僕より先に食べ終えて、ぽりぽり、と大根を齧り始める。その表情は、結構満足げだ。
「僕、何もしてないけど」
「そういうもんさ。君は何もしていない。ただそこに居るだけだ。それで、いつも通りであるだけだな。……けれど、それが僕には効くのさ」
……そんなもんだろうか。なんというか、嬉しい。先生は、僕が居ると元気になる、っていうのは……うん。僕にとって嬉しいことだ。
「嬉しいことだなあ。自分を元気にしてくれる薬が身近にいっぱい、ってのは!しかも、その薬の1つには足が生えていて、とことこ歩いて自らやってきてくれるとは!」
なんとなく、錠剤ににょっきり脚が生えているような想像をしてしまったけれど、先生が言っているのは僕のことか。
「そうだなあ、もし君が市販薬になる日が来たら、名前は『トコトコトーゴ』とかでどうだろうか。ほら、市販薬ってそういう安直かつよく分からんネーミングが多いだろう?」
いや、人を勝手に変な名前の薬にしないでほしい。
「……む?僕が薬になるなら、『ウキウキ宇貫』とかになるんだろうか」
ならないと思うから、勝手に架空の薬を並べないで。
「ま、気楽にやるしかないな。上手くいかない時も、上手くいかなかった時も、休養に限るぜ、トーゴ。偶にはこういうことだって必要なんだろうからな。うむ。万物万事、全てが、何かには必要……」
やがて、先生はごろり、と床に寝っ転がった。折角なので、僕も真似して寝っ転がってみる。
……艶のあるフローリングの床は、ちょっとひんやりして気持ちよかった。
みーんみんみんみんみん、と、外から蝉の声が聞こえる。きっと部屋の外は猛暑なんだろう。日差しで焦げてしまいそうなぐらい暑いに違いない。
けれど、今、この室内はとても快適だった。ひんやりして、居心地がよくて、寝てもいい気がして……段々、眠くなってくる。
……成程。僕も、元気になる特効薬を貰ったみたいだ。
そう。特効薬。ええと……『ウキウキ宇貫』……。
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第十四章:森でおやすみなさい
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アージェントさんが来ているのか。困ったなあ、と思いながらも、話を聞いてみないことには始まらない。僕らはソレイラの街壁へと向かって、そこで、壁の兵団と押し問答しているらしいアージェントさんを見つける。
「早く通せ。トウゴ・ウエソラにとって不利益が生じるぞ」
「ですから、ご用件くらい伺わないことにはお取次ぎできませんよ。困った人ですねえ……」
「詳細は話せない、とも言っているだろう!いいか?極秘の情報だ。その内容を門番などに話そうものなら、たちまちに価値の失われるものなのだ」
「ですから、概要でいいですって。詳細じゃなくてもいいんですってば」
「その概要から推測できる内容が無いとでも?一欠片たりとも、情報の価値を落とすわけにはいかないのだ。どうしても用件が必要だというのなら、『アージェント領主が会いに来た』とだけ伝えればいいだろう」
「いや、そういう人のせいでトウゴさんが絵を描く時間が失われるのを防ぐのが我々の仕事なので」
……成程。壁の兵団の皆さん、ありがとう。後で妖精洋菓子店の生菓子と森の果物をたっぷり差し入れします。
「あの、アージェントさん」
これ以上兵団の人達の時間が失われるのもよくないので、僕は彼らの後ろから出ていく。
……壁の兵団は見事、名前の通り『壁』となってアージェントさんを阻んでいた。僕より身長の高い彼らが列になってびっしり並んでいたものだから、アージェントさんからは僕が見えていなかったらしい。僕が兵士の人達の間から出ていくと、ちょっと驚いた顔をしていた。
「……なんだ、居たのか」
「さっき来ました」
よいしょ、と兵士の人達の前に出ると、兵士の人達は『出てきちゃってよかったんですか?』とでもいうような、心配そうな顔をする。大丈夫です。ありがとう。後で差し入れ持っていきます。
「ええと……僕になんのご用でしょうか」
ということで早速、アージェントさんにそう言ってみると……。
「……人の居ない場所で話したい。そうだな、まずは町に入れてくれないだろうか。そこで、人払いをして話す機会を頂きたい。無論、そちらにとって有益な話だ」
アージェントさんは、そう、言った。
……うーん。
「あの、人が居ちゃ駄目ですか?」
「……人、というと」
ものすごく訝し気な顔をされてしまったのだけれど、僕としては居てもらわなきゃ困る。
「ええと、フェイ・ブラード・レッドガルド。それから、護衛のラオクレスと、秘書のクロアさん」
……僕がそう言うと、アージェントさんは合点がいったように頷いた。
「勿論だ。その程度なら……いや、レッドガルドの倅は」
「僕に言ったこと、どのみち全部フェイに筒抜けになりますけれど」
「……許可しよう。まあ……外部の者に盗み聞かれる心配が無いならいい」
そっか。よかった。
「あと、町の中じゃないと駄目ですか?」
「……は?」
「いや、だって、町の中じゃないといけない理由は、特に、無い、ですよね……?」
むしろ、外部の人が居たら嫌、っていうことなら、町の外の方がいいと思う。それに……アージェントさんを、できるだけ、町の中に入れたくない。その、なんとなく、だけれど。
「いや……その、ソレイラの外、というと……この辺りにそういった場所があったか?落ち着いて腰を据えられる場所で話したい。長い商談になるだろうから……」
「はい。話すのに丁度いい場所があります」
アージェントさんは心配そうだったけれど、話す場所なら、いいところがたくさんあるんだよ。
……ということで。
「はい、どうぞ、アージェントさん」
クロアさんが、にっこり笑いながら素朴なカップを手渡すと、アージェントさんは一応ちゃんとお礼を言いつつ……視線を動かしながら、僕らと周囲を頑張って観察している。
まあ、緊張してるんだろうな。僕が立派な応接間に通されると緊張してしまうのと同じで、アージェントさんも今、緊張してるんだろう。
……今。
僕らは、ソレイラの町の壁の外……つまり、外円の森の中に居る。
ラグを敷いて、バスケットに詰められたお菓子(折角なので、主に餅菓子にした)各種と、水筒に入れたお茶とで、ピクニック状態で。
「ま、急なご来訪でしたし、公的なお話でもないようですし!俺もトウゴも、無礼講っていうことで楽しませてもらいますね!」
フェイは満面の笑みを浮かべつつ、かんぱーい、と言って、素朴なカップに入ったフルーツティーを掲げた。
……まあ、楽しんでいってほしい。折角だから、偶にはこういうのもいいよね。
アージェントさんも、餅、食べますか?大福もあるよ。




