3話:絵の具探し*2
これで分かった。
どうやら、『描いたものが実体化する』には、一定以上の完成度が必要みたいだ。
赤いミニトマトを実体化させるには、赤い色が必要。なら、緑色の鉛筆を実体化させるためには緑色が必要なんだろう。
餅は白いからセーフだった。麦茶は……多分、濃すぎるやつだったから、実質黒扱いで、セーフだった、んだと思う。
……これ、正常な濃さの麦茶を白いコップに入れたやつだったら実体化しないんじゃないかな。試さないけど。
さあ、大変だ。
白黒で描いたものからは白黒のものしか実体化できない、となると、色々と厄介だ。
僕は、餅はそこまで好きじゃない。思い入れはあるし、嫌いじゃないけれど、それって思い出として好きなのであって、食べ物として好きなわけじゃない。
好きな食べ物は……ええと、枝豆?
うん。枝豆。枝豆が食べたい。けれど枝豆って多分、緑色に塗らないと実体化しない、んだと思う。
……けれど、そういうことなら話は早い。
僕の当面の目標が決まった。
僕の当面の目標は……『色』を手に入れることだ!
とりあえず夕方になってきてしまったので、毛布を出すことにした。
毛布、というか、大判のブランケット。これは先生の家で借りてた奴が白い奴だったから何とかなるだろうと思って描いてみたら、なんとかなった。よかった。
なので今日は、割とゆったり眠ることができる。少なくとも、丸くならなくても寒くない。
……でも背中が痛いから、明日は敷布団を作りたい。
寝て起きたら朝。おはよう。そういえば昨日は数歩しか動かなかった。まあ、絵を描いているとよくあることではある。トイレ以外で一度も部屋から出なかった日とか、まあある。
さて。
僕は今日から、絵の具を集めに行こうと思う。そう思うと俄然、やる気が出てきた。まあ、食べ物や水を探すよりも、絵の具を探す方が楽しいに決まってるからしょうがない。
どうしようか。僕が元の世界で使ってた絵の具って、主成分は鉱物だったんだっけ。あんまり覚えてないけれど、確か三酸化鉄とか、辰砂とかで赤を作ったりしていたんじゃなかったっけ。
あとは、花。
確か、紅花を使って染め物もしていたし、紅花は絵の具にも化粧品にもなっていたはず。日本史の教科書で読んだ記憶がある。あんなに赤い色が植物から採れるっていうのは驚きだよね。
この世界にも紅花みたいな花があるかは分からないけれど、探してみる価値はあるんじゃないかと思う。
もしあれば、ミニトマト食べ放題だ。あと多分、リンゴとかイチゴとかも食べ放題になるんじゃないかな。
……ということで、僕は一昨日よりもずっと元気に、探索に出ることにした。
探索に出る前に、鞄を作った。ブランケットとかナイフとか、道具が増えたから。
あんまり複雑な形状のものを描く気力は無かったから……ええと、とりあえず、紙袋。画材屋で絵の具を買った時についてきた奴。家に持って帰る訳にいかないから、先生の家に置きっぱなしだったけれど。
単純な形状の、グレーの紙袋なら描くのもそこまで難しくなかった。正直、絵の出来自体はそこまで良くはなかったと思うんだけれど、実体化してくれたからよし。
そこに畳んだブランケットと紙と鉛筆、それからできたてのナイフと、そこらへんに生えていた光る花を数輪入れて、出発することにした。
紙袋をぶら下げて歩く。
……歩いて比較的すぐに、赤い花が咲いているのを見つけた。
「……いけるかな」
折角だから試してみよう。花びらを潰して、出てきた汁で色を塗る。
描くものはリンゴ。それも、フジとか王林じゃなくて、紅玉。
その花の雄しべの花粉を使えば、黄色も表現できた。紅玉はそんなに黄色っぽくないリンゴだから、これで十分だ。
細部は鉛筆で描いた。というか、鉛筆デッサンの上に色を塗った。鉛筆デッサンに水彩で着色するのは何回かやったことがあるから、勝手は分かる。
……そうして、3時間後。
リンゴが1つ、できた。
「……意外と大変だった」
リンゴ1つに3時間かかる、というのはまあいい。鉛筆デッサンなら3時間くらいはかかるものだし、それに僕にとっては絵を描くことが目的なのであって、別に、リンゴが食べたくてリンゴを描いたわけじゃない。いや、絵が実体化するのは楽しいけれど。
……けれど、何が大変って、花びらを集めてくること。
花びら1枚から採れる色なんて、ごく僅かだ。何枚も何枚も花びらを手に入れてきて、それを使って無理矢理色を塗る、というのは……効率は、悪い。
こう考えると、絵の具ってすごい道具だったんだな。少量でも色がよく伸びたし、発色も綺麗で。
うん。絵の具があればな。絵の具があれば、もっと色々描けるんだけど……。
……あ。
もしかして、これ、絵の具を描いたら絵の具が出てきたり、するんだろうか……?
水彩絵の具のチューブを描いて、そのラベルの一か所に色を塗る。これで、ごくありふれた絵の具のチューブの完成。
そして、完成と同時に……餅の時と同じように、線がふるふる震えて、きゅ、と集まって、ぽん、と出た。
絵の具のチューブが、出てきた。
……そして、実体化したチューブを少し絞ってみたら、なんと、ラベルに塗った色の絵の具が出てきた。花びらの色だ。赤。紙に塗った時に薄くなったから、ピンクっぽいけれど。
でも、これは……とても便利だ!
それから僕は、いくつもいくつも、絵の具を作った。食べ物よりも絵の具を描いた。人間、やっぱりそうそう変わるもんじゃないらしい。昼食代を全部画材につぎ込んでいた時と変わらない。
同じ赤でも、色んな赤がある。
花びらから採った赤も、木の実から採った赤も違う。赤っぽい土を擦りつけて使ってみたら、そういう色の絵の具ができた。
……けれど、どうしても限界がある。
「薄い」
色が、薄い。
……鮮やかな赤色の花びらから出る色は、鮮やかな赤、じゃない。
どうしたって色は薄くなる。ついでにくすむ。だから、赤い花びらを絵の具にして絵の具の絵を描くと、どうしても……少しくすんだ薄い赤、くらいの絵の具ができてしまう。
そこで、花びらの色を塗ってから乾かして、そこにまた塗り重ねて色を濃くしていけばいいんじゃないか、とも思ったんだけれど、これも上手くいかなかった。
……『薄い赤色の絵の具のチューブ』の絵が出来てしまった時点で、絵の具のチューブが実体化してしまったから。
仕上げに色を塗る、という段階になってもたつくと、先に実体化してしまうらしい。なら、先に色を塗っておいて、あとから絵の具チューブの絵を完成させればいいか、とも思ったんだけれど……何と言うか、花びらの色を塗り重ねてみたら色が濃くはなったんだけれど、やっぱりくすんだ色にしかならないのは同じだった。
さて。
ここまでで一番色が濃く鮮やかに出たのは、土の色。
赤っぽい土を塗り付けて作った赤茶色が、今のところ一番綺麗な色、なんだけれど……やっぱり、これじゃ物足りない。
鮮やかな赤、どこかに落ちてないだろうか。リンゴの皮みたいな、夕日みたいな、朱肉みたいな、アメリカシロヒトリの幼虫の腹みたいな、血みたいな。そういう赤色、どこかに無いだろうか。
……あ、『血みたいな』……。
「できた」
できた。すごく赤い赤の絵の具ができた。これには大満足せざるを得ない。
ちなみに赤い絵の具の代償に、腕をちょっと切りつけることになったけれど、まあしょうがない。絵の具のためなら多少の怪我くらいはしょうがない。包帯巻いておいたから多分大丈夫。
さて。赤が手に入ったら、次は黄色が欲しい。ついでに青も欲しい。
赤と黄色と青が揃えば、大抵の色が作れるようになる。色の三原色は伊達じゃない。
……けれど、黄色はともかく、青ってどこで手に入れたらいいんだろうか。青って自然界にはとても少ない色だから、作るのは難しい気がする。
まあいいや。とりあえず、集められるところから集めていこう。
黄色は案外、綺麗なのがすぐ手に入った。僕が中に入って眠れそうなくらいの大きな百合の花があって、そこについてた雄しべの先を1つ貰って、そこについていた花粉を絵の具にさせてもらった。
花の花粉ってすごい色なんだな。まっ黄色になった。完成した絵の具もだけれど、それ以上に、僕の手が。
……一度手を洗いたかったので、水を出した。水が入ったガラスのコップの絵は白黒だけでも描けるから、それで。
「そういえば、水が欲しい」
そこで僕は思い出した。
水が欲しい。水は欲しい。食べ物が無くても、水は要る。飲むため以上に、水彩絵の具は水彩絵の具だから、水が無いと使えないのだ。
絵の具を直接塗り付けてもまあ色を付けることはできるけれど……できれば、水が欲しいよね。
できれば、一々描かなくても水が手に入る環境が欲しい。蛇口や上水道、なんて贅沢は言わないけれど、綺麗な水が欲しい。
けれど、ここまでで水場は見つかっていなかった。
地面の中には水があるんだとは思う。だって、植物は生えてるし。
けれど、それが湧き出しているような箇所は無かったし、小川一本見つかっていない。
そういったものがあれば、本当に楽なんだけれど。
……でも、無いから。
だから、描こう。水を描こう。
とりあえず、ものすごく大きな容器に、ものすごく大量の水を生み出せば、当面の手間は省けるんじゃないかな。
ということで、今手に入っている絵の具を使って、大量の水の絵を描くことにした。
そのためにまずは、丁度良さそうな土地を探す。
……その結果、適度に開けていて、岩や倒木も無くて、そして『如何にも前は泉だったけれど枯れ果てました』というような窪みがある場所を見つけたのでここに決定。
さて。
僕は手近な地面に座って、早速、『ものすごく大きな容器にものすごく大量の水』が入っているものをスケッチし始めた。
描いていくものは、石と土と枯れた草。それから、『存在しない水面』。
ほぼ見たままの景色に、存在しない水を描き足していく。……要は、泉の跡という『ものすごく大きな容器』の中に、『ものすごく大量の水』を描いていく。
水面が光を反射する様子。水際で水が煌めく様子。湧き出た水が作る波紋。波紋にまた、反射する光。
そういうのって、要は水を描いているようでいて、光を描いているようなものだ。そして、光を描いているってことは、白黒だけでもなんとかなるということで……更に、枯れた草の色や土の色を作るための、赤や黄色や茶色の絵の具があるなら、まあ、そこそこのものが描ける。ついでに魚でも泳がせてみようかとも思ったけれど、複雑になりそうだったからやめた。ただ、『大きな容器に大量の水』の絵を描き続けた。
……そうして、夕方になって、夜になって寝て、朝になってもう一度描いて……やっと、完成した。
風景画だ。この世界に来て初めて描いた、風景画。有りもしない、風景画だ。
僕の目の前、現実にあるのは枯れ果てた泉。でも、僕の手の中にある紙の上に描かれた風景の中には、水が滾々と湧き出る泉がある。
……何も起きなかった。
やっぱり駄目だったかな、と思った。だって、餅やナイフ、リンゴなんかを実体化させるならまだしも、もうこれ、風景だし。100リットルぐらいのポリタンクに水が入っているのを描けば良かったかな。でも、風景画も描いてみたかったんだからしょうがない。
……まあ、描きたいものが描けたんだからいいか。
僕はそう思って、もう一度、描いたばかりの絵に視線を落とす。
すると。
ふるふる、と、画面が震えた。そして、餅が実体化した時のように、きゅ、と、絵が一点に集中して……。
……ふわり、と、広がって消えていった。
「……え?」
実体化しないで、消えてしまった。あれ、と思ったけれど、特に、水が実体化した訳でもなく……。
紙から顔を上げて、驚いた。
泉ができていた。水が無かったはずの場所に、水ができていた。
僕が描いた、有りもしない風景画が、現実の風景を変えてしまった。
そして……それを確認した途端、僕は急に意識が遠くなっていくのを感じて、そのまま強制的にもうひと眠りすることになった。
……要は、気絶した。多分。
起きたら昼過ぎだった。頭が酷く痛む。
でも、目の前には泉があった。綺麗な、すごく透明な水が湧き出る泉が、そこにあった。
「……夢じゃなかった」
試しに水に触れてみたら、それは確かに水だった。両手に水を掬って、飲む。
なんというか、美味しかった。水だから味があるわけじゃないんだけれど、どうやら確かに僕の体は水を欲していたらしい。……そういえば昨日は麦茶も碌に飲んでなかった気がする。もしかして、気絶したのはそれだろうか。
うん。そう。僕は気絶した、んだと思う。
泉が完成した、というところまでは覚えている。それが明け方だったのも、覚えてる。
けれど今は昼過ぎだ。泉が完成した瞬間に意識が途切れたんだと思う。二度寝しちゃったにしてはあまりにも唐突だったし、多分、気絶。
……僕はなんで気絶したんだろうか。ちょっと怖いんだけど。
考えてみたけれど、徒労感がすごい。考えるだけ無駄な気もする。
けれど……多分、僕が気絶したのは、『泉を実体化させたから』なんだろうな、とは思う。
ここまで、実体化させてきたのは餅や麦茶、ナイフやミニトマト、精々ブランケット、というくらいのものだから、僕が抱えて持てる程度の物だったんだ。それがいきなり、泉なんていう大きなものを描いて実体化させたわけだから、まあ、今までとは勝手が違った、んだと思う。多分。
思い返してみると、やっぱりなんか、実体化する時の様子も違ったし。餅やトマトみたいに、きゅ、でぽん、って実体化するんじゃなくて、きゅ、でふわ、で、広がっていって気づいたら風景が変わってたし。
……或いは、実在しないものを描いたからかな?元々の風景に存在しないものを描き足したから?
うーん……まあ、いいや。とりあえず今後も、『大きなものを描いて実体化させると気絶するかもしれない』とは覚えておこう。
さて、水を飲んだらお腹が空いていたことを思い出したので、食事にする。
今日のご飯はとりあえず……肉。
うん。肉。肉にした。肉も食べないと流石に栄養が偏ると思う。逆に、肉だけ食べている分には割と生きられるんじゃなかったっけ。
肉は焼いてある奴をそのまま描いてもよかったのかもしれないけれど、試してみたかったから、生肉を描いた。
絵に描いたようなステーキ肉が出てきた。いや、絵に描いた肉なんだけれど。
肉が出てきたら、フライパンも描く。これは黒一色だから楽。
フライパンも出てきたら……レンズを描く。
レンズは白黒でなんとか描けた。やっぱり、透明なものを描くのって楽しい。
さて。レンズができたら、レンズで太陽の光を集める。
集める先は、黒く塗りつぶした紙。……自転車を実体化させようと思って描いたけれど、結局途中で断念した奴。それの一部分。
そこに光が集まると、紙が段々熱せられて……やがて、燃えた。
燃えたらすぐ、そこに枯草なんかを放り込んでいく。そうして火が大きくなったら、木の枝を乗せていって焚火にした。
焚火ができたら、そこに肉の乗ったフライパンをかざして、焼く。
……途中で、フライパンに油の類を敷いていなかったことに気づいたけれど、まあ、しょうがない。牛脂で焼くことにした。要はそのまんま焼いた。
多少、フライパンにくっついたけれど、無事、肉は焼けた。焼けた肉は、葉っぱのお皿に乗せて……。
「いただきます」
食べた。
……肉だった。ただし、塩も何も使っていないから、本当に、ただ、牛肉。
塩が欲しい。
塩も描いた。……これは結構困った。だって、塩ってただの白い粉末みたいになってしまう。そうしたら砂糖はおろか、小麦粉とかとの区別もできなくなるんじゃないだろうか、と思って。
けれど、開き直って塩の結晶をそのまま描いたら上手くいった。手の平サイズの透明な立方体が実体化したから舐めてみたら、ちゃんと塩味だった。
こうして僕は、無事に塩味のついた肉を食べることができた。
……多分、明日からも当分は、肉。
肉を食べたら、次の絵の具探しに行く。
今持っている絵の具は、花びらや木の実、赤土なんかからとった赤と、血の赤。それから花粉の黄色。
他にも、黄色っぽい土の黄土色、腐葉土の黒、石の粉の灰色、砂の薄茶色、なんかよく分からない花の汁……色んな絵の具がある。
……けれど。
「大体全部、赤で黄色で茶色だ……」
自然界から簡単に手に入る色って、限られるんだってことがよく分かった。
どうしよう。困った。
絵の具を作りに作ってはきたけれど、全部、色が似たり寄ったりだ。大体、少しくすんだ薄い赤か、黄色。あと茶色。そんなかんじ。白と黒と赤と黄色があれば全部作れる色なんじゃないだろうか、これ。
……できれば、青が欲しいんだ。赤と青と黄色が揃えば、大抵の色が作れる。でも、青っていう色が難しい色だってことは、知ってる。
なんだっけ。ラピスラズリっていう宝石を砕いて、青い絵の具を作っていたんだっけ。他にも、牛の血から青色を作ったのとか、色々あるけれど……簡単に手に入る青色って、無いんだよな。だから人類は宝石を砕いてまで、青い絵の具を作ってたんだろう。
他は……露草とかが生えていれば、青い色は作れそうだけれど。でも、今までで青い花は見ていない。探せばどこかには、あるだろうか。
それから、緑が欲しい。
緑があれば、植物が描ける。青の代用にできる場面もあるかもしれない。
……けれど、緑って意外と、少ない。
葉っぱを潰してみても、中々緑色って作れないらしかった。
薄い緑っぽい汁がでてきても、ほんの数分ですぐに茶色くなってしまう。草をそのまま紙に擦り付けてみたら少し濃い色ができたけれど、それを均一に塗るのは難しかった。
……でもどうにかして、絵の具の形で緑が欲しい。赤と黄色だけじゃなくて、緑も欲しい。青も欲しい。自由に色を使いたい。
変な世界に来てしまったけれど、ここに居れば絵は描き放題なんだ。だからここはそんなに悪い世界じゃない。でも、だったら、自由に絵の具を使いたい。色んな画材を、自由に使ってみたい。……折角、それが許される世界に来たんだから。
「綺麗だなあ」
一枚摘んだ葉っぱは、綺麗な緑色をしている。塗りむらなんてものがあるわけもなく、しっかり隅々まで緑。自然のものは、それ自体は綺麗なんだ。加工して材料にするのに難があるだけで。
「この色、そのまま絵の具にできたらいいのにな」
この葉っぱも潰して汁を取って塗ると、途端に薄くてくすんだ緑になってしまうんだろう。この葉っぱの色は綺麗だけれど、絵の具にすることはできない。
その点、鉱物はすごいと思う。すりつぶしてもそのままの色だし。砂を絵の具にしたり赤土を絵の具にしたりしているけれど、やっぱり、そのままの色が出るっていうのはいい。
この葉っぱも、砂や土みたいにそのまま画材にできたらいいんだけれどな。
葉っぱを見ていたら、なんとなく、枝豆を思い出した。いや、色がそれっぽかったから。
……緑の絵の具が出来たら枝豆を出そうと思っていたんだけれど。でも、緑の絵の具はもしかしたら、鉱物を見つけるまでお預けかもしれないし。
ちょっと悲しかったので、手慰みに葉っぱをナイフで切り抜く。……枝豆の鞘の形に。
それだけだと枝豆っぽくないので、茶色っぽい葉っぱを細かく斬り抜いて枝豆の枝に繋がってた方の色を表現したり、枝豆が入ってる部分の鞘の膨らみを表現するために別の葉っぱを切り抜いて貼りつけてみたり。
……あ、糊代わりにしてるのは、大きな百合の花の蜜だ。黄色の絵の具を作る時に花粉でお世話になったけれど、糊代わりとして蜜にもお世話になります。
試行錯誤している内に、葉っぱの枝豆ができた。
こういうの、コラージュっていうんだっけ。あんまりやったことが無い画法だったけれど、やってみたらちょっとした工作みたいで楽しかった。もっと大規模に作ったら、もっと楽しいかもしれない。
そうして僕は、出来上がったばかりの葉っぱの枝豆を眺めて満足していた。新しい事ができたのは楽しいし、色々と試行錯誤して物を作るのは楽しい。紙の上、葉っぱの緑色は鮮やかで、それもまた満足の一因だ。
……なんて、思いながら僕は、紙の上の葉っぱの枝豆を見ていたんだけれど。
紙の上の葉っぱがふるふる震えて、きゅ、と一点に集まって……ぽん、と。
枝豆が、出てきた。
……あ、これでもいいんだ……。
そうと分かれば早速挑戦だ。僕はまたナイフの先を使って、慎重に葉っぱを切っていく。
葉っぱのできるだけ色むらが無いところを、丁寧に。絵の具のラベルの中の、色がついている部分の形に合わせて。
そうして緑色の破片ができたら、百合の蜜を裏に塗って、鉛筆で描いた絵の具のチューブのラベルの中へ、それを嵌め込んでいく。
……そして。
「緑!」
待望の緑色の絵の具が、僕の手の中に生まれていた。