1話:黙らされても餅は美味い
「いやー、庭でやる花火ってのは、どうしてこう、風情があるのかなあ!」
しゅう、と煙と火花を散らして輝く手持ち花火片手に、先生はけらけらと笑った。
「そう思わないか、トーゴ!」
「うん」
僕の手の中でも、花火が燃えている。煙がぶわりと広がって、嗅いだことのない香りが漂って、そして、赤い炎が手持ち花火の先から噴き出る。
赤い光に照らされて、何もかもが赤く染まった。僕をにこにこしながら見ている先生も、庭木の枝葉も、花火から湧き出る煙までもが赤く染まって輝いた。
同時に、強い光は濃い影を生む。庭の土の上に落ちた石が、濃く長く、影を落とす。それがなんとなく、夏の夕暮れに似て、でも、もっと寂しくて、こじんまりとして、静かで……なんだかいいなあ、と、思う。
今日は、先生の家の庭で花火大会をしている。……というのも、僕が思い出話をしたからだ。
僕が小学生の頃、林間学校があった。
もう場所は覚えていないけれど、山の中の旅館みたいなところに泊まって、飯盒炊爨をしたり、山に登ったりして過ごした。まあ、そういう行事だ。
それで……今でも覚えているのが、花火事件。
2日目の夜、キャンプファイヤーをやって、その周りで手持ち花火をやる予定になってたんだよ。けれど、丁度その日の夜は雨で、キャンプファイヤーが中止になってしまった。
けれど、先生達が、それじゃああんまりだから、っていうことで、屋外だけれど屋根がある場所で、手持ち花火だけやらせてくれることになったんだ。
……けれど、結局、それも中止になった。
先生の指示がある前に勝手に動いて、勝手に花火に火を点けて、それを天井とか人とかに向ける人が数人いたものだから、結局、花火は全部回収されて、そのまま僕らはその後何もやらずにお風呂に入って寝ることになってしまった。
別に、そんなに花火を楽しみにしていたわけじゃなかったのだけれど、なんとなく、それが悲しかった。今も覚えている。
……ということで、僕は、手持ち花火っていうものをやったことが無かったんだ。僕の両親はそういうのに縁遠い人だし、林間学校でも台無しになってしまったので。
そして、その話を先生に何とはなしにしてみたところ、今日がある。
先生は、言ったんだ。
『よし!ならうちで花火大会するぞ、トーゴ!』と。
「それにしても、君のご両親が出かけてくれて本当に良かった!」
「うん。僕もそう思う」
今日、僕の両親は不在。親戚の結婚式に出かけてしまっている。泊まりになるから、っていうことで、僕は1人で留守番だ。だから、今、先生の家で花火ができる。
「しかし……よかったのかい、トーゴ。君にとって、両親のいない夜は貴重だろう?」
「うん。貴重だからこそ、僕はここに居る」
僕がそう答えると、先生はなんだか嬉しそうな、それでいて少し寂しそうな顔をした。
そこで、ふっ、と、炎が弱まって、そして、呆気なく消える。
僕の花火が燃え落ちて消えた。そうか。手持ち花火って、消える時、こんなかんじなのか。
火が消えてしまうと、一気にあたりが暗くなる。少し不思議なくらいに。
……ああ、そうか。花火が燃えている時の音。あれも光と一緒に消えてしまうから、一気に静かになって、その分、すごく暗くなったような、寂しい感覚になるんだ。
静寂を破って、先生が花火に火を点ける。……すると。
「うおわっ、いかんいかん。手持ち花火をやる時は、足元に気を付けねば、だな」
しゅう、と吹き出した火花が、先生の足元を掠めたらしい。危ない危ない。
「靴が駄目になってしまうもんね」
「いやあ……その心配は無いんだ。何せ僕は、うっかりサンダルつっかけてきちまったもんだからな。ただその代わり、足の甲の防御力がゼロなのだ。熱かった……」
……それは大変だ。いや、僕に関しては、靴に花火の痕跡が残る方が問題かな。火傷は隠しておけるし治ればそれで済むけれど、靴に焼け焦げの後でもあったら、すぐ親に見つかって問いただされてしまう。
「と、まあ、うん……今、僕は、この身を以てして、花火を人に向けたら危ない、ということを、学んでしまった……」
「……うん」
実感できる経験って、大事だから。まあ、必ずしも無駄ではないと思うよ。先生の火傷……。
「まあ、これなら、君の林間学校で人に向けて花火を振り回したクソガキがしこたま怒られたのも已む無し、というところだ。下手すりゃ花火の1本で、人は取り返しのつかない怪我だってするだろうからなあ……」
先生はそう言いつつ、ふり、ふり、と、控えめに花火を振った。前、ねこじゃらしを振っていた時もこんなかんじだったっけ。
「……まあ、それを言ったら、君達の花火大会が中止になってしまったことだって、取り返しのつかないことなわけだが」
「そうかな」
「勿論。取り返しのつかないことだぜ?トーゴ。その時、その瞬間しか味わえないものってのはある。特に、子供の時には、尚更……」
先生の花火の火が、ふっ、と勢いを失くして、そのまま消えていく。先生は黙って次の花火を取って火を点けた。
……これはぱちぱちするやつだったらしい。黄色っぽい火花がぱちぱちと飛んで、足の甲の防御力がゼロの先生は、うわうわ、とちょっと慌てていた。
僕はできるだけ大人しそうな花火を選んで火を点けてみる。……色が次々に変わる奴だった。けれど、火の勢いは大人しめ。よしよし。
「……まあ、時に、誰か1人の悪意ある行動、或いは身勝手な行動のせいで、何かが取り返しのつかないレベルで台無しにされてしまう、ということがある」
「うん」
先生は花火を何故か両手に持って、両方に火を点けて、両方をふり、ふり、とやり始める。ちょっと車のワイパーに似ている。
「理不尽なことだが、よくあることだ。水の中に一滴インクが落ちただけでも水は濁るもんさ。マナーとか頭とか性根とかその他諸々、どこか何かが『悪い』奴がたった1人だけで100人が育てた花畑を踏み躙ることができるし、数百年の歴史ある建築物を燃やすことだってできる。そういうもんだが……」
先生は両手の花火を片手にまとめて、それから空いた手で更に2本、まとめて花火を取った。花火から溢れる火花で新しい花火に着火して、ものすごく派手な炎を生み出し始めた。
「まあ、実に理不尽だな。納得はできんな。だがよくある。その結果、色々と取り返しのつかないことが起きる。何の罪もない小学生達の林間学校からささやかな花火大会が失われもする」
先生の派手な花火の様子を眺めつつ、僕は慎ましやかに、大人しく、1本ずつ花火を嗜むことにする。
「……僕は、あの時、林間学校で花火の機会が無くなってしまったのを残念に思っていたけれど、でも、今日があったから、よかったって思ってる」
次に火を点けたのは線香花火だった。知識にはある。写真も見たことがある。けれど、初めて見た。
初めて見る線香花火は、僕が思っていたよりずっと慎ましやかだ。
……静かにこうして線香花火をぱちぱちさせてじっとしていられるっていうのは、なんとなく、幸せなことのように思う。
「……そうかい」
先生は燃え尽きた花火を水の入ったバケツの中に入れながら、僕と同じく線香花火を取って、火を点け始める。
「まあ、それならば僕も救われたような気持ちだ。この世は取り返しのつかない理不尽な事象に溢れているが、それをちょこっとでも取り返すことができたなら、まあ……それは喜ばしいことだ」
「取り返すどころじゃなくてお釣りが来たかもしれない」
「おや。それなら最高だな」
「うん。最高」
心の底からそう言うと同時、線香花火の玉が、ぽとり、と落ちてしまう。少し寂しい。けれど、これはこれで、先生の言う『風情』っていうやつなんだろう。そう思うとこの瞬間も、味わい深い。
「うーん、そうだな。全部、そうであるといいな。うん。理不尽にも踏み躙られ、奪われたものがあったなら、より強靭に、強固に、そして美しく。そういう風に復活を遂げるなり、代替してくれるものが出てくるなりしてほしい。嫌なことがあったらその分、いや、その分以上にいいことがあってほしい。……まあ、あくまで、僕の願いだが」
……うん。
嫌なことがあったら、その分、良いことがあってほしい。
僕も、そう思う。
そして……僕は、誰かの嫌なことを見つけたら、それを上回る良いことを提供できる人でありたいな、とも、思う。
……先生が僕に花火大会を提供してくれたみたいに。
それから、僕らはしばらく、線香花火ばかりやっていた。
僕の線香花火はじっとしていてもすぐに落ちてしまうのだけれど、先生の方の線香花火は、割としぶとい。先生みたいだ。
先生の線香花火は、僕がじっと見つめる先で、ぱちぱちと火花を弾けさせながら、ほんのりと慎ましやかに、かつ堂々と輝いている。やっぱり先生みたいだ。ちょっと面白い。
「しかし、こんなに喜んでもらえるとはなあ……君、絵を描いてる訳でもないのに、さっきからにこにこしっぱなしじゃあないか、トーゴ」
にこにこ?……そう言われると、改めて、自分の顔を意識してしまって変な表情になる。どういう顔をしていいのか分からない。
「だって、初めて知ったんだよ。手持ち花火ってどんなものか」
初めて知った。
手持ち花火っていうものがこういうものだって、僕は今日、初めて知った。
じっとりした夏の空気も、少しだけ涼しい夜風も。輝く炎の眩しさも、煙の匂いも、火花の音も。そして、花火が燃え落ちた後の、静寂も。全部、初めて知った。
今日知ったことは、僕の宝物になる。この先、もしかしたら一生味わえないかもしれない感覚を、精一杯覚えておきたい。
「そうか……そうだなあ。じゃあ、いつか、花火大会でも見に行くかい?トーゴ」
そんな折、僕をじっと見ていた先生がふと、そんなことを言った。
「花火、大会……?」
「ああ。そうさ。あれはあれで綺麗だぜ。風情っていうと手持ち花火に軍配が上がるように思うが、まあ、あのお祭り騒ぎの浮かれた空気は、偶に摂取したくなるものさ」
なんとなく、自分から縁遠いというか、自分とは不釣り合いというか、そういう世界の話をされて、僕は戸惑う。
……けれど。
「君が大学生ぐらいになれば、そういうことも可能だろう。多分。ってことで、どうだい?」
先生が話す、『いつか』の話が、とても明るく眩しく見えたので、僕は頷くことにした。
「うん。行く」
……いつか。
そのいつかは、ずっと先のことのように思える。
けれど……いつか、絶対に来るんだろうなあ、と、思う。
それが楽しみだ。わくわくする。
……この、わくわくしたかんじも、覚えておきたい。ずっと。大事に。そうしたら、悪いことがあっても、頑張れる気がする。
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第13章:塗り替えるなら綺麗な色で
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とりあえず、兵士の人達があんまり入って来てしまわないように、急いで入り口に木を描いて生やす。木は描き慣れてるし、自分の一部みたいなものだから、すぐ描ける。
急に伸び上がった木にびっくりしたらしい兵士の人達は悲鳴を上げながら、会場に入れないまま廊下に取り残された。
「あ、駄目だ、ちょっと入っちゃった……」
でも、全ての兵士の人達を阻止できたわけじゃない。僕は急いで、次の絵を描こうとして……。
「心配するな。何のために俺達が居ると思っている」
……けれど、その時にはもう、ラオクレスが動いていた。
ラオクレスはアリコーンを出してひらりとまたがると、ダンスホールを駆け抜ける。ホールの中、突進してくるアリコーンと騎士が居たのなら、当然、歩兵の皆さんは驚く。
結果、散り散りになってしまった兵士達は、そこでフェイの火の精にぽこぽこやられたり、クロアさんに一瞬で気絶させられたり、はたまた、フェイのお父さんとお兄さんがそれぞれに召喚獣で応戦したり、他の貴族の人達もそれぞれに色々やって……。
……結局。
「まあ……貴族が集まってるってこた、召喚獣が集まってるってのとほぼほぼ同義だからなあ……」
「とんでもない戦力のところに突っ込んできちゃったのね、彼」
勇者を名乗った人は、取り押さえられてしまった。
まあ……已む無し!
「……お前は、アージェントの家の」
「ルギュロス・ゼイル・アージェントだ」
取り押さえられてしまった勇者の人は、王様の前で尚、堂々としていた。立派。
「今回の行いは王家への反逆と見做す。よいな?」
「勿論!……魔の手に落ちた王家に反逆せずして、何が勇者か!」
そして、勇者の人……ルギュロスさんは、なんというか、このスタンスでいくつもりらしい。
「ああ、実に嘆かわしい!元々無能だとは思っていたが、それでも王家には一線を超えぬ良心があったように思えたが……まさかこのように、魔物と共に在るようになるとは!」
「そうだな……王がこのように、魔物を従えている、ともなれば……」
ルギュロスさんはにやりと笑って、言った。
「あなたこそが、『魔王』なのではないか?」
「だ……黙れ!誰が魔王だ!この、口を慎め!無礼者!」
「魔王を前に無礼も何もあったものか!貴様こそ、民にどう顔向けする?よもや、民らも思うまい!これ以上悪くはなるまいと思っていた無能の王が、予想を裏切り魔の王へと変じた、などとは!」
「貴様……貴様!」
王様は怒って、遂に、ルギュロスさんへと歩を進める。その手には錫杖があるから、それで殴るつもりなんだろう。
……けれど。
縛り上げられて、両側をお城の兵士に固められたルギュロスさんが……王様が近づいてきたのを見て、にやり、と、笑うのが、見えた。
「あ、あの、ちょっと待って!」
なので僕は、急いで王様を止める。
「むっ!?」
王様の口に、大福を描いた。王様は突如として現れた大福にびっくりして、歩みを止める。やった。
……うん。
これには、ルギュロスさんもびっくりしたらしい。王様がいきなり止まってしまったし、王様の口に大福が出現してるし。
「ど……どうした、魔王よ!怖気づいたか!?このように、拘束しておきながら尚、『勇者』が怖い、と!?」
「あなたもちょっと黙っててください」
ルギュロスさんがまた余計なことを言って王様を怒らせようとしていたので、僕はルギュロスさんの口にも大福を描いた。ルギュロスさんも大福が口に詰まって喋れなくなる。よし。
「……トウゴ。どうした」
それから、呆れたように近づいてきたラオクレスに事情を説明する。
「いや……なんとなく、その人が、王様が近づいてくるのが嬉しそうに、見えたから……止めた」
僕は、ルギュロスさんを描いていたからルギュロスさんの表情が見えた。けれど、彼の後ろに居たラオクレスからは、ルギュロスさんの表情が見えていなかったらしい。そう伝えると、ラオクレスは少し目を見開いて、そうか、と言った。
「……これは、なんだ……?」
やがて、すっかり勢いを殺がれた王様が、口から大福を外しつつ、げんなりとした顔で僕の方を見た。
「大福です」
なので解説。これは大福です。中身は漉し餡です。ほら、大福って、こう、黙らせたい人の口に詰め込んでおくにはぴったりなんだよ。
「ダイフク……?」
「美味しいやつですけれど、喉に詰まらないように気を付けてお召し上がりください」
僕がそう言うと、王様は……非常に迷ったようなのだけれど、黙って、大福を食べ始めた。
……あ、美味しかったらしい。ちょっと表情がほころんでいる……。
「……ルギュロス・ゼイル・アージェントよ。貴様の目的は王家の討伐、ということか?」
王様が大福ブレイクタイム中なので、オーレウス王子が代わりにルギュロスさんにそう聞く。
「勿論。私は勇者だ。魔の王を倒し、世界に平和を取り戻すのが私の役目だとも」
全く臆することなくそう言うルギュロスさんに、オーレウス王子は頭の痛そうな顔をする。
「成程。そういった名目で、王家に攻撃したい、と。そういうことか」
ルギュロスさんはそれには答えず、ただ、にやにやと笑うばかりだ。まあ……そういうこと、なんだろうなあ。
アージェント家は元々、魔王復活の噂を聞いて王家が動いている横で、王家とは関係なく勇者を擁立している。だから王家とは対立姿勢だった訳なのだけれど……今回のこれは、いよいよ、王家と徹底抗戦、っていう構え、なんだろうな。
ルギュロスさんにとっては、王様が本当に魔物と仲良しになっているかどうかなんて関係ないんだろう。とりあえず、『大量の魔物を連れている』っていう事実から、『王は魔王になったのだ』って言い張れば、王家を滅ぼす名目が立つ、っていうことなんだろうな。
……つまり、それだけ、アージェント家は王家を潰したい、っていうことなんだろう。
「さて……その者は牢に入れておけ」
「あら。この場で殺してしまわないの?躊躇われるようなら私、やりますけれど」
やがて、王様が嫌そうに命令を出すと、クロアさんがとんでもないことを言った!
「い、いや……さ、流石に殺すのは」
「ねえ、陛下。殺されかけておいて殺さないっていうのは、至極寛大でらっしゃることですわ。でも……私はここで殺しておいた方が賢明であると思います」
クロアさんがそう言うと、周りの貴族の人達もざわめきつつ考え始めた。
僕は……僕としては、人を殺してしまうのには反対だ。取り返しがつかないことだから。だから、可能な限り、そうしなくて済むような手段を講じるべきで……でも、クロアさんの言い分も、分かるんだよ。
絶対に何か企んでるよなあ、と思う。ルギュロスさん、絶対に何か企んでるよ。あれは。
……と、思っていたら。
「いや。この者は生かす。そして、アージェント家との交渉の材料とせよ」
王様が、そういうことを言いだした。
「……交渉、とは」
フェイのお父さんがちょっと考えつつそう尋ねる。すると王様は……胸を張って、言った。
「無論、二度と王家へ楯突かぬようにさせるための交渉だ」
「貴族連合が独立する今、アージェント領はわが国において重要な土地であり、アージェント家は重要な人材だ!王城で働く者達の中にも、アージェント家の血筋の者は多い。ただでさえ減少した国土面積と人員とを、これ以上減らして何になる!」
王様の言い分は……その、ちょっと、新鮮だ。うん。新鮮。
「いや……父上。アージェント領についても独立を認めてしまうか、或いは、完全に取り潰してしまうか、どちらかはした方がいいのではないかと。この状況まできて、今更味方に戻れというのは無理があります」
「アージェント家は落ち目の王家を見限って、より利のあると思われる選択を取ったのです。その結果がこれなら、何か利を与えない限り、アージェントが我々につく可能性は極めて薄いかと……」
「害を与えられぬことが利になり得るだろう!いざとなったら、アージェント領を滅ぼし、王家直属領として接収しても……」
……うん。
つかつかつか、と、ラージュ姫が僕に近づいてきて、そっと、囁くように尋ねてきた。
「トウゴ様。その、先程の、ダイフク、とやら……お持ちですか?」
「え?あ、うん。お餅です」
ほらね、お餅だよ、という意図を込めて大福を描いて出すと、ラージュ姫は、ありがとうございます、と言ってにっこり笑って大福を持って行った。なんだなんだ。
そして、僕らが見守る中、ラージュ姫は……。
「そのように現実を認める力が無かったからこそ、我々は貴族連合に見限られたのですよ!お父様!」
王様の口に、大福を突っ込んだ!
「まあ……交渉はともかく、相手の思惑がまるで分からんというのは怖いな」
王様が大福をもぐもぐやって大人しくしている傍ら、フェイのお父さんがそう言った。
「殺してしまえばそれきりだ。ならば、多少、情報を引き出してからでも良いかもしれない。無論、その余力があれば、といったところだが……」
フェイのお父さんは、ダンスホールを眺めて……言った。
「……戦力には事欠かないな、この会場は」
……うん。
会場中の魔物達が、それぞれにやる気に満ち溢れた仕草を見せてくれている!戦力はバッチリだ!




