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今日も絵に描いた餅が美味い  作者: もちもち物質
第十二章:突然変異のミュータント達
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21話:踊る魔物*12

 それから王様は、話してくれた。


 ある日、王様の影が急に伸びて実体を持ったということ。

 そして、その影は、王様に力を与えることを持ち掛けてきた、とも。

「魔物を呼び出す力だ。どんな魔物も時間と魔力次第で呼び出せる、ということだった」

「あー、ドラゴンとか出てきてましたもんね」

 フェイがからりとした表情で頷くと、王様はちょっと気が楽になったらしい。まあ、重罪であろうことを当たり前のことみたいに扱われたら、少し気が楽になるよね。

「そしてその代価として……王城の秘宝を1つ、渡した」

「……というと」

「初代勇者……王家の始祖が身に着けていたとされる宝玉だ。何故、そのようなものを欲するのかは分からなかったが……」

 初代勇者が持っていた宝玉、か。どんな宝石だったんだろう。ちょっと見てみたかったな。

「そして同時に、ソレイラを滅ぼすよう持ち掛けられた。どうやら魔物は、ソレイラにある何かを欲しているらしかった」

 ソレイラにある何か……。

 ……あ、あの、皆で僕のことを見ないでほしい!

「そして、つい2日前の夜だが……影の魔物が、言ったのだ。魔王の復活のためにことは進んでいる、と」




「成程。魔王の復活……」

「そ、そんな目的があると分かっていたなら、契約などしなかった!」

 王様は慌てたようにそう弁明したのだけれど、隣でラージュ姫とオーレウス王子にため息を吐かれている……。

「そして、ソレイラを襲う気が無くなった陛下は、契約違反として襲われた、と。……契約違反をした時の罰則は、死だった、ということですか?」

 続けてフェイが聞くと、王様はちょっと首を捻った。

「いや……魔物はどうも、余の血を欲していたらしい。初代勇者の血を引く者の血が欲しかった、ということならば、何か、魔王復活のための魔法に用いるためだったのだろうな。勇者の宝玉についても、同じ目的だったのかもしれぬ」

 成程。ということは、魔物は、勇者のあれこれを集めている……?

 じゃあ、ソレイラに勇者の何かがあるんだろうか?うーん、別に、僕の中にそういうものがあるとは思えないんだけれどな。

 うーん、魔物達は何か、勘違いしているんじゃないだろうか……。




 結局、魔王についてはそれ以上のことは分からなかった。

 とりあえず、夜の国からやってきた、あの黒くてふにふにした不定形のちょっと猫っぽい魔王とは別の魔王らしいので、そこはしっかり確認しておいた。

 よかった、僕らの所の魔王がソレイラを滅ぼそうとしているとかそういう話じゃなくて本当によかった!


 ……ということで、魔王については、王様と『向こうからコンタクトがあったらすぐ我々に知らせてください』っていう約束を取り付けて……そして休憩を挟んだら、今度はフェイのお父さんとお兄さん、そして秘書のクロアさんと一応彼らの護衛のラオクレス、という4名で、王様とオーレウス王子と色々な交渉を始めることにしたらしい。

 要は、貴族連合が独立した後にどういう取り決めが必要かをとりあえず挙げられるだけ挙げて、検証できるだけ検証してみる、みたいなかんじらしいよ。




 ……なので僕は今、フェイとライラと一緒にふらふらお城の中を歩いている。

 お城の人達は僕らの事情を何となく知っていたり知っていなかったりなので、知っている人は僕らに優しく会釈していったり敬礼してくれたりするし、知らない人は僕らを見て不思議そうに首を傾げている。ややこしくてごめんね。

「はあ、やっぱりここの壁画って素晴らしいわね……」

「いやはや、本当に……」

「……ホント、お前らここの絵、好きだよなあ」

 ……そして、僕らは案の定、大広間の壁画に吸い寄せられて、そこで捕まってしまっている。しょうがない。この絵が魅力的なのが悪い。


「ああ、やはりこちらにおいででしたか!」

 そんな僕らの所へ、ラージュ姫がやってきた。階段の上からにっこり笑って声を掛けてくれたので、僕らは手を振って返す。

 ラージュ姫は優雅ながらちょっと急いだ足取りで階段を降りてきて、そして、僕らを見て……深々と、頭を下げた。

「……この度は、本当に、なんとお礼を申し上げたらよいか」

「あーあーあー、ラージュ姫。そういうのもう今更ナシだぜ。な?」

 そして、頭を下げたラージュ姫の頭をそっと持ち上げつつ、フェイがそう言う。

「俺達の望む結果になった。それがたまたま、幸運にも、あなたが望んだものに近かった。それだけのことさ。お礼を言われる筋合いはねえよ。俺達は結構好き勝手にやっちまっただけだし」

 ラージュ姫はまだ何か言いたそうだったのだけれど、ただ、申し訳なさそうな、それでいてじんわり幸せそうな笑顔で、はい、とだけ言って頷いた。

 そして、ラージュ姫は、ちょっと声を潜めて……言った。

「あの、フェイ様、トウゴ様。父から言付かっております。『レッドガルドの息子と精霊様の望みを何か叶えてやれ。勿論、お前がそう望んだから、という体で、あくまでも余は関わっておらんとした上でな』と」




 ……うん。

「それ、言っちゃ駄目なやつでは」

「望みを叶えることについては父は関わりませんが、このお話をフェイ様とトウゴ様にしてはいけないという口止めはされませんでしたので」

 うん。成程。ラージュ姫がちょっとクロアさんっぽくなっている。

「ははは、いいなあ、ラージュ姫!随分と強かになっちまって!」

「そうでしょうか?」

 フェイはけらけら笑って、ラージュ姫はにっこり笑って……なんか描きたくなってきたので描く。いい笑顔だ。

「つってもなー、別に、俺、望みなんてねえしなあ……トウゴは?」

「え?僕?あ、ちょっと待って。もうちょっとさっきの顔で居て」

「お前はいっつもそれだよなー、いや、そこがお前のいいところだけどよー」

 フェイの質問はちょっと置いておかせてもらって、絵を描く。楽しい。なんとなく今回の着彩は水彩でやりたい気がしたので、森の木の炭で作った魔法絵の具で下描きだけさっとやってしまって、帰ってから着彩することにする。

「ねえ、フェイ様。トウゴが何かお願いごとするとしたら、どうせ全部、『描きたい』よ?」

 僕が描いている間に、ライラに大正解を言い当てられてしまった。その通りです。

「トウゴのことだし、『魔物を沢山描きたい』とか言い始めるんじゃない?或いは『魔物のダンスパーティ描きたい』とか?ほら、前言ってたし」

「ははは、かもなあ」

 ……うん。




「……あの」

「ん?どうした?描き終わったのか?」

「あ、うん。下描きはとりあえず終わったからこれでいいや。で、ええと、さっきの話、なんだけれど……」

 僕が描き終わったと言ってから顔の角度を動かし始めるフェイをありがたく思いつつ、早速、お願いしてみる。

「あの、ラージュ姫」

「はい。何でしょう。何か、お望みがおありですか?」

 にこにこしたラージュ姫に……ちょっと失礼かな、と思いながら、聞いてみる。

「王様って、まだ、魔物、出せるんだろうか」


「……へ?」

 ラージュ姫がきょとん、として、フェイとライラはけらけら笑いだす。そうだよ。想像通りだよ。

「あの……僕、魔物、描きたい。色んなやつ」

 僕がそう言うと……ラージュ姫は、ふるん、と震えて、それから、耐えかねたように、くすくす笑い始めた。

「あの、本当にダンスパーティを開くことって、できないだろうか」

 結局、僕がそう、正式にお願いを口に出す前に、3人とも笑い始めてしまった。どうせどうせ。


「……トウゴ様」

 そうしてある程度笑って満足したらしいラージュ姫は、にこにこした顔で、言った。

「とても素敵です!是非、開きましょう!ね!」

 ……やった!嬉しい!


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― 新着の感想 ―
[一言] いや、ソレイラにはあなたが今手に持ってる勇者の剣がありますよね?!?!?! トウゴくんはふわふわしてるなぁ...
[一言] 百鬼夜行ですか?
[一言] レッドガルド家は夜の国から来たレッドドラゴンの子孫で...初代勇者って何処から来て何した人でしたっけ?
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