14話:踊る魔物*5
「え?王城に忍び込んで魔物を攫ってくればいいの?うーん、まあ、いいわよ」
その日の夕食の時、皆を集めて事情を説明して、それからクロアさんに提案してみたところ、快諾を頂いてしまった。
いや、いいの?提案したの僕だけど、その、本当にいいの……?
「おい、クロア」
「あら。そんな心配そうな顔しないで。大丈夫よ。魔物狩り自体は、やったことあるの」
ラオクレスがちょっとしかめ面で腰を浮かせかけた途端、クロアさんからとんでもない言葉が出てきた。
「……やったことある、って、どういうこと?」
僕の頭の中には、勇ましくも優雅にマスケット銃を携えて白馬に乗るクロアさんの姿が浮かんでいる。なんでマスケット銃のイメージなのかは僕にも分からない。
「あら。じゃあトウゴ君。よーく考えてみて?召喚獣達って、どこから来るのかしら?」
クロアさんは優雅に夕食のスープをスプーンで掬いつつ、にっこり笑ってそう、尋ねてくる。
「キャンバスとか画用紙とかから」
「……あなたの場合じゃなくて、貴族向けにお店に並んでるやつね」
あ、成程。そういうのもあるのか。……フェイから話を聞いたことくらいしかないから、あまりよく分からないんだよ。その、召喚獣屋さん、というやつ。
「まあ、そういうお店で売られている召喚獣って、いわゆる『冒険者』が狩ってきたものが大半なのよ」
そういう職業があるってことも僕は知らないんだけれど、その人達何をするんだろうか。冒険?
「冒険者達が古代の遺跡とかに潜って、その奥で宝石に入ったままの召喚獣を見つけてくることもあるし、或いは、人里離れた場所で魔物を見つけて、そこで魔物を生け捕りにしてなんとか売りに行く、っていうこともあるわ」
クロアさんの解説を聞いて、僕は頭の中で色々思う。その古代の遺跡って何だろう。僕も行ってみたい。いや、森にも古代の遺跡らしきものはあるけれど、それじゃない奴、行ってみたい。
けれどそれ以上に気になるのは……『魔物を生け捕りにして何とか売りに行く』っていうくだりだ。
「……魔物をそのまま連れていくのって、非効率では」
召喚獣って、宝石に入るから便利なのであって、生け捕りにして持っていく、って、ものすごく大変なんじゃないかな。管狐くらいのサイズならいいけれど、ラオクレスのアリコーンとか、生け捕りにするのも運ぶのも、ものすごく大変だと思うけれど……。
「あら、しょうがないわ。だって宝石が買えるなら冒険者なんてやらないでしょうし」
……あ、成程。
「いえ、居ない訳じゃないのよ?宝石を買って、その宝石に高価な魔物を納めて、より高価にして売って儲ける冒険者も。……ただ、そういうのって、大抵は貴族が後ろについていて、依頼、っていう形になることが多いわよね。私みたいに」
クロアさんの説明で概ね、クロアさんの『魔物狩りをやったことがある』っていう話が読めてきた。
クロアさんは貴族に雇われる密偵だったわけだから、その貴族に戦闘技能や密偵としての能力を買われて、宝石を預けられて魔物を捕まえに行った、っていうことなんだろうな。
「私の場合は、ケルピーを捕まえに行ったのよ。ほら、ユニコーンもそうだけれど、男よりは女の方が好き、っていう魔物、結構いるじゃない?だから雇い主も私に頼むことにしたらしいのよね」
うん。まあ、それは分かるよ。……うちの馬も、なんか、相手によって態度が結構変わるよ。僕とかリアンは弟分だと思われてるらしくて、そういう対応されてる。フェイやラオクレスにはちょっとそっけない。けれど、森の女性陣にはものすごく紳士的というか、露骨に優しいんだよ。あの角生えた馬達……。
ちなみにうちの馬達、レネに対してはどうしていいのか分からないらしくて、ちょっとおろおろしながら中途半端に優しい態度になってるか、開き直ってでれでれになってるかのどっちかだ。ちょっと面白い。
「まあ、そういう訳で魔物を宝石に入れて帰ってくるのはやったことあるから分かるわ。宝石さえ支給してもらえれば、王城に忍び込んで魔物を探して連れてくるくらい、できると思うのよ」
「……だが、野生の魔物を捕らえるのとは訳が違うだろう」
クロアさんは『大丈夫!』っていう顔をしているのだけれど、ラオクレスは相変わらず心配そうだ。まあ、こういう時にブレーキになってくれるのがラオクレスのいいところだから。
「まあそうね。既に誰かのものになっている魔物を捕らえるっていうのは、初めてだわ」
クロアさんもラオクレスの言うことは分かるらしくて、そう言ってちょっとため息を吐く。
「多分、適当に戦って弱ったところに魅了の魔法を掛けて国王の支配を曖昧にして、その隙に捕らえる、というかんじになるのでしょうね。そこはちょっとだけ心配かしら」
戦って弱ったところを捕らえる……のか。ええと、僕、召喚獣って魔物と人間との合意の下で契約するものだと思っていたのだけれど、実際はそういうケースばかりじゃないのか。
なんというか、少しだけショックだ……。
「私の一番の強みは魅了の魔法だから、魅了の魔法が効きそうな魔物が居てくれればいいんだけれどね。ラージュ姫が見たっていう、半人半鳥の魔物なんかは効きそうだから、そいつ狙いで行くことになるかしら……。弱い魔物は弱らせるのが簡単だけれど、その分、国王が魔法で縛っていたら、その影響を強く受けていると思うわ。なら、国王の支配があまり効かないくらいに強い魔物を狙いに行くのが確実ね」
「おい、クロア」
「あなたが心配するようなヘマはしないわ。それは大丈夫。引き際は弁えます」
ラオクレスがなんとなく落ち着かない顔をしている。多分、僕も落ち着かない顔をしている。
……クロアさんは強いよ。それは知っている。でも、敵地に潜入していって、そこで強い魔物と戦う、なんて、あまりにも、その……送り出す側としては、不安だ。
「僕が付いていったら、足手まといだよね」
「そうね。悪いけれど、トウゴ君が居たら私が動きにくくなるわ」
一応、聞いてみた。けれどやっぱり、こういう時に僕はクロアさんの足手まといにしかならない。だから、一緒に行く、っていうのは無しだ。
「誰か、一緒に行ける人は……」
「……悪いけれど、1人でやりたいわ。私1人なら、見つかりかけてもどこかに隠れられるけれど、トウゴ君が天井裏にさっと逃げ込めるとは思えないもの。……当然、ラオクレスも、ね。あなた、体が大きいのよ。目立つわ。隠密行動に向かないわよね」
僕はしょんぼりするしかないし、ラオクレスは相変わらず表情が少ないけれど、悔しそうというか、ちょっと落ち込んだように見える。大切な人の力になれないっていうのは、すごく堪えるよね。分かるよ。僕もそうだ。
「だから……」
「あの」
けれど、クロアさんの話に、そっと、ラージュ姫が割って入った。
「私は、駄目でしょうか」
「私なら、王城の中で見つかってもそれほど問題にはなりません。少なくとも、即刻、敵襲だと思われることは無いでしょう。それに、王城の中の様子は私が誰よりも知っています。如何ですか。私では、お力になれませんか?」
ラージュ姫の声は真剣で、真摯だ。一生懸命な彼女の言葉を聞いて、クロアさんは、ふむ、と考える。
「い、いや。ラージュ姫も駄目だろ。だって国王と対立してるんだろ?なら、ラージュ姫だって、今王城に戻ったら怪しまれることには変わりねえ!だったらまだ、何かあっても戦えるラオクレスとか、何でもできちまうトウゴとか、或いは、囮になるのに最適な俺とかの方がいいんじゃねえか?……いや、俺は駄目かぁ」
うん。フェイは駄目だよ。囮なんて絶対にやらせないぞ。
……というのはさておき、ラージュ姫が危ないっていうのは確かだ。王様が魔物をこっちに向かわせたと聞いてすぐにこっちへやってきたラージュ姫は、間違いなく今、王様から敵視されているだろうし。
けれど、クロアさんは考えて……にっこり笑って、言った。
「そうね。ラージュ姫にご同行頂くことにするわ」
「ラージュ姫の強みは2つあるわ。1つは、『見つかった時に怪しまれるとしても見つけた側がそんなに文句を言えない』っていうこと。当然よね。お姫様なんだもの。下っ端の兵士なら、国王の命令が出ていたとしても、あなたを捕らえることには躊躇いがあるはずよ。特に、良識ある兵士なら、ね」
……成程。クロアさんの読みだと、ラージュ姫はそこまで危険じゃない、と。
王様から『ラージュ姫は敵だから見つけ次第捕まえろ』とか命令されていたとしても、その通りに兵士が動くとは限らない。ましてや、『良識ある』兵士なら、絶対に動かない。
逆に、良識が無い兵士や王様の命令を聞く魔物、或いは王様本人がラージュ姫と対峙した時だけが問題だけれど、そうなった時はそもそも『魔物をコッソリ連れて帰ってくる』という作戦自体が失敗しているので、その時はもう諦めて逃げてもらうしかない。
王様本人やそのほかの人達に見つかるリスクを軽減する方法って、クロアさんが1人で行くのが一番身軽で最適なんだろうけれど、ラージュ姫が居れば、そもそもの見つかっちゃいけない人が減る。ラージュ姫が居るなら、ってお目こぼししてもらえるケースが十分にあると思う。
そう考えると、あながち、ラージュ姫を連れていくのは悪くない、のかもしれないけれど……。
「そして2つ目だけれど、こっちが本題。……ねえ、ラージュ姫。失礼なことを聞くけれど、あなた、国王陛下の実の娘なのよね?」
「……はい。間違いなく」
クロアさんの質問に、ラージュ姫はちょっとだけ緊張気味に答えた。……結構すごい質問だったな、今の。
「そう。なら丁度いいわ」
けれどクロアさんはにっこり笑ってさらりと流す。ラージュ姫が王様と血の繋がりがあることに複雑な思いを抱いているって分かっているから、如何にも何でもないことのように流したんだろうな、と思う。
「実の血の繋がりがあるなら、国王が支配している魔物を奪える可能性が高いもの。そうね。赤の他人の私が召喚獣を勧誘するよりは、ラージュ姫がやった方が上手くいくと思うの」
「あー、成程なあ……そっちは考えてなかった」
フェイが、ぽん、と手を打ってそう言った。
「ねえ、フェイ。召喚獣って、血の繋がりがあれば融通が利くものなんだろうか」
気になったので聞いてみたら、フェイは大きく頷いた。
「血が繋がってるってことは、良くも悪くも魔力が似てる場合が多いし、魔法による契約ってほとんど血とか魔力とかで個人を判別してるだろ?だから、クロアさんが誤魔化すよりは、ラージュ姫が誤魔化した方が格段に簡単だと思うぜ」
そういうものか。まあ、魔力敏感肌のフェイがそう言うなら、間違いはないと思う。
「そういう訳よ。どうかしら、ラージュ姫。あなたにとって必ずしも危険が無いとは言えないわ。万一の事があったら私はあなたを置いてでも魔物を森へ連れて帰るために逃げ出すけれど、それでもあなた、一緒に来てくれる?」
そしてクロアさんがそう確認すると、ラージュ姫は躊躇いもなく頷いた。
「はい。少しでも皆さんのお力になれるなら、多少の危険など気になりません」
勇ましいなあ、と、思う。
ラージュ姫は一応『勇者』っていうことになっている、けれど……今の彼女は間違いなく、『一応』でもなんでもない、本物の勇者、だと思う。
それから夕食後、クロアさんとラージュ姫は紙に色々書きながら相談タイムに入った。時々、フェイもそこに入って意見を言ったりしている。
その間、カーネリアちゃんとアンジェが一緒に『お姫様にお茶を出すわ!』って台所でライラ監修の下何かやっていて、ラオクレスは落ち着かなげにソファに腕組みして座っていて、そしてリアンは僕の手元をじっと見ている。
「ねえ、リアン。この中だとリアンはどれが好き?」
折角リアンが暇そうにしてくれているんだから、折角だから聞いてみた。
……僕の手元にあるのは、描いて出した宝石だ。
全力を出してしっかり描きこんで出した大粒の宝石。ダイヤモンドにルビーにサファイア、珊瑚に真珠に自分でもよく分からない宝石に……と、色とりどりの石が沢山、並んでいる。
クロアさんとラージュ姫が頑張ってきてくれるんだから、道具は徹底していいものを揃えたい。今回、召喚獣の為の宝石が大きな役目を担うことになる訳だから、最上級の、最高の宝石を用意しなきゃ、と僕は意気込んでいる。
「好きなやつ?……ええと、これ」
「このオレンジのやつ?」
「うん」
「そっか、オレンジの……あ、鸞はどう?」
リアンの答えを聞きついでにリアンの鸞にも聞いてみたけれど、リアンの鸞はオレンジの宝石を見て、ちょっと首をかしげて、それから、ちら、とカーネリアちゃんの方を見て、そしてじっとリアンを見つめ始めた。……賢い鸞だなあ。
「じゃあ、このオレンジのやつ、あげようか」
「え?い、いや、いらねえよ。なんでそうなるんだよ」
気に入ってくれたんなら持って行ってもらおうかな、と思って提案してみたら、リアンは慌てて両手を顔の前で振る。
「こんなの俺が持っててもしょうがないだろ」
「そうだろうか……」
気に入ったのなら眺めるために持っていてもいいんじゃないかと思ったんだけれどな。
「大体……なんか、気後れする、っつうか、俺には勿体ない、っつうか……不相応、っつうか……と、とりあえず、俺はいらないから」
リアンはそう言って、もそもそ、と後退していく。そっか。オレンジの宝石、いいと思ったんだけれどな。まあ、一応、この宝石だけはちょっとよけておくことにしよう。クロアさんとラージュ姫に預ける分はまた別で用意するとして……。
そして、翌日。
「じゃあ、クロアさん、ラージュ姫。よろしくお願いします」
僕は2人に、宝石が入った袋を手渡した。クロアさんは宝石の袋を受け取った瞬間、ちょっと緊張した顔をして……そして、袋の中を覗き込んで……言った。
「……とんでもないものを支給されちゃったわ」
うん。頑張りました。少しでも力になりたかったものだから。
「ま、まあ……こんなに素晴らしい宝石……国宝の中にだって、あるかどうか……」
そっか。今度その国宝っていうのも見せてほしい。描きたい。
「こんなもの支給されちゃったら、成功させない訳にはいかないものね。元々失敗するつもりなんて無いけれど、頑張るわ」
「うん。2人とも、気を付けて」
……そうして2人は、天馬に乗ってぱたぱたと、王都に向かって飛んでいった。
心配だけれど、できるだけの事はした。後は、2人が成功して帰ってきてくれるのを待つだけだ。
……うん。
「そわそわする」
「そうだな」
「分かるか?トウゴ。これが待つ者のそわそわだぜ?お前、結構な頻度で俺達にこのそわそわを味わわせてるんだからな?」
待つ僕らは、ただ、そわそわするしかない。
そわそわ、そわそわ、そわそわ……。
僕らは待った。ひたすら待った。
昼になって、夕方になって、夜になって、ああ、今頃2人はお城で暗躍しているんだなあ、と思いながらそわそわして……。
……そして、眠れないまま、朝が来た。
「予定だとそろそろ帰ってくるはずなんだけどな」
「まあ……多少の前後はあるだろう。あまり心を乱すな」
帰宅予定の時間になっても、2人とも、戻ってこない。
ラオクレスの言うことも分かるけれど、でも、乱そうと思って乱しているわけでもない心はうまくいう事を聞いてくれなくて、やっぱりそわそわするばっかりだ。
……そうして、昼になった頃。
「トウゴくーん!」
「トウゴ様!只今戻りました!」
少し疲れた、明るい声が空から降ってくる。
それと同時に、天馬に乗って、クロアさんとラージュ姫が上空に現れた。
……よかった!
「はい、お土産」
クロアさんが僕に手渡してくれたのは、大きな袋。
その中には……うわ、すごい。宝物、っていうかんじのものが大量に入っていた!
「盗ってきたわ。王家の宝物庫から」
「まあ……万一、城が戦火に呑まれてしまうと、これらも消失しかねませんので、その保護も兼ねて、持ち帰ってきました。魔導書や歴史書の類、そして、世界に2つと無い、と言われている宝などですね」
そっか、つまり、これ、国宝……。
後で描かせてもらおう、という気持ちと、ちょっと恐れ多い、みたいな気持ちが半々になって、僕はそっと、袋の口を閉じて横に置いた。
「で、こっちが本命ね。どうぞ」
それから、クロアさんに差し出された、今度はさっきのよりもずっと小さな袋。
それを開けてみると……中に、宝石が付いたアクセサリーが沢山。
ええと、これは……。
「お望み通り。魔物達を誘惑して攫ってきたわ」
……うん。
うん?あれ?でも、この宝石、僕が出したやつでは、ない……のだけれど……。
何はともあれ、魔物がやってきた。
早速、ラージュ姫に彼らを出してもらうことにする。
「では……ハルピュイア、出てきなさい」
ラージュ姫がそう言ってペリドットの指輪に触れて、そこからスルリ、と飛び出してきたのは……。
「すごい!綺麗だ!」
半人半鳥の生き物だ!両腕は翼で、尾羽が生えていて、脚は猛禽類のそれで……そして、瞳がぎらりと宝石のように輝いていて、すごく綺麗だ!
「早速描かせてもらってもいいですか……?」
「え、ええと……いいかしら?」
ラージュ姫が聞くと、半人半鳥の生き物は、くぅ、と鳴きながら頷いた。ラージュ姫はそれに微笑んで、半人半鳥の顎の下を撫でている。撫でられて気持ちよさそうにくーくー鳴いている生き物は、魔物、というかんじがあまりしない。
すぐにでも描き始めたかったのはそうなのだけれど、流石にその前に、がしゃどくろ達とのやりとりを挟んだ方がいいだろう、ということで……ラージュ姫とクロアさんが捕まえてきてくれた魔物達を、骨と鎧の騎士団に引き合わせることにした。
半人半鳥の他、大きなキノコみたいな生き物とか、頭が2つある狼とか、そういう魔物が沢山出てきては、鎧を着た骨達と出会って、そしてお互いに何か挨拶を始める。
特に、一部の魔物達は鎧達と面識があるらしくて、なんだか照れくさそうにやり取りしている様子が見て取れた。うーん、照れて恥じらう鎧というものも、中々いい……。
彼らの交流を眺めながら、クロアさんから報告を聞く。
「ごめんなさいね、ちょっと手間取ったものだから」
「ううん。怪我がないなら、何より」
クロアさんとしては、ちょっと今回『手間取った』ことに不満があるようだったけれど、僕は2人とも無事に帰ってきてくれたし魔物も連れて帰ってきてくれたから、何も文句は無いよ。
「まあ、見ての通り魔物は沢山捕まえてきたし、国王とは会わずにさっさと抜け出してこられたから、任務自体は成功ね。はあ、でもねえ……これは予想できてもよかったかもしれないから……」
そう言って、クロアさんはため息を吐く。
予想できてもよかった、とは、一体……?
「……あのね、トウゴ君。次回以降、気を付けていかなきゃいけないことなんだけれど」
……うん。
何だろう。僕がクロアさんの方を見ると、神妙な顔をしたクロアさんが、じっと僕を見つめて、そっと切り出した。
「トウゴ君が出してくれた宝石、魔物が全然寄り付かなかったの」
……うん!?
書籍化が決定しました。詳しくは活動報告をご覧ください。