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今日も絵に描いた餅が美味い  作者: もちもち物質
第十一章:振り回し振り回される喜びを
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22話:帰る場所*1

 目が覚めたら、森だった。というか、水晶の湖だった。

「う……あ、そこまで体、重くない」

 起きてすぐ感じたことは、『とりあえず月単位での魔力切れではなかったようだ』ということ。体が軽い。当社比。

 僕が起き上がって体を動かしていたら、龍がやってきて……いつものやつを始めた!僕、寝起きなのに!

「こ、これ、木の実の代金……?」

 僕が聞いてみると、龍は『そうだ』とでも言うかのようにゆったり頷いて、尻尾でぺしん、と尻を叩いて元に戻してくれた。うう……やっぱりこの龍、意地悪だ。でも、リアンがこの湖の木の実を山ほど収穫して持ってきてくれたからこそ、僕ら、助かったわけだし……これで龍の気分が良くなるなら、甘んじて、受け入れ……いや、でもなんか納得いかないよ!


 龍に文句を言ってやりつつ、ちょっと胴体を叩いてみた。すると龍は何故かちょっとご機嫌になって僕をとぐろの中にすっぽりやり始めた。な、なんなんだこいつ。駄目だ、いつものことだけれど、僕、この龍のことは本当によく分からない……。

「あ、トウゴ君、起きた……のかしら?」

 そこに、様子を見に来てくれたらしいクロアさんが、笑顔で手を振ってくれた。

 うん、起きてます!龍にすっぽりやられているけれど、僕はここに居ます!起きてます!




 とりあえず龍に出してもらって、龍に与えられてしまった木の実をありがたく飲みつつ、クロアさんから状況報告を聞く。……僕、こうやってしょっちゅう寝てしまうから、大体、物事の肝心なところを後から知ることになるんだよなあ。いつものことながら、ちょっとどうかと思う……。

「今回はトウゴ君、2日しか寝てないわ。大丈夫よ」

「あ、よかった」

 とりあえず気になるところからクロアさんが話してくれたので、安心できた。よかった。3日以内ならセーフ!問題なし!

「それで、この2日の間にあったことだけれど……」

 うん。それで、ここからが本題だ。僕も姿勢を正してクロアさんの話を聞く。

「……まあ、予想はつくと思うけれど、ゴルダ領主は今、ものすごーく困っているところね」

 ……うん。だろうね。




「レッドガルドは、『うちの騎士は誰一人としてくれてやらん』って王家の要求を突っぱねたらしいわ。王家はそれを名目に、反逆者であるレッドガルド家を制圧する、と声明を発表したの。まずはそれで、今ちょっとあちこちざわざわしているみたい」

 それはそうだ。王家が声明を発表したら、そりゃあ皆、驚くよ。驚くし、貴族連合は皆、対策しなきゃ、ってなるだろうし。ざわざわの1つや2つするだろう。

「……ただ、王家は声明を出したものの、アテにしていたゴルダの毒がいきなり消えちゃったわけでしょう?制圧の材料が無いから、声明を出しただけで終わっているわね。まあ、間抜けでお似合いだわ」

 そっか。制圧の材料……毒が無くなってしまったから、声明を出した割に、動けない、と。そういう……。

 ……毒を手元に用意してから、声明を出せばよかったんじゃないかな。いや、多分王家からしてみたら、いきなり忽然と毒が消えてしまった、っていう具合なんだろうけれどさ……。

「そうね、私達にとっては今更の情報だけれど、やっぱり王家はゴルダと手を組んで、最悪の毒物を武力としてレッドガルドを制圧するつもりだったみたいなのよ。まあ、一部分だけ皆殺しにして、それを見せしめがてら、『他の土地もこうなっていいのか』って脅しをかける、っていう目算だったらしいけれど……」

 その毒が無くなっちゃったんだから、王家は見込みが外れたし、ゴルダ領主の人は王家との約束を果たせずにおろおろしている、っていうこと、なんだよな。うん、やっぱり、王家の人達は、毒をちゃんと手に入れてから声明を発表するべきだった……。

「まあ、大体そんなかんじね。ゴルダは王家に責められて困っているし、王家は声明を発表してしまった以上、もう引っ込みがつかないし……ね」

 クロアさんはにっこり笑って、手近な水晶の欠片を拾い上げて手慰みに磨きつつ、話を続ける。

「……ただ、ちょっと困った出来事があってね」

 クロアさんは水晶の欠片を木漏れ日に透かして、きらきら光るそれを見ながら、何気ないように努めて、言った。

「まあ、それはラオクレスが話すでしょうから、とりあえず、報告がてら会いに行きましょうか」




 それから僕は、急いでラオクレスに会いに行った。

 長期の魔力切れよりはずっと体が軽いとはいえ、丸2日間動かさなかった体は、少しふらつく。なので鳳凰に掴まって飛んでいくのが少し不安で……その結果、アレキサンドライト蝶を背中にくっつけたクロアさんに、きゅ、とやられた状態で一緒に飛ぶことになった。レネに運ばれた時と似た感覚だ!

 そうして柔らかくて落ち着かない運ばれ方をした後、僕は家の前に下ろしてもらって、そこで馬に捕まってまた背中をころころ転がされて、でもそれどころじゃないので適当なところでリアンを身代わりにすることで脱出して、転がされ始めたリアンに謝りつつ、僕はラオクレスの家に向かって……。

「ラオクレス!」

 ラオクレスは庭に居た。薪割りしていたらしい。……最近分かったんだけれど、ラオクレスって、考え事がある時、ひたすら薪割りしているみたいだ。つまり、横に積み上げられた薪の数が、彼の悩みの深さ……。

 後ろからやってきたクロアさんが、積み上げられた薪を見て、何故かにこにこしている。

「……トウゴ。起きたのか」

「うん。いつものことながら、お世話になりました……」

「いや、今回は俺も世話になった側だ。全く、不覚を取った。二度とあのようなことがないようにする」

 ラオクレスはなんだかものすごく苦い顔でそう言った。どうやら、毒を受けてしまった自分が自分で許せないらしい。真面目だからなあ。

「すごく残念なんだけれどね。毒を私の術で誤魔化していた時のことは覚えてないらしいわ。ね?ラオクレス」

 そこへクロアさんがにこにこしながら言うと、ラオクレスはちょっと目を見開いて……ふい、と顔を背けた。

「記憶にない」

 ……ラオクレス、本当に記憶に無いんだろうか。耳の端が赤いけれど。

「あら、そう。残念だわ。撫でられてとろんとしてるあなた、結構可愛かったのに」

「冗談は止せ」

 ラオクレスを可愛いと言う人はクロアさんぐらいなものじゃないだろうか。すごいなあ、クロアさん……。




 それから少し、クロアさんはラオクレスを揶揄っていた。……ラオクレスも揶揄われるんだなあ、というか、ラオクレス、結構動じるんだなあ、というか、そういう印象だ。

「……それで、緊張は少し解れたかしら?」

 けれど、クロアさんがそう言った途端、ラオクレスははっとして、それから少し苦い顔で押し黙った。

 ……緊張?

 なんだろうなあ、と思って2人を眺めていたら、ラオクレスは薪割り用の斧を置いて、僕の前にやってきた。

「……許可を、頂きたい」

 居住まいを正したラオクレスにつられて、僕も姿勢を正す。なんだろう。

「面会を、要求されている。……かつてのゴルダの騎士に家族を殺された、という、ゴルダの民から。そこへ行く許可を、頂けないだろうか」




 ……そっか。そういえば、そういう話もあったな。

『被害者の遺族の証言』も、今回の王家の要求の裏付けになっていたんだっけ。そっか……。

「ええと……それ、会場はここ?」

「いや、ゴルダ領だが」

 うん。分かった。ゴルダか。なら……。

「いいよ。でも、条件がある」

 僕は、我儘を言わせてもらうことにした。

「僕も連れてってほしい。その場に居させろとは言わない。けれど、隣の部屋とか、建物の外とか、そういうところで待ってる」


「そうか。なら、誰か森の騎士か……クロアでもいい。同行してもらって……」

「ううん。他の騎士もクロアさんも無しで」

 僕がそう言うと、ラオクレスは驚いた顔をする。

「いや……しかし、俺が面会している間、お前に同行者がいないというのは」

「なら、リアンかアンジェ……いや、アンジェは駄目かな。うん。ええと、リアンか、ライラ……うん。ライラに同行してもらおう。ゴルダの町は綺麗なんだよね。折角だから描いてきたい。同行者が必要なら、ライラにする。それで、一緒に描いてくるからさ」

 僕の返事に、ラオクレスは明らかに困っている。そしてその横で、クロアさんはくすくす、楽しそうだ。

「あ、そうだ。それから、ラオクレスにはマーセンさんかインターリアさんに同行してもらいたい。ええと、その場に騎士が増える分には問題ない、よね?あ、でも、嫌な思いをさせるか。ええと、じゃあそっちは保留っていうことで……」

「……トウゴ」

「ええと、つまるところ……」

 ラオクレスは何か言いたげだったけれど、これは譲れないぞ。

 ……なんとなく、ラオクレスは昔の罪を思いだしたら、そのままそっちにふらふら行ってしまうんじゃないかっていう気がする。

 でも、僕、絶対に森の子は森から出さない。出かけてもいいけれど、ちゃんとここに帰ってきてもらわなきゃ嫌なんだ。

 彼のことを信じていない訳じゃないけれど、でも、少しでも彼をこっち側に引っ張り戻すものが多い方がいいと思う。

 だから……ずるいと思うし、随分と傲慢だなあ、と自分でも思ってしまうけれど……僕自身を人質にさせてもらう。

「つまるところ、あなたが面会会場から帰ってきてくれなかったら戦えない僕とライラだけで取り残されてしまうので……絶対に帰ってきてください」


「……ということで、どう、だろうか……」

 言ってしまっておいて、急に自信がなくなってきた。でも、言ってしまったことは引っ込められないし、引っ込めるつもりもない。

 僕は、ラオクレスの様子をじっと見て……ラオクレスが困ったような顔から、迷うような顔になって、それから、ため息を吐く一連の流れをただ、見つめていた。

 ため息を吐いたラオクレスは、ちょっと俯いていたけれど、やがて顔を上げる。

「分かった」

 ラオクレスはそう言って、ちょっと笑った。

「……必ず戻る」

 ……うん!


「約束だからね」

「ああ」

 ……ちょっと無理矢理で我儘な方法を取ってしまったけれど、ラオクレスと約束を取り付けることができたからよしとしよう。

 後は……ラオクレスの面会が、終われば。それで、この一連の事件も、ラオクレスの気持ちも、一段落する、のかな。

 ……よし。

「じゃあ僕、ライラに声かけてくる!」

「トウゴ。それについてだが、やはり護衛が要るのでは」

「鳥も連れてく!」

「……そうか」

「それで絵は描くから!本当に、絵は描くから!」

「そうか……」

 不安はある。けれど、不安がるより、信じていよう。それでもし駄目だったら、また、思いっきり主張して、我儘言って、振り回させてもらおう。

 ……そうやって、いつか、もっと振り回してくれたら、嬉しい。


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― 新着の感想 ―
[一言] 龍にすっぽり お土産キーホルダーでありそうなビジュアルですね。結構硬いのかフニフニしてるのか気になるところですね。 章題回収 トーゴが自分の意思で相手を振り回そうとするなんて胸が熱くなりま…
[気になる点] 毒なんてまた作ればいいだけでは?時間稼ぎにしかなっていないのでは・・・
[良い点] トーゴがどんどん逞しくなっていくのは見ていて微笑ましいですな
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