20話:地の底からこんにちは*6
クロアさんのプロの技はさておき、今はそれどころじゃない。
「ラオクレス!」
様子がおかしいラオクレスは、鳥の傍、鳥に凭れるようにして座り込んで、荒い呼吸をしている。
「大丈夫!?」
「……大丈夫、だ」
僕が近づくと、ラオクレスは僕を見て、そう言う。
そう、言いはするけれど……荒い呼吸も、それに伴って途切れる言葉も、いつもよりずっと弱い声も、何もかもが『大丈夫じゃない』と主張しているみたいだ。これ、絶対に大丈夫じゃない。
「あら……やだ。これ、毒矢でも受けたの?」
そこへ寄ってきたクロアさんが、そんなことを言いながらラオクレスの兜に手を掛けた。
ラオクレスは少し嫌がったように見えたけれど、あって無いような抵抗はクロアさんにあっさり封じ込められて、兜を外されることになる。
……兜を外してみたら、ラオクレスの表情がよく分かるようになった。
じっと一点を見つめている目は力が無くて、眉間には苦し気に皺が寄っていて、ずっと汗が伝っていて、それで、顔色が悪い。
「成程。毒ね」
……毒。
クロアさんの言葉を聞いて、ぞっとする。
いつ、なんて、考えるまでもない。
矢だ。矢から、僕らを庇った時。あの時、どこかに矢が掠めたんじゃないだろうか。そこで、毒が……。
「この程度……少し休めば、何とでもなる」
「馬鹿言うんじゃないの」
クロアさんは、ぺし、とラオクレスの額を叩くと……辺りを見回して、ちょっと笑顔になる。
「ええと……こいつかしらね。ちょっと失礼!」
クロアさんは、うつ伏せで倒れていた射手らしい人を蹴って仰向けにして、その人の懐をもぞもぞやり始める。
「これかしら?」
そして、中から小瓶を取り出して……中身を眺めて、中身を近くの石に一滴垂らしてみて、また眺めて……ため息を吐いた。
「……ま、ゴルダ謹製の猛毒とかじゃなくてよかった、っていうところかしら」
「あの、それってどういう」
「そうね。まあ、大丈夫。死にはしないわ。後遺症が体に残るようなことも無いから安心して。トウゴ君が心配することは何もないわね」
毒の説明を簡単に聞いて、ひとまず、ほっとする。死にはしない、ということなら、まあ……。
……いや、待てよ。なんというか、クロアさんの言葉、なんとなく含みがある。
「……それで、どういう毒?」
「言わなくていい」
僕がもう一度聞いてみると、クロアさんが答えるのを渋るより前に、ラオクレスがそう、言った。
……それを踏まえて、僕はじっと、クロアさんを見つめてみる。白状してください、という願いを込めて。
「……そうね。言っておいていいでしょう」
「おい、クロア」
「言わないでいた方が、トウゴ君は心配でしょうから」
ラオクレスは焦ったような声を上げたけれど、クロアさんはそう言って……説明してくれた。
「激痛をもたらす毒よ。それこそ、ちょっと毒矢が掠っただけで屈強な騎士がこうなっちゃう程度の激痛を、ね」
「……激痛を、もたらす、毒」
確認のために復唱してみたら、クロアさんが頷いて、ラオクレスが顔を背けた。
……今、ラオクレスは、ものすごい痛みに苛まれている、っていうこと、なのか。それで、座り込んだままだし、顔色も悪くて……。
「そうね……いえ、激痛があると錯覚させる魔法の触媒、っていう方が正しいのかしら。あくまでも痛みは錯覚なのよ。体を傷つけるものじゃないし、死んだりもしない。幻覚の魔法に耐性があればそんなに効かないんだけれど……彼、そこまで耐性が無いみたいね」
クロアさんがそう言うのを聞きながら、ラオクレスは気まずげに目を逸らしている。……その目が時折、揺れるように動くのは、痛みの幻覚のせいなのかな。
「こんな毒、何に使うんだよ……訳分からねえんだけど」
「こういうところで、よね。毒矢が掠っただけで屈強な騎士1人、動けない状態にするのよ?便利でしょ。まあ、彼、これを受けた後に体当たりで1人倒してたけど」
リアンの問いに答えながら、クロアさんは視線を彷徨わせて……そしてため息交じりに続けた。
「あとは、まあ……拷問に使うわよね。私も今、持ってるけれど。使う量を間違えると、情報を吐くより先に発狂したり、痛みに耐えかねて自殺しちゃうから、結構難しいんだけれど」
……そんなに痛いの?発狂とか、自殺とか……それぐらい、今、ラオクレスは、痛みを感じているんだろうか。
「あの、クロアさん。これって解毒剤とかは」
「毒っていうよりは魔法が本体だから、中々難しいのよね。ただの魔法じゃなくて、体内に潜り込んじゃってるやつだから……」
……もし解毒剤があるなら、それを描いて出そうと思った。でも、どうやら解毒は難しいらしい。
「じゃあ、対処薬は?」
「そうねえ……本当の痛みじゃないから、痛み止めの類は効かないのよ。強いて言うなら、強いお酒で酔っぱらっちゃうのが一番いいのかも」
そっか。お酒か。
クロアさんの言葉を聞いてすぐ、僕はお酒を描き始める。……とは言っても、お酒、自分で飲んだことはないし、じっくり観察したこともあまり無いから、なんとなくイメージで琥珀色の液体が入ったグラスを描くぐらいのことしかできない。
「あとは……まあ、もう1つ、あるんだけれど」
……自信がないお酒の絵を描いていた僕に、クロアさんはちょっと困ったような笑ったような、そんな不思議な表情を向ける。
ええと……その『もう1つ』っていうのは……?
「あなたには2つ、選択肢をあげられるわ」
クロアさんはラオクレスの前に身を屈めてラオクレスの顔を覗き込みながら、言う。
「1つ目。このまま耐える。多分、毒の効果が完全に消えるまで、5時間くらいね」
「それだな」
「話は最後まで聞きなさい」
クロアさんはラオクレスの額をぺし、と叩きつつ、話を続けた。
「毒、上書きしちゃうっていうのは、どう?」
……上書き?ええと、それは……。
「ここに居るのは、幻覚や誘惑の魔法においてそうそう右に出る者は居ないと評判の密偵よ?……痛みに上書きする形でもっといい幻覚、見せてあげてもいいわ」
「それは……どういう」
ラオクレスが興味を示した途端、クロアさんはにっこり笑って、如何にも楽し気に言った。
「そうねえ、一番手っ取り早いのは私への魅了ね。痛みなんて分からないぐらい私に夢中にしちゃえば、まあ、いいんじゃないかしら」
「それは止せ……」
ラオクレスが痛み由来じゃなさそうな汗をかいている。……僕としては、ラオクレスが痛い思いをしているくらいならクロアさんに夢中になっていてくれた方が嬉しいんだけれど。
「そう?なら或いは、ものすごーく気持ちよくしてあげてもいいわ。こっちも得意中の得意だから」
「やめろ」
それでもいいと思うよ。痛いよりは、ばばんばばんばんばん、っていう気分になった方が良くないだろうか。
「……じゃあ、意識をほとんど寝てるみたいな状態にする?魅了や誘惑よりは自信が無いけれど、それでもうまくやる自信はあるわ」
「それは……何だ、何が起きる。何に使うものだ……」
「そのままよ。ぼーっとさせる、っていうのかしら。使い方によっては、数分間から数時間分の記憶が無い、みたいな状態を作りだせて便利なのよね。招かれた相手の家で盗みを働く時とか」
クロアさんの話を聞いていると、改めて、ああ、クロアさんってこういう人なんだなあ、と思わされるというか、思い出されるというか。
「ほら。どれにするの。このまま痛がってトウゴ君に心配させる気?」
「まともなものは無いのか……」
「随分なお言葉ね。大体、その激痛をどうにかするためのものよ?生半可な術でどうにかできるわけがないじゃないの」
クロアさんはそう言ってちょっと怒って見せて……そして、ラオクレスに、迫った。
「……それで、どうするの?トウゴ君もリアンも見てる前で醜態晒したいならそうしてあげるけれど?」
迫られたラオクレスは、ものすごく、悩んで、多分、『痛みをこのまま我慢し続ける』っていう手段を、結構真剣に吟味していて……でも、僕とリアンと目が合った途端、その吟味に迷いが生じ始めたらしくて……。
「……意識を落としてくれ」
「はあい、了解」
結局、ラオクレスはクロアさんに幻覚の上書きをしてもらうことにしたらしかった。
よかった!ラオクレスが痛い思いをしなきゃいけないのは嫌だったから、ほっとした!
……そうして。
「私を見て。私に全部、預ける気持ちでいて」
クロアさんがラオクレスに向かい合って、魔法を使い始める。
きらり、と翡翠みたいな色の光がクロアさんの瞳の中に走って……ああ、これ、見た事あるなあ、と、思い出す。
僕がクロアさんに誘惑されてしまって一晩中クロアさんを描いていた時。あの時も、クロアさんの目が、似たような雰囲気になっていた。そうか。これが魔法を使っている時のクロアさんの目なのか。
「ふふ、協力的な相手を術にかけるのって、変なかんじだわ。いつでもこんな風だったら楽なんだけれど」
クロアさんがくすくす笑う中、ラオクレスはちょっと複雑そうな顔をしている。
「……まあ、ゆっくりお休みなさいな。痛みなんて全部分からないようにしてあげるわ。リアンもトウゴ君も守ってくれたんだから、それくらいは、サービスしてあげる」
ふと、クロアさんの視線が、和らいだ。優しくふわりと緩んだ目が、じっと、ラオクレスを見つめる。
「……おやすみなさい」
そして、かくり、と、ラオクレスは項垂れた。
糸が切れたように項垂れたラオクレスをそっと覗きに行くと……あ、寝てない。目が開いてる!寝ているものとばかり思っていたから、びっくりした!
「今、彼は意識だけすごーく眠い状態なのよ」
クロアさんは息を吐いて、そう説明してくれた。……どうやらラオクレスは、夢を見ているような感覚でいる、らしい。そうか。意識が落ちるってこういうことなのか。
……なんというか、ラオクレスの場合、目を閉じて眠っている時よりも、目を開けていながらぼんやりして反応に乏しい時の方が、その、生きているかんじがしないというか、死んでしまっているようなかんじがする、というか……。
「……ちょっと怖いな」
「だよな。ラオクレスがこうなっちまってるって、なんか……変なかんじっていうか……」
ぼんやりと目を開けているだけのラオクレスを見てちょっと心配になる。でも、僕がリアンと一緒に心配がっていたら……。
「あら。そんなに怖いことも無いわよ。……そうね」
クロアさんはふと、森らしからぬ笑みを唇に浮かべて……そっと、ラオクレスの頬に手を伸ばした。
すると。
ラオクレスはクロアさんにぼんやりとした目を向けて、それから、ゆるり、と笑って大人しく頬を撫でられている。
それどころか、ゆるゆるとラオクレスの手が動いて、クロアさんへ伸びた。ラオクレスの大きくてごつごつした手がクロアさんの滑らかな頬に伸びて、やられたのをやり返すみたいに、撫で始める。
……わあ。
「……素直なかんじだ」
「そう。こんな風に、理性もすっかり弱まってるから、なんだか素直になっちゃうのよねえ……ふふふ」
クロアさんは笑い声を含んだ声でそう説明して、クロアさんの頬を撫でるラオクレスの手をそっととって、ラオクレスの方へやんわり戻しつつ、にっこり笑った。
……成程。ラオクレスがちょっと渋ってたの、なんか、分かった気がする。
「……まあ、こうなっちゃうくらい辛かったのかしらね」
僕がラオクレスとクロアさんを描いている中、疲れたのか意識が更に落ちているのか、ラオクレスはまた、かくり、と項垂れて、クロアさんに頬から顎にかけてをゆるゆる撫でられている。
そしてそんなクロアさんは、ちょっと複雑そうな顔をしていた。
「まさか、本当に全部預けられちゃうとは思わなかったわ。ちょっと効きすぎちゃったかも」
「どういうこと?」
「ええとね、術に対する抵抗らしい抵抗、本当に何にも無かったのよ。それこそ、本能的な抵抗すら抑え込まれてた、っていうか……」
クロアさんはラオクレスの体勢が崩れて倒れていきそうなのを自分側に引っ張って、自分に凭れ掛からせて安定させ直してから、ちょっと困り顔で言った。
「魅了や幻覚の魔法が得意な人間に対してここまで無防備になっちゃうって、ナイフを突きつけられながらも動じずにいるようなものなのよ。大したものだわ」
「へえ……」
そうか。僕にはよく分からない感覚だけれど、確かに……自分を操られてしまうって分かっていて抵抗なく術を受け入れるって、結構大変なことのような気がする。
うん。クロアさんの例え、少し分かった気がする。ナイフを突きつけられながらも動じずにいるようなもの、か……。
「だから、よっぽど辛くて、弱ってたのかしら、って……まあ、石と鋼でできてそうな大男が動けなくなってたんだから、そりゃあ当然、辛かったんでしょうけれど」
クロアさんはラオクレスを凭れ掛からせながら、器用に盾や篭手を外して、少し楽な格好にしている。僕も慌てて手伝う。この鎧は僕が描いたから、構造はよく知っているんだよ。
……ラオクレスの鎧をある程度脱がし終えると、ラオクレスは随分落ち着いた顔で、ぼんやりと瞬きした。やっぱり不思議なかんじがするなあ……。
そして、そんなラオクレスはクロアさんにゆったり凭れて、今にも微睡みそうな、そんな様子だ。
……珍しくも無防備な状態のラオクレスをしげしげと観察させてもらって……それで僕は、ふと、思った。
「ラオクレスは、クロアさんだから無防備になれたんだと思うよ」
「信頼している相手の前でだったら昼寝できるし、食事もできる。ナイフを突きつけられたって、それが信頼できる人の手にあるもので、ちゃんと目的が分かっているなら、ある程度は安心していられるんじゃないかな」
動物は、食事中に無防備になる。だから信頼していない相手が近くに居ると食事したくないっていうのは生物の本能だ、って、先生が言っていた。
けれど僕は、クロアさんやラオクレス、森の皆の前で食事をすることに抵抗が無い。何なら、これまた生物の本能で抵抗があるはずだけれど、彼らの前でなら腹を見せた状態で昼寝だってできる。というか、してる。
「だから、クロアさん、ラオクレスに信頼されてるんだと思うよ」
「……そう、かしら」
クロアさんは、少し戸惑っているように見えた。けれどそれは、困っている、っていうよりは……ちょっとびっくりしている、とか、そわそわしている、に近い。
「ふふ……なんだか変なかんじだわ。こんな仕事して、人に仕事の腕じゃなくて、もっと深い部分で信頼されちゃうなんて」
クロアさんの言葉を聞くと、彼女の今までの境遇が何となく見える。
きっと、クロアさんに仕事を依頼する人は多くても、クロアさんの術に自ら掛かろうとする人は、居なかったんじゃないかな。
それに……クロアさんだって、他人を助ける目的で術を使おうとしたこと、無かったんじゃないかな、って、ちょっと思った。
少し、クロアさんは考え事をしていたようだった。けれど、それも少しのことで……。
「まあ、そういうことなら……折角だし、堪能させてもらおうかしら!私のこと信頼して全部預けちゃって、今夢見心地でふわふわになっちゃってる石膏像君を!」
そう宣言したかと思うと……クロアさんは、にっこりにんまり満面の笑みを浮かべて、またラオクレスを撫で始めた!
う、うわ、クロアさんが見たことのない顔をしている!なんか、『たまらない!』っていう顔だ!そういう顔でラオクレスを撫でている!ラオクレスも大人しく撫でられて、ちょっと心地よさそうに目を細めてぼんやりしている!両者共に普段なら考えられない光景だ!
……どうしよう!見ちゃいけないものを見ている気がする!でも珍しい表情だから描きたい!描いちゃ駄目、でも描きたい……描く!
「トウゴはさっさと毒の処理しちまえよ!もうこっちの精霊様は働いてんだぞ!」
「あ、そうだった……で、でも、1枚だけ!1枚だけでいいから!この分はちゃんと急いで働くから!」
……ということで、1枚、無理を言って描かせてもらった。
なんだか、傷ついた戦士を癒す慈愛の女神、みたいな絵になってしまった。いや、違うんだよ。クロアさんはもっとウキウキした顔してたんだよ。こういう顔じゃなかった……。
まだ修行が足りない!
……やがて、満足したクロアさんはラオクレスを鳥に預けて、捕まえた人の見張りをしてくれることになった。僕らがここで色々やっているっていうことを知られたからには、ただで帰すわけにはいかない。彼らには後でしっかり、クロアさんの魅了と誘惑の餌食になってもらうことが決定している。
ただ、今、クロアさんも消耗してしまうといざという時に戦える人が居なくなってしまうので……とりあえず、現状維持の方向で。
そして僕は、毒の処理を続けている。
もう、毒の処理も慣れてきた。桶の毒をどんどん水に描き変えていって、同時に、毒を自分に取り込まないようにする。
なんというか、さっきまで僕の調子が悪かったのって、ちょっと頑張りすぎていたからだったんだと思う。それで、毒を自分の……精神?にも取り込んでしまっていた、っていうか……ええと、説明が上手くできないけど、多分、そう。
幾分毒の処理が上手くなった僕は、さっきよりも早いペースで毒を処理できている。
……そうしてそのまま、明け方まで、僕らは毒を処理し続けた。
そして。
「あれ?トウゴー、なんか毒出てこなくなっちまったんだけど」
「うん……?」
明け方のある時、リアンがそんな声を上げたので、あれ、と僕は考えて……そして、思い当たった。
「も、もしかして……終わった?」
慌てて花に聞いてみる。すると花は、ぶしゅう、と水を元気に吐き出した後、僕の額をめしべでつついて教えてくれた。
……頭の中に広がったイメージは、全て空っぽになった樽。
あと、樽の部屋で毒を隠し切れなくなってゴルダの民に樽を開けられてしまったものの、樽が空っぽになっていて毒がバレずに済んで、でも毒が消えてしまっているから大慌ての毒製造係の人達とゴルダの騎士の人達。
……どうやら僕ら、無事にやり遂げることができたらしい!
「……終わった」
山の精霊は僕にそっと、おしべを伸ばしてきて、僕を労わるように、頬や頭を撫でてくれる。それを感じて、ああ、僕ら、やったんだなあ、と実感する。
実感した瞬間、体中から力が抜けて、一気に眠くなってきてしまった。申し訳ないことに、近くに居たリアンに支えてもらってなんとか転倒せずに済む。
「お、おい、トウゴ。大丈夫かよ」
「うん……ねむい……」
リアンが全身で僕を支えてくれているのをいいことに、ちょっと凭れさせてもらって、力が抜けていく体をそのままにする。するとリアンがすかさず助けを呼んだので、飛んできたクロアさんがリアンから僕を引き取って、ずりずりと引きずって運んで、そのままラオクレスの横……鳥に凭れられる位置に運んでくれた。鳥はクッション代わりにされて若干不服そうに、キョン、と鳴いている……。
「精霊様、ありがとう。これで、森の子達が傷つけられることは無いと、思うから……」
山の精霊は、『こちらこそ』と言うかのように、フラフラとおしべをゆらしてくれた。うん。僕だって、こちらこそ。
「とりあえず、もうそろそろラオクレスも起きるでしょうし……トウゴ君は寝ちゃっていいわ。見張りは私と鳥さんでやるから、リアンも寝ていていいわよ」
鳥がクロアさんの言葉を聞いて、『えっ!?』みたいな顔をしている。うん、よろしく……。
……ということで、僕は眠らせてもらうことになった。
鳥に凭れて、ラオクレスの隣で、うとうとさせてもらっている内に、段々意識がとろとろになってきて……そして。
「……ん?」
なんだか、つつかれたような気がして、起きる。
起きたら、僕の隣でリアンも寝ていた。そしてクロアさんが1人、ぐるぐる巻きの人を椅子にして悠々と見張りをしていて、ラオクレスも僕の隣で寝ていて、鳥も寝ていて……あれ?
誰がつついたのかな、と思っていたら、もぞ、と、尻のあたりが動いた。
「へっ」
「トウゴ君?起きたの?」
「あ、うん……」
クロアさんの視線も集めてしまいつつ、でも、気になるから僕は僕の足元……さっきまで僕が座っていた地面を、注視する。
すると……もぞもぞと、地面が動いている。
あれ、これは花の根っこかな、と思ったけれど、なんだか様子がおかしい。花もなんだか困惑している様子で、もぞもぞしている。
何かなあ、と思いながら地面を見ていたら……。
石と石の間から、ずるり、と。
青ざめて血の気の無い……骨と皮だけの手が、出てきた。
……ひぇっ。