表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も絵に描いた餅が美味い  作者: もちもち物質
第十章:魂ここにあり
219/555

15話:魔王との和解*2

 それから僕らはすぐ昼の国に戻って(鳥がまた光って自慢げだった)、すぐレッドガルド家へ向かう。

 そしてそこで、初代の日記を読んでいるはずのローゼスさんに、聞いてみたのだけれど……。

「初代が魔王と対話しようとした記録?ああ、あったぞ」

 あった!やった!すごい!

「やったぜ!何となくあるような気はしてたけどよお、まさか本当にすぐ見つかっちまうなんてな!」

 フェイと2人ではしゃぐ。いや、はしゃいでしまうのは仕方がないことだよ。だってこれで魔王との意思の疎通が……。

「ちなみに記録にあったのは『魔王との対話を試みたが不可能だった』という内容だったが」

 ……うん。

 はしゃいだの、返して!




「成程。魔王に邪魔されてしまったのか」

 それから、フェイのお兄さんだけじゃなくてお父さんも一緒に、状況報告。今までのいきさつを説明すると、お父さんは、ふむ、と頷く。

「そこを、勇者の剣で倒してしまおう、という発想にならないところがトウゴ君らしいな」

「こいつの場合、そもそも剣にならねえけどな」

 どうせ筆だよ。僕は勇者の器じゃないよ。……うう、これ、改めて考えると、やっぱり少しショックだ。鳥ですら、剣になったのに……。

「まあ……トウゴ君の場合は、剣が必要ない、ということだろうね。我々が剣で解決するものを、君なら筆で解決できる」

 そう言われると少し元気が出るけれど、いや、でも、それで解決できていないから、こうして相談に来ているわけで……うう。

「よし。まあ、何かにはなるかもしれないからな。初代の日記を一緒に確認してみよう」

 ローゼスさんがそう言ってくれるのがありがたい。ぬか喜びだったわけだけれど、初代レッドガルドさんは確かに魔王との対話を試みているらしいし、その時の方法とかその時の様子とか、何か、参考になるかもしれないから……。




 初代レッドガルドさんの日記には、こんな内容があった。


『魔王が出てきて初めに、我ら赤いドラゴンに役目が回ってきた。戦うことが我らの役目であるので、戦って、魔王を討伐せよ、と。しかし、魔王は斬ってもすぐくっつき、燃やそうにも炎は全て吸い込まれ、そして、不用意に触れると魔王の中に呑み込まれ、それきり出てこない者もあった。』


 ……最初から、大分、怖い。




「うおおおお、マジか!俺、魔王、つついちまったんだけど!」

「わ、私もつついちゃったんだけれど!」

「俺もつついたが呑み込まれはしなかったな……」

「いい手触りだったよね。魔王」

 ふにふにしたあの不思議な手触り。あれは中々よかったと思う。けれど、あんまり触っていると魔王の中に呑み込まれてしまうのか。僕らが呑み込まれなかったのは、何か条件があったのか、魔王の気まぐれか……何にせよ、気を付けよう。




 それから、日記の続きを読んでいくと、当時の状況がまた分かってくる。


『赤いドラゴンが太刀打ちできないと分かると、青いドラゴン達が魔王について研究を始めた。黄のドラゴン達は民衆を動かし、魔王から避難させるので手一杯だった。赤いドラゴンは継続して、魔王との戦いを余儀なくされた。』

 成程。レネは青いドラゴンだから、研究一家なんだな。当時から青いドラゴンは研究方面をやっていた、と。……それで、黄色ドラゴンはきっと行政の手伝いをするドラゴンで、それで、赤いドラゴンは……軍部、っていうことだったのかな。

『しかし、赤いドラゴンも魔王との戦いで数を減らしている。このまま戦い続けてもキリが無い。根本的に何かが間違っているのではないかと考え、魔王との対話を試みるに至った。』

「おっ。いよいよか」

 日記を一緒に覗き込むフェイが、わくわくした顔でページをめくる。魔王との対話が上手くいかなかった、ということはローゼスさんから聞いてしまっているけれど、でもそこに何か手掛かりがあるかもしれないから、僕も少し、わくわくする。ワクワクしながら、次のページを、読んで……。


『魔王の隙間を見つけ、そこから魔王の上に出てみた。そのまま魔王の上を探索したところ、魔王の目らしいものを確認した。』


 ……うん。

 どうやら、魔王って、顔がある、らしい。




「口があるとは分かっていたけれど、目もあるのか。見てみたい。あと描きたい」

「そうかぁ……ただの夜空みてえな、その、もっと魔法的なもんだと思ってたけどよ、触れるし鳴くし、目も口もあるとなると……いよいよ生き物っぽいなあ」

 レネは魔王を『現象』だと言っていたけれど、こうして初代レッドガルドさんの日記を読んでみると、いよいよ魔王が生き物っぽく思えてくる。僕の中では、もうほとんど生き物の方に傾いてる。魔王は変な生き物。うん。

『魔王には目があることが分かった。なのでまずは、魔王の視界に入ることにした。魔王の目は光る円盤のようなもので、それが目であるかも定かではなかったが、時々瞬きするかのように細まり、消え、そして現れるため、目であろうと判断した。我々はその目の上空を飛行してみた。その結果、魔王は『まおーん』と鳴いた。何なんだあれは。今思い返してみてもよく分からない。』

 ……うん。

「そっか。当時から魔王は『まおーん』と鳴いていたのか……」

「初代も気ィ抜けただろうなー。この文章の雑で投げやりなかんじからしてそれが伝わってくるぜ」

 そうだね。きっと初代レッドガルドさんも気が抜けたと思うよ。あの『まおーん』、絶妙に気が抜けるんだよ。低い声なのだけれど、なんか、そこまで重々しくない、というか……気が抜けるんだよ。とにかく。ものすごく気が抜ける。


『魔王は我々を認識したらしい。ゆっくり瞬きすると、また、『まおーん』と鳴いた。私はそれに対して呼びかけを試みた。』

「お。いよいよか」

 読み進めていった日記は、いよいよ魔王との対話のところに差し掛かる。僕とフェイは、ページをめくって……。

『私は、「あなたが魔王か」と問いかけた。それに対して魔王は『まおーん』と返してきた。「何故光を食べるのか」と問いかけると、また『まおーん』と返してきた。「どうか光を食わないでくれないか。我々は生きていけなくなる」と訴えたところ、またもや『まおーん』と返ってきた。』

 ……うん。

『何を言っても魔王は『まおーん』としか言わない。何を言っても無駄である。』

「初代の苦労が窺える……!」

 ……とりあえず。

 魔王との対話は、ものすごく、難しそうだ……。




 なんだか気の抜ける日記を読み終わって、僕らは日記帳の内容をまとめる。

「とりあえず、魔王に触れると取り込まれることがあるらしい」

「うん。こわいね」

「こわいなあ……。んで、魔王には目玉もある」

「うん。見てみたい」

「あと、魔王は瞬きする。あと、何か言われると『まおーん』と鳴く。……うん。どう考えても色々とこう、難しいな!おい!」

 まとめてみたら、魔王が益々分からなくなってきた。とりあえず分かったことといえば、意思の疎通が難しそう、っていうくらい、だろうか……。

「気の抜けるまとめだなあ……」

 紙の上に書き出してみた文を眺めると、いよいよ、魔王との対話は難しい気がしてきた。何を言っても『まおーん』らしいし。それ以外何をしてくるでもないらしいし……。


「まあ……こういう結果だったから、結局、魔王との意思の疎通が試みられることがこれ以降無かった、ってことなのよね?魔王との交流は諦めた、ってことなのかしら」

「そうだと思う。いや、でももしかしたら、初代レッドガルドさんがこの辺りで昼の国へ来てしまった、っていうことなのかもしれないし、魔王との戦いで成果を上げられなかった赤いドラゴン達はこれ以降の魔王との接触を打ち切られてしまったのかもしれないし……魔王との交流に可能性は見出されていた、のかも」

 当時の赤いドラゴン達が何を思っていたかは分からない。もしかしたら、魔王との交流に可能性を見出しつつも、白いドラゴン……当時の竜王様とかから魔王との接触や魔王との戦いを打ち切るように命じられてしまって、それきりになってしまったのかもしれない。

 とにかく……なんとなく、当時の赤いドラゴン達が、魔王を完全にあきらめてしまったのか、というと、なんとなくそれは違う気がしてならない。

「やけに魔王を庇うなあ。ん?魔王じゃなくて赤いドラゴン達、か?」

「まあ、赤いドラゴンはフェイのご先祖様達だっていうのなら、そう簡単に魔王を投げ出さないような気がするのだけれど……」

「俺なら投げ出すけどなあ……『まおーん』だぜ?『まおーん』。諦めたくなっちまうよなあ……」

 あ、そ、そう……。

 ……うん。でも、多分。当時の赤いドラゴン達、フェイのご先祖様達が頑張った甲斐は、あったんじゃないか、と、思う。

「魔王は僕らを認識していて……できるだけ、争いたくない、んじゃないかと、僕、思うんだけれど」

「結構ふわふわしたこと、言うのね」

 ふ、ふわふわ?これ、ふわふわだろうか……?

 なんとなく釈然としないものを感じつつ、僕は主張する。

「だって魔王は、僕らがつついても、僕らを取り込んで食べるようなこと、しなかった」

 もしかしたら、魔王との交流は可能なんじゃないか、という、希望を。




「魔王は少なくとも、応答は、してくれるんだよね」

「全て『まおーん』らしいがな」

 うん。いいんだよ。まおーんでもにゃーんでも、何でもいい。とりあえず、魔王は目の前を飛ぶ生き物を見て、それを認識した。呼びかけられたら、まおーんと鳴いた。それは分かっているんだ。

「つまり、赤いドラゴン達を認識していた、んだと思う。それで……それ以降、赤いドラゴン達が自分を触っても、取り込まないようにした、んじゃないかな。だから僕らは、つついてもつついても、取り込まれなかった。それって、魔王が我慢したからじゃないかな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
群体...もしくは巨大な光合成するスライム?
[一言] いい手触りの魔王は触るな危険 フニフニなつつきごごちは罠なのか、触る威力の問題なのか、私は全身でダイブしたいと思ってたので危なかったです。 平べったくて目のある生き物 なんだかヒラメみたい…
[良い点] 過去の魔王の様子が明らかに……! [一言] やっぱり生き物なの魔王……まおーんは鳴き声なの……? 気になってわくわくドキドキ今後も楽しみにしております……!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ