23話:紫水晶の煌めき
とりあえず、にこにこトウゴ村、は、駄目だ。絶対に駄目だ!
ということで、結局、フェイのお父さんに決めてもらうことになった。フェイ曰く、『ラージュ姫よりはいいセンスしてる』とのことなので……。
「……駄目でしょうか」
「うん。ちょっと……」
ラージュ姫はちょっと申し訳なさそうな、それでいてちょっと不服気味な、そんな顔をしているのだけれど……そういう顔しても駄目だよ。にこにこトウゴ村は……。
……命名の件はそうやってフェイのお父さんに預けることにして、それから僕らはちょっと久しぶりに、のんびり、ただ何もない日を過ごすことになった。
のだけれど、その、僕はといえば……。
「あのっ、お願いだから、も、もうそろそろ、許して……!」
……龍に、いじめられている。
最初は違ったんだよ。単に僕を水晶の小島に連れていっただけだったから、僕もちょっと油断してたよ。龍が喜ぶかな、と思って着物に着替えて、パーティ会場から貰ってきたお酒を、その場で描いて出した水晶の盃に注いで、それを龍に出してみたんだよ。
……そうしたら龍もそれがすごく気に入ったみたいで、僕が見ても分かるぐらいに喜んでいたのだけれど……お酒を飲んでちょっとしたら、やっぱりいつもみたいにこれが始まった!
いや、確かにさ、今回、龍にはすごくお世話になったよ。水の腕を動かしてもらったし、雨も降らせてもらったし。けれどそれに代価が発生します、みたいな感覚で僕を攫ってきてこういうことするのは、その、どうかと思う……!
しかも最近は、その……あの、龍の技術の向上がすごいせいで、その、僕は余計にひどい目に遭ってるっていうか……これ、どうなってるの?自分の体のことが自分でよく分からない……。これ何?うう……。
……そして龍はというと、僕を虐めて満足気だ。今も僕をとぐろの中にすぽんと収めて、尻尾の先で撫でつつご満悦だ。いや、あの、撫でないで。あと早くいじるのやめて!
……結局、僕が途中で寝てしまったのかなんだかそういうかんじで、気づいたらもう朝だった。龍はずっと起きていたのか、僕を見て満足げに頬ずりしてきたけれど、なんか納得がいかない……。
そしていつの間にかお酒は鳥のものになっていたらしくて、鳥が空になった盃の隣でひっくり返って寝ていた。ふわふわのお腹が呼吸に合わせてふわふわ上下しているのが見ているだけで柔らかい。……というか、こいつ、いつの間に来たんだろう。龍もいつの間にか、こいつがここに居るの、黙認するようになってるし。
「……そういえば、結局、この森、何があるんだろう」
鳥を見ていたら、ふと、思いだした。
この森、結局、何があるんだろう?
パーティの時にも話していたけれど、王様の方は一時的に手を引いてくれたとしてもまた何かしてきそうだし、魔王の方はそもそもほとんど何も解決してない。
だから、僕はこの森が狙われる理由をちゃんと調べておいた方がいいだろうな、と思う。
「その時は協力してね」
そう声を掛けると、鳥の尻尾がぱたぱた動いた。あ、こいつ、狸寝入りだ。鳥のくせに狸寝入り……。
龍の方は僕のお腹を尻尾で撫でつつ、のんびり頷いてくれた。……あ、協力はしてもらいたいけれど、その、虐めるのは無しでお願いします。
そうして僕はその日の昼過ぎまで龍に拉致されたままで、昼過ぎにようやく、帰してもらえた。
帰してもらえたので、もうちょっと休憩して……そしてお昼頃から早速、ラージュ姫に声をかけて、モデルをやってもらうことにする。
……こうしてなんだか久しぶりに、実体化させない絵をしっかり描くことになった。
「……トウゴ様は、本当に絵がお好きなのですね」
「え?」
王様との約束通り、ラージュ姫をモデルにさせてもらって描いていたら、ふと、そんなことをラージュ姫が言う。
「とても楽しそうに描いておいでですから。なんだか、私まで楽しくなってきてしまいそう」
「……そ、そうだろうか」
確かに、楽しいよ。ラージュ姫の艶のある銀髪は周りの色を映したり光が強く反射したりして、色々な色に見える。その表現が楽しい。それからラージュ姫のほっそりした体躯に合わせてクロアさんが着せたドレスがよく似合っていて、色の対比がいいかんじだ。
ラージュ姫の瞳は綺麗な紫色だ。それに合わせた色の、すとん、とした形のドレスなのだけれど……ああ、紫って高貴な色なんだな、っていうのが分かる、というか。ええと、調色がすごく楽しい。
あと、すとんとしたドレスが椅子に座ったラージュ姫の形に合わせて大人しい形状になっているのを描くのも楽しい。布の表現って、何回やっても楽しいんだ。
それから、やっぱりラージュ姫はラオクレス達とは勿論違うし、クロアさんやライラとも違う形をしているから、それを描くのがまた楽しい。……骨格標本達で骨デッサンを沢山やらせてもらっているから、人体を描くのがまた少し上手くなった、と、思う。うん。自分の思い通りに描ける。これ、すごく楽しい。
ライラが前、『魔法画にこそデッサン力って必要なのよ!』って言ってたけれど、正にそれなんだなあ。自分の頭の中にモチーフの形状がしっかり入っていないと、描けない。逆に、モチーフの形状がしっかり理解できていれば、すらすら描けるんだ。これがまた、楽しい!すごく楽しい!
「本当に楽しそう」
……そしてラージュ姫はくすくす笑う。
「不思議なお方ですね。トウゴ様は。国王相手に怒ってみせたり、堂々としておいでかと思えば少し恥じらわれたり……」
う。……確かにちょっと、恥ずかしがりっていうか、その、引っ込み思案なところはある、と、思うよ。僕。けどそれを『恥じらう』って表現されると、こう、何かが違うというか……余計に恥ずかしいというか。
「そして何より、絵を描く時のあなたの表情を見ていたら、なんだか希望が溢れてくるというか」
「……なんで?」
希望、って、その、本当に、なんで……?
「さあ……楽しそうだから、でしょうか。いえ……それだけではない、のでしょうね」
よく分からないことを言いながら、ラージュ姫は悩んで……ポーズが崩れそうになった事に自分で気づいて慌てて姿勢を戻しながら、もうちょっと考えて……そして、言った。
「『好き』って、伝わってくるからだと思います。そして、あなたが絵を描いている時、邪念が何も見えないのです。ただ純粋に、楽しくて、好きで……その後ろに、人の幸せを願う気持ちがあるから、きっと、見ていて希望が持てるんです」
……なんというか、こういう風に分析されてしまうと、やっぱり恥ずかしい、というか、なんというか。
「……僕、そんなに立派な人じゃないよ」
「そうでしょうか?」
「うん」
人の幸せを願っているかって言われると、ちょっと違うと思うよ。流石に。僕、そんな神様みたいな視点は持ってない。
勿論、僕の周りに居る皆が、幸せで居てくれれば、それはとても嬉しいけれど……。
「大体、楽しそうな奴を見て楽しくなってくれるのは、あなたが良い人だからだと思う。『絵なんか描いて楽しそうにしているんじゃない。もっとやるべきことをやれ』って言う人だっているから。……多分、正しいのは、そっちだと、思う、んだけれど……」
「まあ」
それから、ちょっと何となく自分の中で引っかかったことを言ってみたら、ラージュ姫は少し目を見開いて……それから、優しく微笑んだ。
「なら、やはりあなたは素晴らしい方です。そんなことを言われてもまだ、絵を描き続けてらっしゃるんだもの」
なんだかとんでもないことを言って、ラージュ姫はにこにこしている。
「あなたの絵を見られて、よかったです。描き続けていて下さって、本当にありがとう」
「……あなた、とんでもない人だ……」
「えっ!?な、何か私、失礼なことを……」
違う違う。そうじゃないよ。とりあえず僕は、モデルさんには元の姿勢に戻ってもらって……なんだか胸がいっぱいになってしまって、やっぱりちょっと、休憩することにした。
「あの、トウゴ様……?」
休憩っていうことでちょっとその場をうろうろしたりお茶を飲んだりしていたら、ラージュ姫がますます心配そうな顔になったので、とりあえずこれだけは伝えなきゃいけない。だから、伝える。
「ええと……その、ありがとう」
なんというか、何て言っていいのか、分からない。
王女様、なんていう身分の人にそう言ってもらえるのが嬉しい、っていうのでもない。僕がやってきたことは間違いじゃないって、言ってもらえるのは嬉しいけれど、それともまたなんだか違って……ええと。
「あなたが、僕の幸せを望んでくれて、僕が幸せになってるのを見て幸せになってくれるのが、すごく嬉しい」
……なんだかうまく言えないのだけれど、多分、そういう、かんじ……。
「……やっぱり不思議なお方!」
それからラージュ姫はそう言って、ころころ笑いだした。
「こうやって恥じらってらっしゃる様子を見ると少年らしく見えるのに、時には千年を生きる精霊様のようにも見えて……素敵な方だわ!」
……うう。
なんというか、その……あーもういいや!ラージュ姫が楽しそうだから、僕も楽しいです!終わり!
……そして、森の奥では、今日もフェイが頑張っている。
「いや、俺も勉強してみたらなんか分かるかな、って思ってさ。でもよー……あーあ。魔法理論、もっと真面目に勉強しとけばよかったぜ。一般教養だろ、って思って雑にしか勉強してなかったからさ」
フェイがやっているのは、この森の結界の解析だ。
……僕も結界のことはちょっと分かってきていて、だから結界の範囲を森だけじゃなくて森の町の方まで広げたりしているのだけれど……僕は魔法のことがやっぱりよく分かっていなくて、結界の操作も感覚だけでやっている。それだけだと不安だろ、この間穴開いたし、っていうことで、フェイが頑張って、解析してくれているんだけれど……。
「……あー、くそ、駄目だ、酔った」
フェイは魔力に敏感だから、こういう場所に居るだけでも、ちょっと辛いらしい。
「無理しないでね。森の結界のことなら、僕も頑張るから……」
「おいおい、トウゴ。ここはレッドガルド領だぜ?んでもって、レッドガルド領のことは俺達に責任がある」
けれどフェイは真面目だから、気分が悪くなっても、一生懸命、魔法の解読を進めている。僕はそれを見ていて、ちょっと申し訳ないような、そういう気持ちになる。
「この森に、魔物が狙う何かがあるっていうんなら、お前だけじゃなくて、俺だって、それを守らなきゃならねえんだ」
「……うん」
「それに、お前だってやってただろ?レッドガルド領の霊脈が枯れるのを防ぐために、お前、何か月魔力切れになった?」
……そう言われてしまうと、僕も反論できない。うう。
「結界のことだって、ちょっとは分かってきてるんだぜ?うまく応用できれば、レッドガルド領全体を護ることだって、できるかもしれねえしさ……親父も兄貴もこっちにまで手ェ回らねえし、多分、レッドガルド領の中でそこそこヒマかつそこそこには教養がある奴って、俺ぐらいしかいねえし」
フェイは貴族だから、たくさん勉強できた、らしい。この世界でここまで勉強できることって、結構珍しいらしくて、それで、フェイが今やっている作業、クロアさんでも手伝えないって言っていた。ちょっと意外だ。
ラージュ姫なら分かるのかもしれないけれど、森の遺跡について知っている人を増やすこともないだろう、っていうことで、フェイが1人で頑張っている。
「ラージュ姫だって預かってるわけだし、この町もレッドガルド全体も、絶対に、魔物にどうこうさせたりしねえ。だから何としても、この結界読み解いて、使えるようにしねえとな……」
フェイはそう言いつつ、よっこいしょ、と立ち上がった。
「ま、そのために俺がぶっ倒れててもしょうがねえし、今日は切り上げるか」
「うん。じゃあ、妖精カフェで休憩しよう。今日のケーキはカボチャプリンだったよ」
「おおー!よし!俺、それにする!」
無理しないのって、大事だ。多分、僕にとっても。
……その人が望むのなら、その人の無理を許容できるような人でありたいな、とは、思う。僕も、先生も、割と無理してしまう人だから。
けれどやっぱり、無理しなくていい時には無理しない方がいいわけで……うん。今回、フェイを見ていて、そう思ってる。
フェイと一緒に妖精カフェに入ったら、丁度、リアンがウェイターをやっていた。
リアンはカフェの人気ウェイターだ。というか、このカフェ、ウェイトレスさんばっかりでウェイターはリアンだけなんだけれど。
今日もリアンはお客さんの女性達に可愛がられている。本人としては可愛がられるのはちょっと癪らしいんだけれど、今ではリアン目当てのお客さんも来るようになったぐらいで……お店の売り上げに関わる以上、リアンとしても、諦めてある程度は可愛がられることにしてる、らしい。
「あ、フェイ兄ちゃん。トウゴ。何か食ってく?」
そんなリアンは僕らにすぐ気づくと、ちょっと、にこっ、として注文を取りに来た。
「うん。カボチャプリン2つ」
「だろうと思った」
リアンはそう言ってにやっと笑うと、ちょっと居なくなって、すぐ戻ってきた。
「はい。味わって食えよな!」
そして僕らの前にカボチャプリンのお皿が置かれる。ケーキみたいにホールで蒸し焼きにしたプリンの上に、カラメルで作った飴細工がちょこんと乗っている。上品な飾りつけだ。
「これ、指輪みてえだな」
「うん」
琥珀色の飴細工は、繊細なレース模様がくるりと巻かれたようなもので、ちょっと見ると、指輪のようにも見える。
「いいなあ。これ。綺麗だ」
「だな。……あ、お前、もしかしてこれも『描きたい』か?」
「うん」
早速、スケッチ。久しぶりに鉛筆デッサンだ。いそいそ。
フェイはそんな僕を見て笑いながら、ぱりん、と飴細工をスプーンの先でつつき壊しつつ、カボチャプリンをすくって食べていた。僕も早く食べたいから、早く描こう。
「……あっ」
ちょっと焦ったのが良くなかった。
気合を入れ過ぎてしまったらしくて、僕の手元には、飴細工のレース模様の……指輪が、出来上がってしまっていた。
「お。金の指輪かあ。ん?なんでそんな顔してるんだよ」
「……質感の表現が上手くいかなかったってことだから、大いに反省点だ」
飴細工の透き通ったかんじが上手くいかなくて、金属光沢になってしまった。反省。
「ま、いいじゃねえか。ちょっと見せてみろよ」
フェイはけらけら笑って、僕の手からできたてほやほやの指輪をとる。
そして、それを手の中で転がして眺めて……。
「……なー、トウゴ」
「うん」
「これ、貰っていいか?」
「えっ?」
な、なんでまた。できそこなった飴細工だよ、それ。
「これさあ、着けたらちょっとばっかし、魔力が強化される気がするんだよな」
フェイはそう言いつつ、指輪を適当な指に着けて、『おー。調子いいぜこれ』と喜んでいる。
……ええと、ええと……。
「飴細工って、魔力の強化の効果があるの?」
「ばっかやろ、お前、飴細工じゃなくて、魔鋼の指輪に、だよ!……まあ、効果は色々だよな。ほら、あるだろ?守りの魔法を織り込んだローブとか、怒りの魔法を込めた剣とか」
あ、そうなんだ。そっか。うん……知らない。
けれど……そういうの、ちょっと、興味がある。
「ねえ、フェイ」
「ん?うおっ、お前、まだ食ってなかったのかよ!何してたんだお前」
「考えてた。あのさ、フェイ」
僕は、考えに考えていたことを、フェイに相談する。
「……もっといい指輪、作ってみても、いい?あ、別に、指輪じゃなくてもいいんだけれど……」
フェイは、きょとん、としていた。けれど、僕が説明するより先に気付いて、ぱっ、と表情を明るくした。
「つまり俺の強化だな!?」
……フェイが森の結界の解析で、いつも苦しそうだから。だから、手伝えることは無いかな、って、思ってた。もし、指輪でも腕輪でも出せばそれがフェイの助けになるんだったら、僕、幾らでも出すよ。
「あ。俺だけじゃなくて、騎士団の装備とかにもいいかもな。これからもこの町が狙われるんだろうしよお……」
あ、いいかもしれない。特に、骨の騎士団とかにいいんじゃないだろうか。彼らが骨折しないように。
「あと……こういうののデザイン、ちょっと、楽しいな、って」
「あー、そっちか」
うん。そっち。
「あと、ラージュ姫とかクロアさんとか、思いっきり宝石で飾り立てて、それ、描きたい」
「ああー、成程なあー!そっちか!」
うん!そっち!
……そして、数日後。
「……城に居た時にも、これ程までに飾り立てることは中々ありませんでしたね」
ラージュ姫を思いっきり飾ってみた。
彼女の紫の瞳に合わせて、大粒のアメジストを大量に。あと、銀の髪に映えるように、敢えて銀じゃなくて金で作ったアクセサリーを大量に。
……すごくじゃらじゃらしてる。けれどこういうのもちょっとエキゾチックというか、いいと思うよ。森っぽいラージュ姫も勇者っぽいラージュ姫もいいけれど、こういうのもお姫様っぽくて、いいと思う。
「……似合いますか?」
「うん。すごく素敵だ」
紫が似合う人って、あんまり居ない気がする。紫がどーんと表に出てきてしまうと、なんとなく押しつけがましいというか、そういう印象になることが多いんじゃないかな。
でも、ラージュ姫の場合、神秘的で奥ゆかしくて、高貴な印象になるから不思議だ。
「それにしてもトウゴ君ったら、贅沢ね。こんなに綺麗どころ集めて、こんなに飾って。それも、描くために、だなんて!」
クロアさんがくすくす笑う。笑いながら、豪奢な織り模様の布を掛けた大きなソファの上にしどけなく座る。今回はクロアさんも紫水晶と金で飾ってみた。……森っぽい彼女もいいけれど、やっぱりこういうの、似合うなあ。
「な、なんだか少し照れるわね……ね、ねえ、トウゴ。あんた正気?本当に私も描く気?私、邪魔なんじゃない……?」
ライラはちょっと不慣れな様子で、クロアさんの隣に座っている。つんつんしているようで、緊張しているだけなんだよね。もう分かるよ。
ライラも紫水晶で飾ってる。ちょっと素朴なデザインのアクセサリーの方が、彼女には似合う気がするし、ラピスラズリの色が彼女にはよく似合うんだけれど、今回は統一感重視。
「綺麗だわ!きらきらしてすごく綺麗!ね!アンジェもそう思うでしょ?」
「うん……妖精さんみたい。あとね、これつけてると、なんだか体が軽いの。飛べそう」
「分かるわ!私も、なんだか力が出てくるような気がするわ!魔王ぐらいやっつけられそうよ!」
カーネリアちゃんとアンジェは、クロアさんとライラの膝の上。この為に仕立てたふんわりした服を着て、重くなりすぎない程度にアクセサリーまみれにしてある。2人共、やっぱり紫水晶で飾ってみた。アンジェは水色っぽいけれど紫が似合う。カーネリアちゃんのオレンジにも、紫って割と似合う。中々いいね。
「……すっげえ眺めだなあ、おい」
そんな彼女らを見て、フェイはちょっと遠い目をしている。
「これ……美女達もすげえけど、装飾品が、やべえよ。やべえよ……おい、これ、幾ら分になるんだ……?ここは王家の宝物庫か……?」
「うん。楽しい!」
「おーい、トウゴー、楽しいのはいいけど、お前、人の話は聞けよー?」
楽しい!すごく楽しい!こんなの、元の世界に居た時だったら絶対に描けなかった!ああ、この世界って素晴らしいなあ!
女性陣を思いっきり飾って描く絵は、今までで一番大きなサイズの絵になった。あ、いや、壁画は除くけれど。
「……立派なものね。すごいわ!」
休憩中、絵を見てクロアさんがちょっと面白がったように笑う。
「魔法画とは、このように描くのですか。勉強になります」
「いや、ラージュ姫。こんな無茶な描き方するのはトウゴだけよ……」
ラージュ姫は、人が絵を描いているところをあんまり見たことが無かったらしい。物珍し気に目を輝かせて僕の絵を見ている。そしてライラがちょっと『姫が間違った教育を施されてしまう』みたいな、そういう顔をしている。
「……あの、この絵、完成したら画廊に飾らせてもらってもいいだろうか。勿論、非売品にするから」
僕は、駄目元でそう聞いてみた。
彼女達の絵だから、彼女達の許可が無いと飾れないな、と思いつつ、でも、ものすごく細部まで描き込むのが楽しい絵だから、折角だし飾りたいな、と思って。
……そうしたら。
「ええ。構いませんよ。勇者らしい絵で無ければある程度は公開しても構わない、と父も言っていましたし」
ラージュ姫から、OKが出た。やった!
「私も構わないわ。その代わり、しっかり美人に描いて頂戴ね」
「べ、別にいいけど……アンジェとカーネリアは?どう?」
「私はいいわ!すごい!楽しみだわ!」
「わ、私もいいよ。……あ、でも、羽はくっつけないでね」
そして、他4人からもOKが出た!うん。じゃあ今回の絵、画廊に飾らせてもらおう。きっと画廊が一気に華やかになる!
皆をきらきらに飾り立てて描かせてもらって、やっぱり満足のいく出来になって、それを画廊に飾って……僕は、大いに満足した。
こんなこと、滅多にできないから。できないことをやるのって、やっぱり楽しい。
……けれど1つだけ、ちょっと予想外なことが、起きてしまった。
「あー、トウゴ。ちょっといいか?」
「うん」
ある日、森にやってきたフェイが、ちょっと、難しい顔をしてやってきた。
「……画廊の絵を見た人がさ。『このモデルに是非、会いたい!妻に迎えたい!』って言ってるんだけどよ。そいつ、追い返していいか?」
……どのモデルかにもよります。カーネリアちゃんかアンジェだったら、犯罪。
「あ、ちなみにカーネリアちゃんな?」
犯罪!




