20話:剣ではなく盾でもなく*4
お茶の入ったマグカップを手の中でころころやっている先生の前で、僕は、先生の言葉を繰り返していた。
「『寛容でいることが善だとするならば、不寛容に対しても寛容でいるべきなのか』……」
「ああ、そうだ。君が考えていることもそれだろう?」
先生はちょっと笑って、そう言った。
そっか。やった。つまり僕、先生なしで先生まで辿り着いたんだ。……ちょっと嬉しい。
僕が喜んでいたら、先生はふと、言った。
「……そうだな。僕が酔っ払いの頭で考えた内容になるが」
うん。
僕はちょっとわくわくしながら、先生の言葉の続きを待つ。酔っ払いの先生が考えたことって、どんなことだろうか。
「その、だな……もし、僕があいつの『こんな低俗なものなんか一々世に出されるべきじゃないし、評価されるべきじゃないと思うよ』というお言葉通りにしたら、僕が書いたものは全てゴミ箱行きになる」
「それはよくない」
僕が即座にそう言うと、先生はちょっとびっくりしたような顔をした後、にやりと笑った。
「そうか。ありがとう。……そして僕だけじゃない。あいつのご高説を一々許していたら、あらゆるものが日の目を見ないことになるだろう。あいつが気にいらないものは全てゴミ箱行きだ。ついでに、『本を燃やしたい者が本当に燃やしたいものは人間だ』っていう理屈で行けば、僕らもゴミ箱行きだろうなあ……」
……ちょっと想像して、悲しくなってしまった。その人のことは知らないけれど、僕も、先生もゴミ箱に入れられてしまうっていうのは、ちょっと嫌だ。
「だから……まあ、僕は、あいつを許すわけにはいかない訳だ。いや、あいつに限らず、自分の趣味以外のものに不寛容な奴ら全てを、許してはいけない」
僕も、そうだ。
できる限り、色々な人に優しくあるべきだと思うけれど、でも、もし、先生をゴミ箱に入れようとする奴が居たら、僕は、その人には優しくできない。優しくしちゃいけない。
……そしてそれは、僕が好きなものに対してだけじゃなくて、誰かが好きな何かに対しても、同じようにすべきなんだろう。
「さっきも言った気がするが、僕が思うに、平和のためには万人が万人に対して寛容であることだ。あらゆる人間の趣味嗜好信条信念その他諸々を許すこと。或いは、それができないなら、せめて無関心でいることだ」
「うん」
「……だが、それだけじゃ、駄目なんだろうとも、思うわけだ。それは、僕が好きなものが許されるために、この世界が寛容であるために……不寛容に対してだけは、寛容でいてはならない。不寛容には不寛容でいなければならないのだ。……と、まあ、僕はこういう具合に、酔っ払いの頭で考えたのさ」
一通り喋り終えた先生は、そこでまた緑茶を飲んで……それから、また、ちょっと情けない顔をした。
「……というのは、言い訳だろうか。なあ、トーゴ。どう思う?」
「え?」
「僕自身、どうにも、これが正しいのか、分からなくなってきてしまった。……というのも、ほら、正しい事をするってのは気持ちいいだろ?」
……うん?
「正しいことをするってのは気持ちいいんだ。娯楽なんだ。正義のヒーローが悪の怪人をぶちのめすのはいつだって気持ちいい。それが本当に正義のヒーローで、悪の怪人が本当に悪なのかってのは別問題だし、正義の対局は悪ではなくもう1つの正義って理論もあるし、更に言っちまえば、そもそもそれらの問題に気づかない奴っていうのは往々にして多いし……」
ああ、なるほど。そういうことか。なんとなく分かってきた。
「僕は、こう、自身の中で自己愛を正義に変換し、それを振りかざすことで快楽を得ているのではないかと、そう、考えてしまってだなあ……!」
「成程、それで自棄酒だったんだね」
「ご名答だ!」
先生はそう言って、渋い顔で緑茶を飲んだ。……そして急須にポットからお湯を入れて、それをマグカップに注ぎ始める。そろそろ出涸らしになってるけれどいいんだろうか。まあ、いいのか。
……それにしても、珍しい。先生が悩んでいる。
普段から、自分の考えをすぐに言葉にして、綺麗に整えられる先生が、自分の考え同士をぶつからせてしまって、悩んでいる。
僕は、考えを言葉にするのは苦手だ。だから大抵、先生には教えてもらう側なのだけれど……こういう時は僕も一緒に悩んでみることにしている。その結果出てきた考えが全然先生の役に立たなくても、僕が一緒に考えたっていうことは、どうやら先生の役に立つらしいので。
「……あの、言い訳でもいいんじゃないかなって、僕、思うよ」
考えて、考えて、僕はそう言った。なんて月並みな。
「その、慰めとかじゃ、なくて……ええと……うーん」
上手く言えない。言葉が出てこない。思っていることもぼんやりして、はっきりしない。
……それで。
「皆、幸せになれたらいいのにね」
考えに考えた結果、こんな言葉が出てきてしまう。
一体何なんだろう、と自分でも思うのだけれど、でも、こういう気持ちでこういう言葉が出てきてしまったのだからしょうがない。
「……そうだな。実にその通りだ」
それに、先生はすごい人だから。僕がどうしてか、口から出してしまった言葉を聞いて、僕が考えたことの欠片を、見つけてくれる。
「皆、幸せになれればいい。僕も、そう思ってるぜ。僕は君ほどには強くないから、時々、忘れそうになっちまうが……」
先生はそう言って……それから、机に肘をついて、手の指同士を顔の前で組み合わせて、ついでに組み合わせた指をぴこぴこ動かす。
「言い訳でもなんでも、皆が幸せになれるように、皆が足掻くべきなんだろう。だが、難しい。現実問題、全ての人が寛容であってはくれないし……そもそも、不寛容であることは1つの快楽なのだろうな。というか、不寛容な彼らは『正しいことをしている』意識だから、余計に話がややこしい」
先生は、悩んで、それから、苦笑しつつ言った。
「だからこそ僕らは、努めて寛容でいなければならない。あらゆる価値を見出し、許し、許せないならせめて無関心でいてやらねばならない。ともすれば正義の名の下に不寛容になりそうになる自分を、常に律していなければならない。そう、努力し続けなければならない」
さっきより穏やかな表情になった先生は、そう言って、それから、うーん、と唸る。
「……それでいて、不寛容に対しては不寛容でいてもいい。人が不幸せになることが幸せな人を、許さなくていい。……うーん、むずかしいなあ」
「むずかしいね」
難しい。とっても難しい。いつだって綱渡りだ。ちょっとバランスを崩したら、僕ら自身が正義の名の下に不寛容を振りかざす人になってしまう。そして反対側に倒れたら、僕らは不寛容を受け入れてゴミ箱行きになってしまうわけで……。
「ああ。難しい。だが、これを実践しようと試みること、それ自体に価値がある。と、僕は、そう、思っていて……」
先生はそこでちょっと、黙った。
自棄酒したことには価値があったって、先生は言ってた。先生は、経験するということに価値を認めている人だから、今、僕らが話したことも、考えたことも、きっと、先生にとって価値あることに、なってくれた、んだと思う。
「……壁になりたい」
「……うん?」
けれど、唐突にそういう事を言われると、ちょっと、困る。
壁って。壁って……あ、風の間違いだろうか?
「壁になりたい。あらゆる不寛容に対して、僕は、剣ではなく、盾でもなく……ただ、壁でありたい。まっ平らな壁になりたい」
……やっぱり壁らしい。風じゃなくて。
「あの、壁?」
「そうだ。壁だ」
先生は神妙な顔で頷いて、続けた。
「最初は盾であるべきだと思うんだよな。とりあえず、防衛だ。そして次に必要なのは多分、剣なんだろう。殴られたら刺し返してやらなきゃいけない。不寛容には不寛容であるべきだ。やられっぱなしってのは正義でもなんでもない」
先生はそう言って……息を吐き出す。
「しかし、最終的には……不寛容を傷つけるのではなく、自分から動くことすらなく……ただ、寛容の王国を守るための壁を築きたい」
……うん。
「壁に、なりたい?」
「ああ。壁になりたい」
先生からそれ以上の詳しい説明は無かったけれど、僕は、先生の言いたいことが、なんとなく分かった。
壁。
傷つけられたって傷つけはしない。自分から動きもしない。ただ、絶対に、通しはしない。
許さない。
……そういう存在。
「うん」
僕だってそうだ。そういう思いで僕は頷く。
すると、先生はちょっと照れたような笑顔を浮かべて、マグカップを両手で包むみたいに持った。
「全く、すまんな、トーゴ。今日は随分と君の世話になった」
「どういたしまして」
僕らはどうやら、似た者同士らしいから。だから、こういう時は助け合わなきゃ。特に僕なんて、先生に助けてもらってばっかりなんだから、偶には僕が先生を助けたっていいよね。
「はー。全く、1つ問題を消化した後は、実にお茶がうま……」
先生はまたマグカップを傾けて……そして、妙な顔をした。
「……美味くないな。もしやこの茶、相当な出涸らしなのでは?」
うん。気づくの遅いよ。
「なあ、トーゴ。これ、何番茶だ?僕は一体何杯の茶を飲んだ?」
「ええと……いっぱい?」
「上手いこと言うなあ……美味くはないが……」
先生はそう言ってまたお茶を啜って、それから、壁にー、壁にー、なりー、たいー。と、歌いだした。さっきよりずっと気分が良さそうな、晴れやかな顔だった。
先生がそういう顔をするから、僕もなんとなく、出涸らしのお茶が美味しく感じた。
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「なー、トウゴ。どうした?」
フェイに声を掛けられて、びっくりして我に返った。
「……心ここに在らず、といった様子だったが」
「あ、うん、大丈夫。考え事してただけ」
ラオクレスにも心配されてしまったのでそう答えると、横からライラが「ほんとにふわふわしてるわね、あんた……」と呆れた顔をしていた。どうせ僕はふわふわだよ。
「考えていた、っていうことは、何かいい案は浮かんだのかしら?」
クロアさんがくすくす笑いながら、そう促してくるので、僕は、話すことにする。
「……僕の先生が、言ってた。『僕ら人間は互いに寛容であるべきで、寛容でいられないならせめて無関心であるべきで、それと同時に、不寛容に対してだけは、不寛容でいなければならない』って」
僕がそう言うと、皆、ちょっと不思議そうな顔をした。
「……ふかんよーって、なんだよ」
「ええと、許せない人。いろんなもの、いろんな考え方、いろんな趣味、いろんな人が居ることを許せない人。人と自分が違うことが許せない人。だから、人を攻撃するんだ」
「あの、それって、いじわるさんのこと?」
「あ、うん。いじわるさん。そう。不寛容は、いじわるさんのことだ。意地悪してるつもりが無いいじわるさんかも」
リアンとアンジェに説明すると、2人は、ふうん、と頷く。……伝わっただろうか。今ので。
「……哲学的だなあ」
「うん。そうかもしれない」
先生も僕も、割と哲学の類が好きだったみたいなんだ。だから、そう言われると、ちょっと嬉しい。
「それで……寛容は不寛容に対して、最初は盾でいいと思う。不寛容を退けるために、不寛容から身を守るために……盾が必要なんだ」
……多分、最初は、盾なんだ。
不寛容に対して、最初は盾でいい。それで分かってくれればそれで十分だ。攻撃手段じゃなくて、防衛手段を最初に持ってくる方が、多分、誠実だと思う。
「でも、森はもう、盾は持った。騎士団に警備をお願いしたし、できる限りの対策はした。だから次は……剣を持つことになる」
けれど、盾を構えて、防衛手段を講じても、それでも駄目だったなら……そのままでいるべきじゃない。
「傷つけに来る相手は、許しちゃいけない。不寛容には不寛容でいなければならないから……僕らも、剣を持たなきゃいけない。でも、実際にそれで切りつけるかはまた別なんだ。『切りつけられるぞ』って見せつけることも、時には重要なんだと思う」
……不寛容が僕らに襲い掛かってきたら、その時は、殴り返さなきゃならない。少なくとも、最初の一回は。
寛容が不寛容にまで寛容になってしまったら……攻撃されることを許してしまったら、優しい人は皆攻撃されて、いつかはきっと消えてしまう。僕も先生もゴミ箱行きだ。
だからそうならないために、寛容は、不寛容だけは許しちゃいけない。不寛容に対しては、不寛容でなくちゃいけない。そのためには僕らは、剣を取らなきゃいけない。
……でも、それが終わったら。不寛容を、追いだしたら。
「……それで最後には、壁が必要なんだ。剣も盾も必要ない状況になったなら、その後はもう攻撃するでもなく、身を守るために盾を構えるのでもなく……壁に囲まれた場所で、のんびりやればいい」
その後はもう、無関心でいるべきだ。
不寛容に対して不寛容であろうとするあまり、本来の自分を見失っちゃいけない。
だから僕は、壁になる。
大事なものを囲い込んで守れるように。それでいて、不寛容に侵入されないように。不寛容を許さないように。
盾みたいに取り回す必要は無くて、剣みたいに攻撃する用途でもない……そういう壁が、僕らの理想形だ。
「……だから僕は、最後には壁が必要になると思う。その、精神的な壁じゃなくて、もう、いっそのこと物理的に。森の村を囲むみたいに、ぐるっと」
「一気に話が大きくなっちゃったわねえ」
うん。でも、村から森を守るために壁が必要だったんだから、外から村を守るための壁も必要なんじゃないかな。……あれ、そうしたら壁が増えるから絵を描き放題なんじゃないかな。壁画が沢山描ける。やった。何描こうかな。何描こうかな。
「嬉しそうだな。何を考えているのかは知らんが……いや、絵か……」
あ、うん。当たりです。
僕の話を一通り聞いてもらって、そうしたら、フェイが、よし、と頷いた。
「じゃあ、もう壁、作っちまうか?なら、兄貴と親父に話、通してくるけど」
あ、早い。話がすごく、早い……。いいのかな。『壁になりたい』理論で、いいんだろうか。
「俺は良いと思うぜ。壁。……いっそのことドラゴン100匹くらい描いて出しちまうか、とか嗾けるつもりでいたんだけどよ。でも、それは、まあ……トウゴらしくねえし、正しくねえ。そう思えたからその案は止めだな」
うん。……フェイは、分かってくれた、らしい。
それが嬉しい。分かってくれる人が居て、賛同してくれる人が居るって、すごく、嬉しい事だ。
「ってことで、壁だな?よし。じゃあ早速、兄貴と親父に……」
「あら。それはまだよね?」
けれど、フェイが立ち上がりかけたところで、クロアさんに止められてしまった。
「さっきのトウゴ君の話だと、先に一発殴り返してやってから壁を作った方がいい、ってことになると思うわ。やっぱり相手だって、こっちを舐め腐ってきているんだもの。一発殴って分からせてやってもいいと思うの」
……クロアさんの発言が何となく物騒だ。いや、僕も、壁の前にそうした方がいいんだろうとは思うけれど……僕とは乗り気の具合が、大分違うよ。クロアさん。
「あー、そっか。じゃあ、『剣』って奴か?先にそっちか。剣。剣、なあ……トウゴ。何かいい考え、あるか?」
フェイはちょっと勢いを削がれつつ、とりあえず、僕に聞いてきてくれた。
……そして僕は、『剣』については、もう決めてるんだ。
「龍がいいと思う」
王立美術館の時もそうだったけれど、龍が出てくると、途端に人は静かになるらしい。だから、龍に出てきてもらって一睨み、っていうのは、良いと思う。
一睨みするだけで相手がある程度怖気づいてくれるなら、それに越したことはない。僕らは相手を傷つけることが目的なんじゃない。相手が僕らを傷つけないように、相手にも分かる形で『傷つけないでください』って伝えることが目的なんだから。
だから、今回の場合は……ええと、武力の証明、とか、そういうことになるのかな。うーん、こういうの、あんまり好きじゃないけれど、しょうがない。
「よし。じゃあ龍で脅しを掛ける、と。他はなんかあるか?」
「……あと、鳥がいいかな、って思ったけれど、やっぱり駄目な気がしてきた」
噂をすればなんとやらで、窓の外に、ちょっとそわそわした様子の鳥が来ていた。でも、今回は君の出番は無いよ!
「……そうね。あの鳥さんはちょっと、駄目だわ。見た目がふわふわだもの」
窓の外の鳥を見ながらクロアさんがそう言うと、皆、揃って頷く。うん。
「あのふわふわは、ちょっと、見た目が精霊っぽくない。その点、龍は見た目からして、神様か精霊様、っていうかんじがするから、良いと思う」
僕が続けると、満場一致で決定した。鳥は、駄目。理由は、神様や精霊様っぽくないから……。
「……ところで、あの龍って、戦えるのか?」
そこでフェイがそう言って、ちょっと悩む。
……うん。
雨は降らせるし、となると雷くらいは落とせるかもしれないけれど、それはアリコーンの方が得意かもしれない。
となると、ちょっと驚かせるとしても、どうやって驚かせばいいんだろう。……あれっ。龍って、威嚇に不向き?
「こう、見るからに人間の力じゃ太刀打ちできない、っつうかんじが欲しいよな。いきなり地面が割れるとか」
「やはり、巨大なものが襲い掛かってくるのは肝が冷えるだろう。だが、そうなると龍は連中に接近しなければならないか」
「じゃあ地面割ってでっかい生き物が襲い掛かればいいんじゃねえの?」
「龍は地面に潜るもんなのかしら?」
……いろいろ意見が出たけれど、うん。そうだよね。なんか、こう、もう二度と僕らを攻撃してこなくなるぐらいに驚いてもらいたいんだけれど、そのためには、ものすごく大規模なことをするべきだ。
「じゃあ、新しい生き物、なんか出したらどうだ?」
「あんまり大きい子だと、森に住めなくなっちゃうかしら。難しいわね……」
「あっ!どんな生き物でもいいけど、神様か精霊様っぽい見た目じゃなきゃ駄目よね!」
……ええと、やっぱり、龍だけに任せると規模が不安だから、何か、別の生き物の力も必要、かな。ええと……。
僕らが悩んでいたら、ふと、アンジェが首を傾げて、言った。
「……あの、トウゴおにいちゃんは、精霊さまっぽいよ?」
……うん?
「あ、いいんじゃねえの?トウゴが封印具外して出てけば」
……えっ。
「まあ……龍に乗ったトウゴ君が出ていったら、印象は、強い、でしょうね。地割れなんかも描けそうだし、それに、トウゴ君は人間の言葉が喋れるから、交渉もできる……」
クロアさんはしばらく考えてから、ふと、にこにこして、僕の方をじっと見ていた。……なんだろう。
「ねえ、トウゴ君。剣を振るう箇所は、最小限にしたいのよね?」
「うん」
それは、その通りだ。僕らの目的は戦うことじゃない。剣を振るう必要があったとしても、それは手段であって目的じゃないんだ。
だから、『こっちにはこれだけの戦力があるぞ』ってやって驚いてもらって、それで攻撃をやめてもらいたい、んだけれど……。
「そうよね。……なら、ちょっとあの鳥さんの真似をしてみましょう」
「えっ」
窓の外で鳥が、呼ばれた気配を感じ取って窓にぎゅうぎゅう近づいてきている。違うよ。君の話じゃないよ。君の話だけれど。
「鳥さんの真似よ。あの花束野郎を攫ってくるの。……雇い主本人には流石に、口封じの呪いなんてかかってないでしょうし。それで罪を自供させて、ついでに念書にサインさせましょう!」
……うわあ。