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今日も絵に描いた餅が美味い  作者: もちもち物質
第六章:やさしさの壁
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2話:森と村、そして壁*1

「王都の直轄領、覚えてるか?ほら、霊脈の事件の後、王家が何か勘違いして霊脈枯らした場所」

「ああ……うん。覚えてるよ」

 覚えてる、と言うと、ちょっと違うかもしれない。僕はその場所、見たことがないし。……けれど、話は聞いてるし、覚えてもいるよ。

「あそこ、霊脈が枯れちまっただろ?だから、今年は作物が全然育ちそうにねえんだとさ」

 そっか。なんというか……それは、お気の毒に。

「俺もチラッと見に行ってみたんだが、荒れ放題の土地、ってなかんじで……あそこを耕して種を蒔く気力は、出てこねえわ。うん」

 ……どういう土地なんだろう。ちょっと気になるな。

「……ということは、そこの農夫達が雇われようとしている、ということか?」

 ラオクレスがそう聞くと、フェイは頷いた。

「おう。そういうこと。彼らが住んでた土地が枯れちまったもんだから、彼ら自身も土地に見切りをつけて、豊かそうな方へ引っ越そう、っつうことらしい」

 成程。そういうことか。……大変だなあ。いろんなことが。


 僕がフェイの唐突の申し出の理由を知って納得していると、フェイは、深々とため息を吐いた。

「……王家の直轄領で農作すると、補助金が出る。っつーか、税が軽減されるんだよな。だから、農夫は結構、王家直轄領に住みたがるんだが……今回、うちに来たがってる連中は、そういう優遇措置を蹴ってでも、こっちに来たいらしい。それくらい、向こうの土地は酷いらしいぜ」

「……そっか」

 なんというか、色々、思うところはあるよ。王家の人はレッドガルド領を虐めようとしてきたわけだし、更には自分達の領地までよく分からない理論で虐め始めたし、そういうの、よくないと思う。そのせいで迷惑している人達が居るっていうなら、尚更だ。

 けれど、その、迷惑して居る人達……農民の皆さんには、関係ない話だ。彼らが悪いことしたわけじゃないし、できることなら助けたいと思う。

「なら、僕、雇うよ。農夫、雇う」

「お、そうか?そう言ってくれると俺としても助かる。……霊脈の件、何もうちは悪いことしてねえけどさ、ほら、でも、王家の連中が色々やらかした原因は俺達っつーか、まあ……ちょっと色々思わないでもねえからさ」

 うん。ぼくもそういうかんじだ。悪い事をしたとは思ってないけれど、でも、それとは別に、ちょっとは、責任をとろうと思うよ。龍を出してしまったのは僕だし……。




 ……ということで、僕は早速、森の外に家を建て始めた。

「……餅で分かったけれど、改めて見ると、とんでもない眺めよね」

「でしょう?トウゴ君ってこうなのよ」

 家の監修は、クロアさんとライラ。あと、オーディエンスとして、大笑いしながら建設現場を眺めてるフェイ。それから、家具の移動の時に大助かりなラオクレス。

「やっぱり、統一感のあるデザインにしたいわよね。1つの集落になるわけだし」

「うん」

 色は全部、違いこそあれども落ち着いた色で。大きさは何となく揃えて。間取りは色々用意して。そして屋根は全部、同じデザイン。屋根裏部屋があるといいかな、と思ったので、切妻屋根にした。

「家具はある程度用意しておく家と、ほとんど置いておかない家があった方がいいかもしれないわね。愛着のある家具を持って引っ越してくる人も多いでしょうから」

「うん」

 ちなみに、今回、用意しておく家具は、ちょっと控えめのデザインだ。クロアさんの部屋を造った時みたいに、凝ってない。機能的でシンプルで、ちょっと物足りないくらいかもしれないような、そういうデザインで揃えてしまった。

 ……けれどどの家具にもワンポイントで、森の紋章が入れてある。

 この森の紋章は、最近作ったものだ。レッドガルド家の紋章が、ドラゴンの紋章だから、この森の紋章は、ドラゴンに包まれる木の紋章。なんとなく、こういうのがあった方がいいかな、と思ってデザインしてしまった。とても楽しかった!

「家の塊を作ってもいいけれど、畑までの距離は考えてあげないとね。ここに引っ越してくる人の目的は畑なんだから」

「うん」

 更に、畑も作る。

 ……畑を作ったら、ライラに、唖然とされてしまった。いや、その、耕した土地の絵を描いて実態に反映させた、のだけれど……『それができるなら最初からやりなさいよ、馬鹿!』とのことだった。

 いや、でも、耕した土のかんじをうまく描けるようになったのは自分で耕したからだし、やっぱり実物を見てからじゃないと、こういうのって描くの、難しいし……うん。その、ごめん。

「あら、もしかして、人が引っ越してくるなら、ここに食料品や生活用品を売るお店も必要なんじゃない?」

「おー、それはレッドガルドの街の方から行商、ってことになると思うぜ。まあ、いずれはここにちゃんと店があった方がいいのかもしれねえけどさ」

「ここは町になるのか?」

「なるんじゃねえの?いや、森の精霊様が許せば、だけど」

「うん。僕はそれでいいと思うよ」

 そっか。ここ、町になるのかもしれないのか。なんというか、それは……ちょっと楽しいかもしれない。




 続いて僕は、お給料を作ることにした。……変な言い方だけれど、実際、そうとしか言えない。

 農夫の人達を雇うためには、お給料が必要だ。そして、それは勿論、お金じゃなきゃいけない、と思う。

 ……クロアさんは家1軒で今のところ雇われてくれているし、ライラは借金返済っていう名目でタダ働きしてくれているのだけれど、でも、農夫の人達までそうっていうわけにはいかない。

 ということで、ちゃんとしたお金を作らないといけない。

 ……いや、ある程度は、お金、あるんだ。僕の絵を売った分があるから。けれどそれって、安定した収入ではないし、僕の収入が農夫の人達のお給料に影響したらまずいから、やっぱり別に、お給料は用意しておいた方がいいと思った。

「……家も家具も土地も与えられるとなれば、作物が取れるまでただ働きでも構わない気もするが」

「それは僕が何となく納得できなくて……」

 必要経費は必要経費であって、お給料じゃないと思う。だから、そこはちゃんと分けておきたい。

「だが、それほどの質の宝石をそれほどの量、どこで売るつもりだ」

 ……うん。

 そうだ。僕が今、困っているのは……僕のお金を稼ぐ手段が、すごく、限られる、っていう……そういうところなんだ。

 ……フェイが、僕が出した宝石を見て『これ1つで辺境の方なら領地買えるかもしれねえ』って言ってた。うーん……。




「魔法画の時もそうだったけれど、僕、精霊になったせいでまた魔力の制御が下手になっているんじゃないかと思うんだけれど」

「そうかもなあ……」

 とりあえず、片っ端から宝石を描いて出してみたのだけれど、どうしても……その、魔力がこもってしまう、みたいだ。精霊になりたての時もこうやって宝石を描いて出してリハビリしたけれど、あの時もすごく出来の良い宝石ができてしまっていた。うーん。

「また、封印具つけとくか?」

「もうやったんだけれど……」

 はい、と、フェイに封印具を見せた。……いや、封印具の『残骸』を見せた。

「……ごめんなさい。壊してしまった」

「いや……よく考えたら、人間用の封印具で精霊の魔力なんざ封印できるわけ、ねえよな……」

 うん。どうやら、キャパシティをオーバーしてしまったみたいで、その、封印具、壊れてしまったみたいだ。折角もらったのに。申し訳ないことをした。

「ま、しょうがねえよ。精霊になっちまったんだしさ」

「うん……」

「精霊がやることだから、全部一々、魔力の桁が違うんだろ。宝石を実体化させたらとんでもねえ魔石ができちまうし、封印具で封印するには桁が足りないくらいの魔力を持ってるんだろうし……」

 フェイの慰めを聞きつつ、どうしようかな、と悩む。

 僕が不便するだけならまだいいのだけれど、今回はそういう訳にもいかない。今回はちゃんと、農夫の人達に払うお給料を手に入れるっていう目標があるんだから。だから……。

「あ。じゃあ、お前、自前で封印具を描いて出したらいいんじゃねえの?」

 ……うん?




 フェイに言われた通り試してみたら……すごく、いい具合になった。

 封印具を自分で描いて出してみたら、自分の魔力に合わせた奴が出てきてくれたらしい。それをつけたら、ようやく、人間サイズの魔力に戻ったらしくて……おかげで、売っても問題なさそうな宝石が描けている。よかった!

「これでお給料は大丈夫だ!あとは……種、とかだろうか?」

「まあ、それは農夫に任せりゃいいと思うぜ。去年、王家の直轄領で育ててた作物の種くらいは採ってるだろうし」

 そっか。まあ、そうだよね。じゃあ、そっちはお任せするとして……あ、でも、僕、枝豆が好きだ。枝豆が沢山あると幸せな気持ちになれるから、枝豆は作ってもらおう。だから、枝豆の苗だけ用意しておこうかな。

「あとは一応、農機具を……」

「至れり尽くせりだなあ……」

 鍬とか。鋤とか。そういうのをちょっと描いて出して、それから、共同の納屋みたいなやつを1つ建設して、そこに農機具を収納して……。

 ……こういうのって、準備してる時、楽しいよね。

「開拓しようとして引っ越して来たら、もう開墾されて耕された畑と、家と、農機具と、ついでに給料まで出るのか。条件、良いよなあ……。こりゃあ、応募者が大勢来るかもな!」

 うん。沢山来てくれたら、沢山畑をやってもらって、レッドガルド領の助けになってもらおう。

 あと……その、一区画でいいから、枝豆特区を、お願いします。




「やっぱり農園に区切りみたいなもの、必要だろうか」

 土が耕された畑ができて、家ができて納屋ができて農機具も準備完了。あと、枝豆の苗も。

 お給料もできたし、これで後は、農夫の人達に来てもらうだけ、なのだけれど……。

 その、囲いとか、必要だろうか。

「ん?……あー、王都みたいなかんじか?」

「うん」

 王都は、町の周りをぐるりと一周、壁で囲んである。あれは外敵からの備えっていうことらしいのだけれど……ああいうかんじにしたら、壁が沢山できて具合がいいし、あと、畑にしていい土地とそうじゃない土地の区別がつきやすいかな、って。

 ……ん?

 あ、あれ……?

 ちょっと待てよ?畑にしていい土地、って……。

「いいんじゃねえの?森とかも囲っといたらどうだ?」

 フェイはそう言うのだけれど……僕は、思ってしまった。

「あ、あの、フェイ」

「ん?どうした?」

 僕はとんでもないことを、忘れていた!ここは森で、僕は森の精霊なのだけれど……森って、レッドガルド領にある、よね?それで、レッドガルド領は、僕のものじゃ、ないから……。

「僕、森の外に畑とか町とか作ってしまって、いいんだろうか」

 ということは、ここ、別に、僕の敷地っていう訳でも、ない……よね?

 ……そこを勝手に開墾してしまった!




「どうしよう!僕、もう家とか建ててしまった!」

 僕が慌てると、フェイはけらけら笑いだす。

「ああ、そこは別に構わねえよ。どっちみちこの森の近辺って、開発したくてもできなかった土地だしさ。何ならこの森の周りぐるっと一周、外壁とか作っちまって、ここを『トウゴ領』とかにして申請するか?」

「そ、それは嫌だよ……」

 流石に独立は、ちょっと……。

「ははは。冗談冗談。でも、別にいいぜ。森囲っちまっても」

 ……うーん。壁はいつかどこかで出したいんだけれど、森を囲むため、っていうのもなあ。

「ま、いいや。森の周囲とか森とか、好きにしてくれていいからな。むしろこっちが、精霊様のお伺いを立てて隣に住んでるっつう立場だしよ」

「そう言われても……」

 ……僕、森の精霊になってしまったわけではあるのだけれど、けれど、だからといって森の権利者になった気はしないし、そういう風に振舞うのは抵抗があるというか……。

「ま、強いて言うなら、森の真ん中に道が通ると嬉しいっちゃ嬉しいんだけどな?でもまあ、森の真ん中がお前らの住処なわけだし、森に結界があるってんなら、その装置の近くには人を入れない方がいいだろうしなあ……」

 そっか。うーん……この森、レッドガルド領の真ん中にぼん、とあるから、邪魔なんだよな。それは分かる。

 けれど、フェイの言う通り、森の真ん中に人を通すと色々厄介ごとになりそうだし、でも、現状、不便は不便だし……。

「……あの、これ、ちょっと考えてもいい?」

「ん?いや、無理しなくていいんだぞ?森の真ん中に道とか通すわけにはいかねえだろ?」

 いやそうなんだけれど……でも、やっぱり気になるというか。

 僕、フェイにはずっと、お世話になってる。

 だから、僕にできることで、フェイにお返し、したいんだ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 記憶違いかもですが、以前金策で宝石を一個だけ売ったときに宝石の絵をいくつ描いて実体化させていたような…? その時の残りの宝石は売り切ってしまったのかな? [一言] 農村?が至れり尽くせ…
[一言] トーゴの枝豆推し 始めの方の話に好きなものでまず出てきたのが枝豆でしたし相当好きなんですね。結婚質素なもの好きですよね。ハムとチームを挟んだやつとか。枝豆はビールのお供のイメージ強いですけど…
[気になる点] しかしこのトーゴ村、事情を知らない人から見るとすごくホラーですよ 人っ子一人いないのに、家があり家具があり畑があり給料まで貰える。 こんな良い環境を捨てる人間はいない。今まで居たはずの…
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