1.家族旅行から一変、訳の分からない世界に飛ばされました…。
親子3人での家族旅行の帰りに突如魔法陣のようなものに巻き込まれた看護師:鈴木花奈絵。たどり着いた先は日本でも外国でもないよくわからない世界…。
そしてその先には現在進行形でどハマりしている恋愛アプリゲーム《イケメン軍の秘事:彼と私の行方》に出てくる推しキャラそっくりな男性がわらわら現れるなんて‼︎
神子として迎えられそうな私はこれからどうなるのーーーー‼︎
こうなりゃ、ヤケだ!この世界観!がっつり楽しんでやろうじゃないのーーーー!
そんな鈴木花奈絵のちょっぴり冒険(?)と時たま恋なストーリー…。
それは3年ぶりの東京への家族旅行。
私:鈴木花奈絵は看護専門学校の卒業祝いに父母発案で旅行に行くことに。ちなみに旅行が急遽決まったのはまさかの国家試験発表日だった。
というか、発表後すぐに飛行機のチケットやホテルの
手配もよくできたなぁと感心していたら父は元々東京
での学会、母は東洋医療フェアのイベントに出席が
同じ頃に決まっていたため、3人分の4泊5日の家族
旅行の手配を私に何の相談もなく、予めあっさりと
決めていたらしい…。
いやいや、両親よ、娘の予定は一応確認しようよ、
…まぁ、何にもなかったから大丈夫ではあったん
だけどさ…(泣)。
旅行の日程は前々から行きたかったお気に入りゲーム
アプリ《イケメン軍との秘事:彼と貴女の愛の行方》
のイベントとかぶってる‼︎
ダメ元承知でネットオークションの中でイベント
チケットを探したら!
あった!あった!あったよ!それもtwo daysイベント
のチケット!早速即決価格でチケットをゲットした
花奈絵はワクワクしながら旅行の準備に勤しんだ。
楽しみだった東京への家族旅行は両親の学会参加やイベント参加があるため、まるで気楽なお一人様東京散策を主としている感じ。
旅行3日目の夕食は内科医の父:鈴木太郎がテレビで見てどうしても行きたかったカウンターだけの和食割烹でコース料理。
『お父さん、昨日・今日で学会は終わり?』
カウンターで母を挟んで並びに座る父に向けて花奈絵は話しかけた。
『あぁ、学会は2日間の日程だったからね。
明日は昨日頼んでおいた専門書を書店に朝受け取りに
行くよ。』
父はそう言いながら目の前の綺麗に盛り付けられた
八寸を美味しそうに食べていた。
『お母さんは明日もフェアに行くの?』
今度は隣に座る鍼灸師の母:鈴木勢津子に話をふると
『気になる先生方のセミナーはあらかた行ったし、
フェアで買いたいものも軒並み買ったから明日は
何にもないわよ。あ、できたら都内の有名なハーブ
ショップと漢方薬局に寄ってみたいとは思ってるけど決定ではないわ。』
とニコニコしながら母は答える。
『そっかー、じゃあ、私がイベントに行ってる間は
夫婦水入らずの時間があるってことね。』
さっさと八寸を食べた花奈絵の前にはキラキラ
輝く造盛りが提供されていた。
西洋医療一辺倒だった内科医の父が東洋医療満々の
鍼灸師の母に出会い、気がつけば統合医療を理念に
掲げたクリニックと別棟に鍼灸治療室を開業し、
地域に根差した医療を提供する医療人の両親の元に
生まれた私は気がつけば看護師を目指してもうすぐ
学校附属の病院に勤務も決まっていた。
何年か総合病院で経験を積んだら父のクリニックに
入りたいと何となく打診してはみたが、そんな申し出
をする花奈絵に意外にも両親は
『しっかり大きな病院で経験を積んでいる間に
気持ちが変わることもあるかもしれないから、
その時にまた考えればいいよ。』
と実にそれはそれはあっさりした対応だった。
他所様だったらこんなにあっさりなんて絶対して
いないんじゃなかろうか?不思議な感じだが、
両親は娘の進路に関しては今までも無理な介入を
してくることなく、《自分のこれからの人生を左右
することなんだから自分で選んだ方がいい。
明らかに間違った方向に向かうと思ったら全力で
止めるから》と言っていた。
しかし、両親からなさかを止められたことは今まで
一度たりともなかった。
今思えば娘を信頼してくれていたんだとわかる。
有り難い両親であると言えよう。
そんなこんなで3日目の夜も楽しく家族で会話を
しつつ食事を終え、3人でホテルに戻った。
父がホテルの予約の際にツインルームとシングル
ルームで予約をするか、トリプルルームで予約を
するかで悩みに悩んだ結果、とった部屋は家族全員
でゆっくりできるトリプルルーム。部屋はそこそこ
広いがベッドが3つ入ってる分、何となくコンパクト
な印象な部屋。
部屋に戻ってきて早々母は大きなスーツケースを
開いて購入してきた鍼やお灸や専門書に講座で配布
された資料を詰め込んでいた。
『あー、明日できたらハーブと生薬を買いたいけど
このスーツケースに入りきるかなー。』
旅行に持ってきた母の大きなスーツケースはほぼ空に
近かったのに今見た感じでは8割近くはフェアで購入
してきたものでいっぱいになっている…!
いくら使ったのかは不明だが、
『こんな機会でもない限り手に入らないものがある
なら私は買う!』
の精神の母の手元にはぱっと見では何に使うのか、
どう使うのかも分からない代物まである。
やはり花奈絵の母、彼女も限定にはかなり弱い…。
その代わり母の旅行用の着替えはというと背中に
背負うリュックにコンパクトにまとめられており、
必要最低限の状態にされていた。
そう、母の今回の旅行の目的の1つはフェアで購入
できない道具と専門書と講座の資料を手に入れること
だった。なのでそれ以外は極端にミニマムにしていた。
打って変わって父はというと機内持ち込みができる
大きさのスーツケースにこれまた専門書と学会資料と着替えを詰めていた。
父は学会出席も大事だが父の今回の旅行の目的の
1つは《美味しいと言われるお店で夕食をとる
こと》だったから、父にとってのレストランや割烹
などの大事(?)なデータはスマホにまとめて保存
していた。
父のスーツケースに詰めるのはこれまた学会でしか
手に入らない資料がメインだ。
あとは会場でいろんなメーカーが凌ぎを削っている
商品の説明を聞き、サンプルをもらうことくらい。
今回はやたらと押しの強い営業マンが多かった
らしく、父はかなりの営業トークを聞く代わりに
たくさんのサンプルをゲットしたんだそうだ。
で、花奈絵自身はと言えば母と同じく大きな
スーツケースに今日の戦利品のグッズたちを大事に
大事にしまっていた。
《イケメン軍の秘事》は人気コンテンツで既に
リリースから5年が過ぎているにも関わらず、未だに
人気絶大で新たなキャラが投入されたり、
既存キャラの新しいストーリーも配信も開始され
たりでゲームを辞めるなんて考えられないほど
のめり込んでいた。
そんな《イケメン軍の秘事》の明日のイベントと
限定グッズアイテムに胸をときめかせつつ、
その夜も普段と変わらずすやすやと眠った。
家族旅行4日目の翌朝はホテルのダイニングで朝食を
3人で食べた後は両親と花奈絵は別行動となった。
『花奈絵、イベントが終わるのって何時なの?』
母が別れる際に聞いてきたので
『3時半に終了予定だから集合は4時半くらいでいいのかな?』
と確認すると母はトークアプリに集合場所の地図と今夜行く予定の店のデータを送ってきて
『夕食は早めの5時で予約してるから遅れないようにねーー。』
とニコッと笑った後、母は父と手を繋いで出かけて
行った。50を過ぎても尚仲良く手繋ぎデートのできる
両親にはかなり驚きだが、いずれ現れるであろう私の未来の彼and旦那様ともできたらそんな風になれたらいいなとこっそり思っていた。
さてさて、今日ものんびりしている暇はない。
イベント会場に行く前にゲームアプリの期間限定
ショップのある新宿目指してGO!だ。
お気に入りのキャラは勿論のこと、珍しくすべての
キャラが推しのようなこのゲーム、予算があるのなら
全部のグッズを買ってしまいたい…。
しかし、悲しいかな、そこまでの予算はない。
おまけに今日のイベント限定グッズも購入予定なので
無駄遣いもできない…。いろいろ迷った結果、比較的
日常使い(?)が1番可能かと思われるキャラ全員分のクリアファイルを大人買いした。
ちゃんとイベント限定グッズ用の費用も考えた花奈絵
らしい買い物だ。心から愛する尊いキャラたちを繁々
と眺めた後、傷まないように購入後のクリアファイル
を収める用のケースに大事にしまう。
買い物が終われば今度はイベント会場へ移動。
既に会場の最寄り駅には沢山のイベント参加者が
わらわらと集まってきている。
『グッズ販売のブースは右手前方の階段奥の扉前からお並び下さ〜い』
イベントスタッフが参加者たちを徐々に徐々に誘導していく。限定グッズはそれぞれの品物について何個
までの購入制限がつく。今回の限定グッズで欲しい
のはキャラのアクリルスタンド。購入制限は一応
キャラクター全員分の14個。家の自分の机に全種類並べてキャラクター全員分の視線を独り占め…。
あぁ、尊過ぎる‼︎
無事にグッズも購入でき、イベントではそれぞれの
キャラの声優さんのイケボにメロメロになりながら
それはそれは有意義な時間を過ごした。イベント終了
後は余韻にはどっぷりと浸りたいけれど両親との約束
もあるのでサクッと会場を後にした。
両親との待ち合わせの駅に遅れることなく到着。
旅行4日目の夕食はクラシカルなフレンチビストロ。
何を食べても全部美味しいんだけど特筆すべきは
野菜のテリーヌとコンソメスープ。テリーヌは
野菜の甘味と旨味が優しい味でまとまっているし、
澄んだ琥珀色のコンソメスープは今まで食べたことのあるコンソメスープの中でダントツの美味しさだった。
食後は少し歩こうという話にもなったのだが、ワインを飲み過ぎた両親を見てるととても歩いて戻れそうにないので潔くタクシーでホテルに帰った。
気がつくと母は両手に二つ紙袋を下げていて一つは乾燥ハーブ、もう一つには生薬をパンパンに買い込んで来ていた。一体そのハーブと生薬は何にどう使うかは
知らないがやはり母:勢津子は今しか買えないという
限定には抗えなかったようだ。父は頼んでいた専門書
の入った紙袋を一つ持っているが頑丈そうな紙袋が
二枚重ねにされているところを見るとボリュームは
ないが、かなり重い事が推測された。
そして私はというと、両親ほどではないが戦利品を持ってほくほくしていた。
部屋に戻って荷造りをして明日の帰宅に備えて眠る。
明日は最終日なので東京スカイツリーに登ってから飛行機で帰る手筈となっていた。
…そう、あんなことに巻き込まれる直前まで、ちゃんと家に帰れると普通に思っていた…。
旅行最終日、それぞれのスーツケースを引きながらスカイツリーに向かう。登る間だけ手荷物を預けて展望フロアのカフェで3人でしっかり目のランチを食べた。
展望フロアから見える景色を堪能した後、スーツケースを受け取り、少し早いが空港に向かった。
バスで移動したのちにモノレールで空港に着いたその時、急に周りの明かりが消えた。まだ太陽が昇ってる時間のはずなのにあっさりと暗くなる。次の瞬間、足元が急に光り出して魔法陣のようなものが浮かび上がり、父と母と私の3人はその魔法陣のようなものに巻き込まれて空港から煙のように瞬間的に消えたのだった。
眩しくらいの光が収まって花奈絵と父と母が目を
開けるとそこは空港ではなく、よくわからないが
かなり広い室内空間であることだけは分かった。
床には何で描いたか分からないおどろおどろしい魔法陣のようなものがあり、そこここに火のついた太い蝋燭が何本も置いてある。
『神子を召喚したはずなのになんでジジイとババアがいるんだ!あ!もう1人若い娘がいる!こちらが神子か‼︎』
声のした方を見ると何人かの神父か牧師のような格好をした爺さんたちの後ろにキツイ顔立ちの赤毛に茶色い瞳の男性がこちらを見ながら大きな声を出している。
何なのコイツ?白粉塗ったらリアルMドナルドのドナルドじゃん…。
一瞬そんなことを思ったものの、
『は?ジジイとババア?若い娘が神子?何言ってるのコイツ?』
よくわからないことに巻き込まれた上に両親のことをジジイ・ババア扱いするこの失礼な奴に花奈絵のイライラがつのる。
『神子様、ようこそおいでくださいました。是非貴女のお力でこの国の病める国民をお救いください。』
神父か牧師のような爺様の代表みたいな人が私の手を取り、連れて行こうとする。
『ちょっと!うちの花奈絵に何するつもり!どこかに拐かそうなんて思ってるんじゃないでしょうね!』
花奈絵の手を握って連れて行こうとする爺様に、Mドナルドのドナルドにババア呼ばわりされた母:勢津子がプロレスラーもびっくりなチョップのような手刀を一撃して手を叩き落とした。
『神官!ジェームズ神官!大丈夫ですか!?』
周囲が騒ぎ出し、嫌な雰囲気満載のこの状況。
何だかヤバイ…、そう思えるのは多分私だけではないはず…。転生ものや転移ものの小説とかによくあるパターンぽくてものすごく嫌な感じがする。
怒って威嚇する母に庇われながら一緒にいた父に目をやると父:太郎は穏やかな口調でその場にいる人達に声をかける。
『妻が興奮してしまって驚かせてしまったようですみません。ただ、我が娘に何の前触れもなく、いきなりどこかへ連れてでも行きそうなご様子、親である私達からすれば娘を守るための当然の対応になります。あなた方がどのような方かは存じませんが、この状況をまず説明してからが筋というものではないですか?』
普段穏やかな父が怒りを秘めた硬く強い口調で話をしているのを聞くのは初めてのことだ。
ジェームズと呼ばれる神官はハッとした様子で、
すぐさま父の問いかけについて非礼を詫びるように
説明を始めた。
『私共はコートランドの神官、私は神官長のジェームズにございます。自己紹介及びこの現在の状況につきまして何ら説明をしていないにも関わらずいきなりの行動で驚かせてしまいましたこと、誠に申し訳ございません。
数年前より災害や紛争などの為、多くの国民が病や負傷で傷つき苦しんでいるため、神子様のお力を借りてこの状況を変えていただきたいと思い、召喚させて頂いたのでございます。
本来の術式ではお一人召喚されるとあったところにまさかの3人もいらっしゃるのでより神子様であろうと思われる方の手を取ってしまったという次第でございます。』
ああ、やっぱり転移ものじゃないですか…。
この展開…。よく読む小説だったら神子とか聖女とか
呼ばれる主人公がこれまたイケメンの王子様とか誰かとくっつくってやつだ。
ただ、この場にいるのはうちの家族を除いては神官の爺様軍団と既に私達の心象よろしくない白く塗ってないMドナルドのドナルドだけなんだけど…。
『うーん、その神子っていうのがうちの娘であると何故断定できるんですか?大体、家族全員を拉致しておきながら娘だけを隔離して何かさせようとされたら親として黙っているわけにいかないですよね。』
父の目がこんなに鋭くなるのを初めてみた花奈絵は
驚きを隠せない。普段は温和で優しい父なのに。
『うちの娘が神子だという証拠、それと私達家族を
拉致してきた正統性について今すぐ説明してください。明らかに人権侵害だ。何なら今すぐ我々を自宅へ返してもらいたい。』
強い口調の父の発言にそこにいた爺様軍団はだまってしまった。
『古くの文献からすれば神子は若い女子であったと記されている。該当するのはその娘のみだ。その点を重視した。』
難しい顔をしたMドナルドのドナルドがそう言う。
『その文献が正しいものかという保証は勿論ないですよね?私達は穏やかな生活をしていたところから無理矢理引き剥がされていい理由にはなりませんよね?申し訳ないが、私達家族が犠牲になるいわれもないそちらの都合だけで拉致されるなど本来あってはいけないことだ。今すぐ帰してもらいたい。』
改めて父は強い口調で言う。
どうなってしまうのか、不安でたまらない…となっていたら、かなり奥の方から
『こちらが大変失礼をしたようで誠に申し訳ございません。良ければ別室にてお話させて頂けませんか?勿論ご家族揃った状態で。』
と軍服っぽい衣装で登場して男性から声がかけられた。
何?このイケボ‼︎《イケメン軍の秘事》の推しキャラスティーブ・マローンに激似!
てか、顔や背格好の設定まで一緒じゃん‼︎
リアルキャラに出会えたようで一気に不安な気持ちは頭の中のどこかに飛んでしまっていた…。
両親はかなり訝しんだが平行線のままは良くないと思ったようで仕方なしにその提案を飲んで別室へ移動することになった。
『自己紹介が遅くなりました。コートランドの陸軍司令官:ジョン・ファルクスです。先程の現場を統括していた赤毛のものは私の部下のドナルド・ファルクス、ついでに言うと私の愚弟です。』
推しキャラ:スティーブそっくりなジョンさんの弟、まさか本当にドナルドとか…うっぷ、笑いがで、出そう…。
しばらくして弟のドナルド(本物)が不貞腐れた顔で現れた。
多分ジョンさんにかなり怒られたんだろうと推測できる。
『こちらの都合で貴方方ご家族を拉致も同然で我が国へお連れしたことを陳謝致します。』
不貞腐れたままのドナルドからの詫びが入ったところでジョンさんからこのあと本題を切り出されることとなったのである…。