お食事の後、時間があるならお茶でもしませんか?
『おはようございます。今日は姫の大好きなお日さまが顔も出しそうですね…』
今や日課となったキラ星さんからのLINEが今朝も届いた。せっかくのお休みだというのに早起きをして届けてくれているのね。きっと、昨日も遅くまでお酒を飲んでいたでしょうに。
『おはようございます。今日はお友達とお昼ご飯を食べに行きます』
私はいつものように今日の予定を伝える。もしかしたら、キラ星さんは食事の後、お茶にでも誘ってくれるかもしれない。少しだけそんなことを期待する。
『お食事の後、時間があるならお茶でもしませんか?』
ふふふ。思わず笑みがこぼれる。キラ星さんは期待を裏切らない。私が食事を終える時間を伝えると、キラ星さんはその時間の頃には来てくれると言ってくれた。窓のカーテンを開けると、キラ星さんが言った通り、お日さまが顔を出している。今日は暑くなりそうね。
食事を終えてお友達と別れると、キラ星さんからLINEが届いた。
『喫煙所で一服しています』
『今からそこに行きます』
私は喫煙所の方へ歩いて行く。遠くからでもキラ星さんを見つけることが出来た。私が手を振ると、キラ星さんはタバコを揉み消して、私の方へ歩いて来てくれた。
「それではお茶を飲みに行きましょう」
「どこかいいところはあるかしら」
「僕は君と一緒ならどこでもいいですよ」
真顔でさらりとそんなこと言うキラ星さん。
「うわぁ、怖い怖い」
「どうしてですか?」
「そういうセリフをさらりと言えるところがです」
「だって、本当にそう思っているからですよ」
「まあ! あなたったら…」
「いけませんか?」
いけなくはないけれど、気恥ずかしい。いつものことなのだけれど、なかなか慣れないものね。
「ところで、あなたはお昼ご飯を食べたんですか?」
「まだ食べてませんよ」
「それでは、ご飯屋さんでもいいですよ」
「大丈夫です。お茶をするところでも食べられるものはあるでしょうから」
「それでは私が以前行ったことがあるお店に行きましょう」
「はい。行きましょう」
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交差点で信号待ちをしていると、風になびいた姫のスカートが僕の足元に絡みついた。半ズボンだった僕の足にさらさらと心地いい感触が伝わってきた。
「やっているといいんですけど…」
そう言って、恐る恐るその店があると思われる辺りに姫は目を向ける。そんな仕草さえ愛おしい。
「やっています。よかったです」
ドアのガラス越しに中を覗き込む姫。
「混んでいるみたいです…。あ、でも、大丈夫そうです」
僕の顔を見てにっこり笑う姫。いちいち可愛い。
「では入りましょう」
席に着いてメニューを見る。僕はピラフのセットを注文。姫はケーキセットを。注文し終えると店内を懐かしそうに見回す姫。向かい合わせに座った姫の顔がいろんな角度から見られた。どこから見ても姫はやっぱり可愛い。
頼んだものが運ばれて来た。僕が食べている間、姫は静かにしている。そういう気遣いも姫らしい。食事を終えてからいろんな話をした。こんな風にずっと姫の顔を眺めながら過ごせたらどんなに幸せなんだろう…。でも、今はそういうわけにはいかない。
「それではそろそろ行きましょうか」
「そうですね。そろそろ行きましょう」
支払いをしようとする僕の手に紙幣を一枚ポンと乗せる姫。
「これでは多いですよ」
「いいんです。次はご馳走してください」
「解かりました。では、遠慮なくいただきます」
外はまだ陽射しがきつい。でも、姫が隣に居るとなんだかとても涼しく感じる。駅までの道中を並んで歩く。なるべくくっ付いて歩く。でも、ぶつからないように気を付けながら。姫の体温と息遣いが感じられるくらいの距離感を保ちつつ注意しながら歩く。そして、あっという間に駅に着いてしまう。
「ではここで」
地下鉄の入口で、僕はいつものように姫に声を掛ける。
「向こうの改札まで行きますよ」
いつものように姫は僕をJRの改札口まで見送りに来てくれると言う。いつも見送るばかりで送られるのに慣れていない僕はいまだにどう対応すればいいのか判らないでいる。
「ではここで」
「今日もありがとうございました」
「こちらこそ」
「また会いましょうね」
「はい、また会いましょう」
そして、姫が手を振る。僕は姫に見送られながら改札の中へ。僕はまた振り返ることをせずに、ホームへの階段を駆け上がる。